番外編 あたしメリーさん。いま地球が狙われているの……。
朝目覚めると地球が宇宙人に侵略されていた。
『ほほほほほほっ! 愚かで下等な地球人に告げます。私は地球から遥か彼方、小マゼラン星雲の先をちょっと曲がった先の光と闇と黄昏の国からやってきた、《地球絶対侵略するぞ宇宙人連合》の前線司令官◎$♪×△¥●&?#$です!』
なぜかネットとスマホがすべて管理人さん――いつもの洗面器をかぶって、エプロンをかけた見慣れた姿の――によって占領され、にこやかな口調で宣戦布告している。
>侵略者キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!!
>美人ポイけど
>バカもーんっ、それが宇宙人だ! ちっぱいは
>わたしはプウムーン。危険……地球滅亡。キケン……。
>僕の名はケン・アスカ。地球は狙われているっ!
>おお、空手バ○一代! 天下無敵の空手の星から来て、侵略者相手に空手で戦うのですね。わかります。
>誰か説明してくれよーっ!?!
大盛り上がりをしているコメント欄。
そんな管理人さんの背後には、ゴリラの扮装をした男と、ごく普通のサラリーマン風の男(照明に映された影が、なぜか等身大の巨大ゴ○ブリという芸の細かさ)が各々別のスクリーンに映っていて、それぞれに『宇宙猿○軍総司令官』『M宇宙ハ○ター星雲人軍大将軍』というテロップが出ている。
「……ああ、そうか。おうち時間が増えたので、最近はにわかユーチューバーが多くなってるって聞くからなァ」
朝飯を食べながら納得する俺。
なお、在京テレビでは当然のようにまったく無関係に、いつもの『新型君ウイルスがーっ』『日本は終わっている!』『新大久保の○○がいま
“いや、ちょっと待ってよ! ついに
ロボット掃除機の上に乗っている、お馴染みの濡れそぼった幻覚女――霊子(仮名)――が、血相を変えてパソコンとスマホの画面を代わる代わる覗き込んでは、逼迫した口調で俺に訴えかける。
んなわきゃねーだろう。
宇宙人がわざわざ星の彼方から、有人惑星を侵略する意味がない。
コスパを考えても、手近な惑星をテラフォーミングしたり、スペースコロニーなりを造った方が割に合うだろう。
だいたいなんで
そんな俺の独り言が聞こえたのか、霊子(仮名)は〝いやいやいやいや”と手を振って否定した。
〝野生のゴリラは投げないわよ! 類人猿の中では温厚で知られているんだから”
「……まあ手が込んでいるのはわかるけど、テレビや新聞とかのマスゴ――オールドメディアでは、一切取り上げられていない時点で、明らかに素人の奇矯なお遊びだとわかるだろう」
とはいえ、なかなか迫真の演技に素人作とは思えない緻密な造形、SFXである。
俺は大いに感心しつつ、昨夜録画したアニメを観るべくテレビのチャンネルを変えた。
といっても見るべき番組もないので録画したアニメを観るだけだが。俺は都会に来て学んだのだ。都会と田舎の違いは、東○
「……えーと、ネットで前評判が高いのは『クラ娘』の二期と、『魔界塔士・佐賀』の二期『佐賀2・秘宝伝説』か。どっちも前作を見てないから、ちょっと置いておいて……」
なお、『クラ娘』は大石内蔵助を筆頭とした赤穂浪士全員をJK女体化したもので、一期は普通に大石内蔵助(クラちゃん)が主役だったが、二期では堀部安兵衛(ほっちゃん:CV堀○ 由衣)が主役になっている。
あと『佐賀シリーズ』は昔のゲームが元になっていて、特に四作目が超有名だそうだが――KOFは初代の '94が至宝だとか、 '98が一番完成されているとか、2002こそがシリーズ集大成とかの好みの問題だとは思うが――俺はやったことがないのでまったくわからん。
