番外編 あたしメリーさん。いま大一番が始まるの……。

【新釈カチカチ山】

 タヌキに騙されてババ汁を食べてしまったお爺さんは、嘆き悲しみながらお婆さんの墓の前でむせび泣いていました。

 そこへお爺さんとお婆さんに餌付け――もとい、いつも世話になっているウサギがやってきました。


「あたしウサギさん。今日の飯を食べに来たの……!」

「ウサギか。悪いが今日はそれどころではないのだ、それというのもあの性悪タヌキが(以下略)、儂はもう死んでしまいたい……」

 消え入りそうなお爺さんの独白を聞きながら、

「おおっ、共食いなの! ひかりごけなの! 人肉食うと耳の後ろ光るって本当なの……?」

 興味津々でお爺さんの耳をめくって覗き見るウサギ。


「見るじゃないっっ!!」

 思いっきり振りほどかれたウサギがはずみで土間まで転がった。

「あたたたt……」

 そのまま勝手知ったる他人の家とばかり、土間に上がって囲炉裏にかかっていたババ汁を勝手に茶碗によそる。

「いただきま~~す!」

「食うんじゃねえぇえええええっ!!!」

 2号ライダー並みに会話が成り立たないウサギを、助走をつけて走ってきたお爺さんが鍋ごと蹴り飛ばす。

「――あいたたた、なの」


 家の外まで蹴り飛ばされたウサギをさらに追いかけて、お爺さんはケン○ロウがジ○ギにやったみたいに顔を掴んで、「きさま、いい加減にしろ!」と切れまくる。


「つーか、どういうつもりだ、草食獣っ! あれだけ世話になった婆さんを食おうとか、鬼畜にも劣る真似しやがって!?」

「パンダだって笹以外にも肉が食える時には食うの。野生の世界ではたまにはタンパク質を摂ることも重要なの。それにお婆さんも可愛がっていたウサギさんの血となり肉となり脂肪となれば本望だと思うの」

「本望なわけがあるか!! だいたいにおいてお前を餌付けしておいたのは、こういう事態に備えて戦力として確保しておいたためじゃ!」

「そーいう下心はどういうことだ説明しろジジイ案件なの。というか、あの身長二m三cm。体重百五十㎏の『お前のような婆がいるか!』と素で言いたくなるような、『ジャ○アント台風』に出ていた母親のようなババアを倒すようなタヌキ相手に、ウサギさんにどうしろと……?」


 ジャイアントばばあの墓を横目に、やる気ゼロを表明するウサギをジャーマン・スープレックスから卍固めへと、流れるような動きで極めるお爺さん。

 なお、目撃者の証言によればジャイアントばばあの死因は直接的なタヌキの攻撃ではなく、その後医者が止めるのも聞かずに寿司やらリンゴやら炭酸飲料水やらを暴飲暴食したせいである……という説もあった。

「……それって自業自得――って、ぎゃあああああああっ! チョーク、チョークなの。ゴッ爺さん!」

「だったらかたき討ちするか!?」

「ちょっと待って欲しいの。ウサギさん先代のタヌキを山で火をつけ、火傷痕に芥子からしを塗って、最後泥船に乗せて溺れているところを包丁で滅多刺しにして、湖に沈めて以来、いまのタヌキ二世から目の敵にされているの……」

 現在、ウサギ絶対殺すマンと化しているタヌキ相手に、迂闊うかつに近づけないウサギであった。


 それを聞いてさらにエキサイトするゴッ爺さん。

「だったら手前てめーのとばっちりで、お前を可愛がっていた婆さんが殺されたも同然じゃないのか!? 先に儂にこの場で殺されるか、婆さんの敵討ちに行くか、いますぐ決めろ!!」

「復讐は何も生まないの。負の連鎖は断ち切る――ぎゃああああああ、いま骨が立てちゃいけない音が鳴ったの! するの! いますぐ行ってくるの!」


 ということでお爺さんの嘆きっぷりを見て義憤に駆られたウサギさんは、悪いタヌキを退治するために旅立って行きました。

「……とりあえず仲間を集めて七人くらいにしてから数の暴力で押し込むの。まずはタヌキと言えばキツネだから、『土下座してガチで頼んだら何でもしてくれそう』と評判の白狐を誘うの」


 昔話風なら犬とか猿とか雉、もしくは臼とか栗とか蜂とか牛の糞、もうちょっと強力な面子であれば、猿、豚、河童を連れて行くところだが、そういう主要面子を無視して、マイナー路線を突っ走るウサギである。


「だいたいドリフの西遊記でも、原作にいなかったカトーってキャラがいたし、ちょっと定石を外れても問題ないの……」

 ブツブツ言いながら白狐のいる山へと向かうウサギさん。

「だいたいあのババアを殺せるタヌキとか、ジャンプ力は無限大で五十トンの物体を軽々と受け止め、おまけに三億ボルト電撃光線とか超高温火炎に超低温の冷凍ガスを発射するとかいう、無茶なスペックの仮面ライダー○ーパー1と戦うことになったドグマ王国並みの絶望感なの……」


