番外編 あたしメリーさん。いま幼稚園VS保育園の戦いがおきたの……。

「素人にわかりやすいように説明すると、占いは大きく分けると三種類に当てはまるわ」


 メリーさんの根城である屋敷のダイニングで、ソファに腰を下ろして背の低い猫足テーブルに雑然と並べた占い道具――水晶球、ルーンが刻まれた石、筮竹ぜいちく(=50本の竹ひご)、トランプ、タロットカード、虫眼鏡など――を適当に手に取って襤褸切れで拭きながら、対面に座るスズカ相手にオリーヴが、例えるならオタクが浅い知識でマウントする調子で吹聴する。

 メリーさんが花見に行っていて暇なので、他のメンツは思いっきり羽を伸ばしている最中であった。


 ちなみにローラは家計や屋敷の維持管理についてセバスチャンと打ち合わせ中で、エマは夕食の支度をするために鎖鎌と手裏剣を持って材料をにいっていない。


 王都とはいえファンタジー世界。札幌を一歩出ると人間の数より多いヒグマがうようよしている、試される大地――北海道のように、城壁を出ると危険でなおかつ食える魔物が(お互いに喰うか食われるかの関係で)徘徊しているのであった(なお札幌東区は割と頻繁に城壁が破られてヒグマが出没する)。


「はあ……(てか隙間時間に働こうという意識はないんだなぁ)」

 ついでにメリーさんのオリーヴに対する辛辣な人物評も脳裏に去来する。


『あたしメリーさん。オリーヴって檸檬レモンみたいなものなの。レモンってフルーツというカテゴリーに入っているけど、独立したフルーツとして意識して食べることのない、実質フルーツ界のパセリも同然。それと同じなの……』

 突発的に胸倉をつかんで、「メリーさん幼女の金で喰う飯は美味いか?」と、締め上げたいところだが、平然と「すっごく美味しい!」と悪びれることなく返されそうで、それはそれで今後の人間関係に軋轢あつれきが生じそうなので、グッと我慢するスズカであった。

 生返事を放つスズカの内心を慮ることなく、オリーヴは嬉々としてオタク知識を開陳する。


「『命術めいじゅつ』『卜術ぼくじゅつ』『相術そうじゅつ』の三種類ね。命術は生年月日や生まれた場所、時間といった不変的な情報をもとに占いをするやり方。逆に、カードやダイスなど偶然出たものを見て占うのが卜術。相術は人の顔や手、もしくは住んでいる場所や環境など、形があるものをもとに行う占うことよ」

「はあ、そうなんですか(胡散臭~っ)。オリーヴさんは水晶占いですよね。そうなると卜術系統ってことですか?」

「天啓……いえ、封印されしエグゾディ。内なる力によって見たくもない未来を好むと好まざるとに関わらず視てしまうのよ。こんな自分が怖いし、こんな力ならいらない。なぜ自分なんだと常に自問しているわ」


 遠い目をするオリーヴを前にして、「いや、自分に酔ってないで少しは働いてみたらどうですか、占いで」と、スズカはオブラートに包まずに割と直截に提案した。

 が――。

「いや、私が本気出すと……ほら、色々ヤバいでしょう? まったく人間との暮らしは大変ね……」

 と、本物の人外――霊狐を前にしみじみ語るオリーヴであった。


 オリーヴの自己陶酔している横顔を眺めながら、当時の小学生の99%が空歌でやり過ごしたバイ○ァムの歌詞くらい意味不明ですねー……とか。せめてスラ○グルかガ○アンくらいに誤魔化しがきく感じで、前後の脈絡がわかればいいんですけど……と、慨嘆するスズカ。


「(労働は埒外として)せめて占いで馬券とか宝くじとかで一攫千金できませんか?」

「私欲が混じると占いは外れるから本格的な占い師はギャンブルなんてしないと決まっているのよ。賭けてもいいわ」

 思いっきり矛盾に満ち溢れた発言であった。


「あー、はい……まあいいですけど、ちなみにいま何が視えてますか?」


 促されて適当に水晶玉を磨きながらオリーヴは『彼女ができました』という編集のあおり文句くらい、死ぬほどどうでもいい口調で答える。

「大魔王が精力的に動いている気配を感じるわね」


 それに合わせるかのように、打ち合わせしているセバスチャンが、ローラ相手に猛然と苦言を呈していた。

『こちらの会計簿は全員の収支と支出がごちゃ混ぜになっていて形を成していませんな。今後はグループとしての予算と個人のものは別にすることにして――あとなんですか、この毎月購入する包丁の金額は?』

