第22話 あたしメリーさん。いま王都が陥落したの……。
立夏も過ぎて、
『あたしメリーさん。
「ナニを――!?」
股間がひゅんとするメリーさんとの朝の他愛のない会話を思い出しながら、そろそろ夏物を出して洗濯しておこうかと、懐中電灯を掲げて押し入れに入った俺だが……。
〈すぐに逃げろっ、ここは地獄への入り口だ〉
〈警告! やつらは闇の深淵にいるっ!!〉
〈老统治者的大四是在这间公寓!〉
〈ああああっ、窓から俺を見据える目が、目が!〉
〈破滅の足音が聞こえる……〉
〈I saw the Colour out of Space!〉
〈
〈もうだめだ〉
〈무서운 손이 나를 미친 산맥으로 초대〉
〈覚えておけ、奴らはこの宇宙の外からやっ〉
〈ンドルフ・カーター推参っ!〉
「……なんだろね、この落書きは?」
いままで気付かなかったけれど、押し入れの壁一面に黒い……油性ペンとかではない、まるで乾いた血のような塗料で、落書きが耳なし芳一のように隙間なく書きなぐられていた。
あと余った塗料で悪戯をしたのか、ベタベタと手形がいたるところに残っている。
何のつもりか三本指の生物の手形や、ヒレと吸盤のある河童みたいな手形までご丁寧に捺されていた。
〝あー、それって歴代の住人の遺言ね。あっち側の深淵を一瞬でも覗いたらそうなっちゃうのよ”
四つん這いで頭を押し入れに突っ込んだ姿勢のまま、趣味の悪さにげんなりと呟いた俺の独白に合わせるかのように、いつもの幻覚半透明の濡れた女が、俺の背中に伸し掛かる格好で肩越しに覗き込んで、知ったかぶりして(文字通り)妄言を唱えた。
「……まさか本当に血ってことはないだろうけど、タチの悪いブラックジョークだな」
〝いやいや。本当に血痕だって。嘘だと思うなら試しに指でこすってみれば?”
アホか。某死神小学生じゃあるまし、「ペロッ……こ、これは、エポキシ樹脂!」とか舐めてペンキの種類をテイスティングする能力なんぞないぞ、俺は。つーか、幻覚のくせに圧力を感じるな。狭い場所にいる圧迫感がもたらす錯覚だろうけど。
〝思い出すわ。あの日……畳から天井まで真紅に染まっていたこの部屋を。それは決して夕日の紅じゃなかったの……”
なおもおどろおどろしい口調で肩越しに続ける幻覚。
どうでもいいけど、日本語以外にも外国語の意味不明な落書きが散見できるな。
これは、あれだ……最近、ニュースで見かける観光地で問題になっているアレだろう。まさかこんな卑近な場所で目の当たりにするとは思わなかったが。
〝大量の血痕とバラバラになった臓物……。……だけど大部分のパーツはどこかへ消えていたわ”
「まあ、実際の話。事故物件の告知義務ってのがあって、他殺の場合には五十年前の事件でも、事件があったことを言わないと違反なんだけど、何も聞いてないので事件も事故もあるわきゃないけど」
〝ふふん! 告知義務があるのは最初の入居者に対してだけよ。それが無事に退居したら……たとえ気が狂っていても、問題なしとして次の入居者には告知する必要はないの。そして、この部屋の入居サイクルからして、あなたは犠牲になる番なのよ!”
俺の推測の穴を指摘する幻覚女=俺の無意識の妄想。
「――なるほど。これが自問自答という奴か」
〝違うわよっ!”
それにしたって、我ながら自分自身の妄想のたくましさにに呆れ返る。どこまで小心者なんだ俺は……。
だが一番の問題は、目の前の妄想が若い女の姿を取っていることだろう。おまけにグイグイ押してくる胸の感触まで感じられるし……。ヤバいな。それほど俺は無意識で女に飢えているのだろうか? だとすれば、ある日突然に性犯罪に走る危険があるってことだ。そうならないように、いざという時に即座に自分で頸動脈を掻っ捌けるよう、日頃からナイフを準備しておいたほうがいいだろう。
〝え? なんでいきなり特攻隊員が覚悟完了したみたいな透徹した瞳になっているわけ!? ここ恐怖に震える場面じゃないの?! な、なんか怖いわその目!”
