第13話 神戦試合 結末
父さんは『リザードマン』使い(笑)の名に恥じない結果を残し、決勝戦までやってきた。元々強かったみたいなのだが、そこに、俺との修行で新たに手に入れた『ウッドマン』と『ウッドキング』を持っているのだからある意味当然の結果だった。
だが・・・。
「流石は、『リザードマン』使いヴァーダと言ったところか。スキルデッキからコスト9を支払い『ドラゴン』を召喚」
「「「「「コスト9!?」」」」」
会場が騒然とする。
『ドラゴン』
純粋な西洋ドラゴン
コスト9
維持コスト 6
攻撃力 10
防御力 10
タイプ:ドラゴン
効果:〔飛行〕
起動効果:ドラゴンブレス コスト4 相手ユニット2体まで選び5ダメージ
「『ドラゴン』の起動効果。スキルデッキからコスト4を支払い『リザードマン』2体にドラゴンブレスで5ダメージを与える!『ドラゴン』でプレイヤーに攻撃!」
父さんは、俺との修行の結果、まだ抵抗があるようだが、マナカードでコストを支払う事を覚えた。しかし、『ドラゴン』が出てくるまでにも相手はコスト8のユニットを複数展開し、それを倒す為にスキルデッキを消費してしまった。その為、唯一の防御手段であった『リザードマン』2体がドラゴンブレスによって潰され、『ドラゴン』にマナカードを全て割られ。
「スキルデッキからコスト4を支払い『躍動』。もう一度だ『ドラゴン』よ。相手を屠れ!」
「ぐあー!」
という感じで決勝戦で父さんは負けた。周囲は滅多に見る事が出来ないコスト9のユニットを目の当たりにして騒然とする。しかも只のコスト9ではない。純粋なドラゴンタイプなのだ。店にあった『ワイバーンドラゴン』とは訳が違う。『ワイバーンドラゴン』いうなれば、『ドラゴン』の劣化版と言った所だ。
魔物として倒すのでも難易度は圧倒的にドラゴンの方が高い。それを目にしたのだ。観客に者達は信じられない物を見たという状況だ。
周囲がそんな中、1人違う事に感動していた。
(9コスユニットとかロマン過ぎる!使いて~)
と1人アマロは、カードとしてのみの価値で感動していた。
周囲の者達が我に返ると興奮が止まらず歓声拍手が大きく巻き起こった。
「大人の部、優勝者はユウタ・タカハシ選手です!」
(ユウタ・タカハシ・・・やっぱ、明らかに日本人の名前だよなぁ)
「彼は何と18歳にして冒険者コスト10、伝説の冒険者と言われている方です!」
父さんとの対戦を見ながら絶対チート転移者だと思って見ていたが、実際戦闘能力はチートみたいだ。
コスト9であるドラゴンを倒せるのだ。それだけでなくコスト8も多数持つことからも簡単に察する事が出来る。
(問題は転生ではなく転移は恐らく、この世界の神の理から外れている可能性が高い。確か、他の神が他の神の世界を荒らす為に送られているとかあの爺さん言っていた気がする。そもそも、神戦の戦い方はTCG初心者だ。高レベルユニット、上級魔法ばかりのゴリ押しデッキだ。ロマンあるデッキだが、それだけの様な気がしてならない。コストを支払うのもスキルデッキからばかりでマナカードは使わず温存しているし。・・・まぁ、こちらに被害がなければ問題ないが・・・
そういえば、あの爺さんの加護ってどの程度の物なのだろうか。チートものは良く相手のステータスとか見る事が出来るが、その辺りはどうなっているんだろうか。まぁ、考えても仕方がないか。ステータスを見られたからと言って、死ぬわけでもないし)
その後、何事もなく閉会式が終わった。
壇上に、大人の部の優勝者である転移者と横に並んだが、特に当たり障りのない会話。まぁ、お互いにおめでとうと言った程度で終わった。
トーナメント出場者に何と賞金として小金貨1枚。
3位に金貨1枚
2位に金貨5枚
1位に大金貨1枚
だった。残念ながら子供の部は大人よりも少なく。
トーナメント参加者に銀貨1枚。
3位に大銀貨1枚
2位に大銀貨5枚
1位に金貨1枚であった。
金貨1枚って『リザードマン』買えないとか・・・。
(『リザードマン』売れば簡単に大金持ちになれるんじゃね?)
