第44話 あたしメリーさん。いまPTメンバーが全滅したの……。

 正月である。

 帰省してゴロゴロできたのも元旦だけで、二日目は親戚回りで爺ちゃん婆ちゃん大伯父(大叔父)大伯母(大叔母)、伯父(叔父)伯母(叔母)、従兄弟いとこ(従姉妹)、再従兄弟はとこ(再従姉妹)、又従兄弟またいとこ(又従姉妹)、二従兄弟ふたいとこ(二従姉妹)、義理の……という、田舎ならではの訳の分からん人間関係を、親父に合わせて適当に挨拶をして過ごし……だが、相手の方は、

「ああ、へー君か! 大きくなったな~。へー君、いま何年生だ?」

 とか、一方的に知っているので、いいカモとばかりに話題の肴にされるという苦行を科せられるのだった。あと、子供の頃のあだ名を連呼するな!


 おまけに今年から大学生で成人ということで、お年玉をもらえる数も激減してしまった(18歳成人なんて大っ嫌いだ!)。


 あと、ついでに親戚の子供の相手をさせられ、俺を「おにいちゃん!」と慕う『義妹いとこ可愛らしいあざとい』の法則に当てはまる、エロゲ―のキャラのような隣に住む高校生の従妹に、パンツ丸出しで夜討ち朝駆けを受けるわ、親戚の集まりで引きこもりの姉を持った(よくわからん血縁関係の)妹の愚痴を、延々と聞かせられたり――。

「うちの姉とは子供の頃は姉妹でわりと仲良く遊んでいたんだけど、ある日を境に部屋からほとんど出てこなくなっちゃって……」

 ちなみに姉妹はふたりとも二十歳前後で、妹の方は高卒で働いているらしい。

「どのくらい引きこもっているかっていえば、ほら、私たちの両親って子供の頃に事故でなくしているでしょう?(知らんがな) その両親のお葬式にも顔を出さなかったくらいなのよ、姉は!」

 そう言ってため息をつく妹さん。

「いや、そんなヘビーな相談を社会にすら出ていない若造に持ち掛けられても返答のしようがないんだが……」

 そう真っ当に返しても、自分語りで酔っているのか、軽くスルーされた。

「去年だったかしら、姉が成人式を迎えて、久しぶりに顔を合わせたんだけど、その機会に私が結婚したい相手がいるって姉に伝えたら、姉は突如怒り狂って家を飛び出して、そのまま山奥に引きこもって帰ってこなくなっちゃって……」

「いや、それマジで大事おおごとじゃないのか!?」

 山奥で若い女性がひとりで引きこもっているとか、死ぬぞ!

「姉と仲良くしたいし、やっぱり迎えに行った方がいいのかな? ――あ、噂では姉は元気にしてるみたいよ。なんか雪だるまを作っては、話し相手にしているようなんだけど……」

「それ、どこの『ア〇と雪の女王』の話だ!?!」

 もう、ありのままに気持ちを伝えろよ!


 つーわけで、まったく気が休まる暇がなかったので、正月三日明けには早々にアパートに戻って、ろくすっぽ自宅では確認できなかった年賀状のチェックを、アパートの住所宛に届いていた分と合わせて行うことにしたのだった。


「……えーと、『結婚しました』って、高校の時のオールドミス(推定45歳)と同級生の野中(19歳)じゃないか!? おまけに野中、写真の中でめっちゃやつれているし……何をされた?!」

