番外編 あたしメリーさん。いま砂漠にいるの……。

_____________________________________

《序文》

この本を読んでくれる幼女たちよ。

この本を世界のヲタクに捧げることを、どうか許してほしい。

この世のオタクたちは、私の、世界で一番の友だちで、今、幼女とロリータとちっぱい規制に苦しんでいるのだ。

慰めてあげなければいけないのだ。

でも、もし、こんな言い訳を全部あわせても足りないのなら、私はこの本を、むかしロリコンだったころの、世界中の男たちに捧げたい。

男はみんな、かつて幼女好きロリコンだったのだから。

大人のほとんどは、それを忘れているけれど……。


『星の幼女さま:著SAN・てぐじゅぺり』

_____________________________________


【とある飛行士のひとり語り】


 僕がその幼女を砂漠の真ん中で見つけた時、ちょうど最後に残った水筒の水を飲み終えたところだった。

 付近は地平線の彼方まで砂と岩ばかりに囲まれた砂漠の中。

 壊れて墜落した飛行機の傍らで死を待つばかりだと思っていた僕だが、まさかこのような幼気いたいけで可愛らしい美幼女を見つけることになろうとは、世界というものは存外奇跡と悪戯っ気に満ちているらしい。


 とりあえず僕は倒れている幼女のバイタルをチェックして、緊急処置を施すことにした。

 基本にのっとった応急手当を行う。

(1)周囲の安全を確認する。

「誰か! 誰かいませんか!? こんな砂漠のど真ん中で、誰か来られるものなら来てみやがれ!!」

 返事はない。

 この幼女を好き勝手――もとい、どうにかできるのは僕一人ということになった。くくくくくっ……(にちゃ、という水木○げる風の擬音付きの笑いを浮かべた瞬間)。

 

(2)傷病者に近づき、反応(意識)を確認する。

「意識なし。呼吸は荒い。脈拍360、血圧400、熱が90度近くか。早めに処置をしなければ」


(3)状況に応じた救命措置。

「脱水症状のようだな。だがしかし、この辺りに水はなく、水筒の水はいま飲み干してしまった……」


 どうしたものかと悩む僕の脳裏に天啓が走った!

「そうだ! なければ出せばいいんだ!!」

 たったいま飲んだばかりの水を、改めてこの幼女に飲ませればいいのではないか!

 幸いにして準備は万全である。

 僕は地面に仰向けにして、口を開いて意識を失っている幼女の前で、いそいそと着ているものを脱いで、放水の準備を進めるのだった。


 水分を求めて喘ぐ幼女の口元へ僕の放水用蛇口を近づけ、万感の思いでパンパンに張っていたそれを開放する。ああ、エクスタシー……。

「この水は身体を養うだけのただの水とは違う。青空の下を歩くことと、砂塵の苦しさと、ぼくの体を通って生まれた聖水だ。だから最高の贈り物のように幼女に利くのだ」

 そんな感動と感慨を込めたが幼女の口目掛けて放たれた。


 僕の命の水が幼女の口に注がれようとしたその瞬間――。

 突如覚醒した幼女の姿が一瞬で消え、僕の背後から包丁ナイフが付き立てられた。


 戦場で鍛えられた勘で咄嗟に躱した僕は、不時着している愛機の上に愛用のマントをひるがえしながら降り立った。

「ここで問題です。アボガドの語源は金玉。では、キ○肉マンマ○ポーサのマリポーサってどんな意味だか知ってるかね?」

「あたしメリーさん! いま突っ込みどころが多すぎてチュピチュパァ状態必至なの……!!」

 包丁ナイフを振り回しながらいきり立つ幼女。


「まあ落ち着き給え。僕は怪しい者ではない」

「素っ裸にマント一丁で、寝ている幼女メリーさんの口に小便飲ませようとしていたオッサンのどこが怪しくないっていうの!? 怪しすぎてお釣りがくるレベルなの! メリーさん、久々に濃度の濃い変態に遭遇しているの……!」

