第2章 水の都 エンシー

第14話 旅立ち




 なんやかんやあって、月日は流れた。


 神戦試合、少年の部を連続8回優勝という偉業を成し遂げ、アマロという名前を国に残した。

 都市に行くと毎回、引っ張りだこに合い、抜け出すのに苦労した物だ。さらに『リザードマン』を売りさばきまくり、年々『リザードマン』を使う人間が増えてくることによって、父さんの『リザードマン』使いの名を返上しなければならない事になった。

 『リザードマン』が出回ってしまった結果、度々、予選敗退が続いたからだ。代わりに『ウッドマン』『ウッドキング』を主体に戦う事により、新たに『ウッドマン』使いの名を手に入れていた。


 一緒に神戦試合に出ていた者達は、メルティアとソウジンとキアラ以外は冒険者となり色々と旅に出ているようだ。

 街に残ったソウジンとキアラは結婚をして、二人仲良く暮らしている。次期村長候補とされている程になっていた。

 メルティアは、何をしているのかというと俺が旅に出るのを待っているのだ。待っている間、メルティアは修行を欠かさなかった。ほぼ毎日俺と修行をし、エイフィとも剣など技能を高めて行った。今では、1人で余裕を持って森の主である『ウッドキング』を倒す事が出来るようになっている。


 メルティアは俺が旅に出るのを勝手に付いて行こうとして待っているのではない。俺がちゃんと了承したからである。ただ、俺が旅に出る条件が成人してからという条件を付けられたためだ。好意を寄せ始められていた最初の頃は微笑ましく思っていたのだが、成長するにつれて美しくなっていくメルティアが変わらず好意を寄せてくれるせいか、段々とドギマギするようになっていたのだ。知らぬ間に、俺もメルティアに好意を寄せ始めていたのだ。

 しかし、そうなり始めていた時期からエイフィが何かと引っ付いて来るようになった。ユニットのせいなのか10年近くたっても姿が変わらないエイフィが俺の片腕に腕を絡ませてくるとメルティアが反対側の腕に同じことをして、いがみ合うという状況が日常茶飯事になって来ていた。

 両手に花だー。と1人喜んでいたのは内緒だが、村の人達からよく冷やかされた。


 そして、今日、旅立ちの日だ。俺の誕生日ではない。メルティアの誕生日の翌日だ。一緒に旅に出るんだし、どうせなら二人とも成人してからの方が何かと良いのでは?っという感じになってその間、しっかりと修行しておいたのだ。そして、昨日メルティアの誕生会と送別会として村全体で祝い、そしてバカ騒ぎをしたのであった。


 そして、村の前で朝早くから皆に見送られている最中だ。俺は、漆黒のコートにシャツにズボン。黒一色の服装で身を包んだ。やっぱり漆黒で身を包むのってかっこよくね?残念ながら髪の毛は銀色にしてしまっているが、地毛は黒だ。いつか漆黒のなんたらと言われる日を期待してしまう。



「気を付けるんだぞ!」

「偶には帰って来なさいよ!」

「ちゃんとメルを守るんだぞ!」

「帰ってくるときは孫の顔を見させてね!」

「「ちょ!?」」


 最後のメルティアの母親には突っ込まずにいられない。


「何言ってるのよ!お母さん!」

「機会があれば是非とも!」

「え!?」


 紅のコート、紅のワンピース、紅を基調とした服で身を包み、ツインテールだった赤い髪の毛を下ろしたメルティアが顔を真っ赤にしている。


「私は・・・?」

「勿論!」

「はっ!?えっ!?えー!?」


 エイフィの問いに同意したらメルティアがさっきとは違う真っ赤な顔をしてエイフィとギャーギャー騒いでいる。エイフィはユニットのせいか見た目は出会った頃と全くと言っていい程変わっていない。相変わらず、 長い黒髪のポニーテールで腰に漆黒の剣を滞納し、両手に漆黒の篭手、漆黒の鎧、その下に漆黒の服、漆黒のズボンといった黒色中心に身を包んだ。漆黒の瞳だ。ただ、紙の色だけは魔法で俺と同じく銀色に変えている。



「ははは。それじゃ、皆、また帰って来るよ!」

「またね!」


 村の人達に手を振って背を向ける。エイフィも無言ながら小さく手を振って俺の左側に来た。反対側にはメルティア。この位置が定番となった。


 まず、目指すのはまだ見ぬ魔物!新たなカードを手に入れる事が目標だ。そして、来年の神戦試合、大人の部で優勝する事である。


 初めての神戦試合で、厄介ごとが多い為に力を隠すのを殆ど止めた為に1年、また1年と経つごとに少なくなり大会連覇をする事によりそれなりに有名になった。有名になったが為に、戦略が参考にされた。その為、マナカードを使う者も増えたり裏側でユニットをセットする者が多くなってきたのだ。

