第19話 あたしメリーさん。いま決闘を申し込まれたの……。

 カップ麺の買い置きがなくなったので、近所のドラッグストアに買いに行こうとアパートの階段を降りたところで、二階にある俺の部屋のちょうど下の部屋に住む那智さんとばったり出くわした。


「あ、こんちわ~」

HalloハローGutenグーテン Tagターク


 引っ越ししてきたときに熨斗のし付きのスルメとタオル持って挨拶して以来だけれど、あちらも俺のことを覚えていたみたいで、気軽にかぶっていた帽子を持ち上げて英語(?)で挨拶を返してよこした。

 ちなみに那智さんは、頭のてっ辺から指先まで全身を武骨な金属製のマスクと甲冑(?)で覆われていて、その上にスーツとトレンチコートを着ている。動くたびに機械の音がして、喋る言葉も合成された電子音のようにカクカクしている。

 なんでも先の戦争でひどい怪我をしたとかで、こういう格好をしているとのこと(中東あたりの戦争だろうか?)。バイト先の古本屋のオーナーといい、戦争というものは無惨なものだ。


「――おっと、失礼。つい母国語が出てしまった。おまけに隠していた額まで。君、私がドイツ語に堪能なことや、帽子の下に鍵十字が刻印されていること……誰にも喋らないでくれたまえよ? でないと、我がノイエ・ナチ最強部隊である『機械人マシ―ナリー・部隊バタリオン』が、君の脳天にダビデの星を刻むことになるからね」

「はあ、よくわかりませんが……わかりました。那智さんって、苗字が那智ではなくて名前のほうで。フルネームが、井上那智いのうえなちさんだったんですか。肝に銘じておきます」

 那智さんの年齢はわからないが、口調からして結構年上なのは確実だろう。

 田舎じゃ年寄りに対する口の利き方がやかましかったので、俺も自然とへりくだった口調になって相槌を打っていた。


「……君、わかっていてボケているのかね?」

 ウイーン……ウイーン……と、耳に当たるレーダーみたいなパーツを動かしながら、那智さんが車のヘッドライトみたいな目を俺の方へ向けて、まじまじと聞いてきた。


「はあ?」意味不明だ。

「……いや。なんでもない。君はなかなか面白いな」

「冗談は苦手なんですけど、時たまそう言われますね」

 不本意だが、それは事実である。


「そうかね。では――Heilハイル meinマイン Fuhreフューラ……うおおおおっ」

 自然な動作で直立して右手を斜め上に差し上げかけた那智さんは、まるで樺音ハナコ先輩が「くっ! 左手が疼く。……っ、まずい、あの『力』が……っ、くっ……」と、たまに厨二病の発作に襲われた時にやるリアクションのように、自分の右手を押さえて無理やり自然体を装った。つまり無茶苦茶不自然ということだ。

「――くっ。ふう……では、また会おう。Aufアウフ Wiedersehenウィダゼン


 ガッコンガッコン音を立てながら離れていく那智さん。これからの季節、あの格好で暑くないのかなー、と思いながら俺もドラッグストアに向かう。


 と、アパートの敷地を出ようとしたところで、メリーさんから電話がかかってきた。

 背中の薪を下ろして、その上に座って『走れメロス』を読んでいるという。いつの間にかウケ狙いの銅像に代わっていた二宮金次郎像の台座のところで、立ち止まってスマホに出る俺。


『あたしメリーさん。いま変な〝勇者”にからまれているの……』

「勇者ぁ? メリーさん的などっかの神に選ばれたアレ? そういえば前にも、他にもいるけどほとんど王都にはいないって言ってたよな」

『そうなの。召喚勇者にしても、転生勇者にしても、なぜか王都から僻地へ都落ちするの。メリーさんが思うに、あいつら本質的にニートの社会不適合者だから、一般社会に馴染めなくて排泄されているだけなの。おまけに上下関係なしに他人と協力するってことができないから、奴隷を買って「ご主人様はお優しい方ですわ♪」とか、追従ヨイショさせて悦に入るキモい連中だし……ぶっちゃけ、リ〇ちゃん人形やオリ〇ンタル工業製のオランダ人の奥さんを身近に置いて、精神的充足を得ている自家発電野郎と同じなの……!』