 満面の笑みを浮かべる元教師と、この世の終わりのような顔で虚ろに写っている野中の、写真付き年賀状を確認して思わずツッコミを入れる俺。

 くそっ、こんなことなら地元で聞いておけばよかった。

 いや、なんでか知らんけど、正月に顔を合わせた友人たちが、揃いも揃って、

「年賀状に心霊写真なんぞ送ってよこすんじゃねえよ! まともに直視した何人かが発狂したぞっ!」

 と、理不尽な暴言を吐いたので、ろくすっぽ話にならなかったんだよなぁ。


 ちなみに俺も写真付き年賀状を送った。

 年末にアパートの庭で撮ったものを添付したんだが、なぜかピースサインをしている二宮金次郎の銅像をバックにして、俺と管理人さん、ついでに暇そうだったアパートの住人の集合写真で、『俺は元気に都会で暮らしています♪』と謳ったものだったんだけど、デジカメでなくて那智さんの持っていた年代物の写真機で撮ってもったせいか、出来上がった写真には多重露光で余計なものがいろいろ写っていた。


 具体的には、なぜかアパートの窓に謎の白い影や赤黒い手形、あと俺と並んで全身ぐっしょり濡れた半透明の女、踊る黒覆面の隣の学生たちが手作りしたらしい、魔法陣から頭を出しかけたタコともイカともつかぬ頭部にドラゴンのような上半身と翼を持ったSFXを駆使した怪物――など、ちょっとカオスな出来だったのだが、せっかく好意で撮ってくれた那智さんに文句を言うわけにもいかず、時間もないということでそのまま印刷を依頼したのだが、やはりあれはマズかったらしい。


 他にも、高校時代は地味だった女子が、卒業後に即座に苗字が変わって旦那と一緒の写真を送ってきたり、相撲部だった野郎が、卒業後に名前が変わってついでに性別も変わった写真を送ってきたり。

「……ありゃ、喪中だったのか? つーか本人!? なんでそういう大事なことを帰省した時、お袋教えてくれないんだろうね」

 知らずに俺の方は年賀状送っちまった――と思ったら、なぜか死んだ当人がクリスマスにネズミの国で写したらしい、彼女と一緒にいる写真付きの年賀状が届いていた。

 生前に投函したものだろう。


 ちなみに彼女の方は俺の知らない女性だったんだけど、よくよく写真を見ると、奴が高校時代に付き合っていた俺も知っている元彼女が、斧を片手にドナ〇ドダックを羽交い絞めにして、死んだ奴の背後に近づいている場面を激写したものだった。


「…………」


 ふ、深くは考えないようにしよう。そうだな、お盆にでも帰省した時に線香を手向けよう。


「七日までは松の内だし、新年早々ろくでもない予想を立てても仕方ない」

〝いやぁ、アンタの場合は絶対に碌な一年が待ってないと思うけど……無事に新学期を迎えられるのかしら?”

 と、正月早々気の滅入るような幻聴を放つ幻覚。


「できらぁ!」

 と、思わず反射的に啖呵を切りそうになったところで、スマホにメリーさんから『あけおめ』メールが届いた。


>メリーさん@あけおめ!:正月早々オリーヴもローラもエマもスズカも死んだけど、メリーさんは心機一転頑張るの!!

>メリーさん@追記:よく、ドラマとかで「一人殺すも二人殺すも同じだ!」とか言うけど、二人目殺すと死刑の確率がドンと上がるので、正確には「もう二人殺してたから後は何人殺しても同じだ!」と言うべきだと思うの……。


「ちょっと待てや~~~っ!!! 殺したのか、仲間を!?」

 慌ててメリーさんの番号を呼び出して電話をかける。


『あたしメリーさん。正月早々殺すの殺されるのと辛気臭い話なの。未来の世界から来た子孫と変なロボットに負け組の未来を告げられた小学生の気分なの……』

「お前がトンデモナイ内容のメールを送ってきたからだろうが! つーか、本当に死んだのかオリーヴたち?!」

 嘘だと言ってよバー〇ー!

『うろたえるな小僧…なの!』

 慌てる俺に向かって偉そうに告げる幼女。

『まず事実関係は本当なの。アイツら正月からサバイバルして、餅をのどに詰まらせ亡くなったの……』


 うわっ、スゲー正月にありがちな死因だ。だから餅を食う時には気を付けろとジッチャンもあれほど……!