 このままブッちしたいところだが、その上空にはカール・ゴッ爺さんが、自宅を改造した空飛ぶ家で、常に監視していたため逃げるに逃げられないのであった。


 その後、仲間を集めたウサギさんがタヌキを襲撃して、危うく返り討ちにあいそうになっている最中、颯爽とゴッ爺さんが乱入してタヌキを自力で仕留めたが、まあそれはまた別の話である。


****************


【ここから本編↓↓↓】


 さて、復活した御嶽山怒羅衛門関ツァトゥグアを前にして、「お前が」「いやアンタが」「いえいえ貴女こそ」と、逆日本のサラリーマン的な譲り合いの精神で対戦を擦り付け合いしていたメリーさんたち。


『メリーさん思うんだけど、封印されてたんだから封印した奴が責任を持って再封印するべきだと思うの。製造無責任法せーぞーむせきにんほーなの……!』

 人任せにする気満々で、そう言い切る。無責任幼女。

『ふむ、封印であるか』

 閣下がその叫びに呼応して、説明を始めた。

『一説には太古の昔に〝旧神”と呼ばれる存在が、ほぼ相打ちの形で〝外なる神々”〝旧支配者グレートオールドワン”とも呼ばれる邪神群を、各地各惑星に封印したとされている』


『球審?』と訝し気にメリーさん。

『救心じゃないですか、ご主人様』とローラ。

『意外と急診かも』と小首を傾げるエマ。

『話の流れからして旧臣ではないでしょうか。大石内蔵助的な敵討ちで』と一番まともに聞こえる意見を口にするスズカ。


『〝旧き神”、別名〝Elder God”と呼ばれる神々よ!』

 じれったそうに口を挟むオリーヴ。


『なお、その後旧神はドリームランドに落ちのびて、地球の神になって弱体化したとか、そもそも存在しないヒトの妄想の産物だとか、大陸に渡ってジンギスカンになったなど根拠不明の諸説もあるものの、現在の所在は不明である。なお、外なる神々の王であるアザートースが盲目白痴なのも、旧神の封印によるもの説がある』

『ま、封印関係なしに元から阿呆説もあるけど――ぐはっ!?!』


 余計な一言を加えたオリーヴの喉元・鳩尾みぞおち・弁慶の泣き所へ、瞬時にローラ、エマ、メリーさんの攻撃が決まった。


『あたしメリーさん。なんか無性に腹が立ってやったの。晴れやかな気持ちで、後悔はしてないの……』

「つーか、ドリームランドって言えば、確かメリーさんが以前に攫われてノーデンスとかいうジジイといさかいを起こした場所だよな?」

 ふと思い出してスマホ越しにメリーさんに助言したところ、「???」と首を捻る気配がした。

「お前の記憶力メモリは初期のスーファミ以下だな。ほら、いただろうイルカに乗った髭を生やしたジジイで、銀色の義手をした」

『……ああ、メリーさんイルカで思い出したの。アレって「のーでんす」っていったの? 顔はわかるけど名前は現象だからいちいち覚えてないの』


 まあ、そこまで興味がない人から見ればガ○ダム知らない人にザ○の種類見分けろって言ってる様なもんだろう。



『ほほう、よく知っているな。ノーデンスはその旧神の一柱とされておる。仮にも地を司る主神とも謳われる御嶽山怒羅衛門関ツァトゥグアをどうにかするなら、ノーデンスに助力を仰ぐのが一番であるが……』

『あのジジイに頭を下げるくらいなら、世界の一つ二つ滅んだところでメリーさん痛くも痒くもないの……!』

 閣下の提案をほぼゼロコンマで却下するメリーさん。


『だったらどうするわけ? アンタが体を張って止めるの?』

 オリーヴの嘆息混じりの――八割方予想通りという諦めが大きかったが――問いかけに、メリーさんが胸を張って答える。

『メリーさん水○黄門ポジションだから、戦闘に関しては格さんにタスキを投げるだけが見せ場で、後はいつでも逃げられるように物陰に隠れているだけの存在なの。なお、同行している娘は脱がないもよう……』

『「そんな水戸○門があるか!」』

 という俺やオリーヴのツッコミに対して、『チャンバラ~チャンバラ~♪』と、謎の歌を歌って煙に巻くメリーさん。

 あとなぜかスズカと閣下が苦笑いがしている気配がした。

『……ナッ○ですねえ』

『うむ、あの時代は何でもありだったからな』


『あたしメリーさん。つーか、こんな時のために冒険者を雇ったの! とりあえずダメもとでアレをアレにぶつけるの……!』

 メリーさんの鶴の一言で、急遽|御嶽山怒羅衛門関《ツァトゥグアVSロバート・権田原ただのオッサン》という、結果が見え見えのインパール作戦よりも無謀な対戦が決定したのであった。


『仮にも地の主神格とも呼ばれる邪神相手に、真っ向勝負でどうにかなるわきゃないと思うけど……せめて他の邪神か「歩く自己矛盾」「愛すべきはた迷惑」「とりあえずラスボス」「便利過ぎて逆に使いづらい」と呼ばれるニャルラトホテプでも召喚しないと無理だと思うんだけどなあ』

