番外編 あたしメリーさん。いまシンデレラを探しているの……。

 晴天をバックにして、どーいう訳か誰もいないアスファルトで舗装された道路上を、七人の男女が横一直線に並んで歩いていた。

 そして路上には大きく『75』の文字が描かれている。

「♪ちゃんちゃ~ん、ちゃららちゃらら、ちゃららら~。らららら~、らららら~、らららら~、ちゃららら~、ちゃららら~♪」

 中心にいるロングコートを引き摺りながら、黒のソフト帽をかぶったメリーさんが何やら空歌を口ずさんでいた。

 ちなみに並びとしては正面から見て左側から、ジリオラ、エマ、オリーヴ、メリーさん、ローラ、スズカ、イニャスであった。

「……いや、なんなわけこの状況!? っていうか、そこに描いてある『75』ってどーいう意味?!?」

「♪ああああ~、あああああ~、ああああ~、あああああ~、るるる~、るるるるる~♪」

 スズカが謎のハミングを引き受けたことで、メリーさんがオリーヴの疑問に答える。

「はーどぼいるどなの。熱い精神こころを強い意思で包んだ人間たちなの! ちなみにロケ地が国道75号線だったから、七十五なの……」

「嘘おっしゃい! 国道に75号線なんて存在しないわよ。意味不明なんだけど!?」

「オリーヴうるさいの。ここは無言で延々と歩く場面なの……!」

「いや、だからこの茶番って――」

 ひとり喚くオリーヴを無視して、黙々と歩き続けるメリーさんたちであった。


 ◆ ◇ ◆


 秋の新番組として始まった『魔法美少女戦隊ミートストックRe』。

 まったく興味がないのだが、ヤマザキがなんだかんだ言っていたのを思い出して、ちょうど時間帯も合っていたことから、興味本位で朝食を食べながらTVをつけた。

 ちなみに朝飯はトーストにマーガリンをつけて、ハムエッグを焼いてものである。

〝ハムエッグに醤油をつけて食べるなんて、野暮ったいわね。普通はウスターソースでしょう”

「いやいや、ケチャップこそ至高であるぞ」

 卵もハムも一個しか使わなかったはずなのに、俺の知らない間になぜかいずれも三個ずつになっていて、霊子(仮名)と最近増えた幻覚その2である、ミク〇マンサイズの自称女勇者アニス(そーいえば、レディ〇マンドシリーズにそんな名前のがいたような)と勝手に三等分して食べていた。


〝図々しいわね、勝手に居ついた居候が! ――ちょっと、あなたどこで拾ってきたのよ、コレ?”

 微妙に矛先が俺に向かってきたような気がするが、間違って乗った女性専用車両でオネエのふりを通すように、ここは断固として無視である。

「これとはなんだこれとは。たかだかゴーストごときが。我は神に選ばれし勇者であるぞ! 崇高なる目的により、強大なる霜の巨人フリームスルスへこの身をゆだねた結果、この異方の神の国へと到達したのである。このうえは神のもとでさらなる研鑽を積む所存である!」

 神様に稽古、オラわくわくすっぞ、というノリで言い放つアニス。


『貴様らには屠殺される家畜の哀しみがわからないのか! だいたいたんぱく質を摂るだけなら大豆で十分! ヘルシーでバリュエーションも豊富。豆腐こそが世界を救う食材だと、なぜ認めない!?』

 TVの中では豆腐の素晴らしさをかき口説くビジタリアン相手に、ミートストックのメンバーが反論しながら必殺技を放っていた。

『そんなのは、おためごなしよ! だったらどうして『大豆ハンバーグ』や『大豆ソーセージ』なんて見た目や味を似せた商品があるのよ!? 本当は肉が食べたくて食べたくてしょうがないのを誤魔化しているだけじゃないの!!』

『ち、違う! あくまで味の変化をつけるための工夫であり、健康のために脂肪分の過剰摂取を防止できる大豆こそが――』

 逆切れして豆腐をマシンガンのように投げつけてくる豆腐ビジタリアン。


『きゃああああああああ!』

『うああああああああああ』

『痛たたたたたっ』

『ちょ、ちょっと! ホワイトが豆腐の角に頭ぶつけておかしくなりかけているわよ!』

『『どっちのホワイトよ!?』』

『両方っ!』

『うけけけけけけけけけっ!』『あっちょんぶりけー!』

『ふはははは、見たか! 豆腐は豆腐でも日本一固い富山県五箇山の「五箇山豆腐」の威力』

 勝ち誇る豆腐ビジタリアン。

 

