第24話 あたしメリーさん。いま魔の海にいるの……。

 この間、ガムを噛みながら部屋の掃除をしていたところ、なぜか四隅の角がパテとコンクリートで丸められていたので、取れないものかと悪戦苦闘――。

 コンクリは無理だったけれど、パテの方は経年劣化していたのか簡単に取れたのだが、よほど素材が痛んでいたのか、俺の妄想である幻覚女が、

〝名状しがたい悪臭!? ティンダロスの猟犬の気配がするわ! すぐに角を埋めて!”

 と、叫んだ瞬間。室内だというのに得体の知れない獣のようなものに跳ね飛ばされた。


 その衝撃でスマホが落ちて割れ、あとたまたま口から噴き出たガムが、ちょうどパテが取れた部分に収まって、結果的に臭いの元を押さえることができた。


「……あー、びっくりした。都会では野良犬が放し飼いになってるのか? 今時は田舎でもなかなか見ないぞ。なんかキモイ外見の犬種だったけど、外来種かね?」

 粉々になったスマホのありさまに肩を落としながら、俺はそういえば外国には毛のない犬がいたことを思いだした。それが〝チンジャラの犬”とか、幻覚がほざいた犬かどうかはさておき、熊か猪が農家の軒先まで乱入してくる田舎と違って、さすがは都会と改めそのバリエーションの多彩さに戦慄したのだった。


「変な病気なんてうつらないだろうな……」

〝それどころじゃない危機一髪だったのよ!”


 幻聴は今日も絶好調である。

 念のために病院へ行って検査してこよう。ついでに心療内科も……。


 そんなわけで、仕送りかバイトの給料が入ってスマホを修理もしくは買い替えするまでの間は、メリーさんとのやり取りはPCのメールでやることにして、とりあえずPCを起動して、メリーさんへ要件をメールすることにした。


 なお、田舎と違って都会ではその日のうちに買い替えできると知ったのは、それから半月後の給料日以後の事で、その間、メリーさんの代理を名乗る若い女性からのメールが届いていたけれど、出会い系やキャッチの騙りを恐れて、内容を確認しなかったのは言うまでもない。


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【5月30日】

 そんなわけで、現在の状況を端的に説明しますと、私たちは王位を巡って混乱が続く王都から尻に帆掛けてトンズ……距離を置くべく、海の見える町ここ〈リーフマウンテンシティ〉へと避難しました。

〈リーフマウンテンシティ〉は、温暖な海に面した港とレジャーの町で、さらにワンカラ海水浴場は隠れた穴場的なリゾート地として、知る人ぞ知る……つまり、じゃ〇んネットあたりで『絶景穴場』とか、大々的に知られている。それもう穴場じゃないんじゃね? という海水浴場です。


 この場所を選んだ理由は、ご主人様のいつもの癇癪のような思い付きによるもので、

「最近、ポイントが下がっているからテコ入れ回なの! とりあえず夏っぽく、悩殺水着なの! 全員ビキニを着て、『ドキッ! 美少女だらけの海水浴場。ポロリ☆もあるよ』にするの……!」

「「「嫌よ(です)(だ)」」」

 アースドラゴンの幼体ガメリンが牽く馬車の中。いつも通り傲然と小さな胸を張って言い切ったご主人様に対して、その場にいたオリーヴさん(いつも当たり前のようにいますけれど、この方の存在もなにげに謎です。ご主人様いわく「ニートの早寝早起き、ラーメン屋に置いてある汚れた漫画本、使われないベルトの穴、スぺ〇ュウム光線もしくは印籠を出す前の舐めプ、プッチンしない派にとってのプッチ〇プリンの爪、漫画描けない漫研部員とほぼ同じ存在なの」だそうですが)と、私と私の妹であるエマ・アルミーホが、即座に反対票を投じました。


 もうひとり(一匹?)のメンバーである霊狐の化身、スズカ・サオトメさんは、ガメリンの御者をしているのでその場にはいませんでしたが、いれば間違いなく私たちと同意見だと確信しています。

 なお、国内の街道はことごとく、王都の革命騒ぎと宿場町に突如発生したダンジョンの暴走のために、どこも大渋滞だったのですが、スズカさんの常軌を逸した――いえ、巧みな手綱さばきと、邪魔する者に対する情け無用の攻撃のお陰で、渋滞にも巻き込まれず、魔物や盗賊の襲撃も撃退して、驚くほどスイスイと進むことができました。