『それはメリーさんご主人様が趣味と実益を兼ねて使う包丁です。折り返し鍛造で造られた値打ちものの包丁は、日本刀と同じで一度使うと血とあぶらで使えなくなるので、実質使い捨てにするしかないと――』

『なんという勿体ないことを! きちんと手入れをすれば何百年でもつというのに』

『え、ですがドワーフの鍛冶屋でそう伺ったのですけれど?』

『ああ、あの全国チェーン店“ドワーフの鍛冶屋”ですか。あそこは名前に“ドワーフ”とついていますが、実際にはドワーフ以外の種族がマニュアルに従って商売しているだけの似非エセ鍛冶屋ですぞ。だいたいドワーフなら誰でも鍛冶ができるというのは偏見ですからな』


 ああ、つまり海外で『日本食レストラン』と銘打っても、実際には別な民族が経営や調理をしているようなもの――もしくは日本人が関わっていても、せいぜい居酒屋のバイトくらいの腕の素人が『本格日本料理人』を自称するようなものね。

 真面目に本格日本料理を食べようと思ったら、日本に来て名の通った料亭にでも行かないと無理な理屈ということだろう。


 まあ本場の中国料理は日本人の口には合わないって言うし、チャイニーズレストランはどこの国でも日本人がどうにか食べられるっていうし、案外その土地柄に合った変化をしたものが万人の舌に合うのかも知れないけど。


「……味噌カツや天むす、とんてき、ひつまぶしは三重。鶏ちゃんは岐阜発祥だけど、それを進化させて全国的に有名にしたのは名古屋の功績なのは間違いないし~」

 名古屋人の常で「名古屋飯って言うけど発祥は全部別だろう?」と言われると「だけど名古屋が全国区にしたわけだし」「名古屋の○○には他にはない▽▽が入ってるから」とか反駁して、『自分たちがエライ』の姿勢を堅持する習性をいまだに持っているスズカであった。


「視える。視えるわ! 大魔王がじわじわと私たちの勢力圏内を手中に収めている気配が濃厚にするわね。うんうん」

 超テキトーに占いの結果を口にするオリーヴの向こう側では、セバスチャンがローラに向かって断固とした口調で明言する。

『今後は当家の家計はわしの管理下に置かせていただきますじゃ。それと無駄遣いしないように、個人に関してはお小遣い制にさせていただきます』

『はあ……まあ私は問題ありませんけど』

 ご主人様やオリーヴさんが駄々こねそうだなぁ、と懸念するローラであった。


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 幼女無法地帯と化した大河インクライスフィード川の支流アーラ川河川敷(及び中州)。

 双方のVIP幼女たちの花見場所取りに端を発した衝突を契機にして、かねてより対立姿勢を明確に出していたリバーバンクス王国とリバース・ハズバンド共和国は精鋭部隊の投入を決行!

 ここに第二十三次花見開戦の火ぶたが切って落とされたのである。


「だーっっっ!! 食らえっ!」

 王国軍の運河を総括する艦隊司令官(別名・運河英雄)である【無敵の(人な)猛将】マークリス・ゲンキ・イノキ超級大将は、手にした豚一匹を丸焼きにして、その場で首を刎ねて、共和国軍が布陣する兵士たちの中央に向かって放り投げた。

 文字通り『火ブタを切って落とした』わけだが、たぶん当人以外は理解できないロックなパフォーマンスである。


 ちなみに超級大将というのは、上級大将を超越した軍事上の最高レベルに近く(国王が最高司令官)、『血筋』『実績』『権力』『財力』『名声』が一定のレベルにないと就けない階級であった。

 なおその数値をあえて表記すると、

『SSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSS$$$$$$SSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSS∞級』