「で、確か新作アニメはどこぞの小説投稿サイト発の定番である異世界転移ものか。え~と、『
なんでも何の能もないおっさんが、異世界で魔族相手に体を張って無双する話だそうである。
〝攻め過ぎよ! 悪いに決まってるじゃない! 完全にアウトよ。下手したら異世界が滅ぶわ!!″
絶叫する霊子(仮名)だが、今どきは病気の人間を
と、次の瞬間管理人さんの背後に表示されていた、いつもの松○零士が描くところの宇宙船内部のような謎のメーターがひしめく背景が、宇宙空間に早変わりした。
『ほほほほほっ。ご覧ください。これは地球から一・五光年離れた宙域のライブ映像です。この通り、地球に向かって現在、亜光速で赤色遊星こと、太古の地球からちぎれ飛び去ったマ○ンゴ星が、500万年ぶりに地球に大接近中です』
何やら解説している管理人さんだが、赤色遊星ってのはなんだ!? んな天体用語はないぞ、赤色矮星ならともかく。
『このままでは遠からず地球は滅亡するでしょう。そこで愚かで貧弱な地球人に選択できる道はふたつ。このまま星ごと消滅するか、私たちの船団に降伏して奴隷になるか、どちらかです』
と、赤色遊星とやらに先立って、地球に向かって接近している、いかにも凶悪そうなデザインの宇宙船団が映った。
ざっと見たところ万を超える船団のようだが……まあコピペだろう。
「――あ、そーか。わかった。このシチュエーションどっかで見たと思ったら、『モ○ャ公』の〝地球最後の日”エピソードの焼き直しか!」
〝違うと思うわ~~~っ!!! っていうか、誰も直面している危機に気づいていない~~~っ!”
この世の終わりのようなリアクションで絶望する霊子(仮名)。
箱を開いたがいいが、底に残っているはずの「希望」がどこにも見当たらず、取り乱すパンドラを目の当たりにした気分だった。
「いや、結構バズっているようだが?」
〝意味ないわよーーっ!!”
と言っている間にメリーさんから着信があった。
>【メリーさん@リモートワーク中】
「……いや、確かにリモートワークと相性はいいだろうけど、最後どうするんだ?」
『あたしメリーさん。自宅にいて給料入るみたいに、最後はセルフで勝手に死んでくれないかしら……?』
スマホの先でメリーさんが虫のいいことをのたまう。
こいつ、手段と目的を完全に取り違えているな。
「つーか、根本的な疑問なんだけど、なんで
『ライダーがシ○ッカーに迫るように、メリーさんも愛と平和と復讐のために追っかけてるの! いまさらなの……!』
「もっと建設的な復讐したらどうだ? よく言うだろう。『自分が幸せになることが最高の復讐』だとかなんとか」
『主目的は愛なの! 捨てられた怨讐でアナタをぶっ殺すの! ぶっ殺せば未来永劫メリーさんのものになって心の平安を得られるの……』
サイコパスの発想だな。ほぼアニメ版の伊○誠の最期である。
「どうして……どうしてこいつは真っ当に青春して、真っ当に恋をして、そういうふうに生きようとしないんだ……」
悲嘆に暮れる俺の台詞に、メリーさんが鼻白んだ口調で返事をする。
『それブラッ○ラグーンで聞いた台詞なの。だいたい加害者側が被害者側にいう台詞じゃないの。串カツがソースへ二度漬け禁止のように、それが絶対のルールなの……!』
途端、間髪を容れずに電話の向こうでオリーヴが目くじらを立てて、メリーさんに反論した。
『あんた、昨夜入った店で、思いっきり齧りついた串カツをソースに漬けてたわよねぇ!?』
『メリーさん最初は何もつけずに食べて、次に味変するためにソースに漬けるから二度漬けじゃないの。ルール的にはセーフなの……』
『ルールの解釈が間違っているっていうの! 「二度漬け禁止」ってのは、唾液つけた串カツを共用するソースに入れるなっていう意味よ! バッチいわね』