 ただ、まあ……脇でスズカさんのやり方――ご主人様曰く「これが本家の〝名古屋走り”と〝名古屋撃ち”なの……!」――を見ていると、いろいろと心臓に悪いので、私たちはあえて見ないように示し合わせて、馬車の奥に引っ込んでいますが。


 そんな私たちの反応を予期していたのか、ご主人様は続けます。


「あたしメリーさん。早計なの。『ポロリ☆』といっても、ビキニになることで露呈する、オリーヴたちの油断してたゆんたゆんなお腹なの……」

「マヨネーズのマスコット体形の、あんたにだけは言われたくないわよ!」

「う……」

 名指しされたオリーヴさんがブチ切れ、私も思わずウエストに手を当てて背筋を震わせました。

「ふっ。このメリーさんのドーテーを物理的に皆殺しにする悩殺水着を前にして、はたしてそんなことが言えるのかしら……?」

「物理的にって……。あんたの場合は本気だか冗談だか曖昧で怖いわよ!?」

「怖いと言えば、あとはミステリーなの。このメリーさん怪談には一家言あるの。夏といえばゾンビの季節! 『ドキッ! ゾンビだらけの海水浴場。ポロリ☆もあるよ』でも可なの……!」

「「「「〝ポロリ”の意味が意味深だ!」」」」

「あと泊まるホテルで殺人があれば完璧なの。『ドキッ! 殺人鬼だらけのホテル。ポロリ☆もあるよ』」


 その場合は第一の容疑者はご主人様だろうな~……と、先ほどの発言を踏まえて、この時全員が心の中で思いました。


「あたしメリーさん。ということで、皆で手分けしてそれっぽい雰囲気の宿を探してくるの! その間にメリーさんは、福井県小浜市では幻の珍味とされる〈人魚〉マーメイドを狩ってくるの……!」 

 いつの間に用意したのか、釣竿を持ってる気満々のご主人様。

 初めて海を見た長野県民みたいにはしゃいでいます(by:オリーヴさん談)。


「我が霊眼に宿りし正しき力。無窮のピースによって神託を下す。この世界、〈人魚〉マーメイドはいるのは確からしいけど、言っとくけど日本の人魚と違って食べても不老長寿になったりはしないわよ?」

「それくらい知ってるの! 上半身が肉料理、下半身が魚料理に使えるお得な珍味なの……!」

 やんわり注意するオリーヴさんに向かって、食べる気満々で答えるご主人様。

 スズカさんも「へえ~」という顔で、『〈人魚〉マーメイドを食べる』という行為自体に禁忌がないようです。


「あのォ……〈人魚〉マーメイドを食べるんですかぁ~? てか、なんで三人とも食べることに躊躇ないんですかぁ?」


 子供の頃から『人魚姫』の物語が好きだったエマが、それはそれは複雑そうな居たたまれない表情で、語尾を思いっきり下げて確認しました。私としても気持ちは一緒です。


「「「日本人だから(なの)」」」

 だから当然。という顔で答える三人。


「「(ニホンジンって変……)」」

 私とエマの精神感応術テレパシーが示し合わせたように同調しました。


「ということで人魚釣ってくるの。おー!」

「あー、でも。〈人魚〉マーメイドって滅多に釣れない幻の存在らしいわよ。文字通りに。ましてあんたの幸運値じゃ……」

 盛り上がっているご主人様に水を差すオリーヴさんですが、

「大丈夫なの! メリーさん、釣りになると案外気が長いの。ラノベ作家でいえば西〇〇〇さんか鎌〇〇〇さんの執筆頻度くらいに……!」

「無茶苦茶短いじゃないの! 釣竿一本で〈人魚〉マーメイド釣り上げようと思ったら、アニメ化した『〇〇〇〇〇』か、海外でもヒロインが圧倒的な人気を誇る『〇〇〇』の更新並みに気長に待たな」「それ以上はいけないのっ!! その例えはいろいろとマズい上に、ある意味諸刃の刃なの……!」

