第8話 都市 カーランドへ

「な、何だ!?」

「アースウォールに亀裂が!?」


 メイガン、ロマネス達が驚きの声を上げる。心配そうにヴァーダに泊められて『アースウォール』の向こうの戦いの様子を伺っていたのだが、静かになったと思ったら、アマロが出した『アースウォール』に突如として亀裂が入ったのだ。



「わぷっ」


 スキルカード『ストリング』により、攻撃力を上げたエイフィの斬撃で見事に『アースウォール』を粉々にするが、砂堀を被ってしまう俺であった。


「「アマロ!?」」

「大丈夫か!?」


 一番に駆け寄って来てくれたのはメイガンとロマネスだ。メイガンはキアラにメルティアを預ける事によって解放されたみたいだ。肩をガシッと掴まれる。


「盗賊共は!?」

「・・・あはは」


 何と言ったら良いのか思い浮かばず苦笑いをする。するとメイガンを俺の後ろを見渡して驚愕した。あれだけいた盗賊達が皆倒れていたからだ。


「全員死んでいるのか・・・?」

「・・・たぶん?」


 死んでいなかったとしても重傷でまともには動けないだろう。


「いやぁ、流石は俺の子だ」

「お前!?」


 ゆっくりと馬車を降りてやってくる父さんに避難するような声を出すメイガン。


「父さん、どうすんの?」


 髪をワシャワシャとされるが、そんな事よりこっちの方が問題だ。村の皆が、異形の者を見るかのような視線が俺に突き刺さって非常に居づらい。


「俺の子供なんだから当然だろ!?」


 ドヤッと言わんばかりに良い笑顔で皆に言う。


「「「「「いやいやいや!?」」」」」


 全員が無茶苦茶な説明に否定する声を上げる。その中に俺も含まれている。


「・・・黒だからか」

「「「「「「「「!?」」」」」」」

「カーマルお前!」


 吐き捨てる様に言うカーマルに咎めるように言うロマネス。一応は、“髪”までは付けないところ、一応は気を使っているらしい。


「助けて貰っておいてそれは何だ!?」

「チッ」

「この!」


 明らかに不満な態度なカーマルの舌打ちに、流石に見逃せないと思ったのかメイガンが手を上げようとが。


「ま、待ってください!村の仲間なんだから仲良くしましょうよ」

「何だ?アマロ、それで僕を助けたつもりか?」

「お前まだ!?」


 俺の言葉で手を引こうとしたメイガンが再び拳を上げる。


「まぁ、待てメイガン。・・・カーマル。お前はアマロの何が気に食わない」

「ヴァーダさんには悪いですが、アマロの存在全てですよ」

「あ!?」


 流石に息子の存在を否定されたヴァーダは怒りを隠せなかった。


「だってそうでしょ?こいつは黒何だから、才能にも恵まれている。おまけに村一番強いヴァーダさんの息子なんだから当然でしょう?貴方も流石自分の息子と言っていたではありませんか」

「お前!」

「だって、どう考えてもずるいじゃないですか。村一番強い息子が黒何て、才能の塊みたいなものでしょ?大した修行もしていなのに、今や父であるあなたよりも強いじゃないですか。まだ、たったの6歳なのに・・・がっ!?」

「父さん!?」


 父さんは我慢出来なかったのだろう。カーマルの顔面に容赦のない拳が当たり、軽くカーマルの体が浮いて倒れた。


「・・・カーマルさんは、俺が大した修行もなく今の実力をつけてせこいと言いたいわけですよね?」

「んだよ。違うとでも言いたいのか?それに、僕はその喋り方すら異常だと思っているんだ。とても6歳の言葉遣いじゃない!」


 垂れて来た鼻血を手の甲で拭い、睨み付けてくる。


「言葉遣いは・・・目上の人には丁寧な言葉遣いをと教わりましたしご了承して頂くしかないですが・・・それと、あと3日ほどだよね?父さん。都市に着くのは」

「・・・ああ、そうだが」

「それなら、カーマルさん。俺の修行を3日間してみますか?かと言っても馬車の中で出来る修行になりますし、俺は魔法が好きだったので魔法以外の事は余り修行はしていませんでしたから、体力関係で修行だの勝負だのは出来ません。まぁ、体力づくりの一環として狩りも一人でさせてい貰っていたのですが。ですので、僕が2、3年ぐらい前からコッソリとやっていた修行をしてみますか?」

 