 オリーヴのぼやき声が聞こえる。

 だが残念ながらナイアルラトホテップ(ニャルラトホテプだと、微妙なキャラクターに限定されそうな気がするので、こっちの呼び名で)は、召喚しても多分来ないぞ。もう割とそばに這い寄って来てるから。


『腹減ったーーーーっ!!!』

 その間にも御嶽山怒羅衛門関ツァトゥグアが、そのあたりのちゃんこ鍋屋や食い物屋に押し入って、勝手にモリモリと腹を満たしていた。


『あたしメリーさん。そういえば朝ごはんがまだだったの……』

『ああ、そうですね。ロバート・権田原も朝の稽古で消耗して空腹でしょうから、合流したら朝食にしましょうか?』

 ローラの提案に、メリーさんが面白くもなさそうに答える。

『とりあえず回復アイテムにはゲゲゲの鬼○郎のゲームでお馴染みのイモリの干物を準備しているから問題ないの。あと、オッサンの食費に二百A・Cアーカム・コイン以上使うつもりはないので、その予算内で食わせるの……』


 かなりしみったれたメリーさんの要望に、『う~~ん』と悩むローラ。

 そこへ待ってましたとばかりスズカが口を挟んだ。


『そういうことなら、名古屋のソウルフード〝たません”の出番ですね!』

『『『『たま○ん?』』』』

『違います! っていうか申し合わせて間違えたフリしましたよね、いま!? いいですか、たませんというのは、薄焼きのえびせんの上に両面を焼いた目玉焼きをのせて、ソースと青のりをトッピングしたものです。関西のたまごせんべいと違って、えびせんを半分に割って上下に挟む形で、両手でハンバーガーみたいに掴んで食べるのがオツですね。私の子供の頃は百円でお釣りがきましたので、いまだと百円くらいするかも知れませんが』


 メリーさんが分かったような口調で、小っちゃい手をパンと叩いた。 

『おーっ、オワリのグルメなのね』

『……尾張ですよね? 微妙に終末のグルメっぽい言い方で気になるのですが……』

 そう呟くスズカをよそに、言われて気になって「たません」とやらをスマホで検索してみた。


「……おい、いまではB級グルメ扱いされて、一個三百円くらい。さらにチーズ、ベーコン、ソース焼きそばなどのトッピングを添えると、追加で五十円から百円くらいかかるから、五百円は必要らしいぞ」

 俺の説明をそっくりメリーさんがスズカに伝えると、

『なんですかそれは!? 知らない間に卵が一個百円くらいに値上がりしているんですか!?!』

『あたしメリーさん。卵は昔から変わらずに一個二十円くらいだけど、どーいうわけか原価と関係なく「B級グルメ」という名目で値上がりしたみたいなの……』

『そんなの間違ってます!!』

 スズカの怒りの咆哮が木霊した。


 ◇


 町を破壊し、目についた食い物屋に入ってはむさぼり尽くし(当然無銭飲食)、しまいには牛や馬や犬、猫までパクパクと食べ始めた御嶽山怒羅衛門関ツァトゥグアを前にして、メリーさんたちは深刻な表情で話し合っていた。


『あたしメリーさん。新型感染症で千○真一が亡くなったらしいの……』

 (´・ω・`)ショボーンとしたメリーさんからの衝撃ニュースを受けて、

『はあ?』『へー?』と、当然のごとく気のない返事をするローラとエマ。

『えええええっ!? 柳生十兵衛が!!? 日本を代表するアクションスターのTOPがですか?!』

 対照的に愕然としたのはスズカであった。

『えーと……ハリウッド映画によく出演している、真○広之の師匠だったんだっけか?』

 いまいち覚束ない相槌を打ったのはオリーヴである。


『真○広之もそうだけど、なんと言っても志穂○悦子ビジンダーの師匠であるという功績が高いの……!』

『ああ、そういえば一時期話題になりましたよね。前の奥さんに対するDVで離婚した長○剛と結婚して、新婚早々志穂○悦子ビジンダー相手にDVを加えようとした長○を、反射的にカウンターの蹴り一発で失神させて、当人は手加減したつもりでも、普段当然のようにアクションをしている武道、拳法のプロと、自分より弱い女性相手にしか暴力を振るえない素人の耐久度の落差を知らなかったがゆえに、完全にノビている長○を前にして取り乱し、師匠の千○さんに「旦那殺しちゃった!」と電話をして「もちつけ」と諭されたエピソードとか』

『その後は借りてきたチワワのように家庭内では長○は大人しくなったらしいの……』

『リアル「ざまぁ」ですね~』

  感に堪えない調子でしみじみと呟くスズカ。


「……まあ、噂では家庭内で鬱憤うっぷんを晴らせなくなった分、職場で立場が弱い相手に苛立ちをぶつけていたという噂もあるが」

 なお、俺がスマホで不特定のSNSを確認したところ、

『訃報に際し、心よりお悔やみ申し上げます』

 とか殊勝なことを呟いている連中の過去記事で、

『社員旅行とか飲み会とか謎の球技大会とか滅びればいいのに! ありがとう新型君ウイルス』

 とか書かれてあるのだが。つくづく人間というものは矛盾や混沌の雛型であると思う。


 あとついでに言えば、メリーさんたちが脅威を前にしてのんべんだらりと喋っている理由は、連れてこられた肝心のロバート・権田原が織女星の男によって、ほぼ原形をとどめないほど破壊され謎の物体になっていたからである。