微妙に距離を置く幻覚女。ああ、オッパイが……じゃなくて、圧力がなくなったのをいいことに、さらに押し入れの奥を確認すると、
「つーか、気が付かなかったけど、前の住人の本らしいものが奥にあったんだな」
なんか隠すように置いてあるのに気が付いた。
〝隠してあるハードな性癖のエロ本?”
再び興味津々覗き込む幻覚女。
【Mysteries of the Worm】
「エロ本じゃないな。洋書か? えーと、意味は……『ワームの謎』。ワームってなんぞ? えーと『独立したプログラムで、自身を複製して他のシステムに拡散する性質を持ったマルウェア』。……つまりプログラミング書か?」
手に取った革表紙の結構高そうな本のタイトルをスマホで機械翻訳する。で、その結果にコミット……じゃなくて小首を傾げる俺。
〝それ意味が違うわよ。ワームはウジムシ! 日本だと『
「お、そういや『ワーム』の項に|蠕虫(ぜんちゅう)という日本語訳もあるな。
〝うざっ! たまに飛び出す『上手いこと言った』つもりのオヤジギャグがひたすら寒いわ”
「どうせ忘れものだし処分してもいいんだけど、年代物っぽいし、もしかすると貴重な本かも知れないからなぁ。バイト先の『ロンブローゾ古書店』の店長に聞いてみるか――」
〝無茶苦茶希少本よ! RPGなら『それを すてるなんて とんでもない!』と警告が出るくらい貴重なキーアイテムよ。――ただし読むと発狂するけど”
幻覚女が喚いてるのを無視して店長へ電話する。
「――あ、すいません店長。ちょっとお聞きしたいことが……はあ、いまブラジルですか? ああ、すみません。お忙しいみたいなのでまた後で。ああ、今日中にお戻りですか。じゃあシフトは定時通りで」
〝なんでブラジルから日帰りできるの!?”
知らん。直行便でもあるんだろう。それに、なんか立て込んでるみたいで、何かの爆発音や怪獣が吠えているような咆哮、そして「ワハハハハ……ワハハハハハハハ、ワハハハハ、ハハハ」という、ちょっと逝っちゃってる誰かの笑い声が絶えまなく聞こえる状況で、一介のバイト風情が店長に余計な手間を取らせるわけにはいかないだろう。
「にしても南米ラテンのノリは凄いな。年中カーニバル状態で住人も笑いっ放しなんだな……」
〝なんか違うと思うんですけど!?”
「そうなるとどうしたもんかなこの本。ん~……英語の本とか持て余すし。
〝ねえ、それって独り言? 相談? 私いちいちツッコミを入れる意味あるのかしら?”
「――あー、もしもし。はい、俺です。いやいや、入会の件ではありませんよ。はっはっはっ、またまた御冗談ばかり」
〝私、電話口で『はははは、御冗談ばかり』とかいう人の実物、初めて見たわ……”
「いやあ、それについては『恋愛の人事部長』と呼ばれる経理のA子さんに聞かないと、俺からはなんとも……まあ確かにツ〇ッターでは奴には8人がいいね! と言っていますが」
〝ねえ、思いっきり本題から外れているような気がするのは私の気のせいかしら?”
「そうですね。つり橋効果の他にも単純接触効果というものもあるので、来週のサプライズパーティでは、なんとかしてあいつらを無人島に2人きりという状況を作りましょう!」
〝たくらんでる!? 何か突飛な悪事をたくらんでる! 誰が犠牲になるかわからないけど、逃げてーっ!!”
「ええ、行き先は土壇場でダーツで決める……ということで」
〝…………。……というか、この話題、別に私は必要ないわよね。というか、いつもいないものとして無視されているんだし”
「びっくりするでしょうね。あいつら。まあお互いにバツイチの子持ちという立場なわけですから、恋愛にブレーキがかかるのはわかりますから、周りがアクセル踏んでやらないと進展しないでしょうからねぇ」
〝アクセルどころかブレーキ破壊してるわよね!? ああ、ボケとツッコミのラリーが早すぎるわ。……って、私がヤキモキしても仕方ないか。どーせ無視するんだから。じゃあ後は好きに――”
「こら待て! 電話中にトンズラするとはエチケット違反だろう、幻覚女っ!」
勝手に背中を向けたオッパイ――もとい、幻覚女の襟首を空いている片手で掴んで押さえつける。
〝どーーーしろっていうのよ?! もう嫌っ! 本気で成仏したほうがマシな気がしてきたわ!”
