第12話 神戦試合 子供の部 決勝

「二人ともお疲れさん」

「ナクル、惜しかったなぁ」

「う゛ん」


 涙声で言うナクル。そう、ナクルは負けてしまったのだ。1試合目はあの3人グループの1人で勝ったのだが、第2試合にユリアと当たり敗北したのだ。


「しかし、アマロ。何でまた実力を表に出したんだ?」

「いや、何かどこでもガキの癖にって無駄なに難癖付けられるし、そっちの方が無駄な面倒が起きなくて良いかなって思って」

「ああ、なるほどなぁ。でも違う意味で面倒が増えると思うぞ。お、噂をすれば」


 今日の試合は準決勝まで終わり、明日は決勝と大人の部が開始される予定となっていてその帰りの道中なのだが、何やら人が集まって来た。


「君、アマロ君だね?私は、ヘンキョウ男爵というものだ。神戦試合が終われば我が屋敷に来ないかね?報酬も弾むぞ。父上もご一緒で構わない」

「ヘンキョウ男爵!抜け駆けはいけませんぞ。私はソコラヘン子爵というものだ。ヘンキョウ男爵よりも待遇は良くするぞ。是非我が領地にこないかね?」


(な、名前がひでぇ)


「い、いえ。有難い申し出ですが、私は何処かに仕えるといったつもりは一切ございません」

「どうしてかね?」

「えっと・・・」


 チラリと父さんを見る。親にもまだ話していない内容だが、まぁこの際良いだろう。


「私は、旅に出てあちこちを見て回りたいと思っているのです」

「何!?父さん初耳だぞ!」

「うん、初めて言った」


 ガシッと肩を揺さぶられる。


「う・・・うん。いずれはそのつもりで考えているんだ・・・」


 頬を掻きながら答える。


「貴族の方々、お聞きになった通りです。申し訳ございませんが、アマロは何処にも仕えるつもりはございません。もちろん私も、例年言っている通り、仕えるつもりはございません」

「・・・そうですか・・・それは非常に残念だ」

「・・・では本日はこれで失礼しますよ」


 集まっていた人達が去っていく。


「ありがとう父さん。でも父さんは何であの村にずっといるの?」


 二つ名まであるのだから良い生活が出来るはずだ。


「父さんはな、あの村が好きだからさ。それにフェンリもお前もいるしな」


 ニカッと笑う父さんだが、他にも理由がありそうな気がするのは気のせいだろうか。


「まぁ、そう言う事にしておくよ」

「おう、そうしとけ」


(アマロが旅に出ちゃう!?そんな・・・どうしよう)


 ヴァーダとアマロが話している傍らで、メルティアが青い顔で考え込んでいた。



★★★★★★★★★★★★★★


 翌日。


「会場の皆様!お待たせしました!本日、これより、子供の部、決勝戦を始めます!」


 何故、決勝戦が違う日に行われるのか。対戦者から情報が洩れるのではと思う者もいるかもしれないが、それが狙いだ。情報収集能力。それを試しているのだ。情報通りの対策を取るのも良いし、裏をかくの良い。戦いは既に神戦試合が始まる前から始まっているのだ。こちらが仕入れた情報は、主にナクルからだが。


〇ユリア・シチセイ

 使用ユニット:『ラビット』『ゴブリン』『ウイングバード』『タイガーウルフ』『ソードバード』『ファイアバード』

 使用スキル:『プチファイ』『ファイア』『シールド』『躍動』『アイスランス』『ストリング』


 〔飛行〕能力持ちを主体に戦うという話を聞いている。


(飛行能力持ちが多いのは厄介だが、その分スペックは低めが基本だ。リザードマンもいるし、どうにでもなるだろう。それに他の者と同じように脳筋なら簡単に対処できるはずだ)


 ナクルは、油断したところに『アイスランス』で倒されたらしい。


「では、選手入場です!まずはユリア・シチセイ選手!シチセイ伯爵のご令嬢です!2大会連続トーナメントに出場です!」


 ユリアが入場してくると共に大きな歓声が起こる。それに対してスケート選手の様にそれぞれの方面に向かってお辞儀をしやはるユリア。


(場慣れしてるなー)


「対するは、史上最年少でトーナメント決勝進出を果たした、『リザードマン』使いヴァーダの息子!アマロ選手です!」


(史上最年少だったのか・・・)


 俺が入場すると再び歓声が起こる。ペコペコと落ち着きなくお辞儀を何度もする。


「彼はご存知の通り、中級魔法を使いこなす非常に有望な選手です!今回はどんな試合を見せてくれるのか期待が高まります!」


(俺の事より、伯爵令嬢を持ち上げてくれよ。ほら、睨んでる・・・)


 マナエクステンションを挟んで対峙するユリアに睨まれている。


(フフフ。相手に取って不足はなしですわ)


