第7話 VS盗賊

「「「「「ヒャッハー!!」」」」」」


 馬車の中からコッソリと外の様子を伺うと10人以上の盗賊が俺達の馬車を囲んでいた。俺の視界に移る者だけでも10人以上いるのだからメイガンさんの方にいると考えれば30人ぐらいはいるのかもしれない。


「ゲフ」


 急に襟首を引っ張られて変な声が出る。


「アマロ、お前は6歳らしく、大人しくしとけ。良いな?」


 村の人達は俺が森の主まで倒せる実力者だとは知らない。1人で狩りをしに行っている事は知られているが、それでもラビットかゴブリン。行けてナックルモンキーがいるエリアまでだろうと思われているそうだ。

 それでも、流石は黒髪と思われているのだろう。黒髪は忌み子ではあるが強いとされているから俺を黒髪と知っている者はそう思っているのだそうだ。



「「「「「クヒヒヒヒ」」」」」


 キモイ笑い声を上げている盗賊たち。


「オラ!死にたくなければ大人しく荷物を明け渡しな!」


 ニヤニヤと笑う盗賊たち。


 そこに父さんとメイガン、ロマネス、ソウジン、カーマル、キアラ、ミナリィが馬車を降りた。この世界の成人は16歳からで成人している者はエイフィ以外降りたことになる。

 俺の馬車に残っているのは、守り役としてエイフィ、俺の他にタイラとナクルの4人。

 もう一つの馬車に残っているのは、メルティアとマライだけだ。


「お前達盗賊、明け渡す荷物何てない!」


 父さんが高らかに叫ぶ。


 こっそりと様子を伺うと馬に乗った盗賊が5人いた。その他にも10人以上は目に入る。やはり30人はいる様だ。



「そうかいそうかい。なら、死んで貰おうかねぇ・・・」

「グヘヘ。お頭、そっちの髪の短い女譲ってくださいよ」


 ゲスな顔をして唇を舐め回しながら言う盗賊の1人。


「それはお前の働き次第だなぁ~」


 お頭と呼ばれた男だけが緑色のバンダナを付けており、頬に傷の跡があった。如何にもな男だ。



「「『リザードマン』召喚!」」


 父さんとメイガンが、アイテムボックスからカードを取り出して、『リザードマン』を3体ずつ召喚する。


「「「「「『タイガーウルフ』召喚!」」」」」


 他の者も『タイガーウルフ』を2体ずつ召喚する。総勢、『リザードマン』6体、『タイガーウルフ』10体だ。


「ククク。中級ユニットのリザードマンか。中々良いユニットを持ってやがる」


「逃げるなら今の内だぞ!」


 ユニット達が威嚇する。


「その程度で、俺達盗賊がビビる訳ねえぇだろおお!!?お前等!やっちまいな!」


 怖気づく様子が全くない盗賊達。


「「「「「「『タイガーウルフ』召喚!」」」」」」

「「「「「「『アースコング』召喚!」」」」」」

「「「「「「『ウルフコング』召喚!」」」」」」

「「「「『ウイングバード』召喚!」」」」


 相手も『リザードマン』より格下とは言え中級ユニットが30体を超えれば、相手にとって脅威にはならない。


「そんな!?盗賊が中級ユニットをこんなに持っている何て!」


 父さん達が驚愕する。最低、年に一度は神戦試合をする為に都市に向かうのだが、当然何回かは盗賊に襲われている。しかし、それらは殆どが低級ユニットで構成されているのが殆どで、リザードマン6体で大概は撃退出来ていたのだ。中級ユニットも数体いる時もあったが、数える程度しかいなかった。一緒にいる者達も戦えば、人的被害は出ずに対応できていた。

 それが、今回は、『ウイングバード』以外全て中級である。それも30体を超えるという多さだ。


 TCG、神戦とは違い。ユニット能力である〔飛行〕を持っていようと、対応能力がないと反撃出来ないということはない。確かに、空中にいる方が有利に攻撃は出来るが、攻撃しに地上に近づいた時には相手の手が届く範囲ならば当然の様に反撃を食らう。