『えーい、どいたどいた。てやんでぇべらぼうめ! おっ、なんでぇこれは?! 喧嘩か? 辻斬りか? 弱い者いじめをするやつぁ黙ってられねえぜ! 花のお江戸をすっ飛んで、喧嘩三昧。一心太助たぁ、俺のこってえ!!』

 そこを通りかかった謎の魚屋が、何やら啖呵たんかを切ってそのままどこかへさっさと行ってしまう。


『あたしメリーさん。いまのなに……?』

『さあ? ただの野次馬ではないでしょうか』

 呆気に取られて見送ったメリーさん同様、いささか腑に落ちない調子でローラが答えた。

『てゆーか、このスクラップでどう御嶽山怒羅衛門関ツァトゥグアと戦わせるわけ? 戦う前からHPもSAN値もほぼ底辺まで落ちてるわよ』

 オリーヴの指摘にメリーさんも首を捻った。

『何かいい方法はない……?』

 珍しく助言を求められた俺の答えはただ一つ。


「そんな時のための核だろう?」

〝あなた平和主義とか自称しているわりに、事あるごとに核の使用を示唆するわね?”

 テレビを見ていた霊子(仮名)が、振り返ってげんなりとした表情でぼやく。

 何を言う。現在の平和は大国の核兵器最終兵器あってのバランスの上に立っているんだし、死蔵しているばかりじゃなくて、パッと派手に使わなけりゃ損じゃないか。


『う~~~ん…………』

 電話の向こうで珍しくメリーさんが渋った――と思ったら、メリーさんではなくてロバート・権田原が再起動した唸り声であった。

『お、起きたの。メリーさんとっても慈悲深いから、使えないオッサン相手でも治療してあげるの。――ほい、イモリの黒焼き。あとローラは万能治療薬を塗りつけるの』

『万能治療薬って、この「オロ○イン軟膏」って書かれているコレですか?』

『そうなの。「オロ○インは何にでも効く」って不気味くん(by:吾妻ひでお先生) も言っていたの……』


『ぶほっ――やめろっ! そんなもん効くか!!』

 無理やりイモリの黒焼きを口の中に詰め込まれ、ベタベタする軟膏を全身に塗りつけられ、正気になった(つまり効果があった?)ロバート・権田原がメリーさんとローラを振りほどく。

『水……そんなものより水をくれっ』

 タイ○ント戦でぶっ殺されたまま一週間死体を放置されたゾ○ィーのように、熱気籠る銭湯で倒されたまま捨て置かれていたロバート・権田原。


 失った水分を求めて砂漠の遭難者のようにあえぐ、その口元へ閣下が柄杓で水を差しだす。

『力水である。存分に飲むがよい』

『!!』

 喜色満面。一気に飲み干すロバート・権田原。

 と、一息ついたお陰か、その腹の虫が盛大に鳴いた。


『はい、カニパン』

『甘食です』

『メロンパンだよ』

『名物えびせんべい「ゆ○り」です』

 すかさず予算二百A・Cという縛りで、オリーヴ、ローラ、エマ、スズカが食料をロバート・権田原の口の中に放り込む。


「……どーでもいいが、狙いすませたかのように、水分摂取しないと完食できないもんばっかりだな」

『ぐあああっ、口の中と喉がカラカラに……!』

 身もだえするロバート・権田原を尻目に、

『メリーさんもお腹がすいたから帰って朝食にするの。あとは頑張って御嶽山怒羅衛門関あいつ斃すの……』

『がはっ、がはがh――って、なんだあのバケモノは!?!』

 無責任にもその場を後にするメリーさんたちであった。


 ◇


 昼食のインスタント焼きそばを食べてまったりしていたところ、メリーさんから緊急の連絡が入った。

『あたしメリーさん。いま刃物を持ったやべー幼女が、勝手にメリーさんの家に入ってきて暴れているの……!』

「………は?」

『異常者なの! 刃物を持っている上に、不法侵入とか頭イカレているの……!!』

「……いや、それ自己紹介乙ってやつか?」

 そう反射的に聞き返したスマホ越しに、何やら刃物同士が交差している物騒な音が聞こえてきた。


『誰がヤバい幼女よ! それはあんたの事でしょう!!』

 ついでに轟く怒りの声は、メリーさんの悪友と書いて絶対に友とは呼ばない、犬猿の仲たるジリオラ公女のものである。


『いきなり有無を言わせず剣で切りかかってくるような、ハードコアな交友関係はメリーさんにはないの。つーか、ジリオラお前前から友達いないなーと思ってたけど、殴り合うならともかく真剣で殺し合いをしないと友情が確認できないとか、どう考えても友達減っていくだけだと思うの。物理的に……』