 正確には1歳だったはずだが、1歳で修行とかどう考えてもおかしいし、3歳4歳ぐらいなら多少、考える事はできる年齢になっているとこの世界では認識される・・・はず。


「・・・良いだろう。だけど僕は、お前を認めない・・・」


 ズカズカといった感じで馬車に戻るカーマル。


「済まない、アマロ。父さん達だけでは被害なく切り抜けられる自身がなかったんだ。神戦試合は、今後の人生に大きく関わってくる大事な試合だ。だから・・・」

「困った時はお互い様だよ。ユニットが無くなるのは辛いからしょうがないよ」

「・・・ありがとう」


 笑顔で返すと複雑な笑みを浮かべて礼を言う父さん。そんなに気にしていないのに。


「「「「「アマロ!ありがとう!」」」」」

「おっふ」


 急な言葉に変な声が出てしまった。


「カーマルはあんな事を言っていたが、きっとお前に感謝しているはずだ」

「そうだぞ。アマロがいてくれていなければ俺達はどうなっていたか」

「そうだよ!アマロのお蔭よ!」


 メイガンやロマネス、ミナリィ達が口々に感謝の言葉を言ってくれる。


「あはは、ありがとう。それよりも盗賊達をどうにかしないと・・・」


 無残に散った盗賊達の亡骸。盗賊から助かった為の安堵感からだろうか、今まで気にしていなかった血の匂いに吐き気を催す。


「俺達じゃ、どうしようもない。盗賊を退治したとなれば懸賞金を貰えるが、まだ幼い子供もいるし、こんなにも乗せられない。おまけに一番近い街はこれから行く、都市カーランドだ。それには3日も掛かる。残念だが、捨て置く他にない。死体と一緒に3日も旅をしたくないだろう?」

「そりゃそうだ。都市に着いたらこの事を報告しよう、認められれば懸賞金が多少なりとも貰えるかもしれないしな」


 父さんとメイガンがそう言って、出立の準備に入る。


 俺とエイフィがメイガンの馬車に移り、代わりにソウジンとキアラが父さんの馬車へと移った。


 移るのは俺だけでも良かったが、エイフィが譲らなかった為だ。正直、そっちの方がありがたい。カーマルの事もある。ああいう類、裏で何を考えているのか分からないからエイフィがいるのとでは安心感がかなり違う。


 馬車を動かし、血の匂いもしなくなった頃、カーマルのお蔭で暗い空気の馬車の中を切り替えるように声を出す。


「えっっと。取り合えず、もうやる事もないですし。カーマルさん修行しますか?」

「チッ・・・。ああ、早くやれよ」


(態度悪いなぁー)


 この態度には流石に皆、苦笑いするしかなかったようだ。


「え、ええと。取り合えず手と手を包むように合わせます。そしてそこにマナを集めます」


 メイガン以外の全員が行う。流石に全員が修行に参加すると御者がいなくなるもまずいし、また盗賊が来るとも分からないからだ。


 マナを集めると光が灯りだす。


「それで?」


 カーマルがこの程度基本だろうと言う目をしてくる。


「それだけです」

「ふざけているのか!?」

「ふざけていませんよ。只、全力で集める。という事をしますが」


 立ち上がるカーマルになだめるように言う。


「私でもマナを集めるぐらい出来るわ!」


 メルティアがドヤっと手の中にマナを集めて、その淡い光を見せる。


「ただ、集めるだけじゃなく、全部使い果たすつもりで集めてみてください。ああ、メルティアはまだしなくていいから」

「どうしてよ!」


 プンプンするメルティア。


「マナはな、集めすぎて制御を謝ると爆発するんだ。最悪、それで死ぬ可能性だってある」


 メイガンが捕捉説明してくれる。


「はい、だから皆さん、制御が出来る範囲で全力でマナを集中させてください」

「ふん、そんな簡単な事」


 カーマル、マライがマナを手の中に集めだす。メルティアは全力ではなく、少し強めにマナを多く出して集中させている。


「け、結構、難しいね」

「こ、この程度」


 マライにカーマルが若干張り合っている様だ。マナの圧縮量が多い程光輝くが、慣れてくるとその輝きすらも制御が出来るようになる。


「二人とも、慣れてきたら、手を着きだして飛ばないようにして維持するようにしてください。馬車の外に向かって手を出しておいてください」


 両手で包み込むよりも難易度が少し上がるが、マライは若干、制御が揺らぎながらも前に突き出してマナを制御する事に成功している。カーマルも同じように手を突き出し制御する。マライより安定している様だ。