 という「イデのエネルギー表示か!?」と即座にツッコミが入る等級に匹敵するが、これは猟銃を持ったオッサンの戦闘力が5(ゴミめ!)なのと同様に、旗下の艦隊戦力や部下たちを集団と考えて、統率した場合の総合能力が合算された数値であるらしい。

「気のせいかところどころに忖度そんたくというか、袖の下で『$』やり取りされた形跡が見受けられるんだが……?」

『偉きゃ黒でも白になるの典型なの。てゆーか大学生が酔っ払って書いた、なろうみたいで逆にどや顔で公開するのが恥ずかしいレベルなの……』

 この話を聞いた際のメリーさんの反応は、案外わかりやすいものだった。


「見よ、王国周辺の運河を使って緊急動員した我が無敵無双最強艦隊の威容を! 連中のアホ面目掛けて一斉射撃だ――元気ですかーッッッ!!!」

 ノリノリで赤いタオルを首にぶら下げ指示を放つイノキ大将。


「ジョージ・キルヒヘル大佐っ」

「いやぁン……。あたしとイノキ大将の間で他人行儀な呼び名はい・や・ヨ。ジョージって呼んで。レディ・ジョージでもいいわよン」

 呼ばれた身長2mを超える巨漢かつ軍服の上からもわかる筋肉の塊のような全身をクネクネとしららせながら、直撃すれば戦艦の装甲すら貫通しそうなウインクと投げキッスを放つ、どーみてもアレな副官を前にして、イノキ大将はにわかに正気に戻った。


「だいじょうぶだ・・・おれはしょうきにもどった!」


 ちなみに戦場において捕虜(♂)に対する虐待というか不埒ふらちな行動が目に余ったため、軍紀に応じて処分を下されているためいまだ大佐であるが、キルヒヘル大佐レディ・ジョージの能力と軍功はイノキ大将に勝るとも劣らぬものがある。

 ちなみに王国では性犯罪に対する処遇は男性の場合スリーアウト制がとられており、『玉・玉・竿』の順で取られるという恐ろしい物であった。


「いかんいかん。敵の共和国には我が好敵手――“腐敗ふはい屍術師ネクロマンサー”ヤン=スコヴィルチ准将がいるのだった」

 敵味方が死ねば死ぬほど戦力が上がるという恐るべき能力を駆使する、我が終生のライバルよ……!