 包丁で応戦しながらメリーさんがジリオラを宥めるんだか、挑発するんだかわからない言葉をかける。

『友達いないとか、アンタに言われる謂われはないわよ! つーか、これは友情の確認とかじゃなくて、純然たる殺意に基づく行動よ!』


 幼女ふたりが鍔迫り合いをしているのを眺めていたスズカが、オロオロしながら提案する。

『あの、これはさすがに警察だか衛兵だかに通報しないとマズい状況なのでは……?』

『その場合、二匹とも引き取ってくれるのかしら?』

 真剣な口調で懸念を口に出すオリーヴ。

『ああ、最近は近隣でも冒険者ギルドでも、どういうわけかウチに関するトラブルは冗談か出鱈目でたらめだと、端から取り上げてくれませんからねぇ』

 それに応じて嘆息するローラ。

『というか、あたしたち自身もなにが常識でなにが非常識なのか、曖昧になっているし』

 エマも危機感を覚えた口調でそれに応じる。

『いわゆる〝カサンドラ症候群”ですね。あまりにも突き抜けた異常者が身内にいると、自分の常識が揺らぐ上に、世間にその異常性をいくら説いても「そんなバカな」と理解してもらえないという』

 最後にスズカがそう総括した。


 その間にもメリーさんとジリオラの剣劇は続く。

『知らないとは言わせないわよ! リョーゴク国の惨劇の件! アンタらが元凶なんでしょう!?』

『??? メリーさん、何にもしてないの……?』

『何にもしないのが問題なんでしょう! お陰で外交ルートで非難轟々よ!!』


 どうやらリョーゴク国で暴れ回っている御嶽山怒羅衛門関ツァトゥグアの件で、メリーさんの関与がバレてお鉢が回って来たらしい。


『ん……ん~~ん? 今回は別に何かしたわけじゃないわよね? 啓蟄けいちつの蛙みたいに、勝手に封印を解いて出てきただけだし』

『はい、ただ現場に居合わせただけで』

 元凶扱いされたオリーヴが、「意義あり!」とばかり首を捻り、ローラもそれに同意する。


『ほら見ろなの! メリーさん別に関係ないの。それどころか対抗するために、自費で秘密兵器を準備して投入したくらいなの……!』

『秘密兵器って、変なオッサンのこと? それなら次鋒レ○パ○ドンより短い0.5秒で食われたらしいわよ!』

『『『『『あ~、ああ……』』』』』


 駄目だろうと思っていたが、やはり駄目だったという結果を聞かせられて、納得と失望の声を漏らすメリーさんたち。


『あたしメリーさん。つくづく使えないオッサンなの。金返せ――と、声を大にして言いたいところなの……!』

『現場に居合わせながら、勇者のアンタが仕事を放棄するから問題になってるんでしょう! そのせいで宰相も兼任しているうちの公爵パパが、国王陛下とかリョーゴク国とかの板挟みで大変だし。イニャスはイニャスで、勝手に見物に行って行方不明だし……全部、アンタのせいよっ!』

 怒りを込めて押し込まれる剣を、メリーさんが両手の出刃包丁でどうにか捌く。


『意外と強いですね、ジリオラ公女。メリーさんと互角にやり合うなんて』

 感心したスズカの呟きに、当人が胸を張って答えた。

『ほほほほほっ。貴族の令嬢の常として、最低限の護身術はマスターしているわ』


「ほう。フェンシングか何かか?」

 なんちゃってとはいえヨーロッパ風異世界。その手の武術かとあたりを付けた俺の独り言が聞こえたわけではないだろうが、ジリオラが自信満々に言い放つ。

『このワタクシのクラヴ・マガにどこまで対抗できるかしら!』

「ぶっ! ガチの殺人技術やんけ!」


 思わずスマホ越しにツッコミを入れる俺。なお、『クラヴ・マガ』というのは、戦火が絶えないイスラエルで考案された、相手が武器持ってるとか街中で戦うのが前提の格闘技のことである。


『メリーさん思うんだけど、自分の国の不始末なら、自分の国の勇者で対応するのが常識だと思うの……』

 お前が常識を語るな! というツッコミを放つ前に、その答えをジリオラが叫んだ。

『全滅したわよ! プー太郎侍も、相合傘あいあいがさ刀舟も、あんみつ同心も、必殺社畜人も、江戸の桃豹ピンクパンサーも、禿はげの軍団も、三匹の仔豚侍も、鍋奉行も、ちんちん侍も!』