『それならそうと明確にルールに規定しないほうが悪いの。だいたい二度漬け禁止のルールでも、メリーさん最初から他の客が守っているとか信用してないの。絶対にそのへんのオッサンの唾が混入されていると信じて疑わないし、あと「先祖伝来継ぎ足して使っている」タレとかソースとかには、ハエやゴ○ブリとかがブレンドされ熟成していると思っているの……』
『『『『おえ~~~~~~~~~~っ』』』』
身も蓋もないメリーさんの言い分に、オリーヴ、ローラ、エマ、スズカが一斉に
「――いや、まあ……そうかも知れないけど、いちいち気にしてたら外食とかできんぞ」
『人間見えないところは知らんぷりするのが一番なのに、細かいところをあげつらうオリーヴが悪いの! あとメリーさん、残った鍋で雑炊を作るのに、全員の食べ残しを合わせるのは生理的に無理なの……!』
なるほど、
「つーか、お前ら昨夜の飯は串カツか。酒の肴ってイメージがあるんだが……」
『あたしメリーさん。昨日は競馬で大穴を当てたので、皆で食べて呑んだの……!』
「オッサンか、お前ら!? つーか、全員が未成年で賭け事やアルコールってのはどーいうことだ!?!」
『ここ異世界だから問題ないの。アルコールも五歳から飲めるし……』
「なんでもかんでも異世界ムーブで開き直るじゃねーよ! つーか、さすがに早すぎる! 第一あんまり早くから酒を飲むと頭がパーに……ああ、いまさらか……」
どいつもこいつも頭イカレている連中だったな。
「で、競馬か。確かに最近はリアルでも流行っているらしいが」
主にゲームやアニメの影響で。
『メリーさん、超有名な丼崎脩○郎と犬川慶○郎の予想をもとに、五連単で一点買いして、途中でパルプンテ唱えたら、本命だったチンポイントとかサクラマスオー、ライブシャワー、サイレントスズムシ、バクトベガが軒並みスっ転んで、足の骨折ったので百
「ろくでもない悪魔合体の結果か。本命馬も気の毒に……」
どこかで聞いたような名前の優駒ばかりなのがなおさら寂寥を催す。
『あたしメリーさん。本命だろうが駄馬だろうが、きちんと結果を出した以上、それは努力が報われたってことなの。努力をすれば必ず成功するの。逆に成功しなかった奴が「努力が報われない」とか言うのはたわ言なの。てゆーか結果が出ない以上、連中が積み重ねてきたのは、努力じゃなくて徒労なの……!』
〝博打は勝つまでやれば負けない”みたいで屁理屈で応酬するメリーさんであった。
「なんかなに話しても、最終的にコスパがどうのこうと言い出して、社会問題に意識高いオレスゲーしか話の
つまんねーんだよな。ああいう連中の俺様自慢は。
『それにこっちの世界では、足の骨折った馬だって安楽死とかされないで、王○人死亡確認かビッ○コインみたいに、どんだけ死んでも必ず復活するの』
「いいのか悪いのか微妙な処置だな、おい」
死んでも延々と酷使されるとか、ある意味死ぬ以上の苦しみだな。
RPGで勇者がぶっ殺されても、蘇生されて延々と向かってくる。魔王の立場になると恐怖以外のなにものでもない。
「……そーいやデモ○ベインでも、他の宇宙まで追いかけて来たからな~」
まああの作品では黒幕ポジションだったのに、他の悪役の個性が強すぎて、いまいち影が薄かったわけだが……。
『あたしメリーさん。そういえばデモ○ベインで思い出したけど、酔っぱらった勢い……じゃなくて、安かったから念願の巨大ロボを買ったの。メリーさん江戸っ子なので宵越の金は持たない主義なの』
「お前、俺と同じで東北出身だよな?」
まあ泡銭を何に使おうがどうでもいい話だが。
「前に言っていた四十九体合体ロボか?」