自分でもできるとか思わなかったが、さすがは脳内妄想。そんな風に猫の子みたいに押さえられた幻覚女は、なぜか切れて、理不尽にポカポカと武を捨てたグルグルパンチを放ってきた。
「――ああ、すみません。こっちのことです。ところで、先輩、先輩の好きそうな珍しい洋書があるんですが、よろしければ進呈しますよ。ええ、えーと、タイトルは『ウジムシの謎』で」
話が終わらないうちにガチャ切りされた。
「ありゃ? 間違えて切ったのかな?」
〝本気で引かれたのに決まってるでしょうがっ! 言い方の問題よ! よりにもよって『ウジムシの謎』はないわ”
猫じゃらしパンチで疲れたのか、ぜーぜーと肩で息をしながら答える幻覚女。
「よし、リダイヤルをして、改めて『
〝セクハラよね!? それ完全にセクハラだわ!”
「えーと、リダイヤル――これか?」
〝やめなさ~~いっ! って、結局私の存在ガン無視じゃないの!! お願いします、神様仏様っ、さくっと私を成仏させてください!”
幻覚女が何かゴチャゴチャとわめいているけれど、いつも通りスルーしてスマホを操作する俺――だが。
『あたしメリーさん。なぜこんな田舎道を馬車に乗ってドナドナされているのか理解不能なの……』
『この”円環の理”に従いて、限りなく続く漆黒の大地を白銀の翼の光で満たすために旅立ったことを忘れたの?』
『覚えてないの……。というか、昨夜寝たあたりの記憶がないし、いまも妙にボーっとしているの……』
うっかりひとつ間違えたらしい。メリーさんの不満そうな声と、それをなだめすかせるオリーヴの声が漏れてきた。
てか、これ通話状態になっているのメリーさんが気付いてないんじゃないのか? つまり盗聴状態? やべえ、なんかオラ、ムラムラしてきただ!
心なしか幻覚女も目をキュピーンと光らせて、鼻息荒くジェスチャーで『スピーカーにしなさいよ! ほら早くっ!』と促してくるので、俺は俺の意思とは無関係に脳内の無意識の指示に従ってスピーカーにして、息を潜めてマイクに指をあてて、こっちの音を拾わないように塞いだ。
『遠足に行く子供みたいにはしゃいで疲れていましたからね、ご主人様』
『そーそー。電池が切れたみたいに、夕ご飯食べたのと同時に寝ちゃったから』
『そうですそうです。揺すっても全然起きないで……さすがは象も一発で昏倒する薬だけのことは』
ローラ、エマ姉妹とスズカもわざとらしく口裏を合わせる。
『む~~っ。そうなの? そもそもメリーさん夕ご飯も食べた覚えがないんだけど。なーんか、一話分くらい、まるまるなかったことにされているような気が……』
なおも不審そうなメリーさん。
『気のせいよ。昨夜は中華料理のフルコースだったでしょう。中華! 世界三大料理っ! ちなみにメニューは、ちゃんぽんと焼き餃子とエビチリと天津飯とレバニラ炒め! おいしいおいしいって食べ過ぎてたから、それで記憶がリセットされちゃったのよっ!』
『そのメニュー、全部中国料理じゃないの……!』
力業で強引に納得させようとするオリーヴ。
汚いさすが魔女、汚い。
『それにいつの間にかメリーさんが、《魔王国最強決定戦》の出場選手枠に登録されていることも納得いかないの。そもそもメリーさんそんな遠い国へ行くなんて、面倒なことするわけないから引き返すの……!!』
