31 開戦 シオンVS王軍

「馬鹿め、本当に来るとはな。愚民はどこまでも愚民というわけか。欲にまみれて次期王たる余に歯向かったことを死ぬまで後悔させてやる。覚悟するのだな」


 王城前の広場に、アズレイ王子の傲慢な声が響く。


 広大な広場の中心にいるトシゾウとシオン。それを取り囲むように布陣する兵士。


 アズレイ王子の周囲を固める私兵も加えるとその数は1000を超える。

 さらに包囲部隊の後方にはダストン率いる魔法部隊が100。


 迷宮で魔物を巡回討伐する任務にも従事しており、その練度は高い。

 また、力で勝る魔物を相手に戦う彼らは、数の差で油断することがない。


 意外にもダストンとドルフは良い仕事をしたものだ。アズレイは思う。

 王になった暁には真っ先に解任してやるつもりの二人だが、有能には違いないらしい。今は褒めておいてやろう。


「ダストン、ドルフ、大儀である。不遜な態度も改めるのならば、余が王になった後も引き続き使ってやっても良い」


「は!感謝いたしますじゃ。魔法部隊の力をもって、“アズレイ王子の”敵を粉砕して見せましょうぞ」


「“アズレイ王子の”ご命令とあらば、“アズレイ王子の”敵に我らが軍の力を見せつけてやりましょう」


 ダストンとドルフが高らかに宣言する。

 二人が言うだけあって、軍は統率がとれており、士気も高い。


 たかが二人相手に明らかな過剰戦力だが、余の力を外部に見せつけることにもなる。

 愚かにも余に恥をかかせた者に絶望を与えるには十分だろう。


「トシゾウとか言ったな。余は寛大だ。あまりの力の差に声も出まいが、口を開けるのなら命乞いを聞いてやっても良いぞ?」


「うむ。お前はなかなか役に立つ道化だ。シオンの訓練相手を用意してくれた対価として、抵抗しても命は助けてやろう」


「まだそのようなことを言うか、痴れ者が!愚民とケモノめ、命乞いをしてももう遅いぞ。ダストン、ドルフ、始めろ!」


「はっ。前衛部隊、かかれ!隊列を乱すな!後衛部隊、包囲を縮めろ。援護は魔法に任せておけ。弓を捨て剣を抜け。相手は強敵だ、油断するな!」


「魔法部隊!詠唱を始めい。第一部隊は攻撃魔法、単発高威力じゃ。前衛の動きに合わせよ。第二部隊は援護魔法、第三部隊は詠唱待機、戦況に応じて任意発動せよ」



 わずか二人を相手に1000を超える軍団が駆けだす。それを100の魔法使いが支援する。


 その様を見てアズレイは嗤う。良い眺めだ。余が王となった暁には、魔物だけでなく、荒野に住む野蛮な獣人も殲滅してやろう。


 最後まで馬鹿な男だったな。手品のような小技が使えようが、圧倒的な戦力を相手にしたなら踏み潰されるだけだというのに。


 これは戦いではなく狩りだ。見せしめだ。

 王族が愚民とケモノを嬲り殺す遊びなのである。



「なんとか王子、声でかいな」


 トシゾウは大声出さなくても聞こえるのにあいつ馬鹿だなと考えていた。


「アズレイ王子です。やはり道化ですね」


 シオンは辛らつだな。そんなところもかわいい。それに落ち着いているのは良いことだ。


「さてシオン、どうすれば良いのかわかっているな?」


「はいご主人様。兵士は殺さず、王子の私兵はなるべく殺さず、王子はボコボコにします」


「そうだ、シオンは賢いな」


「あ、ありがとうございます」


 今回、俺は積極的に戦うつもりはない。

 これはシオンの訓練だからな。


 ダストンとドルフは俺と通じている。俺は嬲り殺し、シオンは生かして捕らえるように命令されているらしい。

 ゲスの考えそうなことだ。俺の嫌いな迷族と思考が一緒だな。


 ダストンとドルフは兵士にアズレイ王子の命令を伝えていない。

 つまり、俺たちを殺すつもりでかかって来るわけだ。

 殺す気で来るようにと俺が注文を付けた。


 ダストンとドルフはなにやら策謀を巡らせているらしいが、興味がないので聞き流した。

 俺は魔物だ。俺を殺せるなら殺したで、二人にとっても損はないので、躊躇いはしないだろう。


 前衛が槍と盾を構えて突撃してくる。

 動きに乱れはなく、高度に統率されている。


 ラザロは城の兵士がたるんでいると言っていたが、なかなかどうして悪くない。


 もっとも、その動きは止まって見えるが。

 おそらくシオンにもスローモーションに見えているだろう。


 多くの兵士のレベルは5~10。一般的な冒険者とベテラン冒険者の間くらいだ。

 稀にレベル3ほどの新兵らしき者と、レベル15に届く強兵がいる。


 良い動きなのにもったいない。これでもう少しレベルがあればな。


「では訓練開始だ。シオン」

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