第23話 あたしメリーさん。いま日記を書いているの……。

 さて、今回は私……こと、ご主人様の奴隷であるローラ・アルミーホが、この手記をしたためています。

 ことの発端は前日の夕食後、

「あたしメリーさん。メリーさんの彼氏がバイト先で銃撃戦に巻き込まれたんだけれど、奇跡的にスマホとドッグタグで流れ弾を食い止めて、いまスマホを修理中だからPCメールでしか連絡できないらしいの。だからメールで連絡するように言われたんだけど、面倒だからローラが代わりに書くの……!」

 という意味不明な理由で、なぜか私が代筆することになったものです。


 当初は拒否したのですが、

「メリーさんは忙しいの。バク転しながらパジャマからチャイナドレスに着替える特訓中だし、試しにオリーヴに書かせたら『死して尚許されぬ罪を背負いし罪人たちよ』とか『機関の者から連絡はあったか』とか『十二騎士団はこの穢れた世界を浄化する』とかの、わけわかんない枕詞を多用するし、エマに書かせたら『5月13日。芽が出た』『5月16日。成長する』『5月18日。蕾を持った』『5月20日。お姉ちゃんが太った』『5月25日。突然肉を食べたいと言いだした』って、なんだかわからないものの観察日記をつけているし……」

「あ~~~」

 そういえばエマって、夏休みに宿題とヘチマの観察日記を、夏休み最終日に適当に書いていたのをふと思い出しました。


「しょうがないのでスズカに書かせたら。エマの後に続いて『かゆ……うま……』『俺たちの戦いはこれからだ!』って書いて、無理やり打ち切りエンドにしたの! ふたりとも不真面目なの! メリーさん、コケにされるのがフ〇ーザ以上に我慢できないの……!」

 アホ毛を左右に振り回し、地団太を踏んで憤慨されるご主人様。


「事情はわかりましたけれど、なにげにご主人様が書けない理由が一番雑なような……」

「そんなことないの! 出張先でオオアリクイに食い殺されかけた彼が、ベッドの上で『嗚呼、愛しのメリーさんが、バク転しながらパジャマからチャイナドレスに着替える姿を……』と、うわごとで呼んでいるらしいの……!」

「……銃撃戦に巻き込まれたのではないですか?」

 なんだか話が途端に嘘くさくなりました。

「オオアリクイと戦っているところを、背後からオポッサムに狙撃されたの……!」

「どういう状況ですか!? というか、その場合いついかなる方法で連絡を取ったのですか?!」

「昨日、彼から血まみれの手紙が届いたの。『愛しのメリー。君がこれを読んでいるということは……』って書かれた……」

「それは――」

 悄然と肩を落とすご主人様の様子に、さすがに続く言葉がありませんでした。

「『最近、冷蔵庫のプリンがなくなっていると思ったら、お前が犯人だったのか!? どうやったか知らないが、覚えてろ! 次に会った時に鼻からスパゲッティを食べるか、バク転しながらパジャマからドレスに着替えるかの罰ゲームしろやっ!』と、怒りの手紙が付いてたの。なお、プリンはスタッフが美味しくいただきましたの……」

「自業自得じゃないですか!! って、スタッフって誰ですか!?」

「あたしメリーさん。メリーさんの一〇八匹いるパシリのひとり、座敷童のワラビー(有袋類)。特技は小物とか急に必要になって探しても見当たらない時に、こっそりお手伝いをして探し物を見つけることなの……」

「ご主人様の手下にしては、案外とまとも……と言うか良い方ですね」

「そうなの。ちなみに探し出した物は、真っ先に探してここには〝もう絶対にない!”と確信した場所に、こっそり戻す親切さなの……」

「それってもの凄いあるあるの事例ですけど、原因はそいつだったのですか!? さすがはご主人様の手下。『いい性格』をしていますね!」

「うむ。わしが育てた……」

「というか、この際反省の意味を込めて、ご主人様が反省文を送ったらいかがですか?」

「だが断る……!」

「なぜ!?」

「むぅ、ローラはさっきからどーしてどーしてと疑問を口に出してばかりなの。だけど学校ではないのだから、疑問があれば自分で答えを見つけなければ社会では生きていけないの……!」

