第50話 あたしメリーさん。いま小妖精たちと歌うの……。

八月近くになって、田舎の親父から帰省を促す電話があった。


『お盆前に一度帰って来い。真李まいも寂しがっているぞ。お前が東京に行ってから、毎日、お前の部屋に入り浸って、掃除とかしとるようだし』

「キモっ! 勝手に入れるなよ、親父! 俺が帰るまで誰も入れないように言って、鍵も変えておいたはずだろう!?」


 途端、俺の脳内で《セントラルドグマに使徒侵入っ!!!》という警報が最大で鳴り響く。


『別に構わんだろう、義理とはいえ兄妹なんだし。ああ、それと爺さんと婆さん親父とお袋から、最近田んぼを荒らす害獣がうっとおしいんで、駆除するのを手伝ってくれって言ってので、帰ったら頼むわ』

「害獣? いつもの川から上がってキュウリを食っていくサル……じゃなくて?」

『似ているが違うらしい。キュウリどころか家畜を襲って血を啜るチュパ……なんとかいう外国産のサルらしいな』


 いまはいないが、七月頃までフィールドワークで田舎のペンションに泊まっていた民俗学者で、自称霊能者だか冷凍車だとか名乗っていた、黒髪で20代半ば程の『サトウユキコ』とかいう女性(巨乳美女)が、教えてくれたらしい。


「あぁ、いま問題になっている〝侵略的外来種”って奴か。最近はアライグマやアリゲーターとかが増えてるらしいけど、そのチュッパ○ャップスとやらも、どっかの馬鹿が飼っていたペットを捨てて、いつの間にか繁殖したんだろうなァ」

 傍迷惑な話である。


 まあ、親父の話では血を吸うっていっても、所詮はサル。大の大人がある程度武装していれば――腕に覚えのある男なら素手でも――問題なく駆除できるらしい。

 実際、熊やサルやイノシシ相手に百戦錬磨のウチの爺ちゃん(俺より身長で25㎝大きい2m10㎝。体重で倍の145㎏)が、田んぼの代掻きの合間に襲ってきた奴ら相手に、愛馬である農耕馬の『黒邑こくおう号』(ペルシュロンという馬種で、体高2m、重種が1,000kgを越える)の馬上から、持っていた鍬と素手とで一掃したらしい。


 嘘か本当か、爺さんは若い頃――20世紀末あたりで、周辺の地区の顔役として部下を従え、敵対する部落や息のかかった暴力組織の壊滅などを、日常茶飯事に行って――ハシャいでいたとのこと。


 もっともその後は別人のように落ち着いて――噂ではいまの奥さんである祖母に、脳天杭打ちパイルドライバーをかけられて頭を打って以降――ごくごく平凡な農家として、慎ましい生活をしているんだが、腕っぷしの方は相変わらずのようだ。

 なお、婆ちゃんはいまでもパートで働いているので、日中は農業の手伝いはしていない。

 田舎の数少ない観光名所である湖のほとりにある農家レストランで働いている、上品な初老の女性であるが、なぜか13日の金曜日になると、変なお面をかぶって、突然いなくなることがある。


「一掃したんだったら問題ないだろう?」

『いや、あくまで一部みたいで、どうも山の中で数が増えてるらしい。うちはともかく、隣近所までは手が回らんそうだ。ちょっと手伝ってやってくれ』

「面倒だな~。爺ちゃんもいい加減、この時代に馬で農作業なんかしないで、ハイテク農業機械とか使えばいいのに……」

 思わずボヤく俺。


 最近は自分で判断したり、スマホで操作もできるロボット農機具もあるのに――なおロボットといっても、あの「いらっしゃーませー。受付はこちらです」と、くっちゃべる、は○寿司でしか役に立たないロボットが操縦するわけではない――極力省力化を進めようと思えば進められるのだが、そう言っても昔気質の田舎者には通じないだろう。