『こうなったら――みんな、必殺技よ! 食らいなさい、ジュウジュウヒレカツ・ロースカツ〝トンカツフラーイ”!』

『みんな大好き、チキンの〝唐揚げショット”!』

『大阪伝統、クジラの〝はりはり鍋ボンバー”!』

『黒毛和牛の〝ステーキドロップ”!』

『ラムとマトンの〝ジンギスカンダンス”!』


『『『『『必殺・Go To Meatキャンペーン!!』』』』』


『ぐああああああああああああああっ!!?』

 五人がかりで敵ひとりに襲い掛かって、無理やり肉料理を口の中に流し込む正義の味方。

『暴力はいけないわ! ほ~ら、ほらほら、食べたらやっぱり美味しいでしょう?』

 ……無理やり押さえつけて、菜食主義者に肉を食わせるのは暴力ではないのだろうか? あと、クジラと羊は一般的に好みが別れるところだと思うのだが……。

 ツッコミどころ満載の正義の言い分に首を傾げながら、やはり俺というか、人類にはこの内容は早すぎるな、と見切りをつけてトーストの上にハムエッグを乗せ、頬張りながらチャンネルを変える。


『建設的な意見を出せとか、野党にそんな無理難題押し付けるなんて最低です!』

 国会中継からまた別なチャンネルへ変える。

『「まさか、ふ〇っしーの中身がうちの部長だなんて……」』

 最近トレンドだというドラマの再放送からまた変える。

『裁判官「あなたはなぜ夫を椅子で殴ったのですか?」

 妻「それは、テーブルがあまりにも重かったからです」』

『「FBIさん待って、ロリはキャラクターのことで、そういう意味じゃくぁwせdrftgyふじこlp」。「※この映像は実際の逮捕の瞬間を撮影したものです」』

 アメリカのドキュメンタリーか。チャンネル変更。

『あ・れ~は、全~ン~裸マンッ、性技の守り神♪』

「この時間はアニメが多いな。他のチャンネルは……」

『「ご家庭にある材料で簡単にできる料理です。材料はペコロス、タイム、甜麺醤、カイエンペッパー、月桂樹、ルッコラ、コリアンダー、サフラン」』

「どれも普通のご家庭にはない!」

 思わずTVへツッコミを入れる俺。なんだよ、ペコロスとかルッコラって!? あとサフランって、確かグラム単価がコカインより高いと有名な香辛料じゃないのか?!


 ろくな番組がないのでTVを消すと、ロボット掃除機の上に乗った霊子(仮名)幻覚その1と、ボールペンの芯みたいな太さの剣を抜いた女勇者アニス幻覚その2が対峙していた。

〝どっちが上か、白黒はっきりさせてあげるわ!”

「ふん、それはこちらの言い分だ。わが剣の錆にしてくれるわ!」


「……」

 ぶっちゃけTVを消しても鬱陶しい。つーか、役に立たないもの幻覚が二倍になったってことは、毒が裏返るように、役に立つようになるのか? 気分的にはいよいよ崖っぷちって感じなんだけど。

 そこへ折よくメリーさんからスマホに電話がきた。

 うむ閉塞した状況にはアホの子の相手をするか、ロッ〇ーのテーマ曲を聴くかするのが一番だよな。


 スマホに出ると、なぜか『ちゃらんちゃらんちゃん、ちゃらんちゃら~♪』というイントロが流れて、続いてトランペットが『太陽〇ほえろ!』の主題歌を演奏しだした。

「???」

『あたしメリーさん。いまオリーヴが殉職したの……』

『死んでないわよ!』

『――むう。せっかくGパン穿いて街の中を全力疾走するように言ったのに、いけしゃあしゃあと帰って来るなんてなってないの! せっかく窓にブラインドも設置したことだし「そうか、オリーヴが殉職したか……」と、メリーさんやる予定でいたのに……』