それと賞金の他に小さいトロフィーを貰った。いらねー。こう、何かキャラクターの入った奴とかの方が良い・・・。
そんなこんなで無事、神戦試合が終了した。
「アマロ、その金貨は自分で使うと良い。それで前から欲しがっていた装備が買えるだろう」
「うーん・・・『リザードマン』売っても良い・・・?もう、目立ってるから関係ないと思うんだけど」
「んー。あー・・・しかしだなぁ・・・『リザードマン』が出回ってしまうと『リザードマン』使いとしての立場がなぁ・・・」
「・・・よし。ちょっと売って来るね」
「あ、こら!アマロ!」
走って、店に向かった。後ろから追いかけてくる様子もないから、売られてもそこまで困らないのだろう。
「『リザードマン』を3枚・・・!?あ、あああぁぁ」
小太りなオジサン店員が震えている。
「君、確か子供の部の優勝だよね?売ってしまって良いのかね?来年はどうするんだい?」
「来年までにまた手に入れたらいいし、問題ないよ。今は装備が欲しいからその資金にしたいんだ」
「そ、そうか。なら、こちらにカードを置いてサインをしてくれ」
書類の内容は簡単に言うと、店の人に渡す事を了承すると言う内容だ。これに本意で同意してサインすると所有権が移る。
「・・・お金は?」
そう、先にサインしてしまうと所有権だけが移り金は払われないといった詐欺を行う者が偶にいるのだ。お金を貰えるからとサインする時は本意でサインをしてしまうから所有権移動が成立してしまうのだ。因みに、脅しなどの類ではどうしても本意にならないので成立できない。今みたいなやり取り以外はお互いが納得いかなければ基本的に所有権の移動はされないようになっている。
「も、勿論渡すとも。早くサインを」
父さんから事前に聞いておいてよかった。絶対だまし取る気だ。
「・・・お金」
「分かった。持って来るからサインをしといてくれ」
そう言って、店の奥に行く。『リザードマン』1枚で金貨1枚と小金貨3枚もあるのだ。優勝賞金より、多い。そんな大金だから奥で管理するのも分からなくもない。
「書いたかい?」
「うん」
奥から店員が訪ねて来るので返事をした。すると、にやにやした店員が出て来た。
「おじさん。もしやとは思うけど、ちゃんとお金は用意してくれているよね?」
書類の紙の表を相手に見せないようにピラピラとさせる。カード3枚は、俺の直ぐ傍に置いてある。
「も、勿論だとも。さ、早くその書類を渡しなさい」
書いた時点で本来、所有権は移る。しかし、基本的にアイテムボックスに新規の物を入れる場合、そのカードに触れなければ入れる事が出来ない。
つまり、仮に所有権が店員に移っていれば、俺は触る事は出来なくなるが、相手もカードに触れなければアイテムボックスに移す事はできないのだ。ずっと置きっぱなしになるという事だね。
そして、書類を受けるという事は納得して渡したという事なのだから、金を貰っていなくとも「ここに書いているじゃないか」という言い分が書類的にも立証されてしまうわけだ。
「良いけど、知らないよ?どう見てもオジサン手ぶらだよね?」
「ここに入れてある」
そう言ってポケットを叩く。
「そう?じゃぁ、早く出してよ」
「分かったから書類を渡しなさい」
丸めて書類を渡す。受け取った瞬間、店員が良い笑顔で笑った。
「さ、お金を出してよ」
そう言いながら、カードに覆い被さる。触れなければ問題ないのだ。
「フン。所詮ガキだな。お前は書類にサインしたんだ。もう、これは俺のもんだ!どけ!」
「つまり、金を払う気はないと?」