『そんなのめんどくさいの! というかメリーさん思ったんだけど、他のメンバーを四十人以上増やしたら、もしかするとメリーさんのセンターポジションを脅かすのが出てくるかも知れないの。そうなった場合には、「A○B49」みたいに卒業という名目で、次々にリストラしないといかないので面倒なの……!』
そう憤慨するメリーさんの両手に握られた包丁が空を切る音が聞こえた。
きっと
『ということで、ありがちな三体合体ロボだけど、もともと幻の古代エルフが守護神としてつくった〈最強無敵超絶究極至高完全伝説神秘浪漫超越殲滅消滅粉砕破砕崩壊破壊全滅壊滅轟絶爆絶超絶運極最終終焉無限最大最高完璧勝利大自在驚天動地逆転最高裁勝訴三ツ星王者帝王皇帝覇者極限鬼神幻神超神魔神無二無類天上天下唯我独尊日下開山国士無双ロボ〉なの……!』
「落語の
『えーと……〈極限強靭最凶覚醒鬼嫁……〉』
しどろもどろに何やら並べるメリーさん。もうちょっと頑張るかと思ったのだが、ストライクゾーンにかすりもしないな、おい。
「……もういい。つまりあれだ、幻の古代文明の産物。古代エルフっていうことは、ファンタジーによくあるハイ・エルフってやつか?」
これ以上名前にこだわっても不毛なので、ありがちな話題に切り替えた。
『違うの。ハイ・エルフよりももっと上のハイユニ・エルフとかなの。ちなみにおつむの順番としては、ハイユニ・エルフ>ハイ・エルフ>ユニスター・エルフ>無印エルフの順でお利巧さんになるんだけど、現存するのは無印エルフだけなの』
なお頂点を極めたハイユニ・エルフは『擦り減らない』とか『折れない』とかいうのが謳い文句な種族だったと言われているが、古い文献によれば勉強勝負とか言いながらほぼスポコンで、いろいろと迷走した挙句、最後はボクシングで滅亡したらしい。
『もともとハイユニ・エルフ(長兄・長女ポジション)、ハイ・エルフ(次兄・次女ポジション)、ユニスター・エルフ(三兄・三女ポジション)、無印エルフ(末弟・末娘ポジション)で、お互いにオールスター家族対抗○合戦や家族そろって○合戦にも出場するくらい仲が良かったらしいけど、全員が異性問題でグダグダに内紛を起こした挙句に、無印エルフだけが生き延びたらしいの……』
『……ああ、妹って周りに取り入ったり、ちゃっかりと安全ポジションを取るのが上手ですからね』
『小さい頃から姉にプライド潰されてる分、くだらない見栄を張らずに最短距離走って成功できるんですよ、妹って』
ローラの嘆息にエマがさらりと言い返した。
気のせいかさりげなくイヤミの応酬をしているように聞こえるが、仲の良い姉妹じゃなかったのか、このふたりは?
『あー、まあねー。ある程度年の離れた兄弟姉妹ならともかく、年が近い姉妹ってお互いに無関心か死ぬほどいがみ合っているかのどっちかだから。――うちは後者だけど』
オリーヴもローラ、エマの話に加わって迎合する。
「俺は弟とかいないんで(頭のオカシイ義妹は一匹いるが。アレは絶対に妹のスタンダードではないはず)実感がわかないが、少年漫画的に絆に結ばれた兄弟って実在しないのか。エル○ック兄弟みたいな感じで?」
『あたしメリーさん。ぶっちゃけエル○ック兄弟って微妙にホモ臭いと思うの。あとメリーさん少年漫画の世界に生きてないから、「敵が後半で味方になる」とか信じてないの……』
「まあなんでもいいけど、そんな古代の英知が詰まった巨大ロボが競馬の配当金くらいで買えたのか?」
『なんか使った奴らの種族がことごとく全滅するという、いわくある巨大ロボだそうなので、投げ売り価格になってたの……』
「まてっ、それってどんなイデ○ンだ!?」
動かしてはマズい悪魔のマシンではないのか?