『なによそれっ!?』

『ちょっと違うの。そこは「なんじゃこりゃぁあ!!!」とゾンビモードで這いずりながら絶叫するところなの……』


 そこへローラ、エマ、スズカが続々と戻ってきた様子で、

『ただいま戻りました。現場の周辺で聞き込みをしましたけれど、怪しい人と聞けば「黒髪の娘がGパン穿いて無意味に全力疾走していた」くらいの証言しか得られませんでした』

『ただいま~。メリー様に言われた通り、「路地裏の靴磨きに扮した情報屋とピン札使ったやり取り」しようとしたけど、ただただ靴磨かれただけだったよ~』

 げんなりとした口調で成果を報告するのだった。

『お前ら、揃いも揃って使えない連中なの……!』

 憤慨したメリーさんに対して、オリーヴ、ローラ、エマが口を揃えて、

『『『いや、指示の内容が意味不明なのよ(ですけれど)(ですよ)!』』』

 言い返した。唯一、スズカだけは苦笑いしている気配だが。


「……さすがにそれは今どきの子には通じないと思うな」

 そもそも最近の刑事ドラマはド派手なアクションとかないからなあ。

 時代劇とかの殺陣たても、刀を棒っ切れみたいに振り回して、当たったら『当たり判定が出て大破』って感じでフェードアウトするだけだし。


『だいたい自分だけのうのうと部屋にいて、指示だけ出してるってどういうことよ! アンタが受けた依頼でしょう!?』

 オリーヴの憤懣ふんまんを受けて、メリーさんが振り返りながらチャラ! とサングラスを装備した音がした。

『なら路線を変更するの。これからはメリーさんを〝団長”と呼ぶの。団長として先頭に立って行くの。とりあえず五トンある爆薬を、ありったけ町中にセットしておいて、あと馬車も五千台くらい……』

「やめんか! もっと洒落にならん事態になるぞ!」

 あれは実質的に刑事ものの皮をかぶった特撮――それも現在のようにCGではなく、実際に地形が変わるレベルの爆薬を使った、伝説の仮面ラ〇ダーV3並みの――ドラマだからなぁ。

 昭和のノリをコンプライアンスに配慮しまくりで、規制だらけの令和な時代にやろうとするな、こら。


『あたしメリーさん。そういえばジリオラ刑事とイニャス刑事はまだ戻っていないの……?』

 どうやらこの刑事ごっこにはあのふたりも関わっているらしい。

 どこで油売っているの!? と言わんばかりのメリーさんの問いかけ――ついでにレミントンM31散弾銃の持ち手部分を後ろにスライドする音が聞こえる――に、スズカが恐る恐る答える。

『あ、はい。ジリオラさんは玄関を出たところで、迎えに来た召し使いと一緒に馬車で帰宅しました』

『めしつかいというと、ご飯を自在に調教して操れる術者なのね……』

 その解釈は多分間違っていると思うぞ。

『あと、イニャスはゴミバケツをひっくり返していたところを、保健所に捕獲されて連れていかれました』

 続くスズカの説明に、メリーさんはサングラスを外して(そういう気配で)もういっぺん窓によって、ブラインドを指でこじ開けた。

『――そうか、殿下が死んだか……なの』

 沈痛な口調を心がけようとしているが、内心のルンルンした気分が丸わかりの言いようだった。

「いや、確かに王子だから『殿下』で間違いないけどさぁ。手遅れにならないうちに、さっさと引き取りに行けよ、こら!」


 というか、なんでメリーさんたちこいつらのっけから刑事ごっこしてるんだ?


『あたしメリーさん。ぶっちゃけイニャスの叔父のアキレスとかいう色ボケハゲが、女漁りをするために庶民もウエルカムな舞踏会を開催したところ、ストライクど真ん中の女がいて、ストーカー化して探し回っているけど見つからないので、名探偵と名高いメリーさんに捜査の依頼がきたの……』

「名探偵?」

『これまでにメリーさんが解決した事件は数知れずなの。だいたい容疑者なんて岸壁で「聖母たち〇ララバイ」を聞かせれば勝手に自供するものだし……』

 いきなりクライマックスに持っていくなよ、このガキ!