「もう、俺のカードなのに払う必要が何処にある?」
「そ、じゃぁ。オジサンの人生終了って事で。俺はアンタみたいな人をだます奴に容赦はしないよ。さよなら」
「ふん、何を言っているんだ!」
力づくでどかされ、カードに触れようとするが、バチッと弾かれてしまう。
「ぐぁあ!な、何故!?」
当然、書類にサインはしていないのだ。丸わかりに怪しい行動をしているのだ。警戒するのが当然だ。
「確か、カードのやり取りでの詐欺って死罪にだったよね?」
「ま、まさか!?」
書類を確認する店員だがサインされていないのを見るとワナワナと体を震わせる。確認するのが遅すぎ。
「ガキがー!よくも騙したなー!」
「騙したのはアンタだろ!」
カードをサッと回収して店の外に出る。他の客が何事だと騒ぎ始めた。
「衛兵さん!この店の人にカードを騙し取られそうになりました!」
「おお、衛兵さん。このガキが金を騙し取ろうとしたのです!」
「な!?待て、どっちが正しいんだ!?」
正反対の意見に困惑する衛兵のお兄さん。
「こういう時はやり取りを記録する魔法、ビデオが合ったら、直ぐに分かるんだが、ビデオの魔道具は設置していますか?店の方」
「い、いえ。まだそれを設置するほどの余裕がありませんので・・・」
悔しそうな顔をするオジサン。結構演技派だね。
「二人とも、カードのやり取りでの違法行為は死罪になる可能性が非常に高い。それに関する嘘もそれに同罪になる可能性が十分にある。それを分かった上での発言か?」
「「はい」」
即答する俺とオジサンに衛兵さんが困った顔をする。
「しかし、ビデオが無いと証拠がなぁ」
「衛兵さん。私は書類にサインしたと騙されてカードを触れようとしたらこの通り、所有権が移っていなかったために怪我をしてしまったのです。これでは商売に支障をきたします」
わざとらしく辛そうに言っている。
「じゃぁ、オジサンに商売の事を気にしなくても良いようにしてあげるよ」
「このガキが!ようやく、自分の罪を認めやがったか!」
「そうなのか少年」
「まさか、こちらに罪はありませんよ。カードを一枚取り出し、地面に向ける。ビデオ」
そう言うと、先ほどまでの遣り取りがカードに記録されており、それが映し出される。音声付きで。
「フン。所詮ガキだな。お前は書類にサインしたんだ。もう、これは俺のもんだ!どけ!」
「つまり、金を払う気はないと?」
「もう、俺のカードなのに払う必要が何処にある?」
というやり取りもバッチリと移っている。オジサンはその様子に冷や汗がダラダラ流している。
「衛兵さん。何か問題ある?」
「いや、全くないな。店員よ。詐欺だけでなく、虚偽の報告で罪のない人間に押し付けようなど、簡単に死ねるとは思わない事だな」
「畜生ガー!!!」
叫んで逃げ出す店員。丁度前方から父さん達がやって来てぶつかる。よりにもよってメルティアと。
(まずい!)
「く、来るな!来るとこの娘がどうなっても知らんぞ!」
案の定、アイテムボックスから取り出したナイフで人質にされてしまった。周囲の人間が一斉に距離を取る。父さん達も周囲の他人程ではないが、オジサンの店員を刺激しないように少し距離をとった。
「ぱ、パパ!助けてー!」
ナイフを突きつけられ、余りの恐怖に泣き出してしまう。
「く、娘を離せ!」
「パパー!」
「罪が重くなるだけだぞ!」
衛兵さんも説得に入る。
「う、うるさい!全てはそのガキが悪いんだ!」
「「「「「え!?」」」」」
村の皆の視線が突き刺さる。悪くないのに焦ってしまうじゃないか!