 幼女の剣幕をどこ吹く風と受け流して、僕は落ち着くように宥める。

「小便ではない、脱水症状になった幼女を助けるための聖水の補充だ。ウォーターだよウォーター」

「聖水=小便じゃない。自衛隊=軍隊じゃない。ソープ/ランド=売春じゃない。パ/チンコ、競馬、競輪、競艇=賭博じゃない。ガ○ダムZZ=アニメじゃないとおんなじで、言い換えればなんでも通用すると思うななの! あと小便を『ウォーター』とか、ヘレンケラーに謝れ……!」


「ははははははっ、なかなか元気な幼女ではないか。ウチの近所にいた、かつて僕が愛した幼女たちも、四~五年もすると僕の自宅のポストに毎日人糞やら猫の死骸やら詰め込む悪のテロリストになってしまったものだが、やはり幼女は年齢一けた台に限るね」

 おまけに保護者と警察と一緒くたになって僕を幼女から隔離しようとするから、やむなく戦場に出るしかなくなったわけだが、まさか墜落した砂漠の真ん中で幼女とふたりきりになれるとは、夢のようだ。

「もはやここまでと思っていたが、砂漠もなかなか乙なものだ。幼女とふたりなら楽園……そう、さしずめここはネバーランドで、君はウェンディ。僕はチクタクワニ」

「ピーターパンはどこにいるの……!?」

「コ○ナの影響で使用禁止になった」

「なんでもコ○ナの影響にするななの……!」


 と、そこへ余計なお邪魔虫たちがゾロゾロと群れを成してやってきた。

「井戸をみつけましたよ、ご主人様」

「スズカの鼻がなかったら水場を見つけられずに干上がるところだったわ」

「大事なものは目には見えないのですよ」

 メイド服を着た十代半ば頃の年増がそう口火を切って、続いて幼女の時代に終焉を遂げた十代前半の、姉妹らしい同じくメイド服を着た少女が会話を受け継ぎ、最後に貧乳なのは好感度が高いが、なぜか欠片たりとも食指が動かない白い狐の耳と尻尾を持った、キツネ少女が訳知り顔で幼女に向かって何やら忠告めいた台詞を吐いていた。


 貧乳、キツネ耳、薄幸そう……と、いろいろと属性をテンコ盛りの少女だが、僕の心の目――、

(心ω眼)

 が、彼女の中身が見た目より遥かに年増だと看破する。

「――ちっ( ゜д゜)、ペッ」

「なんで私、いきなり唾を吐かれるんですかぁ!?」


「……つーか、ちょっと目を離した隙にいなくなったかと思ったら、何やってるわけ、メリーさんあんた?」

 最後に全身真っ黒で、ブヨブヨと見るに堪えない胸と尻をした十代後半の女――もはや幼女としての影も形もない成れの果てが、幼女と私とを眺めて怪訝な表情で幼女に尋ねる。


「見ての通り、バイクのナンシーおじさん(排気量マウントおじさん)を越えるウザい変態に遭遇したから、メリーさん命をかけて戦っているの!」

 そう言って包丁ナイフの切っ先を僕に向ける幼女に向かって、僕は優しく語りかけた。

「それでは、大事な秘密を教えてあげよう」


 謎の飛行士、10の秘密――。

1.幼女好き。2.幼女好き。3.幼女好き。4.幼女好き。5.幼女好き。6.幼女好き。7.幼女好き。8.幼女好き。9.自宅の周辺と近所の幼稚園を自警団が見張っている。10.頭のど真ん中に謎の手術痕がある。