『たかだか「餅スライム」ごときに負けて死ぬなんて、メリーさんは情けないの……』

「……いや、なんだよ『餅スライム』って」

『この季節に現れる、「冬将軍」「正月〇面」と並んでの限定モンスターなの。鏡餅状のスライムが雪崩を打って民家を襲い、主に老人子供の喉を詰まらせる恐怖の存在。今年は特に大量発生したというので、町の冒険者がこぞって討伐に参加したんだけど、そのうち九割が帰らぬ人となったの……』


 迫りくる鏡餅。ついにはさばき切れずに前線が決壊して、次々と口の中に飛び込んでくる餅によって窒息死するオリーヴたちの最期を思って瞑目する俺。

 異世界の正月ってマジでサバイバルだな……。


 ちなみにメリーさんが無事だったのは、ひとりだけガメリンに乗った状態で、全部ガメリンに食わせたからだそうである。

『ライダーのクラスを得て現界したメリーさんなの……』

 とのことだが、メリーさん絶対にこうなることを予想して、安全地帯に陣取っていたな。


 それにしても、正月早々縁起でもない……と、ゲンナリする俺の耳に、スマホからメリーさんのフォロー(?)が入った。

『まあオリーヴたちは勇者であるメリーさんの仲間だから、神殿で復活の儀式をすれば生き返るんだけど……』

「あー、びっくりした。なんだ、そういう救済措置があるのか……」


 よかったよかった。書籍版で全員イラストも決まったのに、正月早々メンバー全員リタイアとか洒落にならないからな。


『でも、正月は神殿も神社も書き入れ時だから、復活させるにもご祝儀相場が必要なのよね……』

 続くメリーさんの声のトーンが、明かに前向きではない。


「いやいや! 去年ずっと一緒に頑張ってきた仲間だろう!? 正月だし、豊洲で毎年正月に本マグロを競り落とす、どっかの寿司チェーン店の社長みたいなテンションで、バーンと派手に金を使ってもいいんじゃないのか!」

 こいつメリーさん仲間の命と金を天秤にかけて、明かに諭吉さんのほうを重視してやがる。


『チャ〇ズみたいに自爆覚悟で無駄死にした仲間とか、別にいらないような……』

「いやいや、ヤ〇チャ程度には役に立つだろう!?」

〝似たようなもんじゃないかしら?”

 幻覚がいらんツッコミを入れる。


『あたしメリーさん。やっぱりよくよく考えても、オリーヴの存在意義とか、ぶっちゃけ、キャプ〇ン翼の石〇並みに、なにィと叫ぶだけの仕事しかしていないと思うの……』

「〇崎くんはたまに思い出したようにオフサイドトラップでDFの仕事してるじゃないか!」

『それ以外は棒立ちなの……!』

「それでもアレ、きちんと「〇崎くん」って主人公に君付けしてもらっているじゃないか! 知ってるか? あの主人公、基本的に使えないメンバーは呼び捨てだぞ。『くん』付けしているのは、み〇きくんの他は若〇と日〇と石〇と三〇だけで、後は呼び捨てだぞ!」

『……言われてみればその通りなの。顔面シュートが評価されたのかしら? 松〇のほうがよっぽど戦力になりそうな気がするけど……』

「〇山は以前は君付けだったけど、ユースのスウェーデン戦で彼女を優先して前半すっぽかしてから呼び捨てになったからなぁ」


 主人公アイツは彼女よりもサッカー優先で、ボールで自家発電するような男だからなあ。その時点で見限ったんだろう。


『メリーさん心配なの。主人公の奥さん結婚生活上手くいっているのかしら……?』


 いや、お前が心配すべきはまずは仲間の蘇生だろう?!

