30 ドルフ軍団長と側近ビクター

「わかったか!?トシゾウとかいう粗末な装備を付けた黒髪男と、白髪のケモノのメスだ!メスの方は殺すなよ。主人の死体の前でズタボロになるまで犯して殺してやる!よく主人に懐いているようだったから、さぞ楽しいだろうなぁ!」


「はぁ、わかりました。それよりいつもの装備はどうしたんです?私兵もいないようですが」


「う、うるさい!ドルフ、貴様は言われた通りにしてさえいれば良いのだ!」


 トシゾウたちが王城へ来る前日のこと。

 怒りに肩を震わせ去っていくアズレイ王子を、二人の男が冷めた目で見ていた。


「ちっ、あのバカ王子が。ちったぁ妹姫様を見習ってオリコウになれってんだ。妹姫様の爪の垢でも煎じて飲めばいい」


「それは妹姫様がかわいそうですよ。あ、違った。アホズレイ王子に失礼ですよドルフ軍団長。あれでも第一王子なんですから、聞かれたら俺が軍団長になっちゃいますぜ?」


「ビクター、おめぇは相変わらずだな」


「口の悪さは軍団長に似たんだと思いますぜ。それより、ダストン宰相が呼んでます。おそらくさっきのアホ王子絡みでしょう」


「はー…。ただでさえスタンピード前の用意で忙しいってのに。残業代は出るんだろうな?」


「王様に頼んでみたらどうですか?アホ王子のオモリ代をくださいって。案外出してくれるかもしれませんぜ」


「あぁ、頼めば加増してくれるかもな。だが残念ながら金は充分もらってるし、国庫にそれほど余裕はねぇ。王も気苦労が絶えず病気がちだ。魔物への対応に、クソ貴族と迷宮教の相手もせにゃならん。おまけに跡継ぎ息子が迷宮教の方に傾倒しちまってるたぁ救えないぜ」


 アズレイ王子はあれでそれなりの力を持つ。


 粗暴で人族至上主義者ということは有名であるが、それゆえにアズレイ王子の陣営にはそれなりの権力者が集まるのだ。


 他種族を奴隷にしたい奴隷商人、人族至上主義の政治家や迷宮教。

 軽い神輿を担ぎたい貴族などがアズレイ王子を援助している。


 それらを含めた発言力は、王であっても無視できない。


「王が病気になってからますます王子は調子に乗ってますぜ。迷宮は人族のもの!他種族なぞ蛮族!人族こそ至高!わかりやすくて良いですな」


「バカ野郎、なまじわかりやすいのが問題なんだよ。不安定な世の中だ。民衆は都合の良い言葉を聞きたがる」


「ドルフ軍団長がまともなこと言うなんて、明日は石が降りますぜ」


「うるせぇ、ダストンが呼んでいるんだろう?行くぞ」


 ドルフは大柄な体を動かし会議へ向かう。その後ろをビクターが続く。


 ドルフ軍団長とその側近ビクター。


 後にトシゾウとも浅からぬ縁を持つことになる二人である。

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