「なお、ドクツルタケとシロタマゴテングタケは水酸化カリウムで変色するかどうかで見分ける事ができるが、どっちを食っても死ぬ」

 けど僕のキノコはいいキノコだよ~。


「「「「「変態だーーーーーっ!!!!」」」」」


 砂漠の静寂しじまを破る幼女+その他の騒々しい声が響き渡った。


 ◇ ◆ ◇


 別名、神田のトグロタワーと呼ばれる『ロンブローゾ古書店』のバイトを終え、アパートに戻ると管理人さんが箒で落ち葉を掃いて、庭に置いてある焼却炉(?)で集めた落ち葉を燃やしていた。


「こんにちは、学生さん。アルバイトの帰りですか? 大変ですね」

 いつもの金魚鉢の下からにこやかな挨拶をしてくれる管理人さん。

「ども。まあウチの店は世相や時事に関係なく、だいたいは暇なのでそれほど大変でもないんですけど」


 もっとも最近はおうち時間が増えたせいか、案外本が見直されているらしい。

 うちの店でもデリバリーとかを意識して、著作権の切れた古書の一部をコピーして、サービス価格で販売している。

 俺もここのところはその作業に当たっていた。


 ちなみに西暦670年頃にアラブあたりで書かれた本だそうで、タイトルは『ALAZIF』だか、『Necronomicon』だかいうらしい。

 とりあえず項目別に

・アザトースの招来and退散

・クトゥグァの招来and退散

・ハスターの招来and退散

・ヨグ=ソトースの招来and退散

・Nyarlathothepとの接触only

・ビヤーキーの召喚and従属

・炎の精の召喚and従属

・外なる神の従者の召喚and従属

 といった部分を抜き出してコピーしているのだが、残念ながら幾人か買っていったお客さんの中から、パイロット版を気に入って原本を購入しようという気概のある人物は現れず。それどころか二度と現われなかったり、黄色い救急車イエロー・ピーポーに乗せられて運ばれていく姿を目撃している。


「使いこなせれば至れり尽くせりで超便利なんだがなあ……これ。ただし気が狂わなければ。だが世界的な魔術師でも最初の数ページで発狂するんだよなぁ。しかし、なぜバイトの学生が平気で全編目を通してコピーできるのだ?」

 と、青、赤、緑、黄、四色のスーパー○ァミコンと同じ配色をした四つの目の覆面マスクをかぶった(今どきはマスクをしているのがデフォなので違和感はない。俺も接客の際には特製の『ドップラー印のマスクマンマスク』というごついマスクをかけさせられている)店長も残念がっていたものだ。


 そんなわけで、いまでも通って来ているのは、自称私立探偵の白づくめのトッポイ兄ちゃんひとりで、

「あの黒いドレスを着て、俺に魔導書のことを教えてくれた――ついでにイケないことも教えてくれそうな――巨乳でエロい姉ちゃんの店員はどこだあ!?」

 それもなんか他の目的がある感じで、いもしないエロ店員を目的にしている。

 なにげにコイツも頭がイっている疑惑が濃厚であった。


「……季節の変わり目って心身ともに体調を崩しますからねえ」

「あら学生さん、どこかお加減が悪いのですか?」

 心配そうな管理人さんからの問いかけに、漫画やゲームだったら看病イベントの伏線で、ここがさくら荘ならサムゲタンだろうなー、などと漠然と思いつつ、

「いや、俺ではなくて……」

 そんなお客さんたちの不調を思って悄然としていると、不意にスマホの緊急速報を知らせるアラームが鳴った。

「ん?」

 スマホを取り出して見てみれば、

【緊急速報・全米が騒然とした! アメリカで大量のゾンビが現われて、現在、警察と軍隊、民間人が武装して奮戦中。なおゾンビ発生の原因は不明。アメリカ政府はハイチの陰謀と見て報復措置を検討中】

 というアホらしい文字が踊っていた。

 大規模な映画の宣伝か? メリケン人はつくづくゾンビとサメ映画が好きだなぁ……。

 あとまったく躊躇なくゾンビを撃ったり、どたまかち割ったりするし、連中には死者に対する尊厳とか、悼み悲しむという情緒が存在しないのだろうか? 銃を撃つ口実があればなんでもいいんか。