 召喚勇者や転生勇者に親でも殺されたんじゃないかという勢いでディスりまくるメリーさん。


「ふーん。で、その本来は地方にいるはずの勇者が、なんで王都にいてメリーさんにからんでいるわけ?」

『〝勇者武闘会”が緊急に開催されることになったからなの……』

「なんだそりゃ?」

 いや、字面からして『職業・勇者』が集まって覇を競う大会なんだろうけど。

『魔王国の〝魔王国最強決定戦”に出場する人間国の代表者を決める予選会が〝勇者武闘会”なの。規模的にはコ〇ケに対するコ〇ティア……いや、もっと限定されているので、百合オンリーのガー〇ズラブフェス。あるいは九州ローカルのいまは亡き……』

「いや、説明されてもコア過ぎてわからんのだが、要するに人間国最強勇者を決める大会があって、いままで地方にいた勇者が王都に結集したってことか」

『そういうことなの。不幸な事件で魔王国の魔王が失脚した上、四天王もふたりダメになったので、急遽、次の魔王を選定するために三ヶ月後に魔王国で〝魔王国最強決定戦”が開催されるので、それに先立って一月後に王都中央の闘技場コロシアムで、〝勇者武闘会”が開催されることになったの。勇者は強制参加イベントらしくて、いま泥縄で会場整備や人員確保とかしているらしいの。国民の税金で……』

「いちいち棘があるな、お前のコメントは」


 意に反する面倒ごとに巻き込まれたことで、微妙にアタリが激しいな、メリーさん。


『そして、いまメリーさんの目の前にいるのが、頭に獅子舞の獅子を乗せて、ふんどしとサングラスを装備した、元日本人の転生者で前回大会ベストエイトの〈獅子舞勇者〉マイケル・フジヤマ……』


「そいつ本当に転生した日本人か!? イタリアあたりのB級映画に出てくる、イタリア人が演じる間違った日本人臭さが半端ないんだけど!」

 なぜか外国人が、唐突に『ロウニン・ザ・ソードマン』って感じで出てくるんだよな~。


『凡庸な人間ほど平凡を避けたがるものなの。あと、その足元で黒焦げで転がっているのが、そのチンドン屋に一発で倒されたオリーヴ……』

「……毎度のことながら、お前の説明はアクロバッティブ過ぎて理解が及ばん。そこに至った経緯を、順を追って説明しろ』

『あたしメリーさん。えーと、さっきオリーヴとスズカと一緒に買い物に出たの……』


 曰く――

 ロリコンの屋敷を格安で手に入れたメリーさんたちは、ホテルを出てそちらに居住を移すことにした。

 で、とりあえず屋敷内にあったロリグッズは裏オークションに出品して、いらない家財や馬車(白のハ〇エース)などは綺麗さっぱり売っぱらって結構な金額になったので、そのお金で屋敷のリフォームを依頼して、現在はローラとエマの姉妹が掃除中。

