第60話 あたしメリーさん。いまあなたの後ろにいるの……。(中編)
メリーさんの両手を、ローラとふたりで捕獲した宇宙人――もとい、仲の良い親子のように繋いで、他の皆が待つ事故現場へ戻る俺たち。
「ははぁ、つまり内原さんがご主人様がいつもいってらした、異世界にいるという〝彼”だったのですね」
「いやいや、
普通に考えて、頭おかしいから以外にないだろ。
ガチで羽○と戦○ヶ原で戦○ヶ原が勝ってるとこってないもんな~。ただ、最初に告白したって以外は。
「はあ、よくわかりませんが。では、どのようなご関係なのですか?」
ローラの質問に、
「元所有者?」
自分でも若干胡散臭い肩書きを名乗る。
「つまり、あんたがこのサイコパス幼女を世間に放流した元凶ってこと?!」
背後からオリーヴが噛みつく。う~~ん、この娘、どっかで見たよう気がするんだよな~。
「人聞きが悪い。もうひとりでもやっていけると思ったから、自由にさせただけのことだよ」
そう適当に答えながら、ふと『ドラえもんがボクがいなくても大丈夫だよ、というのは匙を投げたドラえもんが未来に帰るための口実に過ぎない』という憶測が甦った。
「五歳の幼女がひとりでやっていけるわけないじゃない!」
ジリオラが即座に反論するが、
「いや、俺の世界では五歳ともなれば、元傭兵でいざこざが原因で人を撲殺し、警察の目をくらませてほとぼりを冷ますためにアルプスの山奥でひとり暮らしをしていたジジイの元で、裸足で暮らせるくらいの生活力があるのが普通だぞ」
「どんだけハードな世界なのよ、異世界って!? 五歳で戦うチワワを要求されるようなもんじゃない!」
俺の主張に愕然とするのだった。
一方、メリーさんといえば、両手を俺とローラに捕まれたままでも余裕の表情で、
「メリーさんはすでに無刀の境地に達してるから、包丁を取り上げたところで無駄なの……!」
そうのたまうと気合一閃、
「秘技・包丁乱舞!」
何やら口にしたが、「……あれ?」何も起こらないまま、バツの悪い沈黙だけが通り過ぎていった。
「変なの。この常勝無敗のメリーさんが……」
小首を傾げるメリーさん。
「常勝無敗の主人公とかなかなかいないぞ」
そうこうしているうちに事故現場に到着した。
レジャーシートを広げた岩場の上では、なぜか管理人さん、
その傍らでバーベキューコンロを準備して、鉄串に肉や野菜を刺して手際よく並べている真李。
「ただいま~……つーか、何かあったのか、全員正座で?」
不審に思って真李に尋ねてみるも、
「別に~。ちょっと妹無双しただけ~」
そう機嫌よくなんかのゲームみたいな台詞を口に出した真李だが、俺が手をつないだままのメリーさんを見て、大きく目を見開いた。
「メ、メリーッ! 捨てたはずなのに、なんでこんなところに!?!」
「なんでコレがメリーさん人形のなれの果てだって、一目でわかるんだ?」
どー見てもただの外国人の幼女なんだけど?
「むっ、誰かと思えば、負けヒロインフラグが乱立している、幼馴染の義理妹なの! 久しぶりなの。ここで会ったが一年ぶりなの!!」
メリーさんも当然のような顔で敵意を剥き出しにする。
「……もしかして、お前ら田舎にいる時からこんな感じだったのか?」
「そうよ! こいつ人目のあるところでは人形のフリしてたけど、こっそりこの姿になって冷蔵庫とか漁ってたのよ!」
「コイツこそ、人前では猫を被っているけど、人間じゃないの! あと、こいつの好意は嘘臭いの。『ディ○・プリ○セス』のリ○ァーナや、『下○生2』の柴○たまき、『バ○ムート○グーン』のヨ○と同じ、男にトラウマを植え付ける女の臭いがするの……!」
真季とメリーさんとで互いに非難し合う。
と、俺たちがワアワアと騒がしく喚いている傍らでは、また別の運命の出会いがあった。
「あっ――!!」
「ああああっ!?」
その表情のまま、立ち上がって靴を履いてオリーヴの方へ駆け寄る先輩と、同じく帽子を押さえて先輩の方へ走り出すオリーヴ。
感無量という表情を浮かべたふたりは、そのまま大きく手を広げて抱き合う――かと思いきや、あっさりと通り過ぎて、
「UMAよUMA! 遂に私は未知なる生物を発見したわ!」
「UFOよUFO! トライアングル型UFOに我、邂逅す!」
イニャスを抱きしめて歓声を漏らす
◇ ◆ ◇
「えーというわけで、お互いに遭難者というわけで自己紹介から始めたいと思う」
俺としてはいまさら自己紹介も何もないと思うが、全員を知っているのは俺だけなので、このブルーシートの上で親睦を深めることになった。
ちなみにメリーさんに背中を向けるとヤバいので、現在は俺の胡坐をかいた足のところに座って、一足早くバーベキューの肉をもぐもぐやっている。
「美味い、動物の死骸は?」
「メリーさん、ト○ロは脂がのっていて美味いと思うの……」
真李の嫌味に、微妙に危ないネタで返すメリーさん。トロの話だよな。トロの。
「せっかく未知の生物を捕獲できたかと思ったのに……」
「いやいや、あっちの狐耳の子とか、明かに人外じゃないの!」
悔し気にシートを拳で叩く
そんな
「うわ~。見えないし触れない人種だわ! このやたら魔力に満ちた世界ですらコレってことは、現実世界なら怪異の類は近寄ることもできないわね。――つまり、あっちの狐の化身も見えてないってことか~」
それを聞いてスズカも驚いた様子で、恐る恐る先輩に向かって手を振ったが、先輩の方は見えていないような態度でガン無視をする。