 と、思わず黙り込む俺の頭の上で、いくつものガラクタを集めて作られた、十メートル近い塔のような焼却炉(?)が、ドンブラコドンブラコと謎の音を響かせていた。

「ああ、気にしないでください。これは別に何でもないのですから」

 何かを誤魔化すように「ほほほほほ」と、空虚な笑い声を響かせる管理人さん。

「……でも変ですね。どうして足元の日本国内でゾンビが発生しないのでしょうか……?」

「そりゃ、国内の99%が火葬ですからね」

 素朴な疑問に対して、俺も『もしも死人が蘇ったら』という仮定でタラレバの話をする。


「あ!」

 途端に目から鱗なような感じになる管理人さん。

 それと同時にスマホのニュース欄に、

【日本の社ち……サラリーマンが突如謎の覚醒!】

 という、これまた訳の分からんニュースタイトルが踊った。


「えーと、なになに……現代のネクロマンシー、エナドリによって辛うじて動かされていた生きるしかばね、全国津々浦々のサラリーマンたちが突如として外部からエネルギーを受けたかのように、元気溌剌と不眠不休で仕事に励むようになり、経営者たちもにっこり――って、これいいニュースなのか?」

 日本社会の恐ろしさに身震いする俺の傍らで、管理人さんが「これは失敗ですね」とかブツブツ言いながら、『ドンブリ カッシリ スッパイポー』という、山陰地方の桃太郎に出てくる桃が流れてくる摩訶不思議な擬音を流す焼却炉(?)を止めるべく、何やら操作を始める。


 なんとなく手持無沙汰になった俺が、アパートの部屋に戻ろうとしたところで、タイムリーにメリーさんからの着信があった。

 その場でスマホを出して通話にする。

『あたしメリーさん。もうすぐ100話になるところなの……』

「タイトルを無視するな! 砂漠の話をしろ、砂漠の!!」

 いきなりメタな話題に持ってきたメリーさんを注意する俺。

「だいたい本編が60話で完結。番外編がなおも継続中って、下手したら番外編の方が長くなるかも知れないじゃねーか。ちっとは危機意識を持て!」

『あたしメリーさん。大丈夫なの。世の中、番外編や外伝、スピンオフの方が有名になった作品なんて山ほどあるの。例えば、もはや本家の「とらハ」が忘れられている「リリカ○なのは」とか、カ○イ外伝とか、あと「ちびま○子ちゃん」だって元は「永沢○ん」のスピンオフだったし、「ほうれ○そうマン」の一キャラだった「かいけ○ゾロリ」、「ボ○バーマン」の外伝「ビーダ○ン」、「お触○探偵」の「なめこ」、「魔○物語」から独立した「ぷ○ぷよ」や「桃太郎○説」から派生した「桃電」とか、昭和とかいう畜生の時代にはごく普通だったの……』


「……世間話をしたいんなら切るぞ」

 俺が通話を切る気配を感じ取ったのか、メリーさんが慌てて話題を変えてきた。

『ほんの小粋な前置きなの。気の短い男はモテないの……』

「やかましいわ。こっちはバイト帰りで疲れているんだ。マジで切るぞ!」

『バイトって、なんか世界征服をたくらんでそうなボスが率いる謎の組織の下っ端だったかしら……?』

「古書店のバイトだ。どこの世界に古書で世界征服を目論む組織があるかっ」


 あと最近ネットで知り合った女子高生から、家庭教師をやってくれないかと頼まれているのだが、このご時世だからどうしたものかと考えている。

 ちなみに相手は長い黒髪に切りそろえられた前髪と黒いセーラー服が似合う、古風な美少女であるのだが……。


 と、そこで声を大にして言い切るメリーさん。

『甘いの! 世の中にはミニ四駆で世界征服を企む組織があるくらいだし、世界って案外脆弱なの……』


 脆弱過ぎるわ。そんなヤワでどうする世界!