 で、その間に三人で必要なものを買い出しに出たらしい。


【以下、回想】


「そういえば、おふたりとも日本から転移されてきたんですよね? なんで異世界へ来たのですか?」

 同じ日本出身でも、転生であるスズカが興味深そうにメリーさんとオリーヴに尋ねた。

「有給なの……!」

「それは休みの形態でしょう! つーか、OLのぶらりひとり旅じゃないんだから絶対にウソよね!? 移動手段を言いなさい、移動手段!」

 歩きながらのメリーさんのボケにオリーヴがツッコム。


自転車チャリできたの……!」

「懲りないわね、あんたっ。んなOLのゆるキャンみたいな方法で来られるわけないでしょう! 本当のこと言いなさい!」

「面倒なの。オリーヴこそどうやって来たの……?」


 適当に水を向けられたオリーヴは、微妙にもったいぶった……自尊心を取り戻した表情で、にんまりと笑った。

「……ふっ。初対面の時に説明しようと思ってなおざりになってた話題を、やっと聞いて来たわね」

「メリーさん人の身の上話は、『あたしの彼氏がさぁ……』から始まる話くらい、どーでもいいの……」


 途端に面倒臭そうにさっさと先へ行こうとするメリーさん。その背負ったバッグを咄嗟に掴んで、オリーヴが必死に自分のターンを死守しようとする。


「いや、まあ。確かにそれはうざいと思うけど、私の話は本当に重要なんだから! ひょっとすれば元の世界に帰れる手掛かりになるかも知れないのよ!」

「今週のオ〇コン調査。信用できない言葉ランキング。五位は『メルアド? あたしの長いから逆に教えて。後で送るから』、四位は『もうすぐまとまった金が手に入る』、三位が『あたし2キロ痩せた』、二位が『誰でも出来る簡単な仕事です』、一位が『この話は本当。本当に重要なんだから』なの…‥」

「嘘おっしゃい! オリ〇ンがそんなピンポイントで調査しているわけないでしょう! 我、開眼せし者。オリーヴ=〈深淵なる魔女デイープソーサリスト〉=トゥサの名においてインチキだと明言するわ! その証拠に星の力が……我が霊眼に……! うっ、幾星霜いくせいそうと紡がれし、星辰が導きし運命が……入り……込んで……」

 往来の真ん中で取り出した水晶玉を前に、わざとらしく自分の目を押さえるオリーヴ。


「……あの、オリーヴさんの占いって当たるんでしょうか?」

「UNOでもババ抜きでもオリーヴが勝った試しがないの。竹輪の穴から星でも覗いてろって言いたいの……」

 半信半疑でこっそり尋ねてきたスズカに、メリーさんが(ヾノ・∀・`)ナイナイしながら答えた。

「そうですよねー。この間受講させられた冒険者ギルド専属の巫女ミコ様も、占いは迷信だって言ってましたから」

 さもありなんと頷くスズカ。 

「巫女に教わったの……?」

「はい。黒髪をボブにした巫女様がいて、精霊術について親切に教えてくれたので」

「頼もしいの。オリーヴのインチキ占いと違って、ちゃんとした巫女に厳しい修行をしてもらったわけだから……」

「いえ、それほど厳しくはなかったですよ。巫女様曰く、『テキストはバインダー式で、先生方も一流揃い。一日二十分程度の練習で、冒険者ギルド検定にも合格できるわ。上級冒険者の四割がこの講座の出身者なのよ』ということで、あっという間に……」

「「それ、別のミコちゃん(なの……)っ!」」


 思わず声を揃えてツッコミまくるメリーさんとオリーヴ。


「――って、そうじゃなくて。聞いてよーっ、私の話を!」

 我に返ってアピールを再開するオリーヴの訴えを、メリーさんは適当に聞き流す。

「そういえば途中だったの。えーと、『過去シリーズに比べネコ娘だけが可愛くなりすぎてる件について』だったかしら……?」

「違うわよ! あんたわかっててボケてるでしょう!? 転移よ転移! 私がこの世界に来たその方法は、この古代の魔導書をひも解くことで、自力で異世界に来たのよ!」

 そう言ってドヤ顔で取り出した黒塗りのハードカバー本を見せびらかすオリーヴ。


「……。あの、この本の奥付に〝昭和五十九年発効”って書いてありますけど……」

 なんとなく身長の関係でメリーさんより先に受け取ったスズカが、中身をパラパラと流し読みして最後にツッコミを入れた。


「昭和なんて太古の昔じゃない!」

 何の迷いもなく言い放つオリーヴ。


「え~~~~~~~~~っ」

 転生している分、前世を含めると実はアラフォーなスズカが、微妙に不満げな表情になった。


「いずれにしても、死後異世界に転生したスズカや親の借金のカタに売られたローラとエマ姉妹。そして、様々な伝説を持つメリーさんに比べれば、オリーヴのバックボーンなんてないに等しいの。予想通り重たい過去も何もない薄っぺらい人間だと証明されたの……」