『ということで、【シンデレラ(っぽい女)捜査本部】をメリーさんたち立ち上げたの。イニャスとジリオラも加えた七人の刑事なの。メリーさん「王〇七武海」「十〇衆」「幻〇旅団」とかいう、少数精鋭の強キャラ軍団に憧れてたし……』

 それでしつこい天丼の刑事ごっこというわけか……。

「しかし独身の王弟なんていったら、女なんて選り取り見取りだろうに、なんでまた庶民の娘に執着するんだ?」

 ぶっちゃけ世間が思っているほど、王族って女子からモテてないのだろうか?

 そんな俺の疑問にメリーさんを通してジリオラが憤慨した口調で反論した。

『そんなわけないでしょう! アキレス殿下ときたら、異性にも同性にも中性にもモテまくりよ!』

『あたしメリーさん。よーするにステーキばっかり喰ってたら、お茶漬けが喰いたくなったってだけの話なの……』

「でもどうせまたステーキ喰いたくなるんだろ?」

『「チキ〇ラーメンは食うまでがうまい」理論ですね』

 ローラがしみじみした口調で同調した。


『ともかく、「現場ひゃっぺん」「犯人は現場に戻ってくる」とも言うので、もう一度現場を見に行くの! スーパーZを準備するの……!』

『だからなんなわけ、その変なノリは!?』

 話題についていけないオリーヴが再三に渡るツッコミを入れるのだった。


 ◇


 ということで、舞踏会の会場付近――。

『容疑者Xは、午前零時近くに個室へ連れ込もうとしたアキレス殿下の腕を振り払い、ついでにアッパーで殿下をノックアウトさせた挙句、警備員――完全武装をした陸軍特殊部隊の精鋭百二十人――の包囲を打ち破り、夜の闇へと消えていったそうです』

 ローラが読み上げる状況の概要に、

『王弟もクズだけど、民間人ひとり確保できない軍人とか意味ないの。給料泥棒なの……』

『いや、どんな剛の者なわけよ、その娘って!?』

 メリーさんとオリーヴが揃って不満と驚きをあらわにする。


『えーと、目撃者の証言によると、身長150センチくらいで室内犬のような、華奢で可愛らしい容姿の娘だった……そうですね』

 メモを取り出して読み上げるエマの説明に加えて、ローラが付け足す。

『ただ、足跡などから推定及び間接透視リーディング能力者の見解によれば、身長153cm体重76kg体脂肪率6%と推測されますが』

『その身長で体重76㎏、体脂肪率6%なら、華奢どころか中身ガチムチの戦うチワワじゃないの!!』

『きっと背中に鬼神を宿しているの……!』

 絶句するジリオラとメリーさん。

『うわ~、やだなぁ。そのシンデレラとだけは敵対したくないですね』

 おののくスズカの弱音を聞いて、メリーさんが再びレミントンM31散弾銃をコッキングさせ、

『いざとなったら警告なしで発砲するの。お前ら、銃と包丁と丸太は持ったか……?!』

『『『『『『おーーーーーっ!!!!』』』』』』

 全員がる気満々で頷く気配がした。


 何ということだ。異世界でシンデレラ風のロマンス物語だというのに、登場人物が全員キチガイというアンデルセンにも思いつかなかったおとぎの世界が、いままさに電話の向こうで進行している!


 ともあれ一行は容疑者名シンデレラの足跡を求めて会場の庭に出た。

 玄関先から延々と続く足跡を眺めて、

『あたしメリーさん。ヒバゴンの足跡を追跡している気分なの……』

 率直なメリーさんに意見に頷きつつも、同時に首を捻るオリーヴとローラ。

『会場へ入る向きの足跡しかないわね。帰りはどうやって帰ったのかしら?』

『何か乗り物にでも乗ったのか……推理モノでは割とポピュラーな謎ですが』


『きっと犯人はA地点からB地点まで行く間のC地点で、何らかのトリックを使ったの……』

『そうなんですか、メリー様』

 メリーさんのあてずっぽうに、大仰に驚いて合の手を入れるエマ。


 一方、屈み込んでじっと足跡を確認していたスズカが、大きく頷いて一同に向かって言い放った。

『これは〝トメ足”ですね』

『『『『『『とめあし……?』』』』』』

『――ってなんですか?』

『トメというのは、家庭版用語でのしゅうとめのことなの。つまりスズカは「姑の足」と言いたいの。案外、相手はバツイチの子持ちとかかも知れないから、だとすれば常任理事国並みにヤバいの……』