 その割には虚構の侵略者とか、次から次へと侵略しようとして失敗(うっかり病気に罹ったり、星間飛行できる超技術を持ってるはずが地球のコンピュータにハッキングされたり)しているが、ドジっ子か侵略者というのは!?


「そういえばバ○タン星人にしろ、ヤプ○ル人にしろ、メト○ン星人、メ○ィラス星人にしてから、前任者や親父がやられても、毎回のように地球侵略をくわだてては失敗しているんだけど、なんで何度も侵略失敗した星に来るのかねえ」

「可住惑星で、身内同士で殺し合いをするような阿呆ばっかりの惑星なので、手頃な地上げ――もとい、侵略投資対象だからです。あとどちらかと言えば、何十年も延々と駐在員を送り付けてくる、M78星雲人の魂胆の方が怪しいと思いますけど」

 焼却炉(?)を操作しながら、振り返った管理人さんが自明の理という口調で合いの手を入れてきた。


「ああ、アイツら基本的に他の宇宙人絶対殺すマンですからね。『今日は挨拶しに来ただけだ、また会おう!』そう言って飛び去ったバルタンJrの背中を、ジャックさんは容赦なくスペシウムで狙い撃ちしたし。後ろからだろうが躊躇せず撃つとか、メリーさんかアイツは……」

「そうですよね。頭おかしいんですよ、あの一族は」

 スマホを離しての俺の言葉に、しみじみと同意する管理人さんであった。


 そんなこちらの会話は聞こえないメリーさんが、先ほどの俺の疑問に答える。

『あたしメリーさん。以前、日本で全く車が売れなかったヒュ○ダイが、懲りずにまた日本市場に参入するのと似た感じなの。ぶっちゃけ隣の国でさえ、何を考えているかわからないのに、宇宙人の考えなんてわかるはずもないの……』

「まぁ“何を考えているか?”が理解できたところで、おとなしく侵略されてやるヤツは居ないだろう。相手が美女と美少女ばかりで、服従すれば無条件に養ってくれる……というのなら、話は別だが」


 途端、管理人さんが、「ほほう……」と興味深そうに、心なしか被っている洗面器の下の目を光らせた。

 それからそそくさと俺の傍までやって来て、スマホを持っていない方の腕を取って、不意に両手で握りしめて、慎まし気な胸元に「あててんのよ」状態へとホールドする。

「うっふ~ん♡」

「???」


『それって現状、M子と日本政府に養ってもらっている元海の王子KKみたいなものなの! 超ヒモ理論なの……!』

 さらにメリーさんが危険すぎて書籍版で変更させられた、第一話の某所への殴り込み以来の、非常に危険な地雷を躊躇なく踏み抜いた。

『あと地球を狙う宇宙人なんて、おおかた宇宙版ポカホンタスなの。日本に馴染めず海外に逃げてったブスと同じで、もっと条件のいい星を狙うが無理なので、こんな銀河の隅っこの穴場惑星を狙うしかないの……!』

 その途端、管理人さんが盛大にくしゃみをして、

「あら? おかしいですね。体調は万全に管理されているはずなのに……」

 釈然としない口調で、俺の手を離して首を捻る。


「最近、寒くなってきましたからねー。管理人さんも気を付けてください」

 管理人さんの奇行と病気の関連を想定しながら、適当に気休めを口にしてスマホに集中する俺。

「それはともかく! メリーさん、いま何やっているんだ?」

 ともあれこれ以上、この話題に拘泥するのはマズい!

