赤と白と黒

@piyopiyo425

第一話


通報が入ったのは、

湿気の多い6月の終わり。

じめじめとした今日は何事もなく平凡に終わって、家に帰ってさっぱりとしたアイスを食べる気でいた。

今日の朝は雨が降っていて、水たまりがいくつか道に残っている。


アイスの夢は叶わなかった。


有名企業、高橋製菓の本社ビルから

人が降ってきたと通報が入ったのが午後3時過ぎ。


現場に急行し確認したところ

顔面の損傷が激しく、持ち物もなかったため、身元の判別はすぐにできなかった。


自殺かと疑われたその死体には、

複数の刺傷が見つかった。


すぐに本社に入り、受付の人に確認をとる。

今日出社した人間は誰一人帰っておらず、全員社内に残っているという。



人が降ってきたといわれる東側には

応接間があり、今日はそこに社長直々に面会しなければならない客が来ていたらしい。


先輩である佐々木さんと

自分が応接間に乗り込んだ。



犯人はあっさりと見つかった。

こちらに背を向けて、応接間の窓際にたっていた。

犯人は女で、モノトーン調のセーラー服が真っ赤に染まっている。

赤と白と黒の彼女は、部屋の雰囲気に馴染まない。


足元には、

高橋製菓の一人娘、高橋美咲が倒れていた。


犯人は、抵抗一つせず、生気のない目でこちらを振り向く。

手に握られたナイフが、赤い血を滴らせて光っている。

血の赤と、白と黒の制服がやけにしっくりきた。


応接間に乗り込んできた、

秘書の田島 紅が犯人を見て一言だけ発した。


「……社長?」


その一言で犯人は、能面のような真顔と生気のない目を崩し

悲しそうに笑った。


少し微笑んだあと、ナイフを落とし手を差しだす。

細い腕に手錠をかけた。



犯人の名は

鉢屋 奈緒子。

高橋美和に驚くほど似た、高橋家の親戚でもなんでもない女子高校生だった。


降ってきた死体が高橋美和で、

床に倒れていた高橋美咲の死亡も

のちに病院で確認された。



鉢屋 奈緒子は、手錠をかけたあと

うつむきながらぽつりと呟いた。

「私、社長に似てますか?」


答えを求めているというよりも、

思ったことがそのまま口から出てきたようなその言葉は

悲しそうなあの笑顔を思い出させた。



自分は、何も答えられなかった。

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