 と、遠い目をするイノキ大将。

 そのヤン=スコヴィルチ准将は忘我の境地で太鼓を叩きまくって、そこいらじゅうの死人をゾンビとして蘇らせていた。


「――皮肉なものだ。かつて平和な時代にはお互いに『ヤン坊』『マー坊』と呼び合って、『明日天気になーれ!』と遊び回っていた仲だというのに」

 イノキ大将はやるせない笑みを浮かべ、キルヒヘル大佐レディ・ジョージはそんな中年男の横顔に、胸がキュン♡となって、

「萌え~~~~~~~~~~~~っ!!!」

「ぎゃあああああああああああああっ!!?」

 思わずその場に押し倒し、狭い艦橋をリングにしてくんずほぐれつのガチ格闘へと突入した。

 これにより集結した王国艦隊五百隻は機能不全に陥ったのである。



『――運河の黒歴史がまた1ページ――《by『運河英雄伝説(※略称『ウンエー伝』)』冒頭部分より抜粋》』



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『オクラホマミ――ほげぇっっ!?!』

『メタボリックシン――ぐはあああああああああっ!』

『ウインドブ――らぶりーっ?!?』

『アイデンテ――あqwせdrftgyふじこlp;@:』


 迫る桜の魔樹を前にして〝J・J・ルソー保育園四天王”が仲間の盾となって必殺技を放つが、所詮は保育園児のお遊戯。

 ダメージらしいダメージを与えることができずに、触手のような根に搦めとられて地中へと捕食されようとしていた。

『『『『ちょ、ちょっと男子ーーーっ!!!』』』』

『『『『『『ゲロゲロゲロゲーッ♪』』』』』』

 慌てて男子園児に助けを求めるも、男子はその場でカエル化現象を起こして、人間カエルと化してとっととアーラ川へと退避するのだった。


『敵に回すとやっかいだけど、味方にすると頼りにならない。ジャ○プの敵役みたいな連中なの……』

 その様子を離れた場所から傍観していたメリーさんが辛辣に言い放つ。


 なおひとり悲鳴の数が少ないのは、リーダーであった〝チャオ”とやらが攻撃に参加せずに、一部頼りになる屈強な男子園児を肉壁にして、防御を固めていたからである。

『いまこそ出番よ、ワシントン! 桜の木を相手にその斧の力を見せる時よ!』

『リンカーン。前世プロレスラーだったというその潜在能力を開放する時が来たわ!!』

『行きなさい、熊使いルーズベルト! 熊を使って絶対の防御をしなさい!』

 チャオの指示で屈強な保育園児たちが前線へ送られ、抵抗むなしく桜の餌食と化す。


「黙っていれば共和国で大統領くらいになれる逸材が、あたら無駄に命を散らしているな。つーか、リーダーとして必死に仲間を守ろうとしている子供もいれば、自分のことしか考えてないメリーさんお前みたいな幼女もいるんだなあ。将来的にどっちが伸びるかは一目瞭然だな」

 スマホから聞こえてくる惨劇を耳にして、俺が思わずそうぼやくと、

『あたしメリーさん。バランスをとったタイプはどんどん落ちてくだけなの。伸びるのは俺が俺がって人より前に出たがるタイプと決まっているの……!』


 知ったか風な口調でそう言い放つメリーさん。

「いや、軍人とか冒険者ならまあしょうがないか……で、ある程度犠牲を黙認できるかも知れないけど、さすがに幼稚園児や保育園児はマズいんじゃないのか。勇者的に」

『大丈夫なの。HPが1でも残っていたらどーにでもなるの。普通に考えてHP1で瀕死寸前なら、歩くことも出来ないはずなのに異世界なら普通に歩き回れるし、会話もイベントもこなせるの。言うなれば山王戦の湘北みたいな状態だから問題ないの……』

 実質あとのことを考えてない状態じゃん。

 

「それとは別に倫理観の問題なんだけどなー。ここで奮闘したという実績を残した方が世間的に好印象だろう?」

『あたしメリーさん。あえて逆張りで非情になり切った方がいいと思うの。だいたいメリーさんのファンって、恋人に訳の分からないメールを送って解読している隙に、背後から包丁で滅多刺しにした挙句、最後に生首を切り離してボートの上で「これでずっと一緒♪」というサイコな世界を、メリーさんに期待する向きがあるの。だからメリーさんもそれに負けないように精進しているの……』

 どんな恋人関係だ!?!

「つーか、お前の脳内読者の民度低いな、おい。どんだけ無法地帯なんだ……」


『ちょっと、メリー! 貴女仮にも勇者でしょう!? だったら何とかしなさいよ! せめて桜の化け物倒しなさいよ!!』

 当然同じこと考えたらしいジリオラが、メリーさんを焚きつける。

『人型モンスターなら倒したら金をドロップする落とすからやる気も出るけど、それ以外のモンスターはいちいち素材を換金しなきゃいけない、世界樹システムだから面倒臭いの……』

 人型モンスターから金を巻き上げるって、追剥おいはぎじゃん。

 やる気なさげなメリーさんの弁解を聞きながら、こりゃ駄目だな……そう俺は観念した。


「そういえばそっちは花見だけど、こっちは梅雨だというのに熱帯並みに暑くて、この間も知り合いらと海水浴に行ったんだ」

 俺は、俺、やたら面積の小さいモノクロワンピース水着の樺音ハナコ先輩、当然のようにサイドリボンのビキニ姿の義妹・真季。中学生とは思えない妖艶な色気を醸し出している家庭教師をしている教え子の笹嘉根ささかね万宵まよい(学校指定の水着が逆に初々しさを醸し出している)、クロスワイヤー型水着が普段の中性的な雰囲気を一変させているドロンパ。そして行きと帰りの足を出してくれた管理人さんの、もはや水着とは言い難い大事な三カ所だけ謎の技術でガードしている艶姿あですがた