『それと、母さんもお前が都会に出てトラブルに巻き込まれていないか、悪い連中と付き合っているんじゃないかと心配しとるようだし、とにかく一度帰って来い』

「…………」

 すまない父さん。生憎とトラブルには異次元の角度から年中巻き込まれているし、悪い仲間はともかく、問題のある知人や隣人はてんこ盛りだ。


「……わかったわーった。帰ったら速攻、部屋の鍵を変えて合鍵も作らないので、なにがあっても真李あれを部屋に入れないでくれよ」

 そう念を押す俺に『わかったわかった』と、ウォシュレットに付いてる「リズム」とかいうボタン並みに、どーでもいい返事をして電話を切る親父。


 ということで――。

 予算の都合で新幹線ではなく、在来線の快速を使って自宅へ戻ることになったのだが……。


「また停車かよ……」

 なにしろ田舎だと上り下りで線路が一本ずつ、下手をすれば一本しかないので、通勤通学の普通列車が発車するまで、時刻表の関係で駅で足止めされること、これで三回目であった。

 おまけに快速とは名ばかりで、思った以上にトロくさく。さらには停車時間も長いときている。都会のテンポに慣れていた俺にとってはこの上ない苦行だ。


 これならいっそ、移動時間中はほとんど寝ているだけの寝台車付きの夜行列車で帰ったほうが良かったかも知れないが、最近は寝台車の需要が少ないのか、JRの旅行案内サイトに『ひと夏の経験。朝起きると寝台の中で裸の車掌(55歳。妻子ありのオヤジ)が添い寝しながら、にっこり微笑むサービス付き』という、斜め上のサービスを提供する一文いちぶんがあったため、速攻で棄却して早目に出発する快速にしたのだ。だが……。


「……暇だ」

 暇つぶしに読んでいたJRのパンフレットを戻して、独り言ちる俺。


 さすがに首都圏の鉄道のように『座った瞬間、乗客全員が一斉にスマートフォンに目を向ける』と、いう旅情もへったくれもない光景は車内に広がってはいないものの、

『つり革を両手で二つ確保して、懸垂に汗を流すタンクトップ一丁の男』

『出張らしい、床に土下座させた部下に、出発から延々と説教している上司』

『「諸君、私は戦争が好きだ!」と通路の真ん中で一席ぶっている野郎』

『パソコンを開いて、ヘッドホンなしで一心不乱にエロゲーをしている中年オヤジ』

『ヒマな夏休みの過ごし方について、旅行先をダーツ投げで決めている女大生二人組』

『席を四つ確保して車座になり、高三の娘の進路について、赤裸々マストな家族会議をしている一家』

 といった反応に困る乗客や、インタホンが鳴る度に「はーい」という謎の声が聞こえる車内放送。


 さらには、【JRからのお知らせ――】として、進行方向側の正面に付けられた表示灯が警告する、

【列車内における痴漢やスリ・置引などは犯罪です。発見した場合には、即座に鉄道警察が身柄を確保した上で、女性の場合は浸猪籠(※中国の昔の刑罰。犯罪者を豚用の籠に放り込み、出入り口を縛って川などに浸す。軽犯罪者は頭部を露出させしばらく浸からせるが、重犯罪者は頭まで沈ませ死ぬまで放置する)を、男性の場合は、ホモの乗務員三名と車内個室に六時間籠っていただきます。】

 という、想像するだけでも脂汗が流れる罰則規定の苛烈さに、いまさらながら夏休みのこの時期、この電車に乗ったことに激しく後悔するのだった。


 ――これだから田舎へ帰る電車は嫌なんだよな。


 裸の王様って話では、子供が「王様は裸だ!」と看破したことになっているが、村社会の延長である田舎では、偉い人や周りが「馬鹿には見えない服を着ている」と認めている以上、それに対して変と言うなど言語道断。

 逆に奇人として排斥されるのが田舎である。だから変だと思っても表立っては口には出さない。価値観がガラパゴス化している、いわば某加速世界のような、女がデブ専しかいないヤバい世界のようなもの。それが田舎という魔界だ。


 そういうことで、なるべく嫌な現実を目にしないように、いい加減に見飽きた外の光景に目をやる。


 田んぼ・田んぼ・川・家・田んぼ・山・山・田んぼ・家・家・田んぼ


 だいたいがこのパターンで、たまに変わった広告や、田んぼや川向こうなどで、全身が白い人影みたいなのが、くねくね体操をしていたりする光景が見えるくらいだった。


 なお、俺には詳細がよく見えなかったのだが、双眼鏡で外を見ていた俺の前の席に座っていた男性は、くねくねに触発されたのか、突然「けけけけけけっ!」と笑いながら立ち上がって、その場でくねくね体操をおっぱじめた。