「なんでよ~~~っ!」


 と、そんなやり取りをしている三人の前に、突如として立ちはだかった男がいた。すなわち――

「貴様が最近赤丸急上昇の〈地獄幼女勇者〉メリーさんかっ!?」

 二メートルを超える背丈に筋骨隆々たる体躯。頭に獅子頭を乗せて、唐草模様の風呂敷をマントのように羽織り、プロレスラーのようなタイツ姿にふんどしとサングラスを装備した怪人である。


「おおおおっ! オシシ仮面なの!! 早く縛り上げて宙吊りにして、火炙りにして『グエーッ!』と叫ばせるの……!」

 テンションが上がるメリーさんの喝采を浴びて、変態は満更でもない顔で、

「違うっ! 俺こそは音に聞こえた〈獅子舞勇者〉マイケル・フジヤマであーる!」

 そう言って獅子舞をひと踊り披露する〈獅子舞勇者〉。

 新たな変態の登場であった!


「「「「「おおおおおおおおおおおおお~~っ!!」」」」」

 途端に通行人からやんやの拍手とオヒネリが飛ぶ。

 さらには小さな子供が頭を咥えてもらって、ついでにサインをもらおうと鈴なりになった。


「並んで並んで~。サインはひとり一枚までだよ~」

 手慣れた様子でサインに応じる。その列にいつの間にかメリーさんも並んでいた。

「ここのところにサインをお願いするの……」

「よしよし……って、なんだこの〝契約書”ってのは!? おまけに書かれている法外な壺の値段っ。ちょっとした家が買えるぞっ!!」

「ちっ、案外目敏い奴なの……」

 ドサクサ紛れに怪しげな壺を売ろうとしたメリーさんが忌々し気に舌打ちをする。

「というか、貴様が前魔王と四天王のひとりアレクサンドラを再起不能にし、狼魔将ディーンを討取ったという噂の〈地獄幼女勇者〉メリーだろうが!?」

「あたしじゃないの。あっちの黒髪のほうなの……」

「――へ?」


 いきなり矛先を向けられたオリーヴが、思わず自分を指さした――刹那、

「お前かっ! その実力、この場で確かめてくれるわ! 食らえ、必殺オシシ・ファイヤーッ!!」

 かぶっていた獅子頭から放たれた巨大な火球が、逃げる間もなくオリーヴをこんがりと沈めた。


「ああああっ、オリーヴさんが……!?!」

 スズカの悲痛な叫びが響き渡る。


【回想終わり】


『あたしメリーさん。ということでオリーヴはメリーさんの盾となって、あのやべーヤツの犠牲になったの……』

『いえ、犠牲にしたのはメリーさんであって……あのっ、なんで私を盾にして背中に隠れているんですか!? あとオリーヴさんの安否を心配すべきではないですか?!』

『勿論なの。オリーヴはメリーさんにとって、なくてはならないザ・テ〇ビジョンのレモン的存在なの。もしくは校長に対する教頭――いわば、モンスターペアレンツの猛攻から校長を守る最後の砦でもあるの……』

『つまりどーでもいい存在ですけど、いざという時の肉壁という認識ですよね!? 問答無用で街中で攻撃魔術を直撃させる勇者も大概ですが、味方を盾にする勇者も相当にヤバいと思うんですけど!』


