番外編 あたしメリーさん。いま七夕の願い事をしているの……。
『あたしメリーさん。今日は七夕なの……! だから天の川を挟んでなかなか会えないオリヒメと、えーと……』
「牽牛なケンギュウ」
『ケンギューになじらえて、電話をしてみたの……』
夕飯の袋ラーメンを食べていた俺は、電話口から聞こえてきたいつものメリーさんの台詞で、そういえば今日が七月七日なのを思い出した。
あと「なじられて」じゃなくて「なぞらえて」なんだけれど、コイツの場合はなじられる方が正しいような気がしたので、そこは訂正せずにスルーした。
「……ああ、そういえばそうだったな」
そして納得する俺。なにしろ東北人にとっては七夕といえば八月の行事だったから、七月に七夕と言われてもピンとこないんだよな~。
おまけに大雨だし(だから備蓄のインスタントラーメンを食べているわけだが)。
『あと、近くの商店街で「商売繁盛、笹持ってこい」で、笹を飾って短冊に願いを書くイベントがあったので、メリーさんも地元の子供に混じって書いたの……』
微妙に他の要素が混じっているような気がするが、割とありがちなイベントだな。
『書かれている内容もいろいろで、子供らしい夢にあふれたものばかりだったの……』
「アイドルになりたいとかプロサッカー選手になりたいとかか?」
『え~と、ぱっと思い出すのは「ハゲが遺伝しませんように」とか「課金しなくてもガチャができますように」、「お父さんが社会復帰して定職につけますように」、「声優と結婚できますように」、「次に生まれ変わったらキラキラしない名前になりますように(by:光宙)」、「ユーチューバーになって遊んで暮らせますように」、「邪神ニャルラトホテプ様、うちのネコ型ロボットが役立たずなので、どうか代わりにジャ○アンをぶっ殺してください」とかの、いかにも子供らしい無邪気な願いばかりだったんだけど……』
思わず食べていたラーメンを吹き出しそうになった。
「いやいや、切実過ぎる願いばかりでなにげに怖いわ! あと小学生が邪神に殺人を依頼するとか、七夕のイベントを激しく誤解しているぞ!? 明らかに管轄外だっ!」
『あたしメリーさん。なんでそんなに興奮しているの? まるで当事者みたいに……?』
「…………。まあそれはそれとして、んで、お前は何を短冊に願ったんだ? 二巻が出版されるようにとかか?」
『あたしメリーさん。察しの良さでは訓練されている疑いすらある「な○う民」相手に、そういうコアな話題は危険なのでやめるの。メリーさんならそれよりもコミカライズを希望するの……』
「コミカライズねえ。最近ではジャ○プの新人すら初版一万部に届かないくらい、漫画も衰退しているらしいけどなぁ」
『甘いの。なろ○作品原作の漫画は、書店に行くと特設コーナーを作られるくらい別枠なの……!』
「別枠っていい意味と悪い意味とがあるよなぁ。財布の中の二千円札って感じで」
『あと短冊に書いたのは「魔法幼女になりたい」っていう、いかにも幼女らしい夢なの……』
あざとく狙っている時点で、すでに幼女らしさは欠片もないが。
「魔法妖女? それなら実現しているも同然じゃないか」
『気のせいか「幼女」の発音が違うような気がするの。「妖○伝説」とか「妖○乱舞」って感じで……』
「前半はともかく後半を知ってる時点で幼女じゃないな、お前は」
まあ、前の星○之宣氏の漫画を知っている時点で大概だが。
『あたしメリーさん。そういえばいまは「魔○っ子」って放送禁止用語らしいけど、なにが悪いのかしら……?』
「ああ、そりゃ東○アニメーションの登録商標になってるから迂闊に使えないだけだ。ちょっと表記を変えて「魔女っこ」とか「魔女っ娘」とか「魔女っ仔」とかにすればOKらしい」
『ふ~ん、まあいまどき「魔○っ子」もないので、実際のところ本命は「この世から悪がいなくなりますように」という、ピュアで天使なメリーさんらしい願い事を書いたんだけど……』
「自殺するつもりか、お前?」
『なんでメリーさんが悪の邪神みたいに言うの……!』
喰っちゃ寝するだけとはいえ、邪神の親分だろう、お前。
