番外編 あたしメリーさん。いま新年あけおめなの……。

 正月だが、首都近郊は緊急事態宣言が発令され、そのせいで一時、

「火星人が攻めてきたぞ~~~っ!!」

 という1938年10月30日のアメリカ某所のようなデマが飛び交い騒然としたものである。


 もっとも当初から俺が睨んでいた通り、案の定単なる嘘松だったと政府が発表し、自称「火星人のメカが梅田の街を破壊している光景」「火星人相手に肉弾戦! ほぼ触手プレイ!!」「とりあえず食ってみた」というSNSは軒並み削除されたわけだが……。


「……ぜー……はー……ぜー、はー。たかだか辺境の内惑星に棲む、四本腕の炭素生物の分際で、私が目を付けている地球を侵略しようなんて、一億光年早いと……」

 なぜか管理人さんがしばらく姿を消していて――帰省していたのだろう――帰ってきたと思ったら、何かをやり遂げた顔で肩で息を切らしていたものである。


 さらにその後も外出自粛要請が出っぱなしで、俺はと言えば都会人ゴーホームという声に押されて田舎へ帰ることも、大学に行くこともままならず、アパートの部屋でゴロゴロと怠惰に過ごしていた。


 そこへ鳴り響くメリーさんからの電話。

「……新年早々にメリーさんからの電話か」

 出たくないなぁ……と思ったものの、暇でしょうがないのでとりあえず出てみることにした。


『あたしメリーさん。新年あけおめ、今年こそぶっ殺しに行くの……!』

「……なんで新年早々殺人予告を受けなきゃならんのだ!? つーか、メリーさんってそういう都市伝説じゃないよな! 根本的に間違ってるぞお前は。ジ〇ーズのテーマソングみたいに、段々と緩急をつけて近づいてくる恐怖がキモで、最後どうなるかはボカすもんだろう。いきなり直球で殺人が出てくるとか、ドイツ3号突撃砲で対戦車戦をやらせるようなもんで、運用自体が間違ってるだろうが!」

『ミハエル・ヴィットマンはそれでT34を葬ってるの……』

「特殊な例を出すな!」


 明らかに唇を尖らせたメリーさんの反論を切って捨ててつつも、ちょっと例えが難解だったかと思って(平気で付いてきやがったが)俺はメリーさんの本業に関わる例をあげつらった。


「最近の都市伝説でも最後はどうなるか不明だろう。きさらぎ駅みたいに?」

 そう俺が言い放つと、メリーさんが電話の向こうで首を捻る気配がする。

『きさらぎえき……?』

「……知らんのか?」

 まあ、割と最近の都市伝説だからなぁ。

 なので掻い摘んで概要を教えてやった。

『メリーさん聞いたこともないの! 新人がこの業界にいてメリーさんに挨拶もしないなんてナメてるの! これが噂に聞いた第七世代なのかしら? さっきの新年の抱負に併せて、そっちに戻ったら焼き入れて業界から干すの……!』


 包丁を振り回していきり立つメリーさん。


「了見が狭いな……。つーか、お前は格闘マンガを連載する時に、雑誌や格闘技の種類に関わらず、必ず挨拶に来ないと許さなかった往年の梶原〇騎か!?」

『あたしメリーさん。だいたいにおいて大御所と呼ばれる大物はワガママなものなの。横山〇輝だってアニメの鉄人は二作品ともボロクソに言っているし。まあ、川内〇範は月〇仮面のアニメ版で、不殺のはずの月光〇面が、いきなりOPで敵の戦闘員を皆殺しにしたり、レイ〇ボーマンのアニメで原作になかった巨大ロボが出てきても、面白がって許したらしいけど……』

「その代わり森〇一のことは許さなかったけどな」


 思わず口を滑らせたが、どうやら聞いていなかったらしい。電話の向こうで勝手に納得するメリーさん。


『メリーさん理解したの。よーするに一千回遊べるダンジョンで、勝手にモンスターが同士討ちをしてレベルアップしているような危機感を煽ればいいわけね……』

 ヤバい。変な知恵をつけてしまった。

「まてまて、暴力系ヒロインは今のバブみ主流じゃ嫌われるぞ。てか、いま思い出したんだが、お前、前回天空の国へロリコン退治に行ったんじゃなかったのか? 続きはどうした??」


 すかさず話題を変えたところ、メリーさんが面倒くさそうに話し始めた。

『あれならあの後、とりあえず〝あずきセイバー”を使いこなせるよう、五百年以上幼女をやっている、伝説の幼女ヨージョに会いに行って……』

「五百……!? 幼女というよりも妖女だな」

『そこで〝高利貸しの呼吸”を習ったの。ジョン・スミスを質草にして……』


 心なしか『氷菓子』の発音が『西瓜』と『SU○CA』のように、微妙に違うような気がするのだが……?