「正論ですけど、それはまともな回答が存在する場合ですよねえ?! ご主人様の言動は首尾一貫して矛盾ばかりなんですけど!」

「世の中には常識では片づけられないことも沢山あるの! 廃線のはずのバス停に立つ蛭〇〇収、まっ〇ろ〇ろ〇け=マイルドなゴ〇ブリ説、細心の注意を払っているはずなのにシャツに着くカレーうどんの汁、そしてメリーさんの存在も然りなの……!!」

「――あ。最後の台詞だけはすごい説得力がありました」

 他は意味不明ですけれど。


 ちなみに私どものご主人様であるメリー様に対する世間の評価は、「見た目はぐうかわだけど、まったく尊くない幼女」というもので、一見すると五歳前後の金髪碧眼のドレスを着た、それはそれは整った顔立ちの愛らしい幼女です……黙って座ってさえいれば。

 けれどよほど基礎カロリーとバイタルが高いのか、万人を魅了できる美幼女を維持できるのは2秒が限界です。

 なので、寝ているか食べている以外の時間は、ほぼ常時趣味の出刃包丁を大根みたいに振り回しながら動き回っています。いまも両手で包丁を持って憤慨しているので、他のメンバーはとばっちりを恐れて近寄らないよう、聞こえないふりをして高みの見物のようです。……あとで覚えてなさい。明日からの食事は激辛料理で地獄を見せてあげるから。


「あたしメリーさん。なんかローラからフォ〇スの暗黒面を感じるの……」

「よくわかりませんが気のせいですよ。ええそれはもう……」

「そうなの? 『オリーヴ、エマ、スズカ。自分らだけ安全地帯にいて、面倒な仕事を押し付けやがって。許すまじ。夜道と食事でこてんぱんにしてやらぁ!』という本音が透けて見えた気がしたんだけれど……」

「そこまでは思ってません!」

「「「〝そこまでは・・・・・”――っ!?!」」」


 空気を読まないご主人様の指摘に、思わずガチで反論してしまい、思わず失言してしまいました。

 それを聞いて、俎上そじょうに上った三人が、驚愕に染まった視線を私へ向けます。


 ――と。かようにその言動は突拍子もなく、支離滅裂でありながら、幼児にありがちなたどたどしさではなく、根本的に思考が異次元の彼方というか壊滅的で、アル中の妄想の垂れ流しよりもたちが悪いというのが、ご主人様を知る人すべてに共通する認識でしょう。

 まあ私たちは慣れているので、基本的にご主人様の妄言は、右の耳から聞いて酸素と二酸化炭素と窒素に分解して、左の耳から垂れ流すという謎のスキルで聞き流せるようになりましたが、まあこのように一対一サシで対峙すると、さすがに堪忍袋の許容量を軽くオーバーしてしまいます。


「ということで、頼れるのはローラだけなの……!」

 珍しく必死で懇願されるご主人様。

 傲岸不遜。天上天下唯我独尊。呂布とギルガメッシュをまとめて濃縮した並みの濃さを誇るという(オリーヴさん談)ご主人様の、

「ちょっとだけなの! 先っぽだけ。先っぽだけでいいの……! と、かようにこのメリーさんがお願いしているの……!!」

 と言葉尻は殊勝ですが、包丁の先端先っぽが確実に私の心臓と肝臓を狙っています。これって脅迫ですよねぇ!?


「……とりあえず見たまま、徒然つれづれの日記でいいですか?」

「オッケーなの。紀貫之なの……!」

「「違う、それは土佐日記|(です)っ!」」


 同時にオリーヴさんとスズカさんからツッコミが入りましたけれど、かくて私が改めて日記を書くことになりました。


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【5月3日】

 街道にオークの集団が出没するとのことで討伐依頼を受ける。

 「探すの面倒なの!」というご主人様の鶴の一言で、エルフに化けたスズカさんが囮にされる。

 まさかそんな安直な……と思う間もなく、本当に現れたオークに攫われたスズカさんを追って、オークの集落を見つけたご主人様が、気持ちの悪い触手を大量に召喚する技でオークを全滅させ、三枚に下ろして豚肉として肉屋に売り払った。