『大丈夫なの。滅亡するのはあくまで関係する種族……なんか、コックピットに座った種族の命とか魂とかを、勝手にエネルギーとして燃焼させるだけで、操縦者は安全地帯らしいから、ゲッ○ーロボに比べればぜんぜん心配ないの……』
「いや、そもそもゲッ○ーチェンジの度に死の危険がまとわりついてくるゲッ○ーに、安全の概念があるのか疑問なのだが」
それ以前にはた迷惑でしかないロボットだな!
『とにかく、この〈ホロスケ1号〉〈デレスケ2号〉〈ゴジャッペ3号〉の三体のマシーンが一つになって〈GアヅマエビスZ〉と化すの……!』
『……気のせいかしら。うわべはともかく、古代エルフってお互いに内心では罵り合っていたような、そんな気がするネーミングなんだけど』
なぜか頭を押さえて呻くオリーヴ(千葉県出身)。
『それ以前に頭文字の〝G”って、どんな意味があるのでしょう?』
ローラの疑問にメリーさんが『
『
とりあえずそれっぽい英単語をそらんじるオリーヴ。
『そうですか~?』
それに疑問を挟んだのはスズカである。
『巨大ロボなら定番で、
ありがち過ぎて逆に面白みがないな……と思ったのは俺だけではなくてメリーさんもそうだったらしい。
『GODとか面白くないの。というか、ゴッドがつくやつはだいたい目立たないの。ゴッド○ジンガーなんて一番弱いの。あれ多分、マジ○ガーZのロケットパンチ一発で粉砕されるんじゃないかしら? グレートの方も戦闘獣相手にボロボロにされてたし、マジ○カイザーに至ってはいまさらミケーネ相手にいい勝負とか、自力で恒星間飛行ができるグレ○ダイザーの下位互換だし、あとゴッド○ーズとか基本突っ立てるだけで決め技がワンパターンだし、ゴッド○グマは一般的な認知度がないし……まあ、途中で味方の博士が敵に寝返る展開は興奮したけど』
面白くもなさそうな口調で一蹴する。
「Zの方はどうした?」
念のために電話で確認すると、
『悪魔のZなの……』
「湾岸ミッド○イトか!」
ともあれせっかく買ったので合体を試してみることになったらしい。
『もともとエルフの守護神だったらしいから、エルフの命令しか聞かないらしいの。だからつけ耳をしてエルフのフリして乗り込むの……』
「すぐにバレそうな気がするが……」
『大丈夫! クヒオ大佐だってちょっと鼻を整形しただけで、外国人で通ったんだから、それで押し通せばどーにかなるものなの!』
ということで、エルフの扮装をしたメリーさんたち。
1号機にはメリーさんが、2号機にはローラとエマが、3号機にはオリーヴとスズカが、特に問題なく乗り込んだらしい。ザルもいいところのセキュリティであった。
『ということで、〈超絶絶倫ナントカロボ〉発進っ、合体なの……!』
メリーさんの掛け声に従って動き出した巨大ロボ(パーツ)。
「……どういう操縦システムになっているんだ、それ?」
ド素人の幼女が簡単に動かせるとか、最終兵器としては迂闊すぎるのではないだろうか?
