番外編 あたしメリーさん。いま帝国と共和国の戦いに巻き込まれたの……。

「大統領選も泥沼だなぁ」


 TVを見ながらそう呟くと、勝手に飯を食っていた――ど根性ガ○ルだって、もうちょっと遠慮すると思うのだが――アニスが、やはり勝手にテーブルについている霊子(仮名)に向かって文句をつけた。


「ホワイトシチューがおかずなら、パンの方が断然合うであろう。ライスではなくてパンを所望する」

〝勝手に居座って図々しいわね。『居候、三杯目にはそっと出し』ってコトワザを知らないの!?”

「知らん。というか、ライスのおかずに刺身やおでんというのは、どうかと思うぞ」

〝そんなのは個人の嗜好の問題よ! というか、北海道のジンギスカンガチ勢とか、東北の芋煮戦争や、関西のちくわぶ問題と同様に、不毛な議論になるから贅沢言わないの!”


 いや、東北で芋煮に地域おこしの命を賭けているのは山形と秋田のごく一部だけで、大多数は芋煮自体に興味はないのだが……。

 と、あり得ない存在たちが、やたらみみっちい口論をするのを聞き流しながら、この勢いだと俺のところまで飛び火する勢いだな。面倒だなぁ……とTVに集中するフリをする俺だった。


 そこへ狙いすませたかのようにメリーさんから着信があった。


『あた「俺だけど! いま夕飯食っているところだったけど、ナイスタイミングだ、メリーさん!!」』

 そう超速でスマホに出てメリーさんを褒めたたえる。

『……あたしメリーさん。最近、メリーさんの扱いがズーサンだと思うの……』

 ズーサン? ああ、杜撰ずさんか。

「気のせいだ。いまも恐怖に震えているところだ」

『パクパク飯を食いながら言われても、まったく説得力がないの! メリーさんの電話を何だと思っているの……!?』

 ぶっちゃけ娯楽の一種。

「……そういえば、『メリーさんの電話』の起源を調べたら、もともとはリ○ちゃん電話がもとになっていて、そこから電話してくる人形。そして都市伝説へと移行したって説が」

『それはともかく』

 あからさまに話を変えるメリーさん。

『メリーさんに共和国のお姫様から、敵対する帝国をどーにかして欲しいと依頼があったの……』


 共和国? 帝国?

「宇宙を舞台にしたSFか?」

『近いけどもうちょっと成層圏内の話なの。空に浮かぶ二つの浮遊大陸、住人が全員幼児・幼女ばかりの《ちびっこあとらんてぃす共和国》が、もう片方の幼女を愛でることに命を燃やす《ロリポップムー帝国》の侵略を受けているらしいの……』

「どっちもそのうち沈みそうな名前の大陸だが、どんな理論で大陸が空に浮かんでいるんだ?」

 飛○石とかならまだギリギリファンタジーで通るか?

『そんなもん、空にヒモを引っかけて四隅よすみを吊り下げてあるに決まっているの。超弦理論なの……!』


 俺の知っている超弦理論スーパーストリングとは違うと思ったが、どう違うのかツッコまれると答えに詰まるので、「へー……」と、聞き流すのにとどめる。


「まあいいや。つまり平和な共和国に悪の帝国が攻めてきて、窮地に陥ったお姫様がメリーさんに助けを求めてきた、と。民主的な共和国が善の側で帝国が悪役とか、ありがちな展開だな」

 救いを求める相手が激しく間違っているような気がするが、まあ一応名目的には『勇者(笑)』だからな、異世界ではメリーさんが。


 俺がそう納得すると、電話越しにメリーさんが、

『共和国が善? 中●●●共和国とか朝●●●●●●●共和国とか、思いっきり一党独裁のデストピアのような……』

 はてなと首を捻った気配がした。

「この話題はマジで危険なので、これ以上ツッコむな!」

 これ以上はいけない!