「それにも慣れたら段々とマナの量を増やしていってください」


 マライはマナの量を増やすと大きさの揺らぎと輝きの揺らぎ出て来た。


「マライさん。そのマナの量で制御できるようになるまで維持していてください」


 カーマルもマライと同等の量のマナを扱っているが、年上なだけ会って、マライよりも安定して制御できている。


「カーマルさんは、もう少しマナを増やしてもよさそうですね」

「だ、誰に言ってやがる。お前もやりやがれ」


 不貞腐れるように言いながら僅かにマナの量を増やす。


「それでは、横に失礼して」


 3人が馬車から手を突き出す様にしてマナを制御している状況だ。手からマナを出している為、知らない人が見れば今にも攻撃されると勘違いされるかも知れない。


「す、すごい・・・僕の倍ぐらいはある・・・それを何て小さく圧縮しているんだろう」

「ぐ・・・その程度・・・」


 マライが純粋に感心しているのに対し、カーマルが対抗してくる。対抗する、つまり、マナを扱う量を増やすわけで、今のマナ量を制御するのにも余裕がないのに一気にそんなにマナを増やすと危険だ。


「カーマルさんそれ以上は駄目だ!」


 俺のマナをカーマルのマナに教えて馬車の外に放つ。馬車の外に出た瞬間、軽い爆発が起こった。


 カーマル、マライ、メルティアが尻餅を付いて体を震わしている。メイガンと前の馬車にいる父さん達も驚いてこちらを振り向いている。


「ギリギリでしたね・・・」


 ふぅと額を拭う。


「・・・カーマル。アマロに張り合うのも良いが力量を弁えろ。今の様子からしてアマロが対処してくれていなければ今頃お前の手は吹き飛んでいたぞ」

「チッ・・・」

「お前!?まだ!」


 自分のミスを認めたくない様だ。


「ま、まぁ。大丈夫だったんですから別に良いではないですか。それより、カーマルさんまだ続けますか?」

「フン!もういい。こんな事をして強くなれるとは思えない」


 鼻を鳴らしてそっぽを向くカーマル。とてもじゃないが19歳の男が取る行動とは思えない。誰得だよ。かなり甘やかされて育ってきたのだろう。


「別に構わないですけど、今までのはおまけの修行ですよ?」

「・・・おまけ?」


 首を傾げるカーマル。


「マナを高くして魔法の威力を上げるのか?それはマナが多いから当然の結果であって強くなっている訳じゃないぞ」


 阿保らしいとばかりに言ってくる。


「はい、ですから、潜在的なマナ量を増やす為の修行です。マナが多ければ神戦でなくとも魔法を撃てる回数や、ユニットを呼べる数も増えますよね?その為の修行です」

「そんな修行が!?」


 何故か、メイガンが割って入って来た。


(おかしいな、定番の練習方法だと思っていたんだけど)


「簡単ですよ。マナを限界まで使い続ければ良いだけです。その使い続ける間、無駄にマナを使うのもあれなので制御の取得とかに使えば一石二鳥ですよね」


「「「「は?」」」」


 メルティアはいまいちよく分かっていない様子で首を傾げている。


「パパ、マナを使いきったら死んじゃうんだよね?」


 間違ってる?とい感じでメイガンの袖を引っ張って確認している。


「そうだぞ。メルティア。アマロの言っている事は無茶苦茶じゃないか?」

「いえ?事実ですよ。ただ、マナ量の扱いにだけは注意が必要です。流石に試したことがないのですが、マナを使い過ぎると本当に死にます。メイガンさん、マナを使って死んだ事例を言っていただけますか?」

「ん?あ、ああ」


 魔法を覚えるに至って前提条件とも言える知識を何を今更という感じだ。


「大量の魔物を相手に、上級魔法で相手を全滅させた後に力尽きたり、力を振り絞って普段使えなかった魔法を使った時、上級魔法を何回も発動させた時だな」

「そう、どれも大きな魔法を使った時です」

「そうか!?」


 メイガンはピンと来た様だが、他の者はいまいちな様だ。


「マナを使って死んだのはどれも大きなマナを使う時だけ何ですよ」

「つまり?」


 マライが訪ねる。


「自分以上、限界以上のマナを一気にを使うと死んでしまうという事ですよ。つまり、徐々に使えば問題ないわけですね。その代わり、枯渇してくると意識が飛びますが」

「アマロ、そんな危険な事をしていたのか?4歳ぐらいの時から!?」

「はい」


 メイガンの質問に即答する。


「カーマル・・・お前にこれが出来るか?マナを不要に急激に使うと死ぬ可能性もある修行だぞ?それをアマロはずっとやって来たんだ。アマロが才能だけでなく努力もしっかりとした結果の強さだと認めるしかないんじゃないか?」