「逃げるのなら今の内だっけか~?その今ってもう終わったよな~?逃げられないなら殺るしかねぇよなー!」

「「「「「「ヒャッハーー!!」」」」」」」


 盗賊達がユニットと共に馬車に迫る。


「くそ!皆、1体1体確実に対応するんだ!馬車に乗り込んで守りに徹しろ!相手のユニットはユニットに任せれば良い!」


 父さんの指示を聞き、皆が馬車に戻りだす。


「逃がすかよ!」


 盗賊が動き出すのが遅れてしまったキアラに迫る。



「させるか!雨の礫!レインショット!」


 雨の様に細かい水が椅子礫の様に周囲に飛び、盗賊やユニット達を怯ませる。


「「「「「ぐお!?」」」」」


 その隙を付いて、全員が馬車に乗り込むことに成功し、『リザードマン』が相手のユニットをそれぞれ撃破する。味方の『タイガーウルフ』の攻撃は3体は倒す事に成功したが、他は回避されるか、かすり傷を負わせる程度となった。


「怯むな!お前等まだまだユニットがあるだろうが!」


「「「「「『ナックルモンキー』召喚!」」」」」


 ユニットが倒された盗賊達は、代わりのユニットを召喚した。どうやら複数体は同時には召喚出来ないらしい。いや、中級ユニットを召喚したからマナが少ないのだろうか。


「・・・アマロ。悪いがこの数相手では確実に少なくない被害が出る。神戦試合で使うユニットもなくなっていってしまうだろう」


 神戦の時とは違う、実戦でのユニットの死はカードが無くなるのと同じである。ゆえに、高レベルユニットを出してくる者は滅多にいない。倒すのにも苦労するのにもしも倒されでもしたら元が取れない事が多い。

 出さなければ死ぬという時ぐらいしか出さないだろう。ただ、殆どの者は出し惜しみをして、高レベルユニットを出すマナが残っていないと言う残念な結果になる事が多いらしい。


「気にしなくていいよ。俺も村の皆が傷つくのは見たくない」


「ヴァーダさん!まさかまだ6歳の子供を盗賊相手に戦わせるのですか!?」


 信じられないと抗議するロマネス。

「ああ、6歳だが、1人でも狩りに行ける程優秀だ。人間相手に戦うのも良い経験だろう?」

「そんな理由で!」

「そうです!まだ6歳ですよ!?経験するにしても早すぎます!」


 ロマネスもミナリィも俺を心配してくれているのだろうが・・・。


「ロマネスさん。ミナリィさん。心配して頂いてありがとうございます。でも、このままだと神戦試合にも影響ありますし。もしもの事があってはいけません。手遅れになる前にこう言った下種の類は消しておいた方が良いと思うのですが」


 いくらこの世界に慣れたからといって、対人戦は初めてだ。こういった輩は大きくなるにつれて遭遇する確立も多くなってくるだろう。


「それに、今のうちに僕も、るのを慣れていた方が良いと思うんですよ。今後の為にも。ミスした時はお願いしますね」


「ちょっ!アマロ君!?」


 ロマネスの言葉を無視して馬車を降りる。エイフィは馬車の中で怖がっているナクルを抱きしめ、タイラの頭を撫でて大丈夫と安心させようとしている。


「大丈夫だ、ロマネス。この機会にアマロの強さを教えておこう。正直、お前達にも最低でも神戦試合までは隠して驚かせるつもりだったんだがな・・・」


「「は・・・?」」


 ロマネスとミナリィは理解が追い付かないのかキョトンとした。


「アマロ!?おい!何をしている!ヴァーダ!お前の息子が馬車を降りたぞ!何してるんだ!」


 事情を知らないメイガンが恐怖におびえるメルティアに抱きつかれ、動こうにも動けずに叫ぶ。


「おお?何だ~?小僧には興味ないんだが?とっとと死んでくれや!」


 盗賊達は味方のユニットと対峙している以外のユニットに指示を出して俺に向かせる。


「・・・やっぱ、魔物程恐怖は感じないな」


 向かい来るユニット達にサンダーボルトを発動させる。一番近くにいた『アースコング』に一番威力のある初段を当て、更に視界に入る全てのユニットと盗賊に稲妻が飛び散り感電させていく。