 ・・・ユリアは睨んでいるつもりはないようだが。


「それでは、準備は宜しいでしょうか!?マナエクステンションに手を翳してください!」


「お互い、悔いのない戦いをしましょう!」

「はい!」

「「マナデュエル!」」


 マナフィールドが構成される。



「貴方が先攻みたいですわね」

「はい。手札に2枚入れ替えます」

「私は1枚入れ替えますわ」


 お互いがマリガンを終える。


「それでは、デッキからマナゾーンに5枚カードを置き、『初心者です』をマナカードで支払い、裏向きで4枚セットしてターンエンドです」


 アマロ 手札0枚。マナカード4枚。スキルデッキ50枚。


「フフフ。聞いただけでは信じられませんでしたが、本当に自信のライフであるマナカードでコストを支払うのですね。しかも裏側表示ばかり。それで、この私にどこまで通じるかしら!」


 金髪ロールをバサッとかき上げる。


「私のターン。デッキからマナゾーンに7枚置き。『ウイングバード』2体、『ソードバード』体、『ファイアバード』1体をスキルデッキからコストを合計17支払い召喚ですわ!」


『ウイングバード』

 鷹。動物の翼より2倍ほど大きな翼をもつ。


 コスト   2

 維持コスト 1

 攻撃力   2

 体力    1

 タイプ:鳥

 効果:〔飛行〕


『ソードバード』

 剣の様に切れる嘴を持つ。全長1メートル程の鳥。


 コスト   4

 維持コスト 0

 攻撃力   4

 体力    2

 タイプ:鳥

 効果:〔飛行〕


『ファイアバード』

 ウイングバードが炎を纏った。


 コスト   5

 維持コスト 3

 攻撃力   4

 体力    4

 タイプ:鳥

 効果:〔飛行〕

 起動効果:火炎弾 コスト1 ユニットに1ダメージ。ターン1回



(見事に飛行だらけだな。『ファイアバード』できれば早い目に倒しておきたい所だ)


「私はこれでターンエンドですわ!」



 ユリア 手札0枚。マナカード7枚。スキルデッキ33枚。

 『ウイングバード』2体、『ソードバード』体、『ファイアバード』



「では、俺のターン。デッキからマナゾーンに5枚置き、マナカードを使ってコスト6『リザードマン』を召喚!」

「出ましたわね!」

「マナカードからコスト2を支払い『ゴブリン』を召喚。そして、スキルデッキからもコスト2を支払い、もう1体『ゴブリン』を召喚」


「『リザードマン』で『ファイアバード』に攻撃!」

「させませんわ!『ソードバード』で『ファイアバード』を守ります!」


 『リザードマン』の方に『ソードバード』の剣の嘴が刺さり、身動きが取れなくなった所を『リザードマン』が切り伏せる。


「『ファイアバード』の効果発動ですわ!火炎弾!スキルデッキからコスト1を支払い、『リザードマン』に1ダメージですわ!」


 『ソードバード』の反撃を受けて残り体力1の『リザードマン』、流石にこんな殺され方は割に合わない。


「スキルデッキからコスト2を支払い『シールド』発動!」

「ならば、叩き伏せるのみですわ!スキルデッキからコスト3を支払い『ファイア』を発動ですわ!これで『シールド』ごと『リザードマン』を倒せますわよ!」

「そんな簡単に倒させませんよ!再び、スキルデッキからコスト2を支払い『シールド』で『ファイア』を防ぎます」

「キー!噂通りとやりますわね!」


 ビシッと指を指される。


(いや、これくらいで褒められても・・・)


「えー。『ゴブリン』2体の起動効果、それぞれ自身をレストして石礫を発動!『ウイングバード』2体に1ダメージ」

「やらせませんわ!『ウイングバード』2体をスキルデッキからコスト合計4を支払いそれぞれ『シールド』で守りますわ!」


「・・・それでは、俺はこれでターンエンドです」


 『リザードマン』の傷口が塞がる。


「『初心者です』は攻撃しなかったのですね」

「まぁ、余り意味はありませんから」


 ・アマロ 手札0枚。マナカード1枚。スキルデッキ45枚。

 『初心者です』 レスト状態『リザードマン』『ゴブリン』2体

 ・ユリア 手札0枚。マナカード7枚。スキルデッキ22枚。

 『ウイングバード』2体『ファイアバード』『ソードバード』


(相手の手札は0枚出し、無暗に増やす必要はない。もしもの時の為の壁に回しておく方が良いだろうしね)


「まぁ、良いですわ。私のターン。デッキからマナゾーンに5枚置き、維持コストをスキルデッキから合計5を支払い、マナカードを2枚手札に加えますわ。そして、スキルデッキからコスト2とコスト4を支払い『ウイングバード』と『ソードバード』を召喚しますわ。