 激烈な勢いでスズカを生きた盾に隠れるメリーさんに、まだメリーさん耐性の低いスズカが猛烈なショックを受けていた。

 いずれにしても現在、やべーやつとやべーやつが邂逅していて、常識人であるスズカが板挟みとなっているのは確かである。俺としてはご愁傷様としか言えない。


『フハハハハハッ! 〈地獄幼女勇者〉破れたりっ。所詮は噂は噂か。だいたい幼女という年でもなかったしな。よーし、では勝利を祝ってもう一舞いするか!』

 一方、〈獅子舞勇者〉は勝利の余韻に浸って呵々大笑しつつ、また獅子舞を踊りだした。


『あたしメリーさん。それはともかく、いつの間にメリーさんに〈地獄幼女勇者〉なんて、物騒なあだ名がついたのかしら? 不本意なの。百遍死んでみるの……!』

『……知らなかったんですか? 〝勇者武闘会”の事前情報パンフレットに書いてありましたよ。特にメリーさんは赤丸急上昇中の期待の新鋭で、なおかついまだに手の内が知られていない秘密兵器という風に』


 勝利に浮かれて踊る〈獅子舞勇者〉に、自分たちへの注意が逸れたと見たのか、多少は落ち着いたスズカの説明に、

『なるほどなの。つまり、下の世代からドンドンと実力ある新人が出てきてきて、焦ったベテランが不意打ちをかけてきたわけなのね……』

 メリーさんが知ったかぶりで相槌を打った。


『そうですね。勇者は大抵〝時間停止”とか〝空間外攻撃”とか〝即死攻撃”とか〝超新星爆発”とかの、とんでもないチート能力を持ってますから、どれだけ警戒してもし足りないでしょうし……』

『なんか無茶苦茶なのっ! どこの俺tueee系主人公なの……!?』

『もっともそれでも魔王国の〝魔王国最強決定戦”では、予選会も突破できるかどうか怪しいところですし……』


「それで相手にならないとか。魔族、どんだけ剛の者が揃っているんだ!?」

 続くスズカの台詞に、聞こえないとわかっていても思わず俺はそう突っ込んだ。


 その声が聞こえたわけではないだろうけれど、続けてスズカが補足してくれる。

『もっともその結果になったのは、毎回、勇者側に問題があるというか……。例えば前回大会では、十秒間時間を停められる能力がある勇者に対して、魔族側は透明化スキルで対抗して時間切れになったところを一撃でしたし。どんな相手でも一発で倒せる〝超新星爆発”の能力者は、バトルフィールドが完全に隔離された限定空間であるのを弁えずに、いきなり能力を全開にしたもので……えーと、ご存知でしょうか? 閉鎖された室内とかで手榴弾を爆発させると、衝撃波がもろに伝播してきて離れた相手の肺が潰れる。それと同じ原理で閉鎖空間でエネルギーが行き場を失い、双方共倒れになったとか。そんなのばかりなんですよ』