『最後、なんか変なのが混入したの。例えるならアベ○ジャーズに、しれっとペプ○マンとかデン○ンマン、ムキム○マンが混じっているような微妙な違和感なの……』


「微妙どころではないと思うが……」

 俺のボヤキに追随するかのように、オリーヴが合点がいった口調で、

『ああ。それで手に負えなくなって、メリーさんに責任をおっ被せようとしているわけね』

『それならそうと、頭を下げて頼めば良いものを、逆に恫喝どうかつして動かそうとするなんて、最低ですね。リョーゴク国もリヴァーバンクス王国も』

 冷え冷えとした口調でローラも同意し、

『《無能な王様》《トラブルメーカー王子》とくれば《裏で魔物と糸引いてる大臣》で、ド○クエの王道設定ですねえ』

 スズカが苦笑いした。


『そこの狐! うちのパパが悪の黒幕みたいな憶測を垂れ流すんじゃない! 不敬罪でぶっ殺すわよ!』

 すかさずジリオラの怒りの矛先がスズカに向かうものの、

『いや、娘が刃物持って、いきなり他人ひとへ押し入ることを放置している段階で、確実にまともな大臣じゃないと思うんだけど』

 エマの冷静なツッコミに歯噛みする。

『ぐっ……ぐぬぬ……!』

『あたしメリーさん。大丈夫なの。世の中には例外というものもあるの。「SHU○FLE!」というエロゲ―由来のアニメでは幼馴染、亜人、ロリっ子などを抑えて、最後に負けヒロイン筆頭である緑髪先輩とくっつくという番狂わせもあったし……』


「何の話をしている、何の!?」

 まったく話の流れを無視したメリーさんのたとえ話に、俺が毎度のツッコミを入れると、メリーさんが神妙な口調で語り始めた。

『期待は裏切られるという話なの。ガ○アンの最終回で凍結されていた母親が解凍されて喋ったら、思いっきりオバサン声でがっかりしたとか、終盤でぶん投げたくなった鉄血のオ○フェンズとか』


 それから一転してマジな口調で続けるメリーさん。

『メリーさん思うんだけど、ハーレムもので最終的に誰か一人を選ぶって間違っていると思うの。主人公は全員に責任取って、中東かアフリカあたり行って一夫多妻制で全員嫁にするべきなの。もしくは千石イエスみたいに誰とも結婚せずに、そのへんでシェアハウスするか……もっともその場合、「Nice boat.」案件の危険を回避しないといけないの』

「あのな、イエスの方舟事件なんて、いまどき知ってる奴はいないぞ」

 まあスズカなら知ってるかも知れないが。


 と、じれったくなったのか、ジリオラが地団太踏んで言い放つ。

『とーもーかーく。リョーゴク国の災害を、アンタ本人が行ってどーにかしなさい! これは国からの命令よ!!』

『え~~~っ……なの』

 とことん面倒くさそうなメリーさんとは対照的に、オリーヴたちはどこか緊迫した雰囲気で相談し合っていた。

『メリーさんを直接投入するとか、国はわかってるのかしら?』

『事態は確かに収束するとは思いますが……』

『どういう風になるか、誰もわからないことになると思うなぁ』

『リョーゴク国だけで済めばいいですけど』


 なんとなく「巣に持ち帰って全滅」させるゴキブリ駆除薬みたいな扱いをされているメリーさん。

 そんなわけで再度メリーさんたちは御嶽山怒羅衛門関ツァトゥグアを倒すべく、ジリオラも同行してリョーゴク国へと向かうのだった。




 リョーゴク国へ向かう馬車――というか、愛車であるガメリンが引く獣車の中で、メリーさんたちは深刻な表情で車座になって向かい合っていた。


「メリーさんが占い師でオリーヴが人狼なのを確認したの……!」

「ちょっ、ちょっと待ちなさい。私が占い師じゃないの。どう考えても! メリーさんこそ人狼で私を陥れようとしているわ!!」

 メリーさんの発言を受けて、オリーヴが手にしたカードを床に伏せて憤慨する。

 その様子を眺めながらローラ、エマ、スズカが顔を見合わせた。

「どちらが正しいと思います?」

「う~~ん、一見するとメリー様がテキトーなこと言って、オリーヴさんが本気で反論しているようにも見えますけど……」

「オリーヴさんが占い師とか、これも胡散臭そうですし、そうなるとメリーさんが何も考えずに本当のことを喋っているだけという可能性の方が高い気もしますね」


 喧々諤々と議論している三人へ、

「メリーさんが先に言ったの。オリーヴが後出しだから嘘なの……!」

「騙されちゃだめよ。メリーさんこそ人狼で、私をハメようとしているのよ!」

 メリーさんが自然体でにこやかに、オリーヴが必死の面持ちで同時に反論した。


「「「う~~~~~む」」」

 余計に悩む三人。日頃のいびつな人間関係が赤裸々になった瞬間である。

「えーーーと、とりあえず人狼だと思う人を全員で指さすということで」

「指された人狼は縛り首なの……!」

 獣車の中央の柱に括りつけられた縛り首用の縄を手にした包丁の先で示して、ワクテカしながら続きを促すメリーさん。


「「「「ゲームでマジで殺そうとするんじゃないわよ(しないでください)!!!」」」」

 

 ローラの音頭に合わせて、五人が互いに不信感を漲らせながら、これはと思う相手を指さすべき人差し指を立てる。


「「「「「いっせーの……」」」」」

「尾形○ッセー!」

 メリーさんのフライングな合図に合わせて、「タクシーっ!!」と、誰かが獣車を無理やり止めた。

「この大変な時にのん気に人狼なんてやってるんじゃないわよ!」

 と同時に出入り口の扉を開けて、全身真っ赤なコーディネートをした五歳ぐらいの赤毛の髪を縦ロールにした幼女が怒髪冠を衝きながらメリーさんたちの獣車にズカズカと上がり込んできた。