「――いや、俺を殺そうとしている段階で悪の殺人者じゃん」
『あなたは例外なの。というか、なんかあなたを斃せばこの世の悪がだいたい撲滅するような気がするのよね、不思議と……』
「……お前のような察しの良い幼女は嫌いだよ」
思わずボソリと付け加えると、
『あたしメリーさん。なんかいったの……?』
「なんでもない。つーか、確かに外国人の幼女って見た目は天使だけどさ。一定の年齢になると天使から、いきなりビア樽になるよな」
そして、その熟成には三年もかからないという。
『メリーさんはちゃんと連日運動しているから問題ないの。とりあえず冒険者ギルドの依頼を受けて、連日、魔物とか盗賊とか火星人とか突撃しているの。突撃-ッ、やしゃしーん! ……なの』
「ふーん、意外と真っ当に冒険者稼業をしてるんだな」
ラーメンのスープを飲みながら感想を述べる。
〝スープを飲むと高血圧にコレステロールも高くなるわよ”
ぼやく俺の周りを掃除しながら、ロボット掃除機のノレソバに乗った
ふっ、だが袋麵のサッポ○一番は、作る時に大量の野菜を一緒に入れて煮込むから、野菜も摂取できるし野菜の水分でスープも薄まると一石二鳥なのだよ。
『あたしメリーさん。袋麺ならサッポ○一番よりチャ○メラ塩味に卵を入れて食べるのが至高なの……』
〝どっちも似たようなもんでしょう”
ゲンナリしながら俺たちのグルメ談議に水を差す
わかってないなぁ、昭和の時代から延々と続くインスタントラーメンの奥深さを……つーか。
『なんか会話がショボくなってきたの。新時代――令和なんだし、もっと夢のある会話をするの……』
「新時代ねえ。昔は未来は核の力で便利になるって予想していたけど、最近は核が俎上に上がらないからつまらんなぁ」
個人的には核とか核技術が好きなんだけどなぁ。
そういえばこのロボット掃除機とかいま使っているスマホなんかが、昔はなかった未来のガジェットだよな。なんか想像よりも地味というか、派手さのない未来技術だ。
『あたしメリーさん。そういう派手な技術はだいたい机上の空論で終わるものなの。それなりの実績の投手より、ノーコン百五十キロ投手の方がスカウトに評価される傾向があるけど、ブ○ッケンJrと同じで、結局未完の大器のまま終わるようなものなの……』
「夢のない話だなぁ」
『夢がないといえば、そもそも本編のラストも、全員揃ってアベ○ジャーズ的に活躍するかと思ったら、ローラとエマがラッパ吹いただけだったとか、肩透かしもいいところだったの……』
あれ、おかしいな? きっちり一年間時間を巻き戻して、記憶も最初からやり直しているはずなのに、なにげに覚えているっぽいな。
「おい、待て。それって何の話だ?」
『メリーさんが最大の敵である宇宙支配をたくらむ裏大魔王と戦って、勝利した時の話なの。とりあえず、いままで出てきたキャラは全員出てきて、会話シーンすらほとんどないド○ゴンボールの悟○と
記憶があるんだかないんだか理解しがたいな、相変わらず。
「……人間関係が殺伐としている自覚はあったのか。まあいい。とりあえず飯も食ったので一度通話を切るぞ」
『わかったの。メリーさんも七夕にちなんで、あなたとハートウォーミングな会話ができたから満足なの。あと最近、この近辺を荒らす盗賊団〝シャンプーハット”を斃したところなので、これから忙しいの……』
どんな集団の盗賊団やねん!
『基本的に全裸かバスタオル一丁でシャンプーハットしてる盗賊団なの。襲われるのは女の子ばかりだというから、メリーさんがキャミソールだけで「うっふ~ん」と、囮捜査をしたんだけど、あの連中、一目見て「チェンジ」って言ったの……!』
変態だがロリコンではなかったか。
『頭にきたのでメリーさん「敵の行動ターンのうちに勝手に自分が攻撃する」という必殺技で盗賊を斃したところなの。で、これからローラ達と未来の食料、ミー○キューブを作るので忙しいの……』
「なんだその、破滅しか待ってない未来の食料は!?」
ツッコミを入れているうちに電話が切られた。
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