 あと王制を廃止したのが共和国なのに、なんでお姫様がいるのかとか疑問を呈してもいけないのだろう。


「というか、どういう流れでお前のところに雲の国から依頼が舞い込んだんだ?」

 どーでもいいけど、映画版の○び太並みに、どこにでも行っているよな、メリーさん。

 俺の疑問に、メリーさんが『あれはお昼ご飯を食べに皆で出かけた時のこと……』と話し始めた。


【メリーさんの回想】

「たまにはお洒落なカフェのテラスで、フルーツ大盛りのリコッタパンケーキを食べたいの……!」

 メリーさんの提案を受けて、牛丼屋に行こうか豚骨ラーメンにしようか話し合いをしていたオリーヴ、ローラ、エマ、スズカの間にが走った。


「ええええっ、そんな女子力と女子トークが試される大地へ行こうというの、アンタが!?」

「場違いではありませんか、私たちのような牛丼と豚骨ラーメンがローテーションのギャルとは程遠い者たちが足を踏み入れるなどと……」

 愕然とするオリーヴと慄然とするローラ。

「……いや、年齢的に一番入りやすいお姉ちゃんとオリーヴが、なんで同窓会の会場の外でウロウロして、結局引き返すボッチの陰キャみたいに躊躇しているわけ?」

 そんな年上組ふたりを冷ややかに見据えて非難するエマ。

「要するに喫茶店の変わり種ですよね。生前はよく行ってたな~。『喫茶マ○ンテン』とか『喫茶○ヅキ』とか、ちょっと変わったメニューのある普通の喫茶店でしたけど」

 懐かしそうに語りながら、前向きにメリーさんの案に同意するスズカ。


「そーいうことで、及び腰なのはオリーヴとローラお前らだけなの。女子として負け犬なの……」

「負けたことで得るものもあるわ!(ドヤァ」

「勝ち続けることで得るものものほうが遥かにでかいの」

 負け犬の遠吠えでドヤるオリーヴを一刀両断して、

「メリーさんとエマとスズカはオシャレなランチを満喫しているので、オリーヴとローラは好きに牛脂かニンニクまみれになってればいいの……」

 さっさと先に進むメリーさんに続いて、エマとスズカもリコッタパンケーキを食べに行く。


「「…………」」

 お洒落なカフェをアウェイにしているオリーヴとローラも、顔を合わせて腹をくくったところ、ふと空を見上げると緑色の気球が一個、ふわふわと飛んできた……その後を追いかけて、やたらバカでかい銀色の飛行船がやってきた。


「……なにあれ……?」

 空一面を覆いつくすほどの巨大な飛行船と、ちんけな気球の追いかけっこを唖然と見上げるエマ。

「どっちが勝つと思います?」

「テリーの靴ひもに何も無ければ、白い方が勝つわ」

 スズカのわかり切った勝負の行方についての問いかけに、メリーさんがそう答えた瞬間、飛行船の先端に引っかけられた気球が、『ぺチン!』と音を立てて破裂した。


 そのまま気球の残骸がメリーさんたちの目の前に落ちてくる。

「あたしメリーさん。金目のものがないか、確認するの……!」

 ダッシュで落下地点へと駆けていくメリーさん。


 と、わかりやすい古典アニメのように、人型に穴が開いていた地面から立ち上がる人物がいた。

「おおおおっ! そこにいるのはメリーさんではないですか!? 探しましたよ!!」

 ハイテンションな声とともに、全身に緑色のタイツを装着した自称バルーンアートのお兄さん(35歳)が、メリーさんに向かって元気いっぱい声をかけてきた。


「「「「「……誰?」」」」」

「いや、他の四人は初対面ですけど、メリーさんには二回会っている上に、バルーンアートもプレゼントしましたよね!? 俺ですよ俺っ!」

 と言ってその場で風船を膨らませるバルーンアートのお兄さん(35歳)。


「変態で詐欺なの。ローラすぐに警察に連絡するの……!」

「はいっ、すぐに――」

 メリーさんの指示に従ってすぐに交番に向かって駆けだそうとするローラ。

 慌ててそれを押しとどめて早口で説明をするバルーンアートのお兄さん(35歳)。

「わわわわわ、待った待った! 怪しいものではありません。もとをただせば初心者冒険者講座で(以下、説明)――――というわけで、ケツの穴に水素を詰められて、そのまま流れ流れて、上空にある《ちびっこあとらんてぃす共和国》までたどり着いて救助されたわけですが」


 説明を聞き終えたオリーヴが思いっきり白い目をメリーさんへ向ける。

「あんたほんっっっっとにろくな事しないわね。下手したら殺人よ、殺人!」

「あたしメリーさん。ちゃんと心の中で『死ぬなーっ、ジョン・スミス!』と慈悲の心で叫びながら、空に放流したからセーフなの……」

「それの元ネタも口でそう言いながら、きっちり殺人技をかけてぶち殺したような……」

 疑問を呈するスズカに向かって、メリーさんが賢しらに解説する。

「あれは『死なないでくれフェニックス』という意味に受け取るから間違っているの。正確には技をかけた瞬間に死ぬのがわかったから、『(ああ、こりゃ)死ぬなーっ、フェニックス!』と確信した絶叫だったの……」


「えーと、そういうわけで、現在ちびっこあとらんてぃす共和国は、《ロリポップムー帝国》の先陣を切る黒衣の騎士『ロリ・ベイダー卿』の手にかかり陥落寸前です。《ちびっこあとらんてぃす共和国》のアレイ姫は、ロリコンの手に落ちるくらいなら、国を支える糸を切って国ごと地上に落下するほうがマシだと覚悟完了している状態で、あとはもう伝説の幼女勇者メリーさんにすがるしかない状態でして」

 多分、その『アレイ姫』と『ロリ・ベイダー卿』を模したものなのだろうバルーンアートで作った紫の髪の幼女と、全身真っ黒で素顔も不明な騎士の人形を両手に持って実況する。