「ちゅ、中級魔法!?こんな小僧が!?」


 視界外にいた盗賊のお頭が驚きの声を上げる。驚いているのは盗賊達だけではない、馬車の中にいたヴァーダ以外の面々が面食らっている。面々なだけに。


「ちっ!びびってるんじゃねぇぞ!お前等!こんな小僧が中級魔法をそう何度も連発出来るわけがねぇんだ!」


「「「「「「おおおおおお!!!!」」」」


 一瞬、固まっていた盗賊達だがお頭の言葉で復活する。


「ところがぎっちょん!」


 ライトニングレイを発動する。視界に入る敵に狙いを澄ましたかのように光線が貫く。視界に入る盗賊達は全て死んでしまった様だ。盗賊が死んだユニットはマナを維持する事が出来ずに消失していく。


(異世界に来て命の遣り取りの覚悟はしていたけど、狩りをしていたのもあってか、思ったより人殺しを躊躇も何もしなかったな。殺しても特に何も思わないな。魔法だからだろうか・・・?まぁ、今は良いか。何も感じなかった方が今は助かるしな)


 殺した事に罪悪感など抱いて動けなくなるよりかは何も感じない方が良い。


 サンダーボルトとライトニングレイにより10人以上の盗賊が死んだ。


「ひ、怯んな!流石にもう、仕えねぇはずだ!奥の手を使う!お前等殺っちまえ!」

「「「「「お、おおおお!!」」」」」


 再び固まった時をお頭が奮い立たせる。


「はっ!?ヴァーダ!何をしている!お前の息子だぞ!助けに行かないと!」


 相手のお頭の言葉でメイガンも正気に戻り、いまだに娘であるメルティアに抱きつかれて動けない為に叫ぶ。


「大丈夫だ」

「何をそんな悠長に!?」


(流石に、逃げてくれないか・・・、これ以上は流石に余裕がなくなって来るな。出来るだけ築かれないようにカードを使うしかないか)


 チラリと父さんを見るとそれを分かっているのか頷き返してくれる。その横から、エイフィが下りる。


「「エイフィ姉ちゃん!?」」

「大丈夫」


 ナクルとタイラが止めようと言葉を掛けるが、頭を撫でて俺の傍に来てくれる。


「『アースウォール』」


 盗賊に背を向け、しゃがんで地面に手を着く、その手の中にスキルカードを隠して発動する。その触れた周辺の地面から横10メートル高さ3メートル程の長さの土の壁が地面から突き上げる。


「「「「アマロ君!?」」」」

「「「アマロ!?」」」


 皆が何をしているんだと声を上げてくれる。


(心配してくれるのはありがたいがこの先の戦いは余り見せれないからな)


「小僧が囮ってかー!?」

「可哀そうだねボクー?」

「「「「ギャハハハハ!!」」」」


 阿保みたいに調子に乗り出した盗賊達にお仕置きだ。後、数歩という程までに迫ったユニット『タイガーウルフ』にスキルカード『サンダーボルト』を投げつけて発動する。『タイガーウルフ』が死角となり、カードを投げて発動したという事は盗賊側からは見えていないはず。


「そ゛、そ゛んな゛!?まだ使え゛るるる何ででで!?」


 飛び散った稲妻に痺れながら言う盗賊。


「お頭早くあれを!」

「おう!小僧!こいつを見てもまだそんな余裕でいられると思うか!?来い!コスト7!『リザードソルジャー』!」


 上空に現れたユニットはリザードマンよりも一回り体格が大きく、翼もでかく、剣と盾を持っている。


(リザードマンの上位ユニットか)


「ヒャハハハ!!」


 勝ち誇ったかのように笑うお頭。



「まずいぞ!あれはリザードマンよりも強力な奴だ!なんで盗賊があんなユニットを!」


 メイガンがもう、我慢できないとメルティアを引き離そうとするが、手こずっている様だ。


「ヴァーダさん!助けに行きましょう!」


 ロマネス達若手組が馬車を降りようとする。


「駄目だ!」

「どうしてですか!?」

「・・・邪魔になる」

「「「「はあ!?」」」」


 何を言っているのだと全員が驚いた。



「まずは数を減らす!」


 手を前に翳し、スキルカード『ライトニングレイ』を親指で挟んで即座に放つ。直ぐにカードが光、視界の敵を光線が薙ぎ払う。

 『ライトニングレイ』は全てのユニットにダメージを与える効果だが、実戦だと視界に入る敵全てとなる。その為、先ほどの攻撃も盗賊を対象に出来たのだ。スキルカード化された場合は、対象を認識してから発動するとその認識した対象に向かって光線が飛ぶ仕組みになっている。注意点は最初に込めたスキルカード化した時のマナの込めた量によって威力や、光線の数が変わってくるという事だ。

