第52話 あたしメリーさん。いま呪いの人形と対決しているの……。(中編)

 一夜明けて無事退院の許可をもらった俺は、もとから帰省のために持ってきたボストンバッグを抱えて、長身でスタイルの良い――ぶっちゃけ等身大のバー○ー人形そのものの体形(九頭身で通常の二倍の長さの首に、異様に尖がったバスト、男子と見まごうぺったんこの尻、上から下までまったく太さの変わらない細い手足)そのままで、身長182㎝ほどにした――女性看護師ナースさんに見送られて、『ジョン・サイレンス総合病院』の正面玄関を出たところで、タクシーなどが止まるロータリーを前にして、

「……はあ~~~~っ」

 と、深々とため息をついて荷物を足元に落とした。


 それと同時にポケットに入っていたスマホにメリーさんからの電話が入ったので、

「――出ても?」

「病院外だし構わないんじゃない」

 投げやりな女性看護師ナースさんの許可をもらって、ケータイに出た。


『あたしメリーさん。いま塔型のダンジョンのボスをたおして戻ってきたところなの……』

 どうやら今日は冒険者として、まじめに活動をしてきたらしい。

「ほーっ、そうすると階層を延々と登ってクリアしたわけか?」


 なんとなく前にメリーさんの逸話を調べた時に、高層ビルの上階にいるターゲットを狙ってメリーさんが、

『あたしメリーさん。いま一階にいるの……』

『あたしメリーさん。いま五階にいるわ……』

『はあはあ……あたしメリーさん。いま十三階に着いたところ……』

『……ぜいぜい。あ、あたしメリーさん。いま二十七階…‥‥って、アナタ何階にいるの? はあっ!? 九十七階!?!』

 で、這う這うの体でメリーさんが目標の階に到着した時に、ターゲットが悠々とエレベーターで逃げる展開の創作話を思い出した。


『――ううん。面倒だったからガメリンで最上階まで飛んで行って、そこにいたボスっぽい黒いドラゴンを、持ってきた殲滅型起動重甲冑のハイパーメガ粒子砲で吹き飛ばしたの……』

「お前、絶対に地道にビルを上らずにエレベーターかヘリコプターでショートカットするだろう!?」

『??? 何の話かしら。ともかく、それで斃したと思ったんだけど、さすがはラスボスだけあって瀕死の状態で、かつ虫の息でも生きていたので、トドメはメリーさんが刺したの。メガ粒子砲で壁に空いた穴から、オリーヴごと蹴り落として……』

「鬼!! つーか、ゲーム的な剣と魔法の世界の約束事は守れよ!」

『鬼じゃなくてお人形さんなの。だいたいオリーヴがいると報酬の分配に煩い……じゃなくて、なんか黒いドラゴン、さいごっ屁的ななんかヤバいものを放とうとしていたので、それに気づいたオリーヴを咄嗟にぶん投げた……じゃなくて、友情的な〝廬○亢龍覇”というか〝魔館紅○砲”で、「私ごと斃して!」という、オリーヴの声が聞こえた気がしたので本人的にも本望なの。それに現実はクソゲーなの……』

『本望なわけがないでしょうっ!!』

 そこへ轟くオリーヴの怒号。

 どうやら無事に合流したらしい。


『あたしメリーさん。なんで生きているの!? じゃなくて、無事でよかったの……ちっ』

『ええ……ええ、お陰様でね。アンタと塔に登るっていうから、念のためにフック付きのロープを購入しておいてよかったわ。その代わりブラックドラゴンが落ちたあたり、なんかドドメ色の瘴気が数キロ四方に渡って広がって、ほぼ一瞬で森が枯れたみたいだけど』


 どうやら最初っから落下の危険を考慮して、準備していたらしい。的確な判断である。

 あと、ドドメ色の瘴気に関しては、おおかた生きとし生けるものを蝕む呪い的なものなのだろう。落ちたところが森だったのは、まだ救いがあるか……(現地の野生生物は気の毒だが)。

 

『むう、〝廬○亢龍覇”じゃなくて〝必殺暗黒流○星”だったの。それにしても、事前に小細工したり、メリーさんを疑うなんて、昔の純真じゃなかったオリーヴはもういないのね……』


 いや、出会った当初から騙し討ちされたり、囮にされたり、人目のないところで保険金をかけて殺そうとしていたから、S○riよりも予測能力のない天然無能なオリーヴでも、さすがに学習したんじゃないのか?


