第15話 水の都の幽霊
「ん・・・」
メルが宿屋のベッドの中でゆっくりと目を開ける。
「目が覚めたか?」
ベッドの横で椅子に座り、魔法スキルカードを作成していたのを中断して声を掛けた。
「あ・・・れ?私どうしたっけ?」
「・・・ごめん」
ペコリと頭を下げるエイフィ。
「ん??」
余り覚えていない様だ。
「エイフィに幽霊がいるって揶揄われて気絶したんだよ」
「あ!?」
思い出してメルが顔を真っ赤にする。
「そこまで苦手とは思わなかった。ごめん」
もう一度エイフィが頭を下げる。
「うー。もういいよエイフィ。それより本当に幽霊いたの?」
「私は見ていない。タイミングよく普通の黒猫が出て来ただけ」
「そっか、良かった」
(俺は本当に見たとは言わない方が良いな)
「もう夜だし、飯食べるか?」
「・・・夜?」
「ああ、半日ぐらい気絶してたな」
「ご、ごめん。狩りは?」
「明日からで良いだろ?急いでないし」
「ずっと傍にいてくれたんだ・・・」
俯いて呟く様に言うメル。
「ん?当然だろ?」
「あ、あひがひょう」
ボンと顔が真っ赤になって何とかそう答えた。
なんやかんやと宿の飯を食べたり、魔法スキル作成したりしてその日過ごした。
「!?」
夜、ベッドで眠っていると再びそれは起きた。あの背筋が凍る様な感覚。額に汗が流れる。
(・・・金縛りってやつか?)
体を動かそうと思っても体が動かないのだ。辛うじて視線だけが動かせる。目を動かすとそれはいた。
黒い長い髪をして白いワンピースを着た貞〇の様な幽霊がベッドの横に立って俺を見降ろしていたのだ。
(殺られる!?)
自分で言うのも何だが、状態異常耐性はそれなりに鍛えて来た積りだ。自分で麻痺魔法で調整したり、毒を極少量ずつ食べたりと出来る限りの事はしてきた。おまけに、状態異常耐性を持つアクセサリも購入して装備もしている。資金は『リザードマン』で稼いだ。
にも拘わらず体が動かせない程の事をされている。もう、この時点で幽霊でなくても勝てないのは確定だ。
その幽霊は暫く俺を見ると、すうっと体が空けるようにして消え去った。それと同時に体が動く様になった。
「はぁはぁ」
息が自分でも信じられないぐらい上がっていた。
(マジで幽霊か?俺が何かしたのか?幽霊に狙われるような事をした覚えはないんだが)
そのまま、モヤモヤしつつも時間はかかったが布団をかぶって眠りにつくことは出来た。正直、少し幽霊にビクビクしていたのは内緒だ。
翌朝、宿で朝食を取り湖の方へ狩りをする為に道を歩く。
「そういえば、昨日ここら辺で幽霊を見たんだよな・・・」
誰に言う訳でもなく呟く。
「ちょっと!?やめてよ!」
メルの顔が必死だ。
「あ、すまん。でも、なぜか妙に気になってさ。昨日の晩も出て来たし、別に襲って来るという訳でもないからさ」
金縛りを襲うと捉えるのか微妙な所だ。動けなくなったがそれだけで何もしてこなかったのだから。
「いた!」
昨日と同じように路地裏の方にすうっと消えて行った為、思わず後を追いかけて走った。不思議と今まで感じていた背筋が凍る様な感覚がなかった。
「嘘!?」
「!?」
流石のエイフィも反応して、慌てて二人でアマロの後を追う。
薄暗い路地裏、真っ直ぐと足を動かしていないのにスーっと進んでいく幽霊。しかし、突き当りになると姿をまた消してしまった。
(この辺りに何かあるのか・・・?)
周囲を見てもこれといった物はない。行き止まりの壁と段ボールが山積みになっているだけだ。
(どかして見るか・・・?)