『あたしメリーさん。それで思ったんだけれど、新年だしこの際旧メンバーはいなかったことにして、残っているジリオラと、あとついでにイニャスをマスコットにして、新メンバーを募集しようかと思っているの。選考基準は四歳から六歳までの幼女限定で、おっきいお友達に金を落とさせるのを目的にした、名付けて《幼女戦隊ベビースキーマ》なの……!』

「幼女変態ベビー好き……?」

 なんでだろう、こいつが口に出すとバブみを微塵も感じない。


『《幼女戦隊ベビースキーマ》なの! 突発的に難聴系主人公みたいにあからさまに聞き間違えるな、なの……! それともヒロインに対する主人公の様式美に従った行動なの? けど、それって女の子のパンツのリボンと男性下着の前に付いている穴みたいに、無駄な気遣いなの』


「何を言っているんだお前は?」

 いや、それ以前にそんな思い付きでどーにかなる問題じゃないだろう。


「そもそも、そんな年齢層で戦える幼女とかいるのか、異世界?」

『前にも言ったけど、こっちではメリーさんにリスペクトされた「幼女勇者」が粗製乱造されたの……』

 ああ、そういえば言ってたな。

『大多数が二〇系ラーメンにリスペクトされたとか謳っている、モヤシとチャーシューだけ山盛りしただけのラーメン屋みたいなものだけど、中には見どころがある幼女勇者もいるの……』

 いや、あれの場合は本家が人間の餌ではないのだが……。

「いや、でもすでに別個で『幼女勇者』やっている以上、いまさらグループ活動とか難しいだろう」

『あたしメリーさん。所詮は幼女。社会の厳しさとか知らない甘ちゃんを騙すなんて簡単なの……』

「お前がそれ言う!?」


 社会をなめ腐っている幼女が!


『まずはこの二指〇空把を使える幼女勇者……』

「なにその世紀末を生き延びたような幼女は!?」

『それと、手から謎のビームを出せる幼女――ちなみにその破壊力から「新大陸の文〇砲」とまで言われているの……』

 きっと肝心なところでは外れるんだろうなぁ。

「あと、前から思っているんだけど、どっからエネルギーを得てるんだ、あの手からビームが出る戦士は?」

 質量保存の法則を確実に無視しているよねえ?



『あたしメリーさん。携帯用に食べると無闇とエネルギーが湧いてくるポ〇モンだと「ふしぎなアメ」に当たるアイテムが闇で売っているの……』

「ソレ絶対にドーピングだよね!?!」

 いいのか、幼女がドーピングとか!?

『なにはともあれ、これでメリーさんたちを入れて四人だから、あとひとりくらいかしら? とりあえずすぐに風呂に入って、素っ裸でも謎の光とか月光が仕事してくれる月の戦士と、「これから毎日森を焼こうぜ!」が口癖の破壊エルフ幼女のどっちがいいかしら……?』

「なんだその究極の選択は?!」


 つーか、まともな幼女がいなないやんけ!

 いままではオリーヴたちがストッパーになっていたから、まだしもギリギリのところでメリーさんの抑えが効いていたが、いまあげつらわれた面子に取って代わられたとしたら、確実にメリーさんの暴走が加速するぞ!


「オリーヴたちを復活させろ! 悪いことは言わん、すぐに神殿に行ってこい!!」

 そう必死に説得する俺を無視して、

『じゃあメリーさん、冒険者ギルドにスカウトの依頼に行ってくるの……!』


 旧メンバーを見捨てて、新メンバーを迎え入れる気満々で飛び出した行きやがった。

 電話も切られ、リダイヤルしてもなぜか繋がらない通話先を前に、俺はもどかしい気持ちのままアパートの炬燵に突っ伏すのだった。


 なお、結局スカウトは金額や待遇面で暗礁に乗り上げ、あとついでに冒険者ギルド経由で募集した新メンバー希望者も、年齢性別を偽った「このおっきいお友達怖いねぇ」という連中が大挙して、

「ようじょ尊い…尊い…」

「萌え豚の俺のターンがやっと来ました~!」

 と鬱陶しかったため、やむなく正月明けにメリーさんはオリーヴたちを蘇生させたそうである。


 なにはともあれ、夏場で腐る前でよかったと思う俺なのだった……。

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