『この程度で小細工とか文句を言われる謂れはないわよ! そーいうあんたこそ小細工の大あきんど、スーパーマーケットじゃないの!』

 オリーヴのもっともな指摘に対して、ぬけぬけと答えるメリーさん。

『メリーさんはこの愛らしい体と包丁一丁で、常に正々堂々と戦うの。筋肉は裏切らないの……!』

 お前、正規のルートを通らず、五人がかりで、出合頭にハイパーメガ粒子砲飛び道具で不意打ちをしておいて、よく臆面もなく言えるな……と、俺がツッコミを入れる前にエマが別な方向からツッコんだ。

『贅肉は裏切るんですか?』

『贅肉はオリーヴみたいなものなの……』

『『『『???』』』』

 当のオリーヴを含めた、ローラ、エマ、スズカが頭の上に疑問符を浮かべる。

『気がついた時にはくっついていて、どうやっても縁が切れないの……』

『『『あ~~~~~~~』』』

『納得するんじゃないわよ!』


 メリーさんにしては秀逸な表現だな、と思っていると、ふと、メリーさんが怪訝な調子で俺に聞いてきた。


『あたしメリーさん。ところで、なんか妙にそっちの背後が煩いけど、祭りでもあるの……?』

 どうやらこちらの騒ぎが異世界あちら側にも届いてしまっているらしい。

 俺は改めてロータリーの騒ぎと、無関係な顔で自分のスマホ画面を開いて見ている女性看護師ナースさんに尋ねた。


「――いや、あの……いいんですか?」


 ちょっとした公園ほどもあるロータリーでは、

「お義兄ちゃ~~ん! 真李が来たよ~~っ!」

「このっこのォ! 邪魔邪魔邪魔邪魔っ!!」

「さては前世からずっと一緒になるって決まっている、私とお義兄ちゃんを引き裂く魔女の下僕しもべね!」

「お義兄ちゃんどいて! こいつら殺せない!」

 という電波を全開させた義妹が、両手に特殊警棒を構えて、さらには背中から蝙蝠っぽい黒翼と、スカートの下から先端がスペード型に尖った黒い尻尾を垂らして、空中を舞いながら戦っている。


 対応するのは、四人の筋肉質の女性看護師ナースさんだ。

 ひとりは昨日までの俺の担当だった身長180㎝ほどの女戦士の女性で、もろにモソハソな巨大な斧を振り回し(なぜ真李は余裕で受け止められるのだ?)、ひとりは190㎝を越える赤ら顔の女性看護師ナースで、こちらは両手に中身の入った一升瓶を抱えて、呑みながら瓶をバットのように振り回している。

 残りふたりもこのふたりに劣らぬ体躯と巨大武器を携えた女性看護師ナースさんであった。


「ああ、大丈夫じゃない? ウチの女性看護師ナース四天王は、この手の怪異には慣れているし、万一怪我しても、自分で治療できるし」

 スマホをタップしながら軽く答える隣の女性看護師ナースさん。

「いや、そういう問題ではないし、というか相手になっているのが俺の義理の妹なのですが……」

 そう指さすと、女性看護師ナースさんは面倒くさそうに、チラッとだけ真李を見て、

「気のせいじゃないの? それかイモウトのことで頭が一杯で、セーラー服の女の子が全部イモウトにみえるだけじゃない。よく考えてみて、あんたのイモウトは悪魔の力を身に着けた、バケモノなわけ?」