 ちなみにスズカさんの貞操はギリギリ守られたらしいが、あれ以来、タコやイソギンチャクを見ると硬直して脂汗を流すようになった。PTSDだろう。


【5月5日】

 今日は割と平和だった。「子供の日なの!」と、ご主人様が嬉々として新しい包丁を買ってきて試し切りといって出かけ、夕方に盗賊の生首を六つほど数珠つなぎに持って帰ってきた。


【5月7日】

 湿地に面して農業に向かない村に泊まる。

 「小麦がダメなら米を作ればいいの! 農地革命なの。これこそ異世界転移の醍醐味なの……!」

 というご主人様の知ったかぶりの提案で、村で試験的に水稲作りを始めることになった。

 あれから半月後、村で謎の疫病が蔓延して全滅したらしいと風の噂に聞く。

 お気の毒だが、もしかして沼の水中に疫病の原因があって、今回、水田を作って水を引いて作業をするようになったため、一部に沈静化していたそれが一気に拡散したのではないかと……。


【5月9日】

 「暇なの~!」というご主人様の憂さ晴らしで、ガメリンの火炎光線が無作為に近くの森に叩きこまれる。

 数日後に聞いた話では、あの近辺にあったエルフの隠れ里を守る結界樹が狙い済ませたかのように炎上して、丸裸になった里へ奴隷狩りの一団が攻め込み、蹂躙し放題に蹂躙されたらしい。

 エルフの奴隷が一気に市場に出回ったので、ご主人様が購入を検討していたのだが、ガメリン、スズカさんに続いて、これ以上ペットが増えても世話やりができないだろうと、全員で説得して諦めさせる。

 スズカさんが「私ってペット枠だったんだ……へへへへ……」と、やさぐれて机の下で体育座りをしていた。


【5月11日】

 ダンジョンの上に作られたダンジョン都市に到着する。

 丘の下の地面に地下型ダンジョンがある町であったが、「面倒なの」というご主人様の一言で、ガメリンが地面を掘削。ダンジョンの床と壁をぶち破って最下層までショートカットを行い。『ダンジョンコア』を、「せっかくなので土産なの!」と勝手に持ち去り、それが原因でダンジョンが上にあった丘ごと崩壊したので、慌てて逃げることにした。

 

【5月12日】

 雨が降って暇だと言って、ご主人様とエマが宿場町にあるホテルの脇に窃盗しかっぱらってきた『ダンジョンコア』を埋める。

 その後、目を離した隙にご主人様は行方不明になった。エマ曰く、人攫いに小脇に抱え上げられ、お持ち帰りテイクアウトされたらしい。迂闊うかつ。雨の中、軒先に佇む美幼女――動かない。騒がない。周囲に大人の目がない――となれば、変質者のどストライクのシチュエーションであっただろう。


【5月14日】

 雨期に入ったらしい。しばらく足止めを覚悟したほうがいいとホテルの支配人から言われる。

 ご主人様がリュックサック一杯の宝石や宝飾品を持って無事に帰ってくる。なぜ助けに来なかったのかと文句を言われたが、「手掛かりも土地勘もないのでしかたがなかった」というオリーヴさんとの間で、いつもの口喧嘩が始まる。

 なお、この町の町長が全裸で全身の毛を剃られ、亀甲縛りで『ロリコンなの!』と書かれた紙と、大量の幼女グッズとともに正門のところに吊るされていたとして、いま町では一番ホットな話題になっている。


【5月16日】

 さすがにご主人様も部屋の中でゴロゴロしては、たまにカードゲームをしたりして、食っちゃ寝の生活を送るしかないようだ。

 明日は晴れるようにと、ご主人様がテルテル坊主――の割りに猟奇的な、首を吊って悶絶している造形の恐怖の人形――を軒先に吊り下げる。

 途端にしとしと雨が豪雨となった。

 水害で近隣の町村に壊滅的な被害が出たそうで、町中に非常事態宣言が出される。

 なお、埋めた『ダンジョンコア』については、ご主人様はすっかり興味がなくなったようで、たまにエマが様子を見ているだけのようだ。


【5月19日】

 雨は止まない。ご主人様に合わせて自堕落な生活を送っているせいか、全員がたるみ切っている。気のせいかウエストがきつくなって……いやいや。気のせいだろう。だが、寝る前にご主人様と一緒に揚げ菓子を食べるのは止めよう。