「大変な時だからメリーさんたち心に贅肉……じゃなかった、余裕を持って臨むの。『心頭滅却すれば火もまた涼し』と言って、どっかの坊主も戦国時代に丸焼けになったし……」

「いや、それネット上にあふれる都市伝説のひとつだから」

「白木屋火災のときに下着を履いていないことを気にして女性客が落下死したとか、坂本竜馬暗殺の黒幕は薩摩藩だとか、日本シリーズで阪神がロッテに33-4で負けたとか、名古屋名物にあげられる便所メシとか、全部都市伝説ですからね」

 都市伝説メリーさん相手に噓八百を強調するオリーヴと、その尻馬に乗って特に後半はドサクサ紛れになかったことにしようとするスズカ。


「なんでもいいから、さっさと来なさいよ! つーか、カメに引かせて来るんじゃないわよ! いつまでたってもリョーゴク国へ着けないでしょう!」

 いきり立つ赤毛幼女――ジリオラに対して、白けた態度でメリーさんたちが文句を言う。

「だいたいいきなり当日に、リョーゴク国へ行って御嶽山怒羅衛門関ツァトゥグアと戦えとか無茶な話なの。『今日はお城でパーティがあります』とか当日に連絡してくるピー○姫並みにナメてるの……」

「あと、別に私たち行かなくても問題ないんじゃないの?」

 果てしなく気が進まない態度のオリーヴに対して、ジリオラが自明の理という口調で言い返す。

「ポ○モンも一匹しかつれてないよりはフルパーティーの方が良いに決まってるし、化け物相手もそんなもんよ。――こっちで馬車を用意するから全員乗り換えて! あとまとまっているとロクなことがないから、全員バラバラに分乗して」


 さすがは公爵令嬢。あっという間に用意させた馬車に、メリーさんたちを個別に押し込むのだった。


 ◇ ◆ ◇


『あたしメリーさん。面倒くさいからいまバックレてきたところなの……』

「相変わらずフリーダム過ぎるな、お前は」

 久々のバイト再開で古本のホコリを掃いながら、俺は話を聞いてジリオラ公女に同情した。


 決戦場に着いてみれば、肝心のメリーさんが陰キャが遊びや飲み会の「途中まで一緒だったよな?」てノリで、いつの間にやら姿をくらませているんだから堪ったものではないだろう。


『メリーさんは「人生が辛い時はその問題から逃げよう」がモットーなので、さっさと面倒事からは逃げるの。というかよく考えなくても、国が何とかすべきなの。もしくはポリコレの影響で最近ホモになったスー○゜ーマンでも任せるの。相撲取り相手なら嬉々として立ち向かうに違いないの……』

 各方面に配慮しないメリーさんの独断と偏見が留まるところを知らない。

「というか、スー○゜ーマンって掘られる方なのかしら? 掘る方なのかしら? もしかしてどっちもありなのかも知れないの……。最近のアメコミは配慮し過ぎでなんでもありになっているから、そのうちロリコンとか屍姦とか獣姦、露出、ショタ、搾乳、熟女、糞便嗜好とかなスーパーヒーローとかも出てくるに違いないの……!」

 それはもはやヒーローとは呼べないのではないか?


「つーか、なんでもかんでも他人任せにするなよ。お前には責任感とか勇者としての面子だとか伝説のメリーさんとしての矜持とかはないのか?」

 まあないんだろうな。ワクチン打ってたら「ワクチンのせいだ」と責任転嫁する奴だ。


『あたしメリーさん。大丈夫なの。赤いドレスの女は対怪物用のパワーアップアイテムだから、他の連中だけでもなんとかなるの……!』

 メリーさんの根拠のない断言を聞きながら、俺は段ボールに重ねられていた映画のポスターとパンフレットを手に取った。

 ちなみにタイトルは『ラ○ペイジ巨獣大乱闘』である。


「……ジリオラも気の毒に。小公女セ○ラの時代から、公女と名前がつく少女は苦労するものと相場は決まっているとはいえ」

 逆境にも耐えてヒマワリに笑われないように頑張るんだよな。

『アレって、ざまぁパートが最終回だからいまなら誰もついてこないの。なろうの異世界恋愛ジャンルとか、有名な時代劇でもサクサクと「ざまぁ」するから、こらしょうのない視聴者にウケるの……』