 なぜか顔色を変えたご主人様がオリーヴさんの口を塞いで、何かをはばかる様に周囲を見回します。


「ふーっ……。どうやら聞かれなかったらしいの……」

 安堵の汗を拭きながら、『この話題は置いといて』と、ジェスチャーで話題を変えるご主人様。

「確かに運任せにしていてはダメダメなの。メリーさんの知り合いも言っていたの『運じゃない、課金という努力の結晶だ!!』と……」

「あんたの友人関係は、いっぺん全部白紙にしたほうがいいわよ」

「じゃあどうするんですか?」

 ぼやくオリーヴさんに代わって、エマがご主人様に疑問をぶつけました。

 それに対してご主人様が、待ってましたとばかり答えます。

「あたしメリーさん。Lv20を超えたので、最近『遊び人』から『賢者』になったメリーさんにお任せなの」

「わー、懐かしいな。ド〇クエ3」


 ひとりスズカさんだけが歓声を上げましたけれど、オリーヴさんをはじめ、私とエマは、なぜ職業『遊び人』が職業『賢者』になれるのか、その不可解さに頭を悩ませるばかりです。


「ということで、メリーさんは餌に工夫を凝らしたの……!」

 それからご主人様は、小脇に抱えていた四角いクーラーボックスの中から、何やらトングに抓んだ三角形の布切れを取り出しました。

「人魚といえば王子! 人魚は王子の匂いに敏感なの。だからこの間、パンツ等価交換で手に入れたイニャスおうじのブリーフに、たっぷりと王子汁を染み込ませたこれを餌にして、人魚を一本釣りするの……!」

「いろいろとツッコミどころ満載ですけど、〝王子汁”ってなんです!?」


 幼少期の『人魚姫』に対する幻想をガラガラと壊されたエマが、なにかヤケクソ気味にツッコミを放っています。

 ここまで憤慨しているエマの様子を見るのは、三日前にご主人様が、

「エマの好きそうな『少年エルフ×紳士なゴブリン』の薄い本を買ってきたの~!」

 という、なにやら罪深い薄い本を買ってきて以来ではないでしょうか。

 その時は、

「違~~~~う! それはジャンルとしては男の娘ものですっ。あたしが愛するのはBLであり、それとはまた一線を画すものであり……」

「じゃあこっちの雄ドラゴンと髭モジャのトロールが絡む『ドラゴン攻略! ―穢れたバベルで突き刺して―』ならセーフなの……?」

「メリー様はなんにもわかっちゃいねえええええええっ!! そんな汚いガチホモの話は、BLの定石スーツの似合うリーマンものを愛するあたしの守備範囲外であると……」

 ……あ、すみません。割としょっちゅう憤慨しているし、この話題に関しては妹の方が罪深い存在でした。


 それはそれとして、ご主人様は取り出したブリーフとは別に、どろりとした流動体の入った小瓶を取り出して、

「ふっふっふっふっ。これぞメリーさんの秘伝の奥義。――さあさお立ち会い。御用とお急ぎでない方は、ゆっくりと聞いておいで。これに取り出したる王子汁は、四方に鏡を立て、その中に王子を入れると王子は自分の姿が鏡に映るのを見ておのれと驚き、たらーり、たらりと脂汗を流す。これを集めて、柳の小枝をもって、|三七(さんしち)二十一日の間とろーり、とろりと煮詰めた。それがこの王子汁なの……」

 何やら香具師のような口上をたれます。それを聞きながら、自分の眉に唾を当てるオリーヴさんとスズカさんがいました。


「それで、人魚が集まってきたところを、この魔法のダイナマイトを水中で爆発させて一網打尽なの……!」

 さらにダイナマイトの束を取り出して、これ見よがしに誇示するご主人様。

『釣り』という概念はどこに行ったのでしょう?