 エマの疑問にメリーさんが知ったかぶりで噓八百の憶測を並べゲスパーをする。

『そうじゃありません! 野生動物は天敵や猟師に追われると、ジグザグに走ってジャンプをして、どこにいったかわからないように足跡を誤魔化したり、自分の足跡を後ろ向きに逆にたどって相手の目をくらませたりします。それを〝トメ足”というのです』

『『『『『( ・∀・)つ〃∩ ヘェーヘェーヘェー』』』』』

『ねぇ知ってる?』

 メンマが奥歯の手前の果てしなく取りにくいところに挟まったような、うざったい口調でメリーさんが俺に確認してきた。

「まめしばやめろ。あと、嘘ではないな。田舎のマタギからもよく聞く話だ。スズカは霊狐だし、野生動物の本能に人間の知恵がプラスされて、そのへんの欺瞞ぎまんが一見しただけでわかるんだろう」

『人を越え、獣を越え、いまお稲荷さんになったの……!』


 そこで退屈そうに捜査状況を眺めていたジリオラが、手を叩いてどこかへ合図を送った。

『つまり、この足跡の向こうにアキレスおじ様をたぶらかせたオンナのハウスがあるってことね。こんなこともあろうかと優秀な猟犬を準備しておいたので、こいつらに追跡させるわ。――オルトロス、饕餮とうてつ

 明らかにヤバめな名前――いずれも双頭の魔犬である――の犬を呼ぶジリオラ。

 それに合わせて、犬の足音とは思えないやたら重々しい足音が複数個近づいてきた。

『あたしメリーさん。でけー犬なの。おまけに首が二個あって、オリーヴのおっぱいよりもでかいの……!』

『あんなバケモノ相手にあたしの胸を引き合いに出さないでよ!』

『単なるアメリカンジョークなの……』

 いや、揶揄している時点でイジメだよね!?

『ひぃ、犬!?』

 一方、迫る魔犬相手に縮みあがる霊狐の化身たるスズカ。

『大丈夫よ。見た目こそ怖いけど、この子らは命令がなければ人を襲ったりしないから』

 飼い主たるジリオラの言葉に一瞬だけホッとするスズカであったが、

『その代わり、貴族のたしなみたるキツネ狩りでは容赦なくキツネを狩りつくすけど』

『ぎゃああああああああああああああっ!!!』

 慌てて逃げ出したスズカだが、ダッシュした二頭の魔犬によって即座に捕まえられ、振り回される。


『……一瞬で捕まりましたね』

『人の頭脳を加えたら、逆に打ち消し合って未来をもたらすどころかポンコツになってるの……』

 その光景を傍観しながら嘆息するローラとメリーさんであった。


 ともかくも紆余曲折あったものの、くだんのシンデレラの家を探り当てたメリーさんたち。

『知られちゃいけないデビ〇マンって感じで逃げたってことは、いきなり暴れる可能性が高いので、全員で死ぬ気でかかるの……!』

 家の周辺に大量の爆薬をセットして、完全武装したメリーさんたちが陣取って最終確認をする。


 ともあれ最初の犠牲……もとい、訪問者としてこの場で唯一の男児であるイニャスが(無理やり)選ばれ、そこの家の玄関のドアを叩いた。

『『『『『『――はい?』』』』』』

 途端にユニゾンの返答があって、メリーさんたちが身構えるうちに扉が開いて、同じ顔が六つ現われた。

『『『『『『六つ子!?』』』』』』

『嘘松さんなの……!』

 驚愕の声が周囲に木霊した。


 ということで、犯人はいいところまで絞り込んだのだが、ここの家の娘は一卵性の六つ子で、しかも全員が容疑を否認。当然、アリバイも見分けがつかないということで、事件は暗礁に乗り上げた。

「……どうするつもりだ?」

『メリーさんに妙案があるの……!』

 俺の問いかけに自信を持って言い放つメリーさん。

 コ〇ボイ司令官並みの妙案の予感しかしないのだが……。


 後日、ガラスの靴ならぬ『思い出のアッパーカット』を再現すべく、アキレス王弟相手に六つ子によるアッパーの再現が行われ、結果としてパンチドランカー症状が出たアキレス王弟は、完全にパーになって表舞台から完全に姿を消したそうである。

 当然、シンデレラの正体もうやむやになったとのことであった。

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