「ぐ・・・これぐらい僕だってできますよ!」


 そう言って、再びマナを集中させる。


「悪いな、アマロ。カーマルは小さいお前に負けて意固地になってるんだよ。許してやってくれ」

「いえ」

「それより質問いいか?何故、手を突き出しておく必要があるんだ?結構腕もきつくなると思うんだが、そういう修行か?」

「まぁ、腕も一応鍛えれますし、制御は突き出す方が難しいので制御の練習にもなります。何より」

「何より?」

「死なない為です」

「「「!?」」」


 その言葉には3人とも驚いたようだ。


「マナが無くなると当然意識が無くなります。そうなると当然マナの制御が出来なくなるわけですよね?」

「あ、ああ」

「マナが無くなるにつれてマナが集約される量も減るには減るのですが。集中し過ぎてマナの量が減らずに暴発する事があるんですよ。それが、手の中でやっていると手が吹っ飛んじゃいますし、最悪死にます」

「た、確かに・・・」

「ですので突き出して制御しておくと、意識が飛んでも制御が離れたマナは前に飛んで行くので余程のマナが圧縮されていない限りは怪我をしなくて済むんですよ?」

「なるほど・・・凄いなアマロは。しっかりと考えている。しかし、それなら村で爆発音が大なり小なり聞こえて来ても良かったんじゃないか?聞いた事がないんだが・・・」


(ギクリ)


「そうですよね、僕も聞いた事ないです。アマロ君のマナ量なら結構な爆発になりそうな物だと思うのですが」

「そこは慣れですかね。マナが減ってくると気分が悪くなってきたりするでしょ?そこで加減を調整するんですよ」

「なるほど・・・」

「あ、でも最初の内は無理にしない方が良いですよ。加減を間違えると意識が飛ぶ迄ずっと苦痛な時間と戦う羽目になりますから。途中で中断しても良いですが、伸び幅はやはり少なくなってしまいそうですし、そこまで来たなら意識を飛ばした方が良いかなって俺は思いますね。だいたいいつも1時間ぐらいで目を覚ましますし」

「分かりました。やって見ます」


 実際は加減何て物は殆どしていない。最初の頃は確かにしていたが、エイフィがユニットだからなのだろうか、俺のマナを吸収できるのだ。しかも、微々たるものだが強くなるようだ。マナを与えればエイフィはどんどん強くなるのではないかと思ったがまだ詳しくは良く分かっていない。

 俺は、エイフィがマナを吸収できることを知ってからは、魔法スキルカードを作れるだけ作って、マナ欠乏症による体調不良が出てくればマナ制御の練習をするといった事を繰り返していたのだ。マナ制御の際にも送るマナのイメージはポンプの様に徐々に送っていく感じで、多少1度の送る量が多くても死ぬまでには至らずに意識を手放す事が出来る。その際に、手を突き出した先にエイフィに居て貰い、その制御がはなれたマナを吸収して貰っていたというわけだ。



「くぅ・・・俺もやってみてぇ!」


 メイガンが自分しかこの馬車には御者出来る者がおらずに悔しそうだ。


 マライとカーマルの間に入り、馬車の外に手を出してマナ制御を始める。スキルカードを無暗に作るのは余り良くなさそうなのでこれから3日間は制御に集中する。どの道、まだ上の上級魔法を使えるようになるにはもっと制御を上げなければならないのだから時間の無駄になることはない。


「・・・その・・・悪かったな」


 ボソリと俺にだけ聞こえるような小さな声でカーマルがそう言った。


「いえ、これからもよろしくお願いします」

「フン」


 そっぼを向いてマナ制御の練習をする。どうやらカーマルはツンデレキャラの様だ。




 その後、道中、父さん側の馬車の方にも行き、修行方法を教えたりもして、暴発しそうにもなったりと危ない事も何度かあったりもしたが誰も怪我もなかった。


 馬車から爆発音が鳴り響く不思議な馬車だった為か、警戒してか魔物も襲ってくるような事はなく、何事もなかった。


 そして、盗賊が襲って来たその次の日が俺の誕生日であった為に、馬車の中でちょっとしたパーティをした。場所が場所なだけに旅にしては少し贅沢な食事をしたぐらいであったが。

 神戦試合は毎年1か月前後のずれがあって開催される。今年は去年よりも1ヵ月程遅くなってしまった為、誕生日と重なってしまったのだ。


そんなこんなで3日後に無事に都市カーランドに到着したのだった。


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