「なんつーか、茶釜ひとつと引き換えに火薬抱えて城ごと自爆しようとした松永久秀みたいなお姫様ね」

 オリーヴが呆れたように感想を口に出す。

「というか、ご主人様に具体的に何をして欲しいのか、ぜんぜんプランのない依頼ですね」

 とりあえずどーにかしてくれ、というアレイ姫からの依頼に首を捻るローラ。

「『オビ○ン・ケノービあなただけが頼りです』っていう、無茶ぶりするどこかのお姫様みたいなものですねえ」

 それに同意するスズカ。

「いや、でも、幼女ばかりの国に攻め込む、ロリコンの軍団とかどんだけ病んだ帝国なんですか、それ!?」

 エマは相手の大人げなさと病んだ嗜好にドン引きしているが、

「仔牛もラムも旨いから仕方ないの……」

 訳知り顔でメリーさんがロリコンに同意を示すのだった。


「けど、別に国が落ちようが、どーしようがメリーさんには関係ないの……」

「いや、《ちびっこあとらんてぃす共和国》はこの真上にあるわけなので、落ちてきたらメリーさんもメリーさんの財産も何もかもペチャンコになりますけど……」


 いつもの塩対応をするメリーさんの反応を見越したように、ジョン・スミスが頭の上を指さして付け加えた。

 ついでに『アレイ姫』のバルーン人形を手にして、

「♪頭の真上に、国があーる。あれが、あれが私の国だよ~。プチ・プランセス、プチ・プランセス。ルルルルル~ルルール♪」

 と、謎の歌を歌いだした。


「「「「すぐに行って(ください)、メリーさん(ご主人様)(メリー様)!!」」」」

 即座に寄ってたかってメリーさんをジョン・スミスに向かって突き出すオリーヴ、ローラ、エマ、スズカ。

「お前ら露骨過ぎるの! それに行くならお前らも道連れなの……!」

 必死に抵抗するメリーさんに向かって、ジョン・スミスが申し訳なさそうに腰を折る。

「いや~、それが私の人間バルーンは定員一名ですので、その場合はメリーさんひとりだけということに……」

「ぜーっっったい、行かないの~~~っ!!!」

「大丈夫、アンタならやれる!」

「ご主人様ならひとりで十分です」

「むしろ足手まといがいなくて楽って感じよね」

「大丈夫! 大鷲○健だって、やればひとりで竜巻ファイターも科学忍法火の鳥も出来たんですから、メリーさんひとりでも大丈夫です」

 駄々をこねるメリーさんを宥めすかす仲間たち。


「そうです。それにこんなこともあろうかと、アレイ姫から《ちびっこあとらんてぃす共和国》に伝わる伝家の宝刀を預かってきています!」

 そう言ってどこからともなく一振りの日本刀を取り出すジョン・スミス。


「――いやいや、全身タイツでどこにしまっていたわけよ!?」

 オリーヴのツッコミに、

「ゴッド○グマの無双剣並みのあり得ない収納なの……!」


 合わせてメリーさんも疑問を差し込むが、ジョン・スミスは気にした風もなく日本刀を抜き放った。

 なんか明らかに鋼とは違う光沢の刀身があらわになる。


「これぞ伝家の宝刀〝あずきセイバー”! あず○バーと同じ硬度を日本刀にした伝説の逸品です(※岐阜県関市の「日本刀アイスを作る会」によってマジで作られました)」

「「「「「役に立つのか、そんなもの!」」」」」

 悦に耽るジョン・スミスに向かって五人のツッコミが輪唱される。


「立つんですよ、これが。くだんのロリ・ベイダー卿は、もともと外部から帝国へある日、火山の噴火とともに吹き飛ばされてきた人間で、当初は『ファイアー・ウルフ』と名乗っていたのですが」


「いま、ファイアー・ウルフは燃えているの! バッカスIII世号なの。宍戸錠なキャプテン・ジョウだけど、クラッシャーじゃなくて、どっちかっていうとエースのジョー(※マイ○ガインじゃない方)にキャラクターは近いの……!」

 何かがメリーさんの琴線に触れたらしいが、それはさておき――


「ええ、まさにその通りで。その後帝国にスカウトされて頭角をあらわしたらしいのですが、火山の影響か股間から謎の炎を噴出する、〝ファイアー・ウルフセイバー”という得体の知れない剣をはやして使いこなすのです。これに対抗できるのは〝あずきセイバー”と、伝説の剣技『氷菓子の呼吸』と『百拾壱の型』しかありません」

 ジョン・スミスの説明に、メリーさん以外の全員が「うへっ」という顔をした。


「『ロリコン』『火山の噴火』『ウルフ』、ついでに変な股間。……気のせいかしら。その男の正体がわかったような気がするんだけど」

「私もです」

「あたしも」

「同じく」

 頭を押さえたオリーヴの呻きに同意する一同。


「???」

 ひとりわからないメリーさんは、とりあえず金になりそうだと判断して〝あずきセイバー”を受け取るのだった。



『あたしメリーさん、ということでメリーさんはいま《ちびっこあとらんてぃす共和国》に向かっているところなの。ロリ・ベイダーを倒せるのはメリーさんしかいない! と、本人が公言してそうだから……』

「ああ、それ多分、『饅頭怖い』だと思うが……まあ、がんばれ」

 おざなりに応援をして俺はスマホを切るのだった。

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