ついでにオリーヴの方も、悔し気にシートを叩いて、
「初めてUFOを目の当たりにしたと思ったのに。なによ、あのカ○サキのエンジンは! エンブレムがついていた時点で変だと思ってたけど、ひどいペテンに引っかかったみたいな気分よ。せっかく史上初の
憤慨しているのだった。
「あ、これキャンプ用のお弁当です。たくさんあるので皆さんもどうぞ食べてください」
「まあ、こんなに綺麗なお弁当を……本当に助かりました、ありがとうございます」
「わ~、美味しそう!」
一方、管理人さんは車の中から持ってきた、五段重ねの重箱の弁当を広げて、ローラとエマに渡していた。
うんうん、マトモな交流ができているようでなによりだ。
ああいうのを見るとホッとする。
基本的に俺の周りにいるのは全員変わり者だから常識人の俺ばっかり割を食う展開なんだよなぁ。
「あたしメリーさん。『自分は絶対に正しい』『俺は間違ってない』『間違ってるのはお前らだ』と思ってる奴が、実は一番ヤバくて迷惑という典型なの……」
「うるせえ。肉ばっかり食わないで、野菜も食べろ!」
ピーマンやシシトウを串から外して捨てるメリーさんに一言文句を言ってから、改めて自己紹介をする。
「えーと、まず俺が
「漆黒の空より来たりし聖なる闇、
俺の紹介を断ち切って自分で自己紹介をする先輩。
「出た! 漆黒の闇とか、『頭痛が痛い』『馬から落馬』的な頭の悪いネーミングセンス」
オリーヴが横を向いて小馬鹿にしたように嘯く。
「……だったらアンタはなんというのかしらね、初めて会った誰かさん?」
喧嘩腰の
「ふふふ。私こそ、万物を見通す霊眼の持ち主にして、英霊の導きにより久遠の彼方より召喚されし超越者。すなわち人は私をオリーヴ=〈
「その衣装、濡れそぼってるんじゃないの? アンタまともに着替えももってないわけ?」
「しょうがないでしょう。乗っていた船が沈んで、着のみ着のままで流れ着いたんだから!」
憮然とした先輩の文句に、妙に親し気なテンポで応じるオリーヴ。
「……もしかして、ふたりとも知り合い?」
「「いいえ、初対面よ!!」」
息もピッタリに否定するふたり。あー、こりゃ身内だな……と、わかるシンクロ度であった。
「姉妹?」
「姉妹ね」
エマとオリーヴがあからさまに囁き合っている。
そのせいでちょっと目を離したところ、先輩とオリーヴがお互いにクロスカウンターを決めるのを見逃すことになったのだった。
その後も順番に自己紹介をして――管理人さんの名前はどーあっても聞き取れなかったし、
「あたしメリーさん。いまなぜか彼の膝の上にいるの……!」
真っ先にメリーさんが自己紹介をして、続いて、
「残りはメリーさんの部下1号から6号までなの……」
「お前のところはみんな番号で呼んでいるのか!? 仲間だろう?!」
不満そうな仲間たちの代わりにツッコミを入れるも、
「確かに、解散するまでは友だちでいようと約束はしたんだけど……」
それはそれで失礼な話のような気がするが?
「こいつら使えなくて、結局集まってもプ○ジェクトXみたいな展開にならなかったの……!」
「お前は何を期待していたんだ!?」
「この一年で成長したのは、せいぜいパトカーのサイレンが近づいてくると皆伏せるようになっただけなの……」
「うん、それは確実にお前のせいだな」
そんなこんなで自己紹介も終わってバーベキューや弁当を食べてところ、不意にどこからともなく老人の低い含み笑いの声が聞こえてきた――かと思うと、
「久しぶりだな、混沌の使者よ!」
近くの岩の上に、長い白髪白髭の筋肉隆々とした長身――目算でも180㎝半ばの俺よりも20㎝は大きい――老人が立って、俺たちを睥睨していた。
右手に銀色の義手を嵌めて、長い
「あたしメリーさん。元声優という肩書きが付いたAV女優の『……誰?』率は鉄板なの……」
首をひねるメリーさん。
「ノーデンスだろうノーデンス。あれだけ特徴的なジジイのこと忘れるなよ」
脇で聞いていた俺でさえ覚えているくらいだというのに……。
「その通りだ。貴様のせいであの忌まわしい混沌からの脱出は骨が折れたが、貴様の正体がわかれば対策も立てられる。いまこの地は旧支配者中でも屈指の力を持つクトゥルフによって完全に閉鎖された状態になっている。貴様に加護を与えている存在――アヤツでも外から力を送ることは不可能だ」
そして、その言葉が終わらないうちに、メリーさんの鞄に入っていた『ノーデンスのハンマー』が勝手に飛び出して、本来の持ち主の手に戻った。
「ああーっ、メリーさんのトンカチ……!」
「これはもともと
あっさりと神器を取り返されたメリーさんの自分勝手な叫びに、ノーデンスが大人げなく言い返したかと思うと、
「さて、いつまでも星辰が揃ってはおられんからな。再びクトゥルフが眠りにつく前に、さっさと始末をさせてもらうぞ、混沌の使者よ」
「むう。望むところなの! もういっぺんぶっ殺してトンカチを取り返すの……!」
殺る気満々で、《
「???」
拍子抜けした表情のメリーさんとは対照的に、咄嗟に俺は良くないものを感じて、メリーさんを膝の上から両手で掴んで脇に追いやった――直後、
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その瞬間、眠れる姫君が悲鳴とともに大きく目を見開いた――。
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