「遠いから嫌」というSL〇M DU〇Kの流〇みたいな理由で、引き返そうとするメリーさんに向かって、何やら書類をこれ見よがしに掲げるオリーヴ。
『何をいまさら……。こうして契約書(写)に受諾したという当人のサインも拇印も捺されてるじゃないの』
『これメリーさんの筆跡じゃないの! あと、拇印も朝起きたら知らないうちに指に朱肉がついてたの! 捏造なの……!』
『そんなことないわよ。ねえみんな――?』
『ええ、昨夜。ご主人様に優勝賞金50億A・Cや、各種特典について説明をいたしまして「出場資格は問題ないようです」と私が申したところ、「死角? 死角はないの。メリーさん無敵なの……!」と気炎を上げられて、ご自分の出刃包丁で血印を捺されました』
『うっ……! ありそうな話なの……』
やたら具体的なローラの語る昨夜あった出来事の描写に、自分でも記憶の自信が揺らいできたらしいメリーさん。
すかさずエマ、スズカもその尻馬に乗る。
『うんうん、止める間もなかったよね』
『さすがはメリーさんだと思いました。あ、予選を突破して本選に出場するだけでも、最低一億A・Cになるそうですねー』
そうして一斉に、
『『『『メリーさん(ご主人様)(メリー様)、ゴチになりますっ!!』』』』
幼女を闘わせてたかる気満々で頭を下げるオリーヴ以下美少女たち。
『絶~対に嫌なの! というか虐待なのっ! 気が付いたんだけど、いままさに密室で幼女虐待が起きているのっ!! こんな紙ぺら一枚で殺し合いするくらいなら、醤油一気飲みして徴兵逃れするほうがマシなの……!』
メリーさんの絶叫が響き渡る。
なんつーか、あれだな。頭のおかしなメリーさんに振り回され、苦労する可愛い女の子たちによる乙女的でちょっとホノボノするガールズトークが展開されているのかと思ったら、実態はただのゲス野郎の集まりだったわ。
〝うわぁ……”
「聞き耳を立てている立場で、こういうのもアレだけど……これはひどい」
幻覚女と顔を見合わせて、俺は思わず『セン〇エルモスの奇跡』の名台詞を口に出していた。
『ふっ。慟哭の闇が拡散される前に全てを終わらせよう……って、考えすぎよ。それにほら、いまリヴァーバンクス王国にいる、戦闘ができて前科が付いていない勇者ってメリーさんしかいないわけだしさ。メリーさんが勇者の代表って思えばやる気も出るんじゃないの?』
ちなみにメリーさんに前科がついていないのは、殺した相手が賞金首だったり、直接手を下していなかったり、未遂に終わったからで罪に問われていないからだけの話である。
『だったらメリーさん勇者辞めるの! メリーさんを簡単に言いなりになるお人形さんだと思ったら大間違いなの。さっさと〝さ〇りの書”で転職するの……!』
メリーさん、勇者やめるってよ。
『いや、あんたもともと人形でしょう?』
冷静なオリーヴのツッコミに対して、
『メリーさんが人形になるのは、彼の体の上でだけなの……!!』
『『『『な――っ……!?!』』』』
メリーさんのカミングアウトに、その場にいた全員が絶句した。
〝サイテーっ! とんだ変態ロリペド男ね!”