 ――ああ、また傍迷惑な客が増えたな……。


 諦観とともに目を逸らせた俺の視線の先――窓のすぐ傍らを、いつの間に並走していたのか。100㎞以上で走る快速列車と、余裕でジョギングする健脚な老婆がいて、俺と目が合った。

 ニヤリと皺だらけの顔を歪めてわらう老婆。


 俺は思わず目を丸くして、

「おおっ、婆さん凄いな。クリストファー・リーヴ主演の『スー○゜ーマン』の一場面か、勇者王な鋼のサイボーグ並みの脚力じゃねーか! さすがは田舎だけのことはある。都会人とは足腰が違う! けど暑いから熱中症には気を付けた方がいいっすよ」

 惜しみない称賛の言葉とともに、窓を開けて給水のため、持っていたスポーツドリンクと塩アメを手渡そうとした……ところで、列車がトンネルに入り、俺の方へ手を伸ばして脇見をしていた老婆が――。


「――ふぎゃああああああああああああああああああああああああああっ!!!」


 たちまちトンネルの入り口とともに消え去った。

「わー……」

 大惨事――い、いや、多分ギリギリ避けたんだろう……。何かが高速でトンネルのある山肌にぶつかったかのような爆裂音が、遅れて聞こえたような気がしたけれど、どっかで花火大会を知らせる号砲でも打ち上げたに違いない。


 嫌なことを忘れるために、トンネルを出たところで、再び眼前に広がる緑と青い空、白い雲、なざか空を飛んでいるスパゲティを視界に収め、そういえば田舎のドライブインにはうどんの自販機が高確率で置いてあるんだよなー、と、謎の郷愁に浸りながら、

「……田舎は相変わらずだなぁ」

 俺はそう呟いた。


 そこへ折よく、メリーさんから電話が入った。

 よかった。これで車内も車外も問題ドバドバな環境から目を背けられる。

『あたしメリーさん。あら……? なんかいつもと周りの雑音が違うわね……?』

 相変わらず妙な勘が鋭いな。

「ああ、いま実家に帰省するのに電車に乗っているからな」

『むう、電車なの。ということは……まさか、蝶ネクタイに眼鏡をかけた小学生と一緒の電車に乗ってないでしょうね? 絶対に連続殺人事件に巻き込まれて、時刻表片手に西村○太郎トラベルミステリーみたいな状況に陥るから……』

「ないないっ。ごく普通……(?)の帰省列車だ。電車に乗るたび事件があってたまるか!」


 せいぜいこの間、都内で電車に乗っていた時に、質の悪い酔っ払いに絡まれていた若い女性を助けたくらいが関の山だ。

 ちなみに連絡先を教えたところ、後日、アパートにくだんの女性から『ヘルメス』と刻印されたティーカップが、お礼として宅配便で届いたのだが、礼の電話くらいするべきだろうか?


『あたしメリーさん。まさかと思うけど、そのことをネット掲示板で相談して、食事に誘ったりしてないでしょうね……?』

「んなプライベートな情報を、誰が見るかわからないネットにさらすわけがないだろう! まあ、高そうなカップだったし、貰いっ放しも悪いから、お礼返しに何か土産でも送ろうかと思っているけど、信楽焼のタヌキと木彫りの熊とどっちがいいと思う?」

『メリーさん、あなたが相変わらず無自覚に、フラグをベキベキへし折っているようで安心したの……』


 どーいう意味だ?


『あと、実家に帰るってことは、あの悪魔な義妹がいるってことなので、貞操には十分に注意するの……! 義妹と幼馴染は約束された負けヒロインとはいえ、あざとく風呂場で全裸待機していて、「いや~ん、お義兄ちゃんのエッチ♪」イベントを起こして、好感度を上げようとしようとするかも知れないので注意が必要なの! どこぞのラスボスなら、健康状態を維持した上で、文系・理系・芸術・運動130以上、雑学120以上、容姿・根性100以上で、8回以上デートして、なおかつ好感度が175以上必要だけど、妹キャラは最初から好感度が高くてイージーなの……』