 そう瞬時に判断をした俺の問いかけに、メリーさんが微妙に鬱屈した口調で答えた。


『あたしメリーさん。いま砂漠で変態と一緒にいるの……』

 うむ、わからん。

「お前ら、前回〝ドラゴンポール”の一本目を手に入れたんだよな? 実質メリーさんが何もせずに」

 そーいえば桃太郎の異説でも、部下に全部任せて何もしない桃太郎っていたな。


『言っておくけど、このパーティはメリーさんがいないと存在意義がないの! 言うなれば、山田○夫が脱退した後のずう○るび。国生○ゆり、高井○巳子が脱退した後のおニャ○子クラブみたいなものなの……』

『たとえが古すぎて今じゃ通用しないし、それほどダメージないと思うけど、メリーさんがいなくても』

 オリーヴの合の手に対して、メリーさんが猛反発する。

『それはオリーヴなの。オリーヴがいなくなっても、荒○注が抜けたドリ○ターズみたいに、まったく影響がないどころか、パワーアップされるの……!」


「何でもいいが、砂漠と変態がどう結びつくんだ?」

 こいつらに任せると話がまったく進まないので、俺の方から話を促す。


『ええと……。なんでか知らないけど、メリーさんたちがドラゴンポールを手に入れたら、ジリオラが逆恨みをして、コ○・バトラーVだかボ○テスVだかアリ○ミンVだかフライングVだかテ○ンVだか、うろ覚えだけれど、なんか巨大ロボ軍団を差し向けてきたから、メリーさんたち第二のドラゴンポールを求めて旅立ったの……』

「――ああ、ビビッて逃げ出したのか。あと途中からロボットと関係ないのや、問題ある奴とかが混じってたぞ」


 そう言うとメリーさんは心外だとばかり、鼻息荒く応える。

『あたしメリーさん。このメリーさんを相手にするなら、イデ○ンでも最終形態デモ○ベインでも、ゲッ○ーエンペラーでもラーゼ○ォンだろうが、天元突破グ○ンラガンだろうが、束になってかかって来い、なの……!!』

 そう言い放つ洒落が洒落で通じないところが、この業界コズミックホラーの怖いところである。


『そう言いながら、砂漠に不時着した飛行機の墜落現場から、手分けして水場を探している間に勝手にいなくなって、危うく死にかけたのは誰よ?!』

『北斗○拳と同じで、初っ端が主人公最大の危機なのはお約束なの……』

 オリーヴのツッコミに対して、メリーさんがまったく反省していない態度で応じる。


『まあまあ、オリーヴさん。回転系の遊具を遠心力の限界まで回したり、ブランコで大輪をしようとして、子供って3秒くらい目を離すと死のうとする生き物なんですよ』

 目を離したのが悪い、とばかり姉としての見解からメリーさんを擁護するローラ。


「墜落? おおかたお前が原因で飛行機が墜ちたんだろうな」

 ほぼ確信を持って断言した俺の推測に対して、メリーさんが全力で否定をする。

『あたしメリーさん。雇ったパイロットが頭おかしい上に変態なの。墜ちた原因だって――』

 そこへ聞いたこともない男性の声が聞こえてきた。

『僕は必死にマーニャの内臓をかき集めたんだ。だけど左足首が見当たらないんだ。猫の死骸はゴロゴロしているんだが……』

『飛んでる最中に元軍人だったパイロットが、PTSDによる記憶障害を発病させたのが原因だし……』


「……ああ、うん……今回はお前は悪くないのはわかった」

 というか、高跳びするにしてももうちょっとまともなパイロットは雇えなかったもんかね。


『一応、明日の朝までには飛行機を応急修理するとか言っているけど……』

『人は誰もが頭の上に小さな星を持っていて、そこで修行すれば界○拳とか元○玉とか使えるようになるんだよ。そのうち君にも見えてくるよ』

「そのパイロットの妄言を信じられるのか!?」

『無理だと思いますねえ。滅茶苦茶に大破している上に、翼の上でグレムリンがブイサインをしてますもの。こんなもん、スーパーメカニックのアストナージさんでも直せないでしょう』