「いや真っ直ぐ俺の方を向いて『お義兄ちゃん』と言っているんですが。あと翼と尻尾はコスプレの一種で、空を飛んでいるのはワイヤーか何かで吊ってるんじゃないんですかね?」

 常識的に考えて。

「ああ、SFCって奴ね」

「なんでそこで慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスSFCになるんですか!? 『SF』までは当たってますけど……」

「じゃあSFM?」

「……? Mって何の略です?」

「マガジン」

「あんた知っててボケてるだろう!?」


 喚いたところで、真李たちが乱闘をしている円形のロータリーの手前、台形になった停車場(つまりここのロータリーは上から見ると前方後円墳型になっている)に黒塗りのバンが三台分の駐車スペースを独り占めする番長停めをして、続いて年代物のワーゲンがその鼻先に急停車したかと思うと、バンの中から五、六人のひっとことのお面をかぶって、ほっかむりをした集団がワラワラと出てきた。

 と、同時にワーゲンからひとりの男性が下りてきて、素早く謎の一団の前に立ち塞がった。


「……あれは?」

 お祭り集団と正面から対峙している見覚えのある後姿を目にして、思わず俺が声をかけようとしたところで、

「我々は『銀の黄昏錬金術会(S∴T∴)』である! この病院に隠されている元は我らのものであった『ルルイエ異本』を即座に返還せよ! 30分以内に返還されねば、このフラスコに詰められた宇宙からの病原菌を、この場でばら撒くのである!」

 と、ひょっとこ集団が、何やら白濁した――子供向けのヒーローショーでありがちな、ドライアイスが詰まっただけの――煙が渦巻く丸底フラスコを、これ見よがしに誇示しながら声明を発する。


「そうはさせんぞ、忌まわしき残党どもよ! この私――ノイエナチス『機械人マシナリーズ部隊バタリオンの一員にして、『東方薄暮騎士団(G∴O∴T∴)』に所属する銀の騎士が、貴様らの野望を打ち砕く!」

 そう特徴的なメカニカルボイスで啖呵を切る、この暑いのに顔と同じ金属製の全身プロテクターを纏った、同じアパートの一階に住んでいる井上那智さん。


「おのれ、裏切り者のG∴O∴T∴め! 今日こそ貴様を鉄屑に変えてやろう。いけ、食屍鬼グールどもよっ」

 途端、先頭のフラスコを持った男以外のひょっとこ集団が、身に着けていた仮面とほっかむりを取ると、その下から犬を思わせる顔と、鋭い爪を持った長い手があらわになった。


「「「「ぐがあああああああああああああああっ!」」」」


「ぶっちゃけ、人体改造と薬物投与で、あのくらい逞しくなることは余裕でできる」

 怪物に変貌したひょっとこ集団を一瞥して、女性看護師ナースさんがボソリと怖いことを呟く。

「〝逞しさ”のレベルが違う!」

 もはや覇道を越えた人外ではないか!?


 濁った咆哮を放ちながら、連中がその見た目に反した意外な素早さで、ゴリラのように四足歩行しながら那智さんに襲い掛かる。

「フン!」

 だが、それをさらに上回る速度で回避しながら、那智さんがパンチとキックを繰り出す。

 

 あっちとこっちで獅子奮迅の戦いぶりを見せている、義妹や那智さんの活躍を眺めながら、俺は再度スマホを耳元へ当てて、

「ああ、レクリエーションだろうヒーローショーが行われて、全員がパリピ状態でウェーイやっているだけだ」

『最近は病院でヒーローショーをやるものなの……?』

「地方の病院は経営が大変だっていうからな~」

 破れかぶれでドサ廻りの芸人でも雇っているのだろう。

 那智さんの職業は聞いたことなかったけど、なるほどヒーローショーの主役だとすれば、日頃から警官が制服を着ているように。水戸黄門が印籠を持っているように。幼女が包丁を持っているように。あの格好も理由がつくというものだ。