「なんの話だ!? つーか、血のつながりがないっても妹だぞ。仮に浴場でばったり会ったとしても、欲情したりはしないぞ。浴場だけにな」

『あたしメリーさん。親父ギャグを言う人間は、脳のブレーキが利かなくなっているそうなの……』

「アクセル踏みっぱなしのお前にディスられる謂れはない!」


 はぁー、やれやれ……という口調でトリビアを口にするメリーさんを一喝する俺。


「とにかく。俺としては義妹は異性としては見られん! 身内だ」

『それを聞いて安心したの。真李アレも大人の階段上らない、シンデレラにもなれないようでご愁傷様だけど、あっちの方は別な気がするけど……?』


 そーなんだよなー。洒落抜きで「お義兄ちゃんと結婚するの!」と連呼して、田舎にいた時は毎朝、俺の設置したトラップもものともせず(一度、熊が引っかかって死んでいた)、窓から俺の部屋に侵入してきて、ミニスカートにパンツ丸出しで「お義兄ちゃん起きて~♪」と、朝の四時から寝ている俺の布団の上でコサックダンス踊っていたからなぁ……。

 俺って割と早起きで人の気配にも敏感なんだけど、なんでアイツの接近にだけは気付かないんだろうか? 他の一族なら、近付くと血の共鳴で居場所がわかるんだが。


「……正直、いまから頭が痛いな」

『あたしメリーさん。だったら名案があるの……』

「ほう?」

 その意見は自動的に棄却する前提で、適当な相槌を打つ。

『メリーさんとの婚姻届けにお互いのハンコを捺せば、それで全部ズバッと見参、ズバッと解決なの……!』


 その意見は全身に11発の銃弾を食らって死んだ親友のかたきを討つため、誰が犯人かわからないから、とりあえず『日本中の悪党をしらみつぶしに全員ボコる』くらいの頭の悪――無茶な提案だな。


「あー、まあ、一考の余地はあるけど、そもそもお前、いま異世界にいるんだろう。おまけにイベントの最中だし」

 アホな子供は適当に誤魔化すに限る。


『それはなんだけど、一時中止なの。で、手持ち無沙汰だったから、いま普通に冒険者ギルドで受けた狩猟クエストを終わらせて、街に戻ってきたところなの……』

「クエスト? お前、〝勇者野球大会”の予選に出場中じゃなかったのか?」

『〝勇者野球大会”じゃなくて〝勇者武闘会”なの。英語でいうグレープなの……』

「それは葡萄だ」


 で、まあ話を聞いてみれば、野球大会は東京都高等学校野球大会兼関東地区高等学校野球大会出場校決定戦並みの112組が出場して、一回戦が終わるまで二週間かかったのは予定通りだが、当然のような流れで生きている(もしくは軽傷の)参加チームが16組まで激減し、ナカジマ氏自慢の光子園こうしえん球場と行楽園こうらくえん球場、ついでに隣接する年増園としまえんも壊滅し、ナカジマ氏も破産して行方をくらませたそうだ。


 なお、差し押さえられた屋敷の執務室の机の上には、

【はたたたたたたたんたたたたたにたたたたたたたたたたたたんたたたたたたたたたたたはたたたたたたためたたたたたりたたたたたたたたたーたたたたたたさたたたたたたたたたんたたた。(ヒント:タヌキ)】

 という謎の置手紙があったとのこと。


「スポンサーのナカジマ氏も気の毒に……」

『まったくなの。メリーさんたちが普通に野球やったくらいで壊れる球場なんて、欠陥なの。手抜き工事に違いないの……』

『『『『…………』』』』

 なんだろう。メリーさんの背後でオリーヴたちが、何か言いたげな雰囲気を醸し出しているような気がするんだが……。


 そんなわけで今後の大会の運営や競技の再検討が必要になったため、手持ち無沙汰になったメリーさんたちは冒険者ギルドでクエストを受けて、メリーさん、オリーヴ、ローラ、エマ、スズカという固定メンバーで街の外へ出て、目的の珍獣を捕まえて戻ってきたところであるそうである。


 基本的に珍獣枠であるメリーさんが捕まえてきた珍獣ってなんだと思ったら、身長10㎝ほどの小人に羽の生えた小妖精ピクシーを、虫籠に入れて捕まえてきたらしい。


『フェリーテールなの。ミ○ロイドSなの。バイ○トンウェルなの。コイツら普段は警戒心が高い上に、キ○アかどっかのテニス部の中学生並みの超スピードで動くらしいので、一般人には「まったく見えない……」というヤムチャ視点になるんだけど、ガンガンに暑くなりそうな日の夜明け前の朝露が消える前に、幼女が頭に四葉のクローバーを乗っけて、歌いながら草原に行くと、フラフラと現れる習性があるから、捕獲は楽だったの……』