 こいつらがまとめて暑苦しいことに燦燦と太陽照り付けるビーチで、俺の周りに密着している写真をメリーさんにメールで添付して愚痴った。


『…………』

 途端、なぜか黙りこくるメリーさん。

「メリーさん? おーーーい……?」

 あまりの反応のなさに電話が切れたのかと再度呼びかけると、

『ウウウ、オアアー!!』

 スマホの向こう側から有名なアスキーアートである、包丁片手に殺人鬼のような形相をしたダディクールのような雄叫おたけびならぬ雌叫めたけびが響き渡った。


『おおおおおおおおおおおおおっ!!!!』

『――えっ、なに突然に包丁持って踊り狂ってるわけ!?』

 ドン引きしたジリオラの口調とは裏腹に、屍術師ネクロマンサーが奏でる勇壮な太鼓の音に応じて、メリーさんのテンションが爆上がりに上がりまくる。

『“たたかいの踊り”なの! メリーさんがいないと思って、どんだけ好き勝手ハーレムを増殖させてるの……!!』


 何が何だかわからんが、何かがメリーさんの燻っていた闘争本能にガソリンをぶちまけたらしい。

『許さないの! この怒りを目の前の敵にぶつけるの……!』

『……で、何で急に化粧始めるわけ? 死に化粧?? ――げっ、いきなり17歳くらいに成長した?!?』

『“たたかいのメイク”なの。ゴージャス・メリーさんなの……!!』

 スマホの向こうから聞き覚えのない女性の声が聞こえる。


 同時に――。

『チェンジ!』

『幼女が年増になるんじゃない!!』

『もどして』

『『『もどして』』』

 花見客に混じっていた『ロリこん』と書かれたシャツの集団が、一斉にブーイングを放った。


 よくわからんがメリーさんの戦闘準備は整ったらしい。


 文字通り暴走する桜前線とそれを擁護して火炎魔術で、

「自然を破壊する汚物は消毒だっ!」

 ヒャッハー! する自然崇拝のエルフ集団。

 ドサクサまぎれに海戦を開戦したリバーバンクス王国と、隣国リバース・ハズバンド夫を逆にすると¥共和国。

 ついでに伝説の屍術師ネクロマンサーによる「このあと滅茶苦茶召喚した」ゾンビ津波と、噛まれてどんどん増殖していくゾンビたち。

 そして等しく犠牲になる王立フジムラ幼稚園の園児たちとJ・J・ルソー保育園の園児たち。

 ついでに花見に出店していた露店のオヤジ連中が本気になり――異世界はなぜか飯屋と薬局と農業が多い上に、本気を出すとどいつもこいつも完全体の巨◯兵並みのビームを放つ――周囲あたり一体、艦隊や蠢く桜前線やゾンビごと薙ぎ払われた。


『混乱のハッピーセットか、じゃなければ関西に得◯うどんっていうチェーンがあって、とんこつ唐揚げうどんのトリプルとかいうカロリーをガン無視した代物があるけど、それみたいなものなの。ここぞとばかりに、どいつもこいつもまるで水を得たサカナみたいに……』

「それを言うなら“水を得たウオ”だ」


 なお収拾がつかなくなっている現場では、メリーさんもとりあえず目についた相手を誰彼構わず包丁で刺しまくっていたらしい。


『……ううう……た、助けて……ぐあああああああっ!?!』

 明らかに瀕死の相手にトドメを指してるよな!?


『弱い相手はもう飽きたの。強い相手はどこにいるの……?』

 さらに包丁を構えてうろつく狂幼女。

 もはや目的も何もなく、周りにいる連中がお手頃な経験値にしか見えないのだろう。

 相変わらず敵に回すと厄介だが味方にすると頼りにならない、ジャンプの敵役みたいな幼女であった。


「混乱のドサクサまぎれに手当たり次第に不意打ちで殺しておいて、何を強者みたいなことを言っているか!?」

 喫茶店のレジで精算を頼みながらスマホの向こうにいるメリーさんにツッコミを入れる俺。

『メリーさん、またなんにんか殺っちゃいました、なの……?』

 とぼけたことを抜かすメリーさん。実際に聞くと滅茶苦茶腹立つ台詞だな、おい!


 つーか、なろう系俺TUEEE主人公の何が腹立つって、他の連中が算盤で頑張ってるところ、EX◯EL使っていきり散らしているところだよな。

 同じ土俵じゃねーだろう! お前が凄いんじゃなくて能力が凄いんだろう! 不正行為チートで努力した人間を見下すな!! 算盤できる努力の方が数段凄いわ!