 アイテムボックスにはマナを込めた準に整理されており、今回は上から2番目にマナを加えた物だ。


 盗賊を中心に光線で相手の数だけ狙うが何人かには避けられ、相手のユニットにも当てる事は出来ても止めには至らない。お頭は『リザードソルジャー』の盾によって守られ、『リザードソルジャー』自身も大したダメージを受けていない様だった。


(盾を持っているだけあって防御してくるのか。地味に厄介だな)


 ともあれ、相手の数は最初よりも半分以下になった。


「お前は一体どれだけのマナを持っているんだ!ユニットのいないお前如きが、この高レベルユニットに勝てるわけがねえ!行け!『リザードソルジャー』!」


(多分、勝てるけどさあれまで召喚したら村の皆から何を言われるか分からないし、邪道な気もするけど、相手は盗賊だ。気にしなくていっか)


「エイフィ頼む」

「任された」


 すっと前に出るエイフィ。


「何だ!?嬢ちゃんが相手か?その体を潔く差し出すって言うん・・・な!?・・・ガハッ」


 血を吐いたお頭が最後に見た光景は、自分の体に漆黒の剣により心臓を貫かれている光景だった。直ぐに、力なく倒れ、マナ供給のなくなった『リザードソルジャー』が消える。


「「「「お、お頭―!?」」」」

「な、何だあの女は!?」


 一瞬の内に移動したエイフィ。地面には足の跡が長く続いており、今いるエイフィの足元には一際深く沈んだ地面があった。『疾風』の速度を落とす為の行為だ。どうやらエイフィはここまでしないとその位置で止まれないと分かっていたのだろう。『疾風』使った本人は分かっていなかったのだが。狩りでウッドキングを倒す際に時々エイフィには使っていたから感覚が掴めていたのだろう。

 俺は、最初に体を打ち付けてからは自身には『疾風』を使っていない。スキルカードでは力加減が出来ないからだ。魔法に寄る使用は狩りの行く時に使用しているが、加減が出来る為、特に問題はなかった。


 普通、人間が足で疾風を強制的に止めようとすると足が折れるはずだが、流石はユニットと言うべきなのだろうか、普通の人間よりも体が頑丈だ。身体能力強化系の魔法でも実は使っていたりするのだろうか。そう思って、過去に聞いた事もあったが、使っていないと言うからには何らかのユニット補正が掛かっているのだろうという事にして無理やり納得しておいた。



「お、お頭が瞬殺・・・に、逃げろー!」


 悲鳴を上げながら走り去っていく盗賊達。しかし、そこに光線が容赦なく盗賊達を貫き絶命させる。


「・・・俺、TUEEE・・・」


 を確実に実感した瞬間だった。今までは村の外に出る事はなく、狩場である森以外の魔物と戦った事はなかった。神戦で父さんと母さんと戦うぐらいで村の人達とも戦った事はなかったのだ。父さんより弱いなら戦う必要がないと思ったからだ。父さんも基本的に脳筋戦法だが、段々とスキルカードを使い、小細工をしてくるようになり駆け引きによる戦いも出来るようになって強くなっていた。しかし、俺が1人で狩りをするようになってからはユニットの性能の差が無くなり、かつ魔法も実は俺の方が凄かったりで完全に父さんよりも強くなってしまっていた。俺より父さんの方が凄い点は弓ぐらいではないのだろうかと最近思っているぐらいだ。


「アマロは強いよ」


 すっと横に来て答えてくれるエイフィ。いや、俺TUEEEに答えてくれなくてもいいんだけどさ。


「エイフィのお蔭さ」

「私はアマロのパートナーなんだから当たり前」


 当然の様に笑顔で言うエイフィ。パートナーという言葉にどこまでの意味が含まれているのか正直計り知れないが、仲間以上の意味がある事は簡単に感じられた。


「そっか・・・これからもよろしくな」

「勿論」


 そう言って、馬車の方へと向かって歩き出したのであった。

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