 インクライスフィールド川が決壊して、王都の半分が水に沈んだと風の噂に聞く。膠着状態だった国王派と王弟派、双方とも大半が川に流されたらしい。


【5月26日】

 久々の快晴。だが、町中に突如としてダンジョンが発生。連日の長雨のせいで見回りもお座なりになっていたらしく、ものの見事に魔物の奇襲を受けた兵士や冒険者は紙のように容易く破れ、町は蹂躙された――らしいが、まるでこのことを予期していたかのように、私たちは昨日のうちに夜逃げするように町から出たので被害は受けなかった。

 それにしても、あの町は街道の要衝に当たる重大な中継地であり、あそこを迂回するとなると今後は国の交易に甚大な被害がもたらされるのではないかと商人たちは深刻な様子だ。王都の騒ぎに続いて地方までこうでは、もしかするとこの国は終わりかも知れない。

 ご主人様は完全に他人事の顔で、「暑くなってきたから、海に行って水着なのーっ!」と好き勝手言っている。

 

▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲


 と、ここまで思い出せる限りの事実を羅列したところ、

「なんか端的過ぎる上に、まるでメリーさんが諸悪の元凶みたいなの! もっとこうナ〇ック星崩壊まであと五分――と言いながら、カ〇ピスの原液をできるだけ薄めに薄めて、メリーさんがいかに大変な事態に直面したか、その上で夜のパトロールという名の覗きをするアンパン男みたいに、愛と勇気だけを武器にいかに奮闘したか、ツッコミ上手で床上手な彼にもわかるよう、緊迫感を残したまま延ばせるだけ延ばすの! できればエッチな展開も入れて9話くらい……!」

 事前に口にした『ちょっとだけ』の約束はどこへやら、そういつものように無茶振りを振られました。


「やればできるの! メリーさんの知り合いの妖精は、当初は妖精扱いされなかったけれど、努力に努力を重ねて、いまでは梨の妖精として知らない者はいないくらいになったの! だからローラでもできるの……!」

 すかさず精神論をぶつけてくるご主人様。


 それにしても、こうして事実を羅列して客観的に眺めると、私たちは毎日のように大惨事に遭遇してばかりのような気がするのですが、ご主人様に年がら年中振り回されているせいか、私たちの誰もこの状況に疑問を抱いていないのが、我ながらちょっと怖いです。

 さようなら、私の喜怒哀楽。


「つーか、あんたに彼氏がいること自体が信じられないんだけど。どこの妖怪? もしくは非実在的なイマジネーションフレンドの類じゃないの?」

 いい加減脇で見ていても面倒に思えたのか、オリーヴさんが、全員があえて触れなかった『メリーさんの主張する彼氏』の実在について、ズバリと疑問を呈します。


「妖怪じゃないの! ちゃんとした大学生なの! 毎日ラブラブの電話をかけて甘いトークに花を咲かせているもん! 相手の意向を確認せずに、異常なほど関心をもって、つけ回したり忍び寄ったり、殺害をくわだてたりしてるけど……」