あと、まなじりを吊り上げる幻覚女。
「(アホかーっ! こいつの出まかせを本気にするなっ!)」
『……いや、まさかそんなハードコアな趣味の持ち主だったわけ、あんたの彼って?』
恐る恐る確認するオリーヴと、固唾を飲んで聞き入る一同に向かって、
『あたしメリーさん。そうなの。一晩中、彼に付き合ってくんずほつれつ……』
「(そんな事実はないっ!)」
『具体的にはアルファベット、Sで始まってXで終わる行為をしていたの……』
〝よりにもよって幼女の人形相手にセック”
『より具体的には、〝
『『『『〝「まぎらわしい言い方するんじゃねえ(ないわ)(しないでください)(すんな)!!!」”』』』』
思わずあっちとこっちとで同時ツッコミが入った。
『あたしメリーさん。いま他からのツッコミがあったような……?』
おっと。指で塞いでいたホールドが甘くなっていたか。
慌てて息を潜める俺。
『気のせいじゃないの? あら? そういえば街道が騒がしいわね。あちこちで立ち話をしたり、早馬が走ったりしてるけど、何かあったのかしら?』
『ああ、では私がちょっと降りて聞いてきますね。緊急事態であれば、エマに
オリーヴの疑問に応えて、こういう時に積極的に動きかつ、
しばらくメリーさんの、『暇なの~……』というボヤキと、『ならこれでも潰して遊んでなさい』というオリーヴの声。続いてひたすらプチプチシートを潰す音が聞こえるだけ。
『えええええっ!?』
と、唐突にエマの素っ頓狂な声が響いた。どうやら『緊急事態』で、ローラから
『どうしたの? 一緒にトイレについてくるの……?』
『なにいってるんですか、子供じゃあるまいし……あれぇ、子供か?』
『あたしメリーさん。本屋へ行くとなぜかトイレに行きたくなる超常現象について悩むの……』
『あー、それわかります。――って、それどころじゃないんですよ! 大事件が起きたんです!』
『?……ムー〇ン谷に核ミサイルでも落ちたの?』
『大惨事ですね! でも、事態はそれ以上に深刻みたいです。お姉ちゃんが聞いた話では、王都で反乱が起きて、現政権と王宮が陥落したらしいですっ!』
『どういうこと!?』
『クーデターで内戦状態ってことですか?』
さすがに寝耳に水の事態に、オリーヴとスズカが勢い込んでエマに詰め寄る。
『王宮が落ちたってことは、
こいつには情というものがないのかと、小一時間問い詰めたくなる身勝手な心境を吐露して安堵しているメリーさん。
『えーと、はい、えええええっ!? なんてこと、信じられない……』
オリーヴとスズカの問いかけに答えるため、ローラと
『なに?! なにがあったの……!?』
オリーヴの問いかけに悲痛な声で答えるエマ。
『いま、お姉ちゃんと話している商人のおじさんは、私たちが前に住んでいた町に住む知り合いなんですけど、その人が言うことには、ほんの二三日前に、王都であたしたちの父を見たそうなんです。それも風俗のほの暗い待合室で偶然顔を合わせて、「これは奇遇ですね」「妙なところで会いましたね」と、ひっそり挨拶を交わしたそうです……』
『『『…………』』』
『なんてことでしょうね、あのバカオヤジは。見つけて折檻しないと……ああ、あと反乱は現国王の弟である摂政が、次の王位を狙って行ったみたいです。王都内に勇者がいなくなったタイミングを見計らって』
明らかに家庭の事情を優先させるローラとエマ姉妹に対して、
『いや、ついでのように付け加えられた、その内容のほうが超重要なんだけど……』
『つまり、叔父である摂政が次の王位に就く予定のイニャス王子を疎んじて、反乱を謀ったってことで、文字通り骨肉の争いですね』
『別に珍しいことではないの! 叔父甥の関係が一番危ないのは、壬申の乱以来の伝統なの……!』
またとんでもない例を引き合いに出すメリーさん。
『あと、いろいろあって(主にメリーさんが原因で)王都内に使える戦闘系の勇者がいなくなったんで、その間隙を突いたんだと思うわ。タイミング的に』
『特にメリーさんがいなくなったので、それを好機と見たのでしょうね。実態はともかく勇者代表で、なぜか【ぼくのかんがえたさいきょう勇者】みたいな扱いですから』
『……つまり、間接的にあたしらがクーデターの引き金を引いたわけか』
げんなりしながらオリーヴとスズカが意見を交換する。
『……とはいえ、これからどうするんですか?』
スズカの当然の問いかけに、メリーさんが即座に提案する。
『関係者扱いされては迷惑なの! さっさと逃げて、ほとぼりが冷めるのを待つの……!』
『『『ですよねー……』』』
とりあえず面倒が起きた=逃げるOR相手を殺す。
この二択しかないメリーさんのいつもの即断即決に従って、戻ってきたローラとともに一同は、スタコラサッサと王都から逃走を図るのだった。
で――。
「――よし」
タイミングを見計らって通話を切った俺は、手にした
「……見なかったことにしよう」
メリーさんに合わせて、俺も面倒ごとに蓋をすることにする。
〝いや、まあ……ある意味正解だけどさ”
相変わらず俺の肩越しに頭を乗せて、消極的な同意を示す幻覚女。
というわけで、季節の変わり目なせいか、皆いろいろと忙しい様子なため、俺はひとりで黙々と夏物衣装を準備しなけりゃいかないのだった。
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