 いまいちわからんのは、なんで義妹がそのショーに悪役として参加しているのかだが、考えてみれば高三の夏休み中である。フラストレーションが溜まっていても仕方がないかも知れない。変なドラッグや援交に走らなかっただけましだろう。

 もっとも、年賀状とかで見たくもない他人の子供の写真見せられるのと同じで、セーラー服姿の義妹がパンツ丸出しで空中を飛び回っている姿を見せられてもリアクションに困るのだが。


 とりあえず気持ちを切り替えるためにメリーさんとの会話に専念することにした。


「そういえば、例の大会。隅田川――じゃなくて、インクライスフィールド川の河川敷へ場所を変更したんだよな? そこでも野球するのか?」

『このクソ暑いのに、河川敷の砂浜で野球とか、砂漠○野球部なの。た○しい甲子園なの。地獄甲○園なの! まだしもエースが決勝戦で子供を助けようとして、トラックにはねられて異世界転生した話の方がマシなの……!』

「トラックにはねられれば、なんでもかんでも異世界転生すると思うな! あれはその後、双子の兄が弟の代わりに背番号のないエースになって、ヒロインとくっつく感動の物語だろう」

『メリーさん知ってるの。兄が「たくや」なの……!』

「それは違うほうの『タ○チた○ち』だっ!」


 そんな俺たちの内輪話が聞こえたわけでもないだろうが、「そういえば」とローラが折よく〝勇者武闘会”の話題を持ち出した。


『次の試合から競技を選択できるようになったのですよね? 「六人制ビーチバレー」と「バトルロイヤル相撲すもう」の二種目から』


 運営が、単純に砂浜で安上がりにできる競技を選択したという、投げやり感が競技名を聞いただけで漂って来るな……。


「つーか、『六人制ビーチバレー』はまだ理解できるとして、『バトルロイヤル相撲』ってのはなんだ!?」

『あたしメリーさん。お互いのチーム六人がマワシ一丁で土俵に上がって、最後まで残っていた奴がいたチームの勝ちという、宇宙サバイバル編の「力○大会」みたいなものね。メリーさん、なんとなく「身勝手○極意」に目覚められそうな気がするわ……』

「……いろいろとツッコミどころがあるが、いいのかヲイ。女の子が土俵に上がっても?」

 相撲は女人禁制で、最近ではちびっ子相撲でも女の子は立ち入り禁止だろうに。


『あたしメリーさん。もともと相撲なんて見世物なの。だから江戸時代には女相撲や女力士も普通にいたし、座頭相撲ざとうずもうといって盲人同士、場合によっては女力士と戦わせた相撲も普通にあったの……』


 そういえば聞いたことがあるな。基本的に相撲が神格化されたのは、明治天皇が無類の相撲好きだったからであって、それに合わせてお上品にルールを変えて、現代式の相撲になったと。


「――いや、でも、いいのか? お前らマワシ一丁で衆人環視の下で見世物になるとか?!」


 万一、書籍化して、なおかつイラスト指定をされたら、絵師さんがどう誤魔化すんだ!? 夏の紫外線を使った謎の光でも不自然過ぎるだろう!!


『大丈夫なの! 戦いに際して、いちいち格好なんて気にするような初心うぶなネンネは、メリーさんを筆頭に誰もいないの……!』

『『『『気にするし、絶対にイヤ(よ)(ですよ)(だよ)っ!』』』』

 メリーさんの気概を即座に否定するオリーヴ、ローラ、エマ、スズカたち。


『それに今回からルールが改正されて、チームごとに競技を選択することと、対戦相手を指名することが可能になりましたから、ウチとしてはまだしもマシな相手と「六人制ビーチバレー」で試合するのがベストでしょうね……というか、それ以外には参加しません!』