 俺の疑問に答えるように、スズカの嘆息が響いた。


『あたしメリーさん。ともあれ水があればしばらくは大丈夫なの。その間に手がかりをもとに、この砂漠に隠されている第二のドラゴンポールを見つけるの……』

 意気軒高なメリーさんとは対照的に、他の面子のやる気はひたすら低調である。


『手がかりっていっても断片的な情報だし。……ええと、まずは「廃墟の街」』

 なにやら朗読するオリーヴの声に続いて、

『「カブト虫」!』

『おっさんうるさいの……』

『それと「らせん階段」』

 ローラが考え考え口に出した。

『「カブト虫」!』

『だから関係ないおっさんは口を挟むな! なの……』


 逆上したメリーさんが包丁を投げる音がしたが、どうやら避けられたらしい。その上でローラとスズカに取り押さえられて、説得されている声が聞こえる。


『まあまあ、落ち着いてくださいご主人様。我慢ですよ。ここは予想以上にトイレの便座が冷たかったけれど、微動だにしない平常心を見せる時です』

『そうそう。あんなのは令和のチャージ○ン研だと思って、まともに相手をしないのが一番です』


 必死に宥めながらメリーさんたちの音読は続く。

『「イチジクのタルト」』

『「カブト虫」!』

『「ドロローサへの道」』

『「カブト虫」!』

『「紫陽花あじさい」』

『「カブト虫」!』

『どんだけカブトムシが好きなの!? あといい加減素っ裸はやめて服を着ろ……!!』

『「特異点」』

『「ニードル・スパイキング」』

『カブトムシから、いきなり路線変更するななの……!』


 これはまた濃いキャラが……。

 珍しくメリーさんが取り乱しているが、異世界あっちの状況が気になるな。


『「秘密の皇帝」』

『「無脳症」』

『「アカシックレコード」』

『「芋嵐」』

『「ホッテントッドのシロクマ狩り」』

『あたしメリーさん。どっからどこまでがヒントだかわけわかめなの……!』


「おい、大丈夫か?」

 さすがに心配になって声をかけると、電話の向こう側からメリーさんの弱音が聞こえてきた。

『困った……ちょっと勝てないの……。【求む!】マトモな人』

「う~~む」

 自分からグイグイ攻めるのは得意なのだが、訳の分からん奴からグイグイ来られるのは勝手が違うようで、明らかに弱体化している。


 どうしたもんか、と思ったところで――。

『うおおおおおおおおおおっ!?! 蛇が! 毒蛇が僕の○○ポに噛みついている! 誰か――できれば幼女がいいが、この際、年増でもいいので僕の○○ポから毒を吸いだしてくれ! 甘く優しくエレガントに』

 問題飛行士の絶叫が響き渡った。

『『『『『…………』』』』』


 当人の要望を耳にして、ご指名のメリーさんはもとより、案の定全員が静観の構えを見せる。

「あー……いいのか? いちおう聞くが」

『あたしメリーさん。大丈夫なの。毒蛇に噛まれて死んでも、肉体は土に帰るけど魂は頭の上にある星へ帰るから、悲しくはないの……』

 悲しいどころか、ウキウキした口調で言い放つメリーさん。

『ああ、まあ砂漠の真ん中だったのはかえってラッキーでしたね。すぐに埋められますから』

 エマも平然とした口調で追随する。


『毒! 幼女っ! ツンデレ! 貧乳! エルフ耳! 褐色肌! クノイチ!』

 錯乱してか意味不明の単語を並べ立てる飛行士の断末魔を聞くに堪えず、俺はスマホの通話を切った。

 それとほぼ同時に管理人さんの焼却炉(?)の稼働が止まり、ついでのように再び緊急速報が流れた。


【緊急速報・アメリカでのゾンビが突如動きを止めるも、アメリカ政府はハイチに向けて核弾頭ミサイルを発射したと公式声明を出した】


「どこもかしこも大変だァ」

 いずれにしても直接俺に関わる問題でもないので、俺は気楽に肩をすくめながらアパートの自室へ戻るべく、歩みを進めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る