 そう声を大にして言いたい。


『なんかもう関節の上から手足吹き飛んでダルマ状態で人狼じんろうになってたから、メリーさん幼女の情けでぶっ殺したの。だいたい死ねば助かるの』

「それは人狼じゃなくてバイ◯レンスジャックにでてくる人犬ヒトイヌだ! つーか解決方法が力業過ぎるだろうがっ!」

『そんなことないの。殺人事件があっても皆殺しにすればあと腐れなくてスッキリするの。関係者全員殺せば自動的に犯人も殺せて、事件解決! メリーさんこの方法で、犯罪組織を末端からボスまで――たまに裏ボスがいて、拍手しながら階段を下りてくることがあるけど、口上を聞く前に有無を言わせず殺すの――皆殺しにして、事件解決に導いたことが何回もあるの……!』

「……相変わらず、要件定義を間違えたAIみたいな判断を一気に下す奴だな」

 相手にとっては、包丁持った幼女の姿をした災害か通り魔に狙われたようなもんで、不幸なんてもんじゃないだろう。


 なお、アパートの自室へ戻った時に、独り言でこの話をしたら、幻覚である霊子(仮名)が思いっきりジト目になって、

“いや、それアナタがいま現在遭遇している事態というか、怪談なんですけど?”

 とか相変わらず訳の分からん幻聴をほざいていた。


「……てか、お前前回変身して大人になったんじゃないのか?」

 ふと前回を思い出して確認する。スマホから聞こえてくるのはいつもの幼女の声だ。

『♪大人になったら、何になる~♪ おおおとなになったら~~、「恥を知れッ、俗物!」という大人になるの……』

 嫌な大人だなぁ。


『あたしメリーさん。ぶっちゃけ作者が前回の話をすでに忘却の彼方にしているので、ゴッドマ〇リセットでなかったことになっているの……』

「……プロットは?」

『この話にそんなもんあると思うの? 逆に漫画版にちゃんと伏線回収とか、今後の展望とか、ラストまで決まっていることに驚いているの……』


 驚くなよ! 普通創作ってちゃんと首尾一貫して作り上げておくものだぞ。お前みたいにチャランポランでやっていけるか!!


『ちなみにラストはメリーさんにぶっ殺されたアナタが、ふと冥土へ続く道で気が付いて「やれやれだぜ」という感じで歩き出そうとしたところで、「あたしメリーさん。いまあなたの後ろにいるの……」というメリーさんのキメ台詞で振り返ると、そこにメリーさんがいて「あたしメリーさん。ずっと一緒にいるの……」という続く言葉でデレたアナタが、メリーさんと手を繋いであの世に行くという、嬉し恥ずかしいナウなヤングにバカ売れの最後なの……』

「ベタなラストだな、おい。つーか、普通自分を殺した相手とお手て繋いでランランランとはならんだろう」

 佐◯先生は好きそうな気がするが……。


 さてレトロ喫茶店でありがちなレジ前渋滞も緩和して、ようやく俺の番が来た。

 なお、俺の前では営業中に休憩を取っていたらしいサラリーマンが、お互いの給食の話題で盛り上がって、

「やっぱり給食で思い出に残っているのは『ふかひれスープ』だっちゃ」

「「「そんなものが給食に出るか! いくら宮城でもそんな高級食材を使うわけないだろう。即座にわかる嘘をつくな!!」」」

「あ、じゃあ愛媛県民のソウルフード。給食でもお馴染み『ポ◯ジュースごはん』は?」

「「「だから名物だからと言って極端から極端に走るんじゃない! あるわけねーだろ、そんなもの!!」」」

「『ふかひれスープ』はあるよ」

「『ポンジュースごはん』もあるよ、愛媛にあるよ。蛇口捻ればポ◯ジュースが流れるし」

「「「嘘乙!」」」


「給食の名物って言えば、群馬県民のソウルフード『しもつかれ』だろーがジョーシキ的に!」

 ついでに関係ない、店内にいたグンマ―人が声高らかに異議を唱えた。


「はいはい。それよりもご当地名物の給食と言えば『金魚飯』だろうな。あれが全国区でないと知って逆にビックリ――て待て待て、そうじゃない! お前らが想像している飯と違う!」