 さらに付け加えられたローラの説明に、「はいはーい!」と、エマが挙手して尋ねる。

『「六人制ビーチバレー」ってどんな競技なの、お姉ちゃん?』

『基本的に普通のバレーボールと同じね。お互いに水着を着て、砂浜に張られたネット越しに相手の陣地にボールを落とせば得点になる形で。普通と違うのはビーチボールが三個いっぺんに使われることと、ネットの長さが通常の二倍なくらいで』

『うわ~、かなり過酷そうですね』げんなりとした口調のスズカが続けて問う。『いま現在、ウチを含めて残っているのは十六組ですよね? もう指名されていたりするんでしょうか?』


 問われたローラが、エプロンのポケットからメモを取り出して確認する気配がする。

「なんか、ローラがマネージャーポジションになっているな」

『ローラよりも年長者なオリーヴは、「無人島にひとつだけ持って行けられる」ランキングで最下位のコ○助よりも役にたってないっていうのに……』

『人をブラックドラゴンと一緒に突き飛ばしておいて、どの口が言うかーっ!』

 激昂するオリーヴを、エマとスズカが揃って宥める間に、ローラがメリーさん相手に対戦相手の説明をするのだった。


『現在のところ、5チームがウチとの対戦を希望しています』

「案外少ないな。幼女に率いられた幼児と少女で構成されたチームとか、格好の狙い目だと思うんだが……」

 そんな俺の疑問に答えるかのように、ローラが続ける。

『やはり第一試合の野放図……フリーダム過ぎるプレイの影響で、他の試合も荒れに荒れたわけですので、大部分のチームから恐れられている……といったところですね』

『フリーダムだかジャスティスだか知らないけど、なんで恐れられているのかしら。メリーさん、何もしてないのに……?』

『『『『…………』』』』

 キョトンとしたメリーさんの無自覚な呟きに、他の四人がモニョる気配がした。


『ちなみに挑戦してきた5チームの内、相撲を指定してきたのは……えーと、勇者ガチ=ロリと聖女ペド=フィリアに率いられた《Sunken Hearth》ですね。ちなみに「sunken hearth」というのは、囲炉裏のことで「ロリを囲む」から来ているそうです』

『物理的にメリーさんが囲まれる予感がヒシヒシとするの……!』

『あと、メンバー全員が美形の男性なのですが、とある理由で女性から敬遠されるという生まれの不幸を嘆く、《アポクリン&エクリン戦隊》も相撲で――』

『名前からして腋臭ワキガと汗臭さが半端ないの……!』

『それと全身にオリハルコンの鎧をまとっている割りに、毎回、素っ裸で戦う「勇者マッスル」が率いる《マッスル&チェリーボーイズ》もやはり相撲で――』

『『『絶対に(よ)(だよ)(です)!!』』』

 下手をすれば、土俵上がノクターンかハーメルンになりそうな試合展開を予想して、これまで黙って聞き耳を立てていたメリーさん以外の全員が、息を合わせて拒絶した。


『――と、なると、やはりビーチバレーですね』

 当然という口調で淡々と事務手続きを続けるローラに、オリーヴが苦言を呈する。

『ビーチバレーってことは、上下セパレートの水着を着てプレイすることになるんだけど、ローラは恥ずかしくないわけ?』

『マワシよりはマシです。それに野球のユニフォームも似たようなものでしたし』


 現実を前に妥協するローラ。

「あれだよな。最初に高いハードルを見せられて、それから多少はマシなのを前にして、これならば……と、妥協させる戦術だな。信長が最初に北の二之宮山に城を造ろうとして、遠いのと山の上なのを理由に家臣から反対されて、妥協した風に見せかけて当初から目論んでいた小牧山に城を造ったのと似たようなもんだ」

『あたしメリーさん。それって最初に呂布Lv100を見た後で、関羽Lv98を見て、「関羽クソ雑魚じゃん。余裕でワンパンじゃん」といって向かっていくのと同じ心理かしら……?』


 うん。だいたい合ってる。


「ぶっちゃけお前らのレベルっていまどのくらいだ?」

『えーと、メリーさんが一番高くて――』


 ・メリーさん そよかぜ終身名誉女神人形(女) Lv41

 ・職業:勇者兼賢者(笑)