『で、最終的に《ちびっこあとらんてぃす共和国》を弾みをつけて《ロリポップムー帝国》へとぶつけて、相打ちボンバーで倒したの。ヤ〇・ウェ〇リーも「要塞には要塞をぶつけろ」と言っていたから、メリーさんも最善の手を尽くしたの……』

 悪びれることなく、いけしゃあしゃあと言い切るメリーさん。


「他人事みたいに言うな! お前が事の元凶だろうが!!」

『形あるものはいつかは壊れるの。それにメリーさん的には、関係ない人間や国が滅びようとも、ゴレ〇ジャーで毎回どこかの支部が壊滅しているイーグル並みに日常茶飯事なので、危機感とか持てないの……』

「……いや、そもそもそれ呼吸習った意味あるのか? というか、なぜダイジェストで語るんだ?」

 それと黒衣の騎士『ロリ・ベイダー卿』の伏線はどうした。


『あたしメリーさん。最近のキメハラにビビった作者が、ろくに漫画を読んでないことでツッコミを受けるのを嫌がって適当に手を抜いたからなの……』

「……ぶっちゃけやがったな。作者」

 思わず俺が呻くと、電話の向こうでメリーさんが訳知り顔で頷く気配がした。

『そのうち読み終わったら続きを書くんじゃないかしら。多分、BL○ACHか松○零士ばりの後出し合戦になると思うけど……』


 どーでもいいが、年明けからまったくめでたくない話題ばかりだな。

 そうぼやくと、メリーさんが電話の向こうでポンと手を叩いた音がする。

『あたしメリーさん。おめでたい話題ならあるの……』

「ほう?」


 学校がテロリストに占拠されて、自分がヒーローになる妄想や、平凡な高校生が異世界転移をして無双するたわ言を聞かせられたような気持ちで、俺は適当な相槌を打った。

 しかしあれ、何でテロリストが学校の教室を占拠するんだろ?

 それと現実ではコンビニ前でたむろしてるヤンキーすら怖いと言うのに、どうして猛獣よりも怖いモンスターや武装した怪物相手に平気で戦えるんだろうか? 海外には、自称熊相手でも戦えるグリズリースーツを作って粋がったユーチューバーが、実際に完全装備で灰色熊を目の前にしたらブルって逃げ出したものだが……。

 銃の国で体格に優れた外国人でさえそれなのに、いわんや平和ボケした日本人とか、絶対に精神的に無理じゃね?


 そんなことを俺が考えていると、メリーさんが電話の向こうで息を吸って、

『なんと……』

「なんと?」

『なんとなんと……』

 無駄にタメを入れるメリーさん。



『「あたしメリーさん。いま異世界にいるの……。2」が、もうじき発売されるらしいの……!』

「ホントか、おい。そう言って一年以上放置されてないか……?」

 どうも信用できん。

『今回は本当らしいの。「ポンコツ殺戮人形の異世界旅は継続中!? なの! ツッコミどころ満載! 異世界超常コメディー、物騒さ大増量の第2弾!!」ってAmaz●nの広告もあるし……』


「……お前、この宣伝のために電話かけてきただろう?」

『…………』

 途端、電話の向こうで、メリーさんが吹けない口笛を「ふーふー」と吹いて誤魔化し始めた。

『ともかくも、一巻よりも二巻はパワーアップしているに違いないの。後継機の方が強いのは鉄板なの……』


 知ったかぶりをして宣伝しまくるメリーさん。


「そーか? 最終版が一番弱くなるレ〇ズナーMK-Vとか、いままで弱点を突かれて負けたメカの全部盛り、そびえ立つクソと呼ばれるディオ〇クリアみたいな例もあるんだが」

『特殊な例を出すな! なの……! メリーさんの本は大好評で、一巻の出版二日後には名古屋図書館にも置かれたって、読者からの報告もあったし、大阪図書館では分類で「あなたにこの本を、こどものほんだな」と、子供の情操教育に使っているほどで、老若男女問わず楽しめる内容だと世間に認知されているの……!!』


 そうかぁ? 思いっきり王道を外した、例えるなら『なぜ蕎麦○ラー油を入れるのか』とか『カレー○飲み物』と似たような方向性だと思うんだけど。


「そーか? 結構好き嫌いが激しくて、中にはアレルギー反応を示す奴もいると思うんだが?」

 少なくとも名古屋や大阪の人間はオカシイというのはわかった。


 そんな含みを持たせた俺の言葉に、ふんがーとばかりメリーさんが反駁する。

『アレルギーなら気合いで克服できる! という人もいるの……』

「お前は気合で毒キノコ食べられるのか……?」


 ともあれ書籍版の続巻発売が決定しましたので、ぜひぜひお手に取っていただき、レジに持っていっていただければ幸いです。


『今年もよろしくなの……!!』

「無理やり綺麗にまとめたな」

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