『――さあ? 戦隊ロボとかほぼ中で突っ立てるだけで、ハンドルがついてたら複雑な部類だから、似たようなものじゃない? もしくは途中でちょこちょこポーズ取ったりしてるけど、ああいう操縦方法じゃないのかしら……?』
ともあれ三つのメカは急上昇をして、あっという間に成層圏を飛び出し、さらには謎の光に包まれ謎空間で合体をした。
『『『『『〈Gアヅマ
いつの間にかコックピットで合流していたメリーさんたち五人が適当にポーズをとる。
「……ひとり間違っている奴がいるが」
俺の指摘に四人の視線がひとりだけ「クマソ」と言ったスズカに注目が集まる。
『あれ? 北関東~東北ってクマソじゃなかったんですか? 生前にサ○トリーの当時の社長が口にしたような……』
首を捻るスズカ。
……彼女が悪いわけじゃない。悪いのは舌禍事件を起こした当時の社長だ。だが、俺の家ではいまだに祖父さんも親父もサ○トリー製品は口にしないんだよな~。
『……どーでもいいけどクソダサいデザインのロボットね。なんか昭和っていうか、
コックピット内に投影された〈GアヅマエビスZ〉の全体像を眺めて、オリーヴがげんなりした口調で声高にぼやいた。
『『う~~~ん……』』
口にこそ出さないがローラとエマも同意見のようで、曖昧な口調で呻吟する。
『え~、格好いいじゃないですか! ラ○ディーンとかダ○ガードAとかバク○ンガーみたいで!!』
ひとりはしゃぐスズカ。
まあフレンズによって好みは違うからね。
『あたしメリーさん。ナチュラルメイクに見せかけたメイクの方が、厚化粧より手間暇がかかるのと一緒で、簡素なデザインの方が難しい……かも知れないのでどーでもいいけど、なんか足元の星がさっき見た地形と違う気がするの……?』
そんな釈然としないメリーさんに声に誘われて、全員が下に視線をやる(360度全天候モニター?)。
途端、俺の耳に聞こえてきたのは、息を呑んだオリーヴの驚嘆の叫びであった。
『っっっ――ちょっと! あれって地球じゃないの!? 異世界とは地形が全然違うわよ!』
その叫びに応じて宇宙空間に飛び出した〈GアヅマエビスZ〉の足元に見える、青く眠る水の星を注目する一同。
『あら、本当ですねっ。さっきの変な空間を通って地球に戻ってこれたんですね、きっと!』
『オー○ロードが開かれたの。もしくは相剋界か、タットワ技法、東京メトロ日比谷線茅場町駅経由八丁堀方面なの……!』
はしゃぐスズカとメリーさんの歓声を聞いて、逆にオリーヴの頭が冷えたのか、一転して
『……なんか出来過ぎで、どこかに落とし穴がありそうな気がするわね。キツネにつままれたような気分っていうか――いたたたっ! なにするのよ、スズカっ』
『いや~、メリーさんから「オリーヴの頬をつねって現実を教えてやるの!」と指示されたものですから』
そのメリーさんはといえば、
『地球か……何もかもみな懐かしいの……!』
感慨に
『ともあれ皆で万歳三唱をするの……!』
メリーさんの掛け声を契機に、オリーヴとスズカ、事情は知らないながら惰性でローラ、エマが共同でメリーさんを持ち上げて、続いて両手を持ち上げ万歳をさせる。
『『『『はい、バンザーイ、バンザーイ。バンジャーイ』』』』
『…………おい、なの』
釈然としない雰囲気でメリーさんが押し黙ったのと同時に、〈GアヅマエビスZ〉ロボットのコックピット内に、
【超絶壊滅波動砲発射シークエンスに入りました。必要生贄……もとい生体エネルギー量約二百万。ランダムで補充します。――超絶壊滅波動砲発射っ!】
そんなアナウンスが流れたかと思うと、やたら派手なビームが宇宙の彼方へ向けて放たれた。
同時にネット上で呵々大笑していた管理人さんの背後に映っていた巨大円盤軍の宇宙人――という設定のゴリラとゴキブリが、スクリーンに映る地球を眺めて、
『おおっ、なんという美しい星だ! これが我がものとなるとは……』
感動に打ち震える光景が流れていた。
「……いや、なんで美的感覚の違う宇宙人が、どいつもこいつも判で捺したように『美しい』とか『宇宙に輝くエメラルド』とか言うんだ?」
そう横目に突っ込んだ刹那――。
眩しい光に包まれて、万を超える
『ゴリイイイイイイィィィィィィ!?!?!』
『ジョージィィィィィィ!!!???』
『…………はぁ!?!』
いきなり映像が途切れて、思わず唖然とする管理人さん。
そのついでのようにテレビの速報で、
「緊急速報です。ただいまインドで変異ウイルスのクラスターにより、二百万人が死亡したと発表がありました」
というテロップが流れた。
〝ぎゃあああああああああっ!! いまので無関係のインドの人たちが二百万人も犠牲になったわよ!”