 ・HP:7(79) MP:6(68) SP:6(62)

 ・筋力:2(29) 知能:0.1(1) 耐久:3(36) 精神:3(39) 敏捷:3(35) 幸運SAN値:-666 

 ・スキル:霊界通信。無限全種類包丁。攻撃耐性2。異常状態耐性2。剣術5。牛乳魔術2。邪神魔術3。

 ・奥義:包丁乱舞(MAX)

 ・装備:ダブル釦セーラーブラウス(ワイン色リボン)。ダブルサスペンダー付きフレアスカート(紺)。リボンカチューシャ(赤)。レースのソックス(白)。ラバーソールシューズ(赤)。殲滅型機動重甲冑(携帯)。妖聖剣|煌帝Ⅱ《こーてーツー》。邪神器|偉大なる深淵の主《ノーデンスのトンカチ》。

 ・資格:壱拾番撃滅ヒトマカセ流剣術免許皆伝(通信講座)。ドラゴンを撃退した者。クラーケンを食べた者。魔王をある意味斃した者。魔族の天敵関わるな危険。理不尽の塊。

 ・加護:●纊aU●神の加護【纊aUヲgウユBニnォbj2)M悁EjSx岻`k)WヲマRフ0_M)ーWソ醢カa坥ミフ}イウナFマ】

 ・呪詛:ノーデンスの呪詛【偉大なる深淵の主ノーデンスの呪いにより、すべてのステータスが本来の1/10となっている】


「前より弱体化してるじゃねーか!!」


 以前は仮にもレベル100超えてたよな!? ループした影響か?! その割に邪神ノーデンスの呪いはしっかり受け継いでいるんだが、地上界での出来事はリセットされるけど、神界での事象は持ち越しのウン●仕様か、おい。まるでキムチパーティが失敗して、データと一緒に会社が吹っ飛んだMMORPGみたいだな。


『他のメンバーは、ジリオラとイニャスが一桁台で、残りはだいたいLv25前後なの……』

「ちなみに対戦相手のレベルは?」

『平均Lv50前後くらいかしら……?』

「……お前ら、よく一回戦を勝ち抜けたな」

 まあレベルなんて一定の目安であり、スキルが噛み合ったり、油断を突いたりすれば、勝てるのかも知れないけど。


『あたしメリーさん。レベルなんて超○強度と同じで意味がないの。それにメリーさんたちは、お互いに熱い友情で結ばれたそのチームワークで勝ち進んできたの……』

 ああ、あの目覚めると逆に弱くなると定評のある友情ぱぅあーか。

『その証拠にメリーさんたち息もピッタリで、ロールシャッハ・テストでは、全員が「鼻水」って答えたの……』


 比較的、常識人枠だと思っていたローラやスズカも、どうやら潜在的には犯罪者だったらしい。


『う~ん、そう考えるとビーチバレー一択かぁ』

 ローラの説明に納得するオリーヴの呻吟する声が聞こえた。


『ちなみに水着は全員同じビキニなの。炎天下の河川敷で滝汗を流す、幼女からAA(スズカ)、B(エマ)、C(ローラ)、D(オリーヴ)カップの双房祭り。まるでパイオツの宝石箱や! ビーチクバレーで観衆の視線を釘付けなの……!』

 コイツメリーさん、ドサクサ紛れにトップレスバレーにする気満々だな……。


『幸いにして、ビーチバレーでの競技を挑んできたチームふたつは、メンバーのそのほとんどが女性ですし』

『華やかな試合になりそうだねっ』

『う、そ、そうですね……』


 無邪気に喜んでいるエマに対して、胸囲の格差社会におけるヒエラルキーが低いスズカが、微妙に歯切れ悪く同意する。

 いやいや、ちっぱいに萌える層も一定数いるもんだぞ。


『ちなみに最初に対戦を希望してきたのは、リーダー以外が全員うら若き女性で構成された〝王国華劇団”ですね。モットーが「私たちは私たちの正義のために戦います。たとえそれが命がけの戦いであっても、私たちは決して挫けません。それが王国華劇団なのです!」というものです』