「「「…………」」」


 金魚飯ねえ、確か岐阜の方の人参ご飯にそんなのがあるとは聞いたことがあるけど。


「ふっ、いよいよ真打登場だな。給食の思い出に残る人気メニューと言えば――!」

「「「……と言えば?」」」

 ゴクリと唾を飲み込むリーマン仲間たちにむかって、オッサンは傲然と言い放った。

「伝説の『味噌ピーナッツ』だ!」

「「「あんなもん食えるか!!!」」」

 肩透かしを食ったリーマンたちが揉めに揉める。


 あんまりアレ過ぎて広島が2年間しか給食に出していなかった、ある意味伝説だな。伝説過ぎて一気にオッサンの出身場所と生年(1974年前後)が特定されてしまった。


 さて、いつまでたってもヤマザキが不動の姿勢を示しているので、業を煮やした神々廻ししば=〈漆黒の翼バルムンクフェザリオン〉=樺音かのんこと佐藤華子先輩とスマホのLioneで示し合わせて、お互いにバラバラに喫茶店を出て外で合流することにしたのだが……。


 カード決済は勝手に財布の中身を覗かれ、第三者に見えない手を入れられ金を抜き取られている気がして――義妹いもうと野村のむら真季まい曰く「神の見えざる手ってやつよ、お義兄にいちゃん」というらしい――基本的に現金以外は信用していない。

 たまに壺に小銭を入れておいて貯金していると、小銭を握り締めたまま抜けなくなった状態で発見することがあるので(基本的に阿呆である)、寄ってたかってタコ殴りにしてしばらく真季が飼っていたけど、いつの間にかいなくなってしまった。

 今頃どうしていることやら――。


 なお、樺音ハナコ先輩の解説によると、

「“オーダー・オブ・ザ・オカルトハンド”ね。作家の元にやってきては『降りてきた』状態にさせて、創作を促す心霊現象よ。そのための編集者や小説家による秘密結社も存在すると噂されているわ。でも、リゲル人と爬虫類人の交配人種が築いた現在の日本を、欧米イルミナティは、竜座人階層の下等な種の末裔であると主張して排除しようとしている陰謀は周知のこと……」

 と、意味不明の供述を繰り返しており。


 ついでに――。

「地球の神って、下手すりゃその辺のただのオッサンに殴り殺されるくらい弱いのに、しれっと『神は死んだ』とか言われても復活するくらい厚顔なのはある意味感心するわ。言うなれば一年戦争中WBでモビ◯スーツ操縦していたはずが、何もやってない無能の烙印を捺され、一生天パと比較されて後ろ指刺されまくったジョブ・ジョンと同じで、後々殉職しなかったって点から見れば勝ち組みたいなもんよね」

 というよくわからない評価を『カミノミエザルテ』とやらに下す真季であった。


「大いなるすべての源、一なる至高の根源神界、すべての神界・天界、そしてアセンディッド・マスターはもちろん、アインソフ評議会、大天使界、聖母庁、キリスト庁、メルキゼデク庁、宇宙連合、銀河連連邦、太陽系連合、インナーアース連合、それらのすべてが『スピリチュアル・ハイラーキー』であることを、我らの集合的意思機体ハイアーセルフは残念ながら理解できるほど成熟していないわ!」

 ヤマザキ相手に樺音ハナコ先輩が時間稼ぎ(?)の舌鋒を振るっている。


 ともあれ会計を済ませて店の外へ出ようとしたところで、玄関マットの妙な弾力に首を捻ったところ、いきなり玄関マットが立ち上がって、全身にボディペイントを塗った女性へ変貌した。