 年々楽勝で勝てなくもなって来たが、その分TCGとしての面白みが上がっていき、これはこれで個人的には満足であった。

 村の人達はパクリ戦略だなどと言っていたが、寧ろここからがTCG、マナカードの駆け引きの面白さの始まりだと思う。



 そして、行き先は、都市カーランドに向かう道中に分かれ道があり、カーランドへ行く道の反対側を進んだ。空を飛んで。

 魔法、飛翔を使う事により空を飛ぶことが可能なのだ。しかし、空を飛んでいる間はマナを消費し続ける為、長時間は注意が必要だ。

 その為、俺はスーパー〇ンの様に手を伸ばして飛んでいる。背中にエイフィとメルティアを乗せているのだ。マナを節約する為なのだが、何とも言えない気持ちになってしまう。2人と話して取り合えずやってみようという事になったのだが、重量分浮遊する為のマナが余分にかかってしまう為、効率的とはとてもじゃないが言えなかった。あと、超ダサイ。


「ん?」


 そんなダサイ状態で空を飛んでいると、真横に同じく空を飛んで通り過ぎる少女と目が合った。合ってしまった・・・。

 少女は、煌く海の様な色のセミロングの髪で神と同じ瞳、その髪の色に合わせた様に青い色を基調としたロングコートをたなびかせ、物凄く信じられないといった顔で追い越していった。



「「「・・・」」」


 微妙な沈黙でその飛んで行く少女を見送る。


 この世界では空を飛んで旅をするという事は上級魔法を簡単に使う事が出来る者ぐらいだ。最低でもそれぐらいのマナがなければマナ欠乏症でいざという時戦闘等できないからだ。


「メルも自分で飛んでくれない?」

「べ、別にもういいじゃない。手遅れよ。それに・・・」


 いつの間にかメルティアの事を愛称で呼ぶようになっていた。しかし、メルは他の者が言うと嫌がるのだ。謎だ。メルの家族と俺ぐらいだろうかメルと呼ぶのを許されているのは。あ、父さんと母さんも許されてた気がする。むしろ、メルがお義父さん、お義母さんと言っていた気がする。


「それに・・・?」

「な、何でもないわよ!」

「アマロの背中、はぁはぁ」

「ちょ!?」


 エイフィがメルを揶揄っていた。普段はクールな様なのだが、メル相手だと何故かよく揶揄う。


「ッ!?」


 その2人の遣り取りを微笑ましく感じていると、ゾクと背筋が凍る様な気配がした。その気配の方を見ると、黒い長い髪をし、白いワンピースの少女がジッとこちらを見ていた。まるで、日本のホラー映画によく出てくる女性の幽霊の様な存在に何も声を出せなくなる。

 実際には数秒だと思うが、かなり長く感じられた時間、その少女と目を合わせているとスーッと段々と姿が薄れるように消えて行った。


「アマロ?どうしたの?」

「アマロ?」

「はっ!?」


 メルとエイフィの声に違う場所から現実に戻されたかのように我に返る。背中にはびっしょりと汗をかいていた。


「凄い汗をかいてるけど・・・」

「どうかした・・・?」

「2人は今の見て・・・気付いていなかったのか?」


 メルとエイフィがキョトンとして顔を見合わせる。


「何かあったの?」

「さぁ?」


 メルとエイフィは全く気付いていないようだった。


「・・・なぁ・・・幽霊っているのか?」

「え?ゴーストじゃなくて・・・?」


 ゴーストという物理攻撃を無効にする魔物は存在する。しかし。


「そんな、幽霊なんているわけないじゃない。どうしたの?いきなり」


 幽霊の概念は存在するが、あまり信じられていない。


「いや、今それっぽいのがいてさ・・・」

「まさかぁ」

「・・・」

「ほんとに?」


 俺の微妙な沈黙と先程の異常な汗からしてメルとエイフィは察した。姿を消す魔法は確かにあるのだが、魔法とはまた別物だと感じた。


「幽霊かどうかは分からないけど、取り合えず、普通の気配じゃなかったのは確かだ」

「夜、トイレに行けなくなるね」

「そ、そんなことないわよ!」


 その後、エイフィが幽霊話でメルを困らせながら目的の場所が見えて来た。


 湖の真ん中にある小島に聳え立つ塔、その小島から立派な橋で繋がり湖を半分囲うように建物が並ぶ、通称、水の都エンシーが見えた。



人がいない所で降りて徒歩で都市の中に入る。空旅だと色々と面倒な事が起こるのが確定だからだ。勧誘とか。空旅をしていると言う時点でそれだけの魔法使いという事を表しているのだから。


「身分証を見せて貰おうか」


 アイテムボックスから身分証明書のカードを取り出して門番に見せる。名前、年齢、出身地、経歴などしか書いていない。経歴は犯罪履歴も乗るのだが、アマロの経歴はカーランド神戦試合8連覇という偉業が掛かれている。