『熱いわね~』


 いかにも勇者といった崇高にして強靭なモットーを前に、オリーヴが呆れとも感心ともつかない口調で相槌を打つ。


『そうですね、実際に彼女たちの活動も精力的で、王政の打倒をスローガンに、爆弾や火炎瓶、ゲバ棒などで官公庁や貴族を狙うというもので――』

「過激派じゃねーか!」

『それが彼女たちの唱える「正義」らしいです』

 俺のツッコミに応えたわけではないだろうが、ローラがそう締める。


『それのどこが正義なわけなの?』

 エマの当然の疑問に対して、

『あたしメリーさん。茶川龍之介も言ってるの、「正義は武器と同じで金を出しさえすれば、誰にでも買われる。正義も理屈をつければ、誰でも持てる」というの……』

『なるほど』

「茶川でなくて芥川な」

 感心するエマと、念のために間違いを訂正する俺。


『同じようなことわざで「理屈と膏薬はどこへでも付く」ってのもありますよね~』

 スズカの同意の言葉に、メリーさんが大きく頷きながら、

『その通りなの。だから正義と平和のために戦っているメリーさんの行いも、もしかかすると世間からは誤解されている可能性もあるの……』

『『『『「…………」』』』』

 いや、俺を含めた身内全員が、メリーさんには一欠けらの正義もないと思っているのだが。


『……まあそのようなわけで、当然、連中の狙いは王族であるイニャス殿下とジリオラ公女でしょうね。実際、一回戦の野球でもボールに仕込んだ爆弾や、ダイナマイトを使った特攻などで多数の死傷者を出しながらも、勝ち進んだわけですから』

 付け加えられたローラの説明に、

『許せないの! 健全なスポーツに暴力や反則まがいの行為をして勝つなんて卑怯なの。暴力に頼る人間は最低なの……!』

 自分の行いは、遥か高層ビルの屋上に置いておいて、憤りをあらわにするメリーさん。


 いつもの事なので他の面子はこの妄言を無視して、難しい顔で意見を交わす。

『そうなると、下手したら……というか、まず間違いなく、お互いに爆発するボールを使ってのリアル・ボ○バーマン……殺人バレーになるわね』

『ええ、はら○いらさんに三千点賭けてもいいくらい鉄板です」


『BTO●OM!』展開を危惧するオリーヴに、スズカも同意する。


『やはりそうなりますね。では、こことの交戦は可能な限り回避する方針で、そうなると残るは1チームだけですが……』

 微妙に歯切れの悪い姉の口調に、エマが小首を傾げた。

『そっちも危ないチームなの、お姉ちゃん? 全員アマゾネスみたいな感じで、でっかい斧とか剣とか常に持っている感じで』


「うらあああああああああああああああああっ!!」

 ちょうどその瞬間、こちら側では、女戦士のような女性看護師ナースさんが斧を空振りした――と、見せかけて近接格闘クロース・クオーターズ・コンバット(CQC)に切り替えたらしい。

 剛腕から放たれたラリアートが軽々と真李を吹き飛ばし、飛ばされた真李の体が乱戦中の那智さんたちを巻き込んで、一直線に病院の周りを囲むコンクリート製の塀に激突。

 長○茂雄パンチを食らった番○蛮のように、一発でコンクリートの壁をぶち抜いた。

 