「あ、うちの姉です。趣味で人間ドアマットをやっていたドアマットヒロイン希望の姉です」

 レジ打ちをしていた高校生くらいの女の子が『ドアマットヒロイン』らしい姉を指し示す。

「あと、両親も趣味で人間椅子を店内でやってます」

 と、思いっきり深々と椅子に座っているヤマザキと樺音ハナコ先輩の方へと視線をやる。

「……おい、大丈夫か」

「大丈夫ですよ。空気椅子の世界記録が十時間ちょっとで、両親とも世界レベルですので」

 こともなげに言い放つ女の子。


 最近は変な趣味が流行っているなー、と思わず喫茶店の玄関先で遠い目になる俺。

 ちょうど目の前を山崎◯パンの1966年当時から変わらぬ金髪の少女(スージーちゃん・三歳)が描かれたトラックが通り過ぎ、何台ものトラックが道路一杯に広がってアクセル全開に、いかにも連日の残業で疲れ切ったサラリーマンやOLを跳ね飛ばしていった。

 そのまま空気中に溶けるように消える犠牲者たち。


「「「「「「異世界転生です!!!」」」」」」

「わっ!? びっくりした!」


「アナタはいままさに神秘の世界に足を踏み入れたのです! さあ私たちは世界的に有名な秘密結社フリーメーソンです。自由、平等、友愛、寛容、人道をモットーに会員を募集中! 一緒に異世界へGOです!」

「どーも、毎度おなじみイルミナティです! ちなみにフリーメーソンの上部団体になります。パッとしない貴方も会員になって今日から世界を――」

「薔薇十字会です。魔術結社でもあります。何の能もない貴方でも魔術を覚えて人生一発逆転できますよ!!」

「編集者のみがその存在を知るオーダー・オブ・ジ・オカルトハンド! 日本の変……じゃなかった編集者の九割が会員で、オカルト系はほぼ百パーセント信奉者なので、会員になるとたちまち書籍化作家だっ」

「三百人+α委員会の者です! 神はもう古い。これからは悪魔を信奉して、世界を支配するのです!!」

「『アビスのラストを見るまでつくしの卿に脂ギトギト辛しラーメンを食べさせない会』では、竹公認団体として――」


 同時にそこいら辺にいた通行人が一斉に正体を現して、俺の驚きを無視してパンフレット片手に畳みかける。

 キャッチか宗教の勧誘か。くそ、油断した。渋谷辺りならこんな連中が正体隠していっぱい歩いてるんだよ! と警戒したのだが、この暑さで油断した。


 どうしたもんかな、メリーさんみたいに「この人黒幕? 処す? 処す?」と排除するわけにも行かない。無視するには暑っ苦しすぎるし……。


「待てィ!」

 と、そこへ力強いJKの正義の声が響き渡った。

「悪しき星が天に満ちるとき。大いなる兄妹星が現れる。その真実の前に、悪しき欺瞞ぎまんの星は光を失いやがて落ちる……人、それを…『詐欺サギ』という!

 近くの雑居ビルの屋上で逆光を浴びながらポーズをとるセーラー服姿の女子高生。

「「「「「「貴様っ、何者だっ!」」」」」」

 と名を問われば、

「貴様らに名乗る名前は無いっ!」

 と啖呵たんかを切って飛び降りてきた。


 普通なら大怪我するところだが、不思議と高いところから落ちてきて怪我したところ見たことないんだよなー。

「……つーか、夏季短期ゼミはどーした、真季?」

「終わったから様子を見に来たのよ! そしたら先輩とデートだって(地縛霊が)言うから急いで様子を見に来たら、案の定トラブってるので助けに来たのよ、お義兄ちゃん」

 胸を張って言い切る真季。


「いや。別にデートというわけでは……」

 弁解しようとしたけれど、芸能人が『髪ばっさりショート』にすると、絶対に『美しさが際立つ』『すっきり魅力的に』と謳い文句つきで報道するように、どんなに関係ないと言っても『女性と一緒』という一事だけで嫉妬しまくるからな、この義妹は。言うだけ無駄だろう。


 とりあえず俺は日陰に移動して、魔術(笑)を使う秘密結社の一団と真季との活劇。

 そして、スマホの向こう側のメリーさんの騒動が収まるのを待つのだった。


『あたしメリーさん。メリーさんのファンが助っ人に来てくれたの……!』

「ファン?」

『オデ マンガ 見てる あとフォロワー ニ◯ニコ漫画 見てるオレタチ ナカマか?』

 そのファンはまともに戦えるのだろうか?

 一抹の不安をよそに、あっちもこっちも山場を迎えるのだった。

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