「おお!君があのアマロか」


 流石に8連覇もすれば、有名人となっている。しかし、顔まではそれほど広まっていない。神戦試合の対戦の内容もその場にいた者しか知らない。言葉伝いには伝わっているかもしれないが、デッキネタバレを出来るだけ防ぐための手段である。この世界では、デッキネタバレ=自身の戦闘力にも関わってくるからだ。ビデオの魔法で広める事も出来なくもないが、長期間保存するアイテムがそこそこ貴重な為、わざわざ顔を広める為だけに使う事はない。緊急時、強力な魔物を他の都市と強力する時などは使われたりするが、それほどの魔物は滅多にいないし、滅多に人がいる所に近づかない。


「エンシーには神戦試合に?」

「まぁそんなところですかね。確か、2か月後でしたよね?」

「ああ。という事は、君は大人の部初参加か。期待しているよ」

「あはは。それじゃぁ」

「うむ。連れの者も問題なし、湖の都市エンシーを楽しんでくれたまえ!」


 門番に手を振って都市の中に入る。


 水の都というだけ会って、いたるところに水路が至る所に張り巡らされている。噴水もあり、中々壮大感がある。


「凄いねー」


 メルが目を輝かせて街並みを見ている。しかし、その目は直ぐに曇ってしまった。


「オラ!何ちんたらしてんだ!さっさと運ばないか!」


 ムチで地面を叩き、少年を怒鳴りつけている。少年はただ必死に男の言われた通りにこなそうと必死の顔だ。その少年の首には、金属の首輪がされていた。


「奴隷・・・」


 基本的に奴隷はこの世界でも合法である。誘拐などによる奴隷販売は犯罪となるが、自身を売る事でちゃんとした衣食住が保証されるのだ。身寄りが無くなった者達にはそこそこある事だ。犯罪奴隷などもこの世界にあるが、犯罪奴隷には衣食住を保証する必要がなく扱いも定められていない、大体は無残な死に方をする方が多いそうだ。


「行こう」


 悲しい目で見ているメルを引っ張りその場を後にする。俺達にとやかく言う資格はないのだからどうしようもない事だ。



 エンシーのカードショップに入った。カードショップでユニットの能力を見る事は実戦に役立つからだ。事前調査が結構簡単に出来る。まぁ、魔物の基本スペックだけだが、それでも知っているの知らないのとでは大きな差が出てくるだろう。



『ウォビット』

 水中に済む兎

コスト   1

維持コスト 1

攻撃力   2

体力    2

 タイプ:兎


 販売価格:銀貨1枚



『ウォーターウルフ』

 水中に住む、狼

コスト   2

維持コスト 2

攻撃力   3

体力    3

 タイプ:狼


 販売価格:銀貨6枚


『ウォータスネク』

 水中に住む蛇。全長1メートル以上ある。

コスト   3

維持コスト 1

攻撃力   2

体力    4

 タイプ:蛇


 販売価格:大銀貨1枚、銀貨2枚



「地味に俺らの地方より優秀なのが多い気がするのは気のせいか?」


 俺達の村、ナシメイト村より、エンシーのユニットは出すコストが軽い代わりに維持コストが高いと言う感じだ。1ターン限りで使うユニットと考えれば破格のスペックだと思う。


(もう少し強いユニットはないのだろうか)



『エッシー』

 首が長く、巨大な体を持つ、全長8メートルはある。エンシーの湖でのみ生息が確認されている。


コスト   7

維持コスト 4

攻撃力   7

体力    7

 タイプ:蛇


 販売価格:大金貨1枚



「まるでネッ〇ーみたいだな」


 殆どがこの湖周辺の魔物みたいだ。


「よし、狩りに行こう。出来れば、このエッシーとか言うのをゲットしたい所だ」

「先に見つけた方がゲットよ!」


 メルが何故か勝負を仕掛けて来た。


「良いよ。早速行こうか」

「絶対、先に見つけて見せるんだから!」


 店を出て、湖の方へと歩いて向かう。その途中、あの背筋が凍る様な寒気、気配がした。その方向をバッと見るとあの幽霊らしき少女がこちらを見て路地裏に入って行ったのだった。


「アマロ?」

「どうしたの?」

「・・・また出た・・・」

「「え!?」」


 冷や汗がダラダラな俺にビシとメルが引っ付いて来る。


「どこどこ?」


 少し震えている様だ。引っ付いた事により、俺の汗が事実と物語っているから余計に怖いのだろう。


「あそこあそこ」


 エイフィが反対側に引っ付いて、適当に暗い影になっている所を指差すとそこから黒猫が不気味に現れ、不気味に低く鳴いた。


「▽×◇〇△!?」


 メルが声にならない悲鳴を上げて、気絶してしまった。


「・・・何かごめん」


 エイフィは謝りながらもどこか達成したような良い笑顔だった。

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