「だから読者をネタにするなと何度も言っているだろう! あと、そういえば異世界恋愛で思い出したが、乙女ゲームとかってのは具体的にどんな作品を指すんだろうな」

『「みつめ○ナイト」は乙女ゲームなの……!』

「そうかぁ……?」

 よくわからん。

「というか具体例が微妙に古いな。お前、腕に武器を仕込んでいるキャラクターと言えば誰が思い浮かぶ?」


 この問いに「ロッ○マン」と答えるか「コ○゛ラ」と答えるか、はたまた「ガッ○」や「宮○明」と答えるかで、だいたいの相手の年代がわかるというものだ。


『鯨○兵庫……!』

「微妙だな、おい! いろいろと……」

 まあ『メリーさんの電話』の起源と興隆を合わせると妥当なのかも知れんが。


「ともかく、今頃ジリオラは大変なことになっていて気の毒に……」

『その言い分はメリーさん不快なの。まるっきりメリーさんがおかしくて、ジリオラがまともな風に聞こえるの……!』

 周りも頭おかしい連中しかおらんからな。相対的にジリオラやローラは常識人枠……あ、いや待て、逆にまともだから頭おかしいってことだわ。

「……ああ、そうかも知れん。すまん、俺が間違っていた」


『わかればいいの。だいたい異世界の人間は文化も何もかも違うので、常識人のメリーさんが合わせるのが大変なの。バッフ・クランの白旗みたいなもので、文化の違いが悲劇を生むの……』

「あー、なるほど……」

 主にお前が相手の文化を取り違えて悲劇をもたらしているような気がするが……。

『賢者とか言われている連中でも、七の段まで九九を覚えているとスゲーって絶賛されるレベルだし……』

「ああ、異世界あるあるだな」

『調査旅行団とか呼ばれる連中は、「晋三を捧げよ」が合言葉で、連日のように晋三を狩っているし……』

「狩るなよ!!」


 なるほど異世界というのは一筋縄ではいかないようだ。

 その後も俺はメリーさんの愚痴を聞きながら、バイトに明け暮れたのだった。


 ◇ ◆ ◇


「どぉいうことよ~~っ!」

 すっぽんぽんにまわし一丁のジリオラが、胸を隠しながら周囲に響き渡る叫びを放った。


「わ~、ときめきトゥ○イトのED並みのインパクトですね」

 その格好にスズカがのん気な感想を述べる。

「大丈夫です。いちおう大事な部分には絆創膏を張って隠してありますから」

 そう言ってローラが宥めるも、

「これってメリーの役目でしょう! メリーはどこに行ったの!?」

 取り乱したジリオラは聞いちゃいなかった。


「いやぁ、全員で探したんですけどどこにもいなくて、目撃者もいないので、多分、とっととトンズラしたんじゃないかと……」

 頭を掻きながら、てへぺろと答えるエマの胸倉を掴んで取りすがるジリオラ。


「だからって、なんでわたくしが代理でこんな格好で、衆人環視のもとでスモーをしなきゃいけないのよ!?」

「いや、だって、すでに取り組みで『御嶽山怒羅衛門関VS幼女』となっていて、会場は大入りでおまけに国王夫妻も来ている天覧試合となったら、代理を立てるしかないでしょう。そして幼女に該当するのはひとりだけ」

 他人事だけに冷静に状況をひとつひとつ列挙するオリーヴ。


「ぐ、ぐぐぐぐぐぐ……!」

 ここまでお膳立てされて、立場上逃げるわけにもいかず、土俵に上がることになったジリオラ。


『に~し~、ジリオラ乃川、ジリオラ乃川ぁ~。ひが~し~、御嶽山~、御嶽山ぇ~!』

 行司に促されて土俵に上がったジリオラ。

 すかさず「幼女マンセー!!」の大歓声が主に大きいお友達から上がる。


 続いて巨体を震わせながら、やる気満点で土俵に上がってきた御嶽山怒羅衛門関ツァトゥグア

「ぎゃああああああああああああああああっ!!!」

 全長五メートルを越える怪異なその姿を初めて目の当たりにしたジリオラが悲鳴を上げ、即座に背中を向けて逃げ出そうとするのをオリーヴたちが寄ってたかって押さえつける。

「なによアレ! 早くロボもってきなさいよ! 生身で闘う相手じゃないわよ! 身長57メートル、体重550トンくらいのロボを!!」


 ジタバタともがくジリオラを無理やり土俵の真ん中まで連れて行く一同。

「うむ、期待の勝負である」

 解説者席に座った閣下がご満悦で頷く。


『時間いっぱい! 見合って見合って……はっけよいっ!』

 半ば見切りで行司の軍配が引き落とされた。




 結果――。


「……勝ったわ」

 激闘を制したジリオラが、ゼイゼイと荒い息と滝のような汗を流しながら、感慨に耽るのだった。


【(東)御嶽山怒羅衛門関ツァトゥグア● (決まり手:不浄負ふじょうまけ) (西)ジリオラ乃川○】

※不浄負け=試合中にまわしが外れてチ●チンが丸出しになること。即、失格となる。

 負けた御嶽山怒羅衛門関ツァトゥグアが土俵の中央で叫んでいた。

「友達ンコ!」


「いや~。実に名勝負であった! 勝負を通じて友情が芽生えた瞬間であるな」

 天晴天晴、と閣下やリョーゴク国の国王陛下夫妻も惜しみない拍手を送る。


 そしてその間に、オリーヴたちは勝者に贈られる懸賞金とドラゴンポールを担いで、すたこらさっさと会場を後にしていたのであった。

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