「人のせいにするな!騙し取ろうとしたお前に全て責任がある!大人しくその娘を離しなさい!」
衛兵さんが訂正してくれたので全力で頷く。村の皆が納得したような顔をしてくれる。
(しかし、このままだと何をしでかすか分からないな。最悪、怪我をさせてしまう恐れがある。一瞬で近づくには疾風か、しかしこの距離だと止まり切れなさそうだし。短距離転移しかないか。7歳で上級魔法を使えばまた、面倒になりそうだし・・・いや、メルティアの安全に比べたら些細な事か)
「オジサン、『リザードマン』を上げるから娘を離してくくれ。何ならコスト8の『ウッドキング』もつけるからさ」
「いるか!書類を取り出そうとした時にどうせ、捕まえに来るんだろ!?それにそうでなくとも解放した瞬間捕まえられて終わりだろうが!」
(チッ。そこまで馬鹿じゃなかったか)
だが、そう怒鳴った時に、ナイフを前に突き出したのが命取りだったなオジサン。
短距離転移で、一瞬にしてオジサンの懐に入り、さらにストリングを掛け、思いっきり、ナイフを持った手を殴りつけた。子供の力では心もとないからね。
「がぁ!?」
カランとナイフが転げ落ちる。間髪入れずにボディブロー。オジサンは腹を抑えて膝を着いた。その隙に、メルティアをお姫様抱っこして、オジサンと距離を取る。
お姫様抱っこをしている間、メルティアに熱い眼差しに気付くことはなかった。
「大丈夫か?ごめんな?何か巻き添えに合わせちゃって」
「・・・ううん」
顔を赤くしてポーと見つめられる。そんなに見つめられると流石に照れるじゃないか。
「観念しろ!」
衛兵さんがオジサンを拘束されている。拘束し終わると衛兵さんがこちらにやって来た。
「ご協力ありがとうございました。後日、お礼に伺いたいと思うのですがどちらにいらっしゃいますか?」
「えっと今日はこちらの宿に・・・」
宿の場所を伝えると衛兵さんがオジサンを連れて行った。「さっさと歩け」と尻を蹴っていた。
「メルティア!無事でよかった」
「パパ!」
メイガンとメルティアが抱きしめ合う。
「アマロには助けられたばかりだな」
「いえ、今回のは俺にも少しは原因がありますから、寧ろ謝りたいです。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。メルティアも怖い思いをさせて本当にごめんな」
「気にするな!メルティアを貰ってくれればそれで良い!わははは」
冗談を言って少ししんみりした空気を変えるつもりだったメイガンだが、いつものメルティアのツッコミがない。
「あ、あれ?メルティアどうした?」
メルティアの視線が俺をじっと見ている。
「これは本気で惚れられたんじゃないか?」
「!?そ、そんな事ないわ!」
我に返ったメルティアが真っ赤になって否定する。それによって笑いが起こり、そのまま経緯を離しながら宿に戻ったのであった。
短距離転移については誰も触れられなかったが、気付かなかったのだろうか?それだけが最後まで気になって眠りについたのであった。
翌日、衛兵さんが懸賞金をわざわざ届けてくれた。小金貨1枚だった。
「「さ、帰ろうか、アマロ」」
父さんとメイガンにガシッと肩を掴まれる。
「・・・馬車は?」
「何だ?お前、馬車に乗って帰りたいのか?」
二人とも意外そうな顔をしている。
「俺達はな。お前が転移を使えるのを昨日ちゃんと見てるんだ」
「そ、無駄な経費削減ってな。楽だし、一瞬だしな。あっはっは」
耳元でそう言うとメイガンが豪快に笑う。
「・・・っていう事は、村の皆も?」
見ると、苦笑いして便乗する気満々の様だ。そりゃ馬車の旅はしんどいからね。俺もその為に取得したわけだし。
「んじゃ、皆に知れ渡っちゃったわけか」
でも、転移となれば欲しがる人が更に増えるはずだとばかり思っていたんだけど。
「村の皆には都合上話したが、実際、近くにいた俺とヴァーダ以外は気付いていなかったみたいだぞ。気付いているが、興味ないって奴もいるかもしれんが」
「そっか、騒ぎにならないならそれでいいよもう。ただ、転移先は俺の部屋になるけど問題ないよね?」
「「「おう」」」
「「「はい」」」
「「「「「うん」」」」」
それぞれが返事すると3人ずつ転移した。流石に同時に連れて行くにはマナが足りない為、スキルカードを気付かれないように後ろに手を回して使った。触れてはいない。魔法を使う時の演出な感じだ。
そして、村で祝勝会を開いてその日は終わりを迎えたのであった。
結局、『リザードマン』を売り損ねた。
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