 ということで、メリーさんと幼女に化けたスズカとで、自慢の喉を披露したところ、誘い込まれてやってきた数匹を、網を持って待ち構えていたオリーヴたちが捕獲したそうだ。


『……まさか、あんな卑猥な「ゆうべ父ちゃんと寝たときにー、変なところに芋があるっ♪ 父ちゃんこの芋何の芋~?(ソレ※合いの手)♪」とかの聞くに堪えない猥歌で、やってくるほど小妖精ピクシーがボンクラだったなんて……』


 延々と朝っぱらから、引き続き『母ちゃん、兄ちゃん、姉ちゃん、爺ちゃん、婆ちゃん』バージョンまで延々と聞かせられたオリーヴが、色々と個人的な幻想が破れた口調で、苦々しく合いの手を入れる。

 それに合わせて、

『♪ボンクラはみんな生きている。生きているから歌うんだ~♪』

 と、適当な歌を歌うメリーさん。


『そうですよ、歌といえば名古屋国の国歌である、「名古屋○ええよ! やっ○かめ」を歌ってこそですよ!』

 といってスズカが朗々と東京や大阪を大いにDisる、謎の歌を歌って対抗する。

『……これはこれで、別ベクトルでご主人様の歌と同等に狂ってますね』

 ローラも閉口した様子で感想を口に出す。


『それにしても、依頼では女の子の小妖精ピクシーを観賞用に捕まえてくれば、一匹あたり三万A・Cアーカムですから、結構、いい稼ぎでしたよねー』

 ウキウキと虫籠を覗き込んで(そういう気配で)、クエストの成果を語るエマ。


 一匹三万か。黒いダイヤと呼ばれる国産オオクワガタの80mm超え並みの価格だな(田舎じゃ基本的に、夜中に街灯やコンビニに集まる虫けら扱いなので、わざわざ捕獲しようという地元民はいないが)。


『半分はオスだから換金対象にはならないですけど、こっちは逃がすんですか?』

 スズカがそう問いかけると、

『え? あたしたち子供の頃は、捕まえた小妖精ピクシーのオスは、ダーツの的にしたり、肛門からストローで空気を注いだり、爆竹詰めて遊んでたけど?』

『…………』

 のほほーんと答えるエマの言葉に、ショックを受けた様子のスズカ。


 ‥‥…そーか。小妖精ピクシーのオスって、異世界キッズに残酷レジャーとして爆破される哀れな存在だったのか。


 ドン引きしているオリーヴとスズカが重い足どりで。メリーさんとローラ、エマが意気揚々と冒険者ギルドに戻ったところで、待ち構えていたらしいギルド職員に呼び止められた。


『あ、勇者メリーさん一行ですね? 先ほど王城からお達しがありまして、〝勇者武闘会”の続きにつきまして、8月の頭から残った16組によるトーナメント戦が行われることになりました。場所は、インクライスフィールド川の河川敷です』

『なんかいきなりショボくなったの!? まるでジ○ーズかイ○デペンデンス・デ○の続編並みのガッカリ感なの……!』


 愕然とするメリーさんだが、国としてもこれ以上の施設の破壊は看過し得なかったのだろう。

 そう納得したところで、不意に緊急車内放送のメロディーが流れ――。


『我々はPFLPと日本赤軍の混成部隊である「亜細亜アジアあけぼの」である! この機は我々が完全に掌握した。運転手、乗客の命が惜しくば、このままアフガニスタンのカンダハールへ向かえっ!』

『無茶だ~~~~っ!!!』

 運転手の真っ当な叫びに続いて、威嚇らしい銃声と猫の鳴き声が聞こえてきた。

『拒否するというなら、この猫マシンガンが火を噴くぞっ!』


 しばしの空白を置いて、

『わ、わかった。やってみよう……』

 運転手の苦渋の決断の声が響く。いや、どうやって列車でアフガニスタンまで行くつもりだ!?


「列車ジャックだーーーっ!!!」

「きゃーっ!」

「イヤ~~~ッ!!」


 周囲では事態を理解した乗客たちがパニックになるのを眺めながら、俺は果たして実家に帰省できるのかと、にわかに不安になるのだった。

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