頭を抱える霊子(仮名)。
「怖いな~、クラスターは」
しみじみと新型君ウイルスの猛威に思いを馳せる俺。
『あたしメリーさん。いまいちこのロボットの操縦システムが不明なので、とりあえずトライアンドエラーで、ポーズをとってみるの! ――インド人を右へ!』
すると即座に〈GアヅマエビスZ〉が応じる。
【対消滅惑星破壊弾×1500発、超光速にて発射! 使用生体エネルギー、約一千百五十万!】
この瞬間、インドの右に存在する国で国民一千百五十万人が変死を遂げたが、その後百年以上おおやけになることはなかったという。
同時に〈GアヅマエビスZ〉の全身からミサイルが四方八方に飛び、何発かは接近中の赤色遊星へ着弾してこれを一瞬で粉砕し、返す刀で赤色遊星へ移民のために地球上のすべての動物と善男善女を一千人乗せ、船団を組んで向かっていた
なお、流れ弾で宇宙の平和を守るために地球に向かっていた、背中にチャックのある銀色と赤、最近は青もある光の巨人集団も宇宙の塵へと消え、
「――ご覧、蒼く輝くあれが母なる星ガイア。僕たちが長年探し求めていた故郷だ!」
どこぞ宇宙の果てから移民船団を率いてやってきた、かつて地球から放逐された幻の民――前髪が目のあたりにかかるいかにも超能力を使いそうな髪形をしたリーダーの青年と、その仲間たち。
だが、歓呼の声が最高潮に高まったその刹那、こちらもまた不意を打たれてなすすべなく宇宙の藻屑と化し、文字通り幻と消えたのだった。
『えっ? え? ええええええええええええええっ!?』
一斉にブラックアウトした画面を前に、慌てふためく管理人さん。
しばしアタフタしていたが、
『こ、これで終わりではありませんからね! ゆめゆめ安心しないことね、地球人!』
捨て台詞を吐いてネット上から消え去ったのだった。
「……なんだこの茶番は?」
思わず呆れたところで、メリーさんが調子こいた口調で言い放った。
『メリーさん、なんとなく操作法がつかめた気がするの。ということで、このまま帰還するの……! あたしメリーさん。いま宇宙空間にいるの……』
別に帰ってこなくても一向に構わんのだが……。
そうスマホに返そうとしたが、その前に――。
【了解。超次元駆動エンジン全開。元の場所へ帰還いたします】
いきなりエンジンを全開にした〈GアヅマエビスZ〉が再び虹色の光に包まれ、地球のあるこの宇宙から消滅した。
『ぎゃああああああああああああああああああああああああっ、
思いっきりコックピット内で、ゴロンゴロンと転げ回っているような騒音とともにメリーさんの悲鳴が鳴り響く。
その後、異世界に戻った〈GアヅマエビスZ〉は地表に落下。衝撃で周囲百キロ圏内をことごとく破壊した挙句、ぶっ壊れてうんともすんとも言わなくなったそうである。
古代エルフの遺物だけに誰も修理できず放置する以外になかったとか。
「安物買いの銭失いとはこのことだな」
『やかましいの……!』
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