 発泡スチロールかなにかで事前に準備してたのかね、と思いながらエマの台詞から連想される、異世界の強靭な女戦士を想像したのだが、ローラの返答は若干予想を外れていた。


『違うわ。見た目に関しては、全員が七歳から三歳くらいの幼女に見える……らしいの』

『幼女勇者ですか?』

 メリーさん以外に、一周目にそんなキャラいたかな? と怪訝にスズカが聞き返す。

『う~~ん、ウチと違って「勇者ご主人様に率いられたパーティ」ではなくて、「その全員を集めて勇者級」と認められたチームみたいなんだけど』

『ふっ、〝全にして個、個にして全”なる存在のようね』

 知ったかぶりをするオリーヴ。

『近いかも知れませんね。なにしろ相手は《人形族》ですから』

 あっさり肯定するローラ。


『『人形族……!?』』


 愕然とオリーヴとスズカがメリーさんを凝視するも、長々とした解説に飽きていたメリーさんは、エマと一緒に近くの藪で小妖精フェアリーを捕まえて遊んでいた。


『甲虫型小妖精フェアリーGETなの……』

『あー、甲虫型はメスでも人気ないんですよね。なんか台所のアレを連想させるので』


『――って、ちゃんと会話に参加しなさいよ! 《人形族》よ《人形族》! アンタの同類よ』

 噛みつくオリーヴに対して、

「いや、人形族ってなんだよ?」

 俺の素朴な疑問をメリーさんを通じて確認させたところによれば、


・獣から人間に進化したのが獣人である。

・異世界では様々な生物や魔物が知性を持って、人化したものを亜人と呼んでいる。

・同じように人形が人間のように進化したのが《人形族》である。


「いやいや! センテンスの最後に論理が飛躍しているぞ!!」

 進化論で有名なダーウィンとラマルク、ド=フリースが聞いたら、三人四脚で助走をつけて殴りに来るレベルだ。


『同類と言われても、メリーさんの知り合いの人形って、ピノキオとN○K教育放送感ある、ハニワの王子くらいしか知らないの……』

『えっ、あのどっちも有名な!?』

 メリーさんの意外な人脈(?)に、スズカが驚愕の声を上げる。

『ん~? ピノキオって最後に普通の子供になったんじゃなかったの? まあ、アンタメリーさんも人形要素ゼロだけど』

『メリーさんは人形はやめたから別にどーでもいいの。あと、メリーさんの知っているピノキオは、正確にはゼペット爺が晩年に半分ボケて作った二号……ピノキオ二世なの』

『二世なんていたの!? 初代と同じなわけ?』


 意外な逸話にオリーヴが目を丸くする。


『基本的に同じだけど、嘘をつくと鼻が伸びる初代と違って、二世はエッチな妄想をすると、股間がグングンと伸びる仕様なの。最長で13km。音速の500倍で伸縮するという……』

『『『『どんな意味のある仕様(なわけ)(なんですか)(なの)!?!』』』』

『所詮はボケ老人が作ったものなの。噂では、その後二世はなかったことにして、どっかで作った人形を勝手にピノキオ後継機と謳ったらしいけど、メリーさんは認めていないの。だいたい本家が二世を創作したのに、無関係の第三者が二世をなかったことにして、勝手に『W』とか名乗って正当続編面するのが、メリーさん許せないの……!』


 途中から別の話に置き換わっているいるぞ!


『そうなると、別にご主人様はこの《人形族》に含むものはない……ということであれば、対戦相手はこの《アポ・メーカネース・テオス》とのビーチバレーでよろしいでしょうか?』

『メリーさんは問題ないの。その〝あほ・メーカー・でやんす”とやらで……』


 そうメリーさんが気軽に承諾するのと同時に、

『《アポ・メーカネース・テオス》よ! ラテン語でいうところの「デウス・エクス・マキナ」を意味する本来の原典であるギリシア語からとったもの。そのくらい知ってなさい』

 幼い……微妙に硬質な幼女の声が聞こえ、

『人形!?』と、警戒するローラ。

『ひい……ふう…みぃ……六体?』と、素早く相手の数をチェックするエマ。

『『ゲーッ、喋る人形!?』』

 なぜか驚愕するオリーヴとスズカ。


 一方メリーさんは、捕まえた小妖精フェアリーの尻に、一心不乱にストローを差し込んでいた。

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