「アマロ!」
どうしようかと迷っているとメルとエイフィが追い付いて来た。
「もう、いきなり走って行かないでよ」
「幽霊は?」
「ひぃ!?」
「この辺りで消えたんだけど、行き止まりなんだよなぁ」
ホッと安堵するメル。
「おい、坊主達、仕事の邪魔だ。どっか行ってくれ」
「!?」
突如、スキンヘッドのオヤジに声を掛けられて飛び跳ねるように驚くメル。どうやら店の裏側となっており、物を仮置きしているようだ。
「す、すいません。ほら、行くよアマロ」
「あ、ちょ!」
びっくりしたのを隠す様にいそいそと腕を引っ張ってその場を後にした。
「メルそっちいったぞ!」
「任せて!サンダーボルト!」
稲妻がウォビット、ウォーターウルフ、ウォータスネク貫く。生き残った者達をエイフィが剣で切り裂き止めをさしていく。倒すと共にエイフィは俺の横にすぐさま来る。魔物がカード化されて手元に来るのがエイフィではなく俺の手元にあるのを誤魔化す為だ。その都度、メルは不満そうな顔をしていたが、ヒットアンドアウェイだと説得した。エイフィが横に戻ると俺もすぐさま魔法を発動して、カードが手元に届いたのがどちらか分かりづらくしている。
そもそも、油断すると死に繋がるので、これでもお互いを信頼して背中を任せる仲にはなっている為、いちいちカードの行方を気にするような事にはなっていない。はずだ。
湖のダンジョン。湖の直ぐ近くにある洞窟である。住処となっている為、地元の人間でも腕に自信のある者しか近づかないと言う穴場スポットという事を聞いて来ている。マナは人より多い自身はあるし、最悪カードを使えば、魔法はほぼ無限に使えるから行けるだろうと考えた。
それに、コスト8ユニット、ウッドキングすらも1人で倒せるのに、更にもう1人いるならば問題ないはずだ。それに転移魔法もあるから逃げる事にも困らない。そうして、サクサクと倒していく。
「ギャアアアス」
奥に進むと洞窟の中にある湖の中にそれが現れた。
「こいつがエッシーか。行くぞ、エイフィ!メル!」
「ん」
「うん!」
俺が正面、エイフィが左、メルが右側へと散り接近する。
「『サンダーショット』」
雷の玉がバチバチと音を立ててエッシーに向かう。エッシーは湖に必要最低限の体を沈めて躱し、口からウォーターカッターの様な水圧を放ち、地面を抉る。
「二人とも食らったら終わりだ!気を付けろ!」
「分かってる!サンダーボルト!」
メルが範囲攻撃で確実に当てに掛かるが、どうやら大したダメージを受けていない様だ。
「流石にコスト7なだけあって感電死とか楽な倒し方は出来ないか」
残念と思っているさなか、今度はメルの方に向かってエッシーは口から放とうとする。その振り向いた隙を付いて、エッシーの後ろからエイフィが飛び掛かり首元を切りつける。
「硬い」
そこらの魔物なら容易く切り裂くエイフィの剣でも傷をつけるだけで終わった。それどころか傷が見る見る治っていく。
「ウッドキングより強いんじゃないか?」
「私もそう思う」
「・・・何かカラクリがあるんじゃないか?それさえ分かれば簡単に倒せるとか・・・」
そうでないなら、ウッドキングよりコストが低いわけがない。
「ストーンショット」
多くの石礫がエッシーを襲うが、結果は先程と同じ、かすり傷程度のダメージは与えたが、直ぐに回復される。
「いったん距離を取ろう」
「それしかないわね」
「ん」
距離を取ると、エッシーは攻撃をしてこなくなった。縄張り範囲か単純に攻撃範囲外に出た為か、それどころか暫くすると、湖に潜ってしまった。地上には全く出てくる気配がない。
「水の中の敵攻略定番の1つとして、水の中から追い出すか」
「どうやって?」
「考えがある」
ゴニョゴニョと作戦を伝える。
「分かったわ。任せて」
再び参加してエッシーに接近する。
「サンダーショット!」
湖の中に打ち込み水柱が立つ。するとそこからエッシーが再び声を上げて現れる。
「よし、アースウォール!」
地面に手を着き、湖の中へ行けない様に蓋をする。エッシーの正確な大きさが分からない為、何十にも地表に向かって作り出し、地面となる。湖の中から作り出されていくアースウォールによって遂に、湖から体全体が見える程教え上げる事に成功する。エッシーは慌てるように口から水を放とうとするが、水鉄砲の様な水が飛び出ただけであった。
「成功ね!サンダーショット!サンダーショットー!」
何故かテンション高めのメルがエッシーに雷の玉を直撃させると、先ほどまでの耐久力は何処へやら、悲鳴を上げて崩れ落ちた。エッシーが光、メルの手元にカードとなって収まる。
「やった!水が力の源だったって事かな?」
「そうだろうな。逆に水の中なら、コスト9ぐらいの魔法を連発しないと倒せそうになさそうだけどな。まぁ、水から出せば雑魚になるって事だな」
「アマロ、そろそろ戻りましょう。そろそろマナの残りが少なくなってきたわ」
「分かった。じゃあ、帰るか」
短距離転移により、宿屋の借りている一室へと移る。
「明日は、俺がエッシーをゲットするからな」
「分かっているわよ。攻略法も分かったしこれなら直ぐに数を揃えられそうじゃない?」
「ああ、倒すのは問題なさそうだが、数が少なそうなんだよな。二人分集めるとなると少し時間が掛かるかもしれない。それにあの洞窟はダンジョンと言う事みたいだし、まだ、何かあるかもしれない。ショップにも『エッシー』は売られているから『エッシー』はそこまで珍しくないんだと思う」
「そうよね。私達の村の近くじゃ『リザードマン』トップクラスの強さだったからそれ以上の魔物がいてもおかしくはないとは思う。それに、まだ奥があったもの」
「そうだな、明日はその奥に行ってみるか。マナの使い過ぎには注意しろよ!」
「わ、分かってるわよ」
プイっとそっぽを向くと、部屋の扉を開けて出て行く。
「アマロ。ご、ご飯食べに行くわよ」
「はいはい」
そっぽを向いたのが少し恥ずかしかったのか、頬を染めながら食事を誘われた。
そして、今日が終わる。
異世界TCG ~マナカード~ 破滅希 @hametuki
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