「あんた、爆発漁法(発破漁とも言う)は世界の大部分の国で禁止よ!」

「大丈夫なの。ここは異世界だし、これは正確にはダイナマイトじゃなくて、ダイナマイトみたいな魔法の武器なの……」

「だからって言って、どれだけ環境に影響を及ぼすか――」

「一発くらいなら平気なの。偉い人も言ったの。『一発だけなら誤射かもしれない』と……」

 頑として言うことを聞かないご主人様を前に、これ以上説得しても無駄だと悟ったオリーヴさんは、額に手を当ててため息をつきました。

「はあ~~。せめて人様の迷惑にならない場所で、こっそり使ってよ」

「了解なの! これで人魚ゲットだぜー……なの」

「いや、一発だけだからね?」

 念を押すオリーヴさんに、「わかったのー♪」と、ヘリウムガスよりも軽く答えるご主人様。

「じゃああたしとローラ、あとスズカで今晩の宿を探すことにして、念のためにエマは残ってメリーさんの様子を見ておいて。なにかあったら、ローラに精神感応術テレパシーですぐに伝えること」

 というオリーヴさんの提案に従って、私たちは手分けして今晩の宿探しをすることにしました。

「……くくく、一発やるのも二発やるのも同じだぜ」

 オリーヴさんが背中を向けた途端、ご主人様が「おかわりもあるぞ……!」と、ばかり更に大量の魔法のダイナマイトを取り出したことに、一抹の不安を抱きながら。私もその場を後にします。


 と――。

 先ほどの会話を思い出しながら、私は炎天下で喉が渇いたこともあり、ここ《ワンカラ海水浴場》に軒を連ねる飲食店のひとつで、冷たいかき氷(イチゴ)を頬張りながら、近場に良さげな宿泊施設がないか情報収集リサーチに励んでいました。


 お昼のピークを過ぎた時間であったせいか、二三分入りの店内。

 世間話に乗ってくださったお店の御主人兼料理人である大柄なドワーフが首を捻り、

「……つってもなあ、ホテルも旅館も結構あるし」

「値段とか、このポイントだけは外せないとかのこだわりはないのない?」

 ご夫婦らしい。エプロンと三角巾がお似合いのオーク(雌)の女将さんも小首を傾げました。


 なかなか珍しい異種族婚ですね。ビジュアル的にトキメキはありませんが。


「――それもそうですね。さほど無茶な要求はありませんが、『未解決連続殺人事件』『怪しげな女将』『包帯で顔を隠した宿泊客』などの猟奇的な展開が必須といったところでしょうか?」

「「あるかそんなもん! 無茶言うなーーーっ!!!」」


 いきなり瞬殺されました。


「……困りましたね。では、こう地元ならではのいわくありげな……禁断の風習とか、余所者が知ると火あぶりにされそうな秘密は?」

「観光地にそんなものあるわきゃねえだろう!」


 これもご主人に一喝されてしまいました。


「むうぅぅ……困りましたね」

 かき氷のせいばかりでなく頭痛を感じて思わず私がこめかみのあたりを押さえると、

「まあ、そもそも古い因習も何も、ここいらに住んでる地元の人間自体が減ってきたからね。来るのは観光客と、振興の人間ばかりだよ」

 そう女将さんがとりなします。


「――地元民が離れる? 何か猟奇的な事件でもあったのですか!?」

 そういうシチュエーションこそうちのご主人様が求めているものです。思わず私はいささか性急に問い質していました。

 なにしろここに来るまでに聞いた地元の怪しげな話といえば――。

「峠にある古屋から、夜ごと聞こえる鬼婆が包丁を研ぐ音……」

「岬にある洋館に住む魔女が怪しげな儀式を……」

「満月の晩に海岸の松林に響く、人とも獣ともつかぬ恐ろしい魔獣の遠吠え」

 という、「……はあ」と力の抜けるものばかりだったからです。


 何しろ包丁なら、うちのご主人様が年がら年中研いでますし、魔女ならいま現在黒のビキニを着てサーフボードを抱えて颯爽と海に向かっていったのを見ましたし(ちなみに私とエマがパステルカラーの色違いビキニで、スズカさんは白のワンピースタイプ。ご主人様は「これぞ伝説の聖遺物レリック、〝旧スク水”なの……!」といって紺色の水着を着用していました)、人とも獣ともつかぬ存在なら、チャラそうな若者たちにナンパされてアワアワしている様子が、ここから伺えるいった塩梅なのですから、まったくもって猟奇さもフレッシュさもありません。