『アホなの! チート能力よりもニートの転生者や転移者の知能を抜本的になんとかすべきなの……!』


 学校も試験もなんにも無い世界出身であるメリーさんが、勇者のアホさ加減に呆れ返ったその時、

『がはははははっ! その程度で吼えるとは片腹痛いわ!』

 どこからともなく響いてきた野太い声が〈獅子舞勇者〉を嘲笑う。


『なんだと! 何者だ!?』

 〈獅子舞勇者〉の怒りの誰何すいかに応えて――

『我こそはかの有名な〈伝説勇者〉ああああであーる!』

『ふははははっ。笑止! 私こそ〈真の勇者〉ハード・ゲイボルグ!』

『ふふん、所詮は紛い物ばかりか。聞くがよい! 拙者こそ〈元祖勇者〉ダムダム・段ボールなり

『トウッ! ちょっと待った~っ。俺こそが〈本家勇者〉ギターを背負ったダイナ・マイトガイさ!』

『ちっちっちっちっ。有象無象の勇者と一緒にされちゃたまらないぜ。俺こそが〈孤高の勇者〉海賊レッドスネークだ』

『〈違いの分かる勇者〉パルパンダー三世っ!』

『〈夜勤明け勇者〉クリムゾン・ブル!』

『〈年金暮らし勇者〉虹マント男爵……孫のためにも、今年が最後のチャンスじゃ!』

『〈勇者〉島〇作!』

 なんか色々と出てきた。


 さらには騒ぎを聞きつけて、続々と『やあやあ我こそは――』と、続々と後続の勇者も集まってきた。

『あたしメリーさん。まるでGなの。一匹見かけたと思ったら、たちまち集まってきたの……』

『……あの、どうするんですか?』

 周囲に聞かれないよう、小声で聞いてきたスズカに対して、

『面倒なの。相手してられないから、さっさと買い物の続きをするの……』

 さっさと踵を返したらしいメリーさんの背中へ、

『あ、いえ、オリーヴさんのことなんですけ……ど……』

 追いすがるスズカの声が小さくなって消えた。


『え~い、これでは収集がつかん! こうなれば実際に行動をもって誰が勇者に相応しいか、世間に知らしめようではないかっ!』

『『『『『『『『『『『『おおおおおっ! 望むところだ!!』』』』』』』』』』

 誰かが発した提案に従って、集まった勇者たちが一斉に気炎を上げた。


『アホには付き合ってられないの。まだヘチマの観察日記でも書いていた方がましなの……』

 メリーさんがイチ抜けして、そう呟いた。

 一方、俺はといえばふと思いついたことがあって、その旨をメリーさんに助言してみた。

『……なるほどなの。ダメもとでやってみるの……』


 で、翌日――。

『う~っ……死ぬかと思った。水晶玉がなければ即死だったわ……』

 ポーションのお陰かピンピンしているオリーヴが、起き掛けに朝の朝刊を買って屋敷のリビングへ戻ってきた。

『〝An〇ther”なら確実に死んでたのに、なんで平気なのかしら……?』


 テーブルに座って伏字になっていない感想を呟くメリーさん。

 そんな微妙に戦慄しているメリーさんを尻目に、新聞を広げて一面を見たオリーヴが開口一番――


『ちょっ、ちょっと! 〝勇者武闘会”中止になったわよっ!』

『…………』

『なんでも、参加予定の勇者の99パーセントが、犯罪者として官憲にしょっ引かれたらしいわよ。具体的には町でガラの悪い連中を見かけては、傷害、暴行。違法な逮捕、監禁。怪しげな施設を片っ端から入っては家探しをした住居侵入、器物損壊、建造物損壊。違法とされるカジノを襲撃して窃盗、強盗、占有離脱物横領。あと示し合わせての内乱首謀、王都内での武器や魔術の行使による銃刀法違反、魔術準備使用等違反。他にも勝手に墓地を荒らした墳墓発掘、死体破損。で、当然殺人と殺人未遂罪も……って。あれ? あんた、あの後衛兵の詰め所に行ったって言ってたし、昨日はいやに大人しかったけど、もしかして……』

『オリーヴの仇は取ったの……』

『やっぱりあんたの仕業か~~っ!!』


 ま、正確には俺の助言なんだけど。


『別にメリーさんは何もしてないの。勇者たちがアホだから、アホなことをして当然の報いを受けただけなの……』

『いや、そうかも知れないけど。えげつないわね、あんたって』

『勝負を決めるのは力やチートな能力ではないの、頭脳なの……!』


 自分の手柄のように言い放つメリーさんだけど、シナリオを書いたのは俺だからな!


『う~~ん。理屈はわかるんだけど。なんだろ、この釈然としない気持ちは……。それを認めるということは、人間国の勇者って押しなべてメリーさん以下のヘッポコのポンコツということに……』


 頭を抱えて呻吟するオリーヴの呻きが、いつまでも続くのだった。

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