 それでは、『ウイングバード』でプレイヤーに攻撃!ですわ!」

「スキルデッキからコスト6を支払い、『サンダーボルト』を発動。対象は『ファイアバード』!」

「その魔法を使えることは知っていますわ!スキルデッキからコスト2を支払い『ロングシールド』を発動ですわ!」


『ロングシールド』

 コスト2

 自身の全てのユニットが受けるダメージをターン終了時間で1減少する。


「これで『サンダーボルト』による全体へ1ダメージから『ウイングバード』を2体とも守れますわよ!いかがかしら!?」


 ドヤー。


(・・・『ロングシールド』が使えてちゃんと対応してきたことには素直に驚いたけどさ。でも、スキルデッキの枚数調整は相変わらずまだ誰も出来ないんだね)


「申し訳ありませんが、もう一度スキルデッキからコスト6を支払い『ファイアバード』に『サンダーボルト』を使わせていただきます」


 『ファイアバード』の残り体力は『サンダーボルト』の4ダメージを『ロングシールド』で防がれたので残り体力は1だ。飛んでいる姿が辛そうだ。


「ま、まだですわ!私ももう一度スキルデッキからコスト2を支払い『ロングシールドを、そして、『ファイアバード』にスキルデッキからコスト2を支払い『シールド』で『ファイアバード』も守りますわ!』


 ど、ドヤー。焦り気味のドヤ顔である。


 『ウイングバード』が鳴き声を上げて直ぐそこまで迫る。


「スキルデッキからコスト5を支払い『ライトニングレイ』を発動します。全体に2ダメージを与えます。これで、ユリア様のユニットは全滅ですね」

「そ、そんな!?」


 ユリアのユニット全てに光線が貫く。


(なぜ、まだマナが10枚もあるのに何もしてこないんだよ・・・少しは出来るかと思ったんだけど期待外れか)


「タ、ターンエンドですわ・・・」


 ユリア 手札0枚。マナカード10枚。スキルデッキ2枚。


 場にはユニットがおらず、スキルデッキも2枚。知らない魔法か特技でもない限り逆転は不可能だろう。


「俺のターン。デッキからマナゾーンに5枚置いて。『リザードマン』の維持コスト3をスキルデッキから支払い。『リザードマン』で攻撃!」


 ユリアのマナを5枚リザードマンが割る。


「ま、まだ諦めませんわ!貴方のユニットの合計攻撃力では私を倒せませんわよ!」

「『ゴブリン』2体と『初心者です』でプレイヤーに攻撃!」


 全てのユリアの全てのマナを割る。


「スキルデッキからコスト3支払い『アイスランス』でプレイヤーにダメージ」


 ユリアが『アイスランス』に貫かれ、マナフィールドが解かれていく。


「勝者!アマロ選手!子供の部優勝者は!アマロ選手となりました!史上最年少達成です!僅か7歳ながらも数々の中級魔法を使いこなす凄腕のアマロ選手に盛大の拍手を!」


 歓声と共に大きな拍手が巻き起こる。


「完敗ですわ。ここまであっさりと負けたのは初めてかもしれません」


(ここまであっさりと勝ったのは初めてかもしれません)


「恐らくですが、〔飛行〕能力に頼りすぎですね。薄い体力を守る為の魔法を覚えれば勝率が上がると思いますよ」

「精進しますわ」


 お互いに握手をする。


「両選手にもう一度盛大な拍手を!」




★★★★★★★★★★★★★★


「流石、俺の息子だー」

「「「「「おめでとう!」」」」」

「ありがとう」


 控室に行くと村の皆が迎えに来てくれて声を掛けてくれる。父さんに至っては肩に手を回して、頭をグリグリしてくる。


 クィ。


「ん?」


 袖を引っ張られそちらを見ると、メルティアと目があった。


「お、おめでとう」


 顔を真っ赤に言う仕草がまた可愛らしい。ロリコンに目覚めてしまいそうだ。


「ありがとう」


 ポンと手を頭に置くと、相変わらずフンッと顔を真っ赤にして逸らすのだが、頭から手を払いのけないのでナデナデしておく。


「ヒューヒュー」

「もう、結婚しちゃえよ」


 大の大人が子供の様に囃し立てる。


「けっ!?」


 メルティアが顔から煙を出してポカポカと叩いてくる。


(何故、俺が~)


 痛くは無いけどさ。




「それじゃぁ、父さんとロマネスさん。頑張って!」

「親子そろって優勝をかっさらって来い!」

「期待しています!」

「「「うんうん」」」


 一通りワイワイ騒ぐとそれぞれに応援の言葉を口にした。


「・・・父さん。『リザードマン』使いヴァーダとやらの力を見せてね」


 ニマニマしながら言う。


「おう!任せとけ!」


 あ、普通に捉えられた。


「俺の応援が少ない・・・」

「「「「「ロマネスさん頑張ってください!」」」」」


 ロマネスの切ない呟きに一糸乱れずロマネスに応援した。


「はは、ありがとう」


 少し元気が出た様だ。


「それじゃぁ、お前等観客席で俺の活躍を見てろよ!」

「行ってきます」


 父さんとロマネスに手を振って別れ、トーナメントに出ない村の皆と共に観客席に移動するのであった。

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