「……というか、なにげにまじめに働いているのは私だけという風潮が」

 なんでしょう、このやるせなさは……。

「――まあいいです。ここで時間を無駄に浪費するよりも、地元民がこの地に居られなくなった、その禍々しい理由を聞いて帰ったほうがマシですから」

「……? なんかよくわかんないけど、地元が寂れた理由は、ご覧の通り二年前にイ〇ンがオープンしたせいだわ」

「…………」

「お陰で地元の商店街も潰れて御覧のありさまでねえ……」


 憤懣やるかたないという風情の女将さん。

 ええ、まあ、地元商店会にとっては死活問題でしょうね。


「ああ、お陰で〝舵魂ダゴン様祭り”もすっかり下火になっちまったからなあ」

 ご主人も同感だという風に頷いて合いの手を入れられましたが、

「ダゴン様?」

「ああ、このあたりの港で昔から信仰されてきた海の神様だ。人とも魚ともつかぬ巨人のような姿をした舵魂ダゴン様が、豊漁とこのあたりの海を守ってくれている……って言い伝えがあってな」

「なるほど」

「そういえば〈人魚〉マーメイド舵魂ダゴン様の眷属って話もあってな。間違ってもこのあたりじゃ獲っちゃなんねえことになっているんだ」

「……なるほど」


 そう平静を装いながら、私は密かにエマへと精神感応術テレパシーを飛ばしました。

 と、エマからは混乱したあちらの状況が、リアルタイムで伝わってきます。


『にゅわあ~っ!? エマ、これで目を狙うの……!』

『ぎょええええっ! なんですかなんですか、この魚とも人ともつかない巨人は!? なんかいきなりクライマックスなんですけど!?』

『これが人魚なの! 上半身が魚で下半身が人間っぽいから、逆パターンできっと人魚の雄なの……!』

『うわ~~っ! これが〈人魚〉マーメイドですか?! なんかこれなら、一切の良心の呵責なくぶっ殺せます!』

『その意気なの! 魔法のダイナマイトだと、いまいち効果がないから、こうなったら魔法のMOABで一気に仕留めるの……!!』

『なんかわかりませんが、やっちゃってください!』

『わかったの! エマはそのまま殲滅型機動重甲冑で人魚を押さえておいて! あと口から吐く水弾が、ウォシュレットがいい感じに攻めてくるように、鋼鉄でも貫通する威力があるみたいだから気を付けるの! で、次に息継ぎをしたら口の中にメリーさんが爆弾を放り込むの……!』


「…………」

 なにかもう、いろいろと手遅れの状況の様です。

 私は急いでかき氷を食べ終えて、礼もそこそこにお店からダッシュして、まずはナンパされているスズカさんの腕を掴んで強引にその場から連れ去り、沖からサーフィンしながら戻ってきたオリーヴさんへ声をかけようとした。


 その刹那――。


 地震のような爆発と、それに続いてご主人様たちがいた岬の裏側あたりが、轟音とともに弾け飛んだのを目の当たりにするのでした。


「ご主人様です!!!」

 唖然とするオリーヴさんへ向かって一言そう告げると、即座に事態を把握したオリーヴさんは、血相を変えて駆け出し、合流したところで三人揃ってサーフボードを頭の上に載せて、すたこたさっさと騒然とするその場を後にしたのでした。


 その後、「消し飛んだの。残念なの……」と、悔しがるご主人様とエマとを回収して、即刻〈リーフマウンテンシティ〉を後にしたのは言うまでもありません。


 なお、その後ワンカラ海水浴場……というか〈リーフマウンテンシティ〉は、謎の津波――信憑性の怪しい噂では、海岸線を埋め尽くす高波と一緒に舵魂様の眷属と言われる魚人や人魚の大群が押し寄せてきたとか――によって、跡形もなく波にさらわれたとのこと。

  その後、夜な夜な亡者の悲鳴が聞こえるとか、水死体のゾンビが群れているとか、数少ない生き残りの子供に、人間とも魚ともつかない赤ん坊が生まれるようになったとか、数々の逸話を残す呪われた海岸として誰も近寄らなくなったとのことです……。



「きっとイ〇ンのせいなの。地方にイ〇ンができると何もなくなって、最終的にイ〇ンも撤退するって有名な話なの……!」


 事態をわかっているのか、いないのかは不明ですが、事の顛末を知ったご主人様はそう言って話を締め括られました。おしまい。



【追記】

 この内容を読み終えた主人様(17歳Ver.)は、いま現在、自分のしでかした事の重大さに、馬車の中で頭を抱えてのたうち回っています。

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