「人は、それをストーカーと言うのよっ!」

「メリーさんがストーカーしないで誰がするのよ……!!」

「「……確かに」」


 なぜかオリーヴさんとスズカさんが論破されました。


「いや、ですが実在するなら、なおのこと。ご主人様手ずからが日記を書かれた方がいいのではありませんか?」


 そんな私の問い掛けに、なぜか焦った様子で目を泳がせるご主人様。

「そ、それはできないの……」

「なぜですか?」

 重ねて尋ねる私の質問に、観念した表情でご主人様は真相を吐露しました。

「今晩は満月だから。メリーさん、月に一度のアレが始まるから無理なの……」

「えっ!? まさか、ご主人様ってその見かけでもう女の子の日が――」

「満月を見ると起こる。月に一度の『十七歳の日』なの……」

「「「「なに(なんですか)それっ!?!」」」」


 人がオブラートに包んで言おうとした事柄と、まるっきり予想外の答えが返ってきました。


「月に一度、メリーさんが17歳になる日なの……」

「「「「ごめん、なおさらわからん(わかりません)」」」」

「つーか、そんなら論より証拠――ほれ、ちょうどここの窓から満月が見えるから」


 そう言ってオリーヴさんが馬車にあるカーテンを全開にしました。見通しのいい海岸線に沿って、ぽっかり浮かんだ満月がちょうど正面からご主人様の全身を照らします。


「やめるの――カ〇ロットーーーーッ!!!」

「あたしはベ〇゛ータか!」


 咄嗟に顔を伏せるご主人様と、いつもの漫才をするオリーヴさん。ここまではいつも通りで、例によってご主人様の悪ふざけかと思われたのですが――。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 冗談抜きでご主人様の全身がブルブルとおこりかかったかのように震え出しました。

「ああああああああああああああああああああああああっ!?!?」


「――ちょっ、ちょっと。まさか本当にどっか悪いんじゃないでしょうね!?」

 その異様な有様に、さすがに危機感を抱いたオリーヴさんが、ご主人様の震える肩に手をやった刹那、

「うおおおおおおおおおおおお!! ク〇リンのことかあああああああああ、クリ〇ンのことかああああああああああああっ!?」

「何がやりたいのよ、あんた?!」

「――ウボァーッッッ!!」

「あ、FFⅡの皇帝の断末魔ですね!」

 スズカさんの妙にツボに入った歓声と同時に、ご主人様の全身が光と煙に包まれて爆発・・しました。

「「「「なんとぉ!?!」」」」

 そうして、煙が晴れたそこにいたのは、ご主人様をそのまま17歳まで成長させたような。それはそれは綺麗で、

「あ、あの……どうも……いつもいつも失礼なことを言って申し訳ありません。あたしはメリーさん、月に一度だけ省エネモードになる17歳Ver.バージョン……です」

 お淑やかそうな美少女が、蚊の鳴くような声で――普段のご主人様のモスキート音のような鬱陶しいノリのことではなく――恥ずかし気にそう私たちに一礼をして、自己紹介をしました。


「「「「だ」」」」

「だ?」

 呆けたような顔で自分を凝視するオリーヴさん、私、エマ、スズカさんを前に、怯えたような表情で及び腰に聞き返すご主人様(17歳Ver.)。

 そのまま無言で凝視する我々。

「……えーと……あの……皆さん?」

「「「「誰だお前!?!」」」」

「えええええええっ!」

「つーか、無茶苦茶マトモそうじゃないの! あんた、本当にメリーさん!?」

「そうですね。丁寧な口調とか、儚げな感じとか、とうてい同一人物とは……スズカさんが化けていると言われた方が説得力がありますね」

「あー、確かに共通点があるけど、でも、全体のスペック――美貌とか、胸の大きさとか、残念さが感じられないしっとりした女子力とか、総じてスズカが負けている感じじゃない? 言うなれば、劣化版?」

「ぐはっ――!」

 エマにずけずけ言われてポンコツ扱いされたスズカさんが、平坦な胸(推定AAカップ)を押さえて、ずるずると崩れ落ちました。


「あ、わかった! メリーさんのいつもの悪戯だわ。偽物を用意して、本物はどこかに隠れて様子を見てるのよ!」

「ありそう! メリー様っ、どこですかー! バレてますよー!!」

 現実を認めたくないオリーヴさんの思い付きに、エマもすぐに乗って、机の下、花瓶の中、絨毯の下などを手分けして探し回ります。


「ふ、ふええええっ!? ちゃ、ちゃいます! 本当にあたしがメリーさんなんです。こうなるとテンションが下がるだけで……ああ、行っちゃった。声も変わるから電話しても信じてくれないし……」

 本物のご主人様を探しに、ついにオリーヴとエマは馬車の外へと繰り出しました(スズカさんは机の下で膝を抱えて体育座りしています)。


「困ったなぁ……」

 悄然と肩を落とす主人様(17歳Ver.)。

 ということで、なし崩しでまたもや私が続きを書くことになりました。

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