第5話 森の主

 『ゴブリン』の地味な優秀さを教えた翌日、スキルデッキの重要性も二人に教えた。


 ただし、他の人には無暗に言わない事と釘をさしておいた。戦い方を見た者がそれにようやく気付いて段々と広まるなら良いがむやみやたらと広めると俺TUEEEの第1歩が遠のいてしまうからだ。


 村の中で、一番強い父、ヴァーダがあのプレイングとユニットなのだから他の村の人達はもっと弱いのだろう。だから、俺は只管に狩りに出かけ、ゴブリンとラビットを父さんと共に倒し続けた。

 一週間過ぎると、試しに少し奥に行き、


『ナックルモンキー』

 腕が発達してまるでボクサーの様な拳を振るう猿。


 コスト   3

 維持コスト 0

 攻撃力   3

 体力    2


 に出会ったが、無駄にシャドーボクシングしながら近づいて来る猿に若干イラっとしつつも、素早さはさほど早くなく、魔法を使い難なくと倒す事ができた。


 その頃には大きな木の板を、やすりで整えて、釘を使い持つところを取り付けて作った簡単な木の盾を作り終えた。


『木の盾』

 コスト  1

 ダメージ -1

 タイプ:盾


 リアルタイムバトルである実戦だと、実際に盾でガードしなくてはならないが、神戦だと、効果で自動的にダメージを少なくしてくれるため、『アースコング』に対して『シールド』をする事により、『エイフィ』は1ダメージも受ける事がなくなり、怪我をする必要が減ったと言うのは嬉しい。


 それから、約束の1か月が経とうとする直前に更に奥に行き、タイガーウルフを1人で倒す事で父さんと母さんは渋々といった形だが、1人で狩りをする事を許してくれた。


「決して、無茶はしない事!」

「自分の命を最優先だぞ!」

「絶対よ!」「絶対だぞ!」


「うん!」


「よし、それと選別だ」


 ワシワシと父さんに頭をされていると母さんが机の上にその選別を置いた。


「わぁ!良いの!?」


 鉄の剣と鉄の盾だ。


「ああ。その代わり絶対に死ぬなよ!」


「うん!・・・あれ?鉄の盾が2つある・・・」


「それは・・・」


 母さんがチラリと俺の横にいたエイフィに視線を送る。


「・・・私?」


「ええ。いつまでも木の盾じゃね。ないよりは良かったのかもしれないけど、今後はヴァータも付いて行けないと言うか・・・そういう約束だから。エイフィ・・・あなたがしっかりとアマロを守ってね」


「・・・フェンリ・・・ヴァータ・・・」


 エイフィが二人の顔を見ると、二人とも微笑んでくれる。その微笑みにエイフィも答え、


「うん。当然、アマロは死んでも私が守る!」


「お願いね」

「頼んだぞ!」


 父さんと母さんは、まだエイフィをユニット認識しているのだろう。それが当たり前と言った様子だ。エイフィも自分をユニットと思っている為、当然だと頷く。


(実戦で死んだら、エイフィだって消えてしまうのに・・・)


 そう思い少し悲しくなった。


「でも、エイフィ。貴方も一緒に絶対に帰って来てね。貴方はもう私達の家族の一員なんだから」


「!?」


 エイフィが驚き、見開く。ヴァータを見るとニカッと笑い頷く。


「アマロ・・・」


「ああ・・・良かったなエイフィ・・・」


 俺とエイフィは、目に涙を浮かべ抱き合う。俺の身長がまだ小さい為抱きしめられている感じだが。


「父さん、母さん。本当にありがとう!」


 そうして、その日の夜はちょっとしたパーティ見たいな晩御飯になった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 翌日。


「よし、行こっか。エイフィ!」

「うん」


 昨日、父さんと母さんから貰った鉄の剣と鉄の盾を装備して頷き合う。


 初めての1人での狩り。エイフィもいるから1人と言った感じはしない。父さんと狩りをしている間、俺自身も少しは戦闘技術を上げた。ラビットやゴブリン相手なら俺1人でも倒せるぐらいにはなった。


 事前に、準備はしっかりとした。スキルカードもこれでもかというぐらい作っておいた。というか、1か月の間、只管作っていた。新しい魔法も覚えた。この1か月の手応えだと、タイガーウルフがいたエリアよりも奥に目指せるはずだ。

 父さんがいない分、周囲の注意は必要だが、代わりに魔法を遠慮する必要はなくなった。スキルカードがある為、中級魔法や上級魔法を使っても問題がない。流石に上級魔法だと今はまだ2回も使えば、体の脱力感が半端なく出てくる。だが、それをスキルカードで補えることが出来るのだ。


 取り合えずの目標はリザードマンがいる付近まで行ける様になることかな。



「『初心者です』を召喚」


 20体召喚して周囲を警戒させながら進んでいく。


 特に知識を所有していないユニットはロボットみたいに言われた事に忠実に動く。そして、TCG時と同じく維持コストが発生し召喚主のマナを定期的に渡さないと消えてしまう。ただ、マナ不足で消える場合は直前にカードとなって手元に帰ってくるため、殺されない限りは完全に消えないからある意味安心だ。

 空を飛ぶユニットの維持コストのマナを敢えて渡さずに、限界まで周囲を飛ばせ、カード化して戻ってくるようにすると、飛行して飛んで戻るより遥かに早く戻ってくることが出来る。そこで再び召喚して情報を教えて貰うといった事も出来る。たた、その場合、維持コストよりも召喚コストの方がマナの消費量が早い為、タイミングに注意は必要だ。


 しかし、何故かTCGだとエイフィの維持コストが掛かるのだが、現実だと維持コストが必要な。これもパートナー効果だろうか。



 まずはタイガーウルフがいる所迄移動する。道中、ゴブリンやラビット、ナックルモンキーにも遭遇したが、『初心者です』を囮にしながらエイフィが一撃で撃退しながら進んでいく。


 タイガーウルフの所迄来ると、『初心者です』を5体とエイフィに同時に仕掛けさせ撃退する。『初心者です』が4体倒されてしまったがエイフィは無傷。『初心者です』は何度死んでも蘇る為、何の問題もない。


 ここまでは、父さんと一緒に来たエリアだ。さて、次からは未知のエリアだ。倒された『初心者です』4体召喚しなおす。


 慎重に前に進む。父さんみたいに〔索敵〕で周囲を探れないが魔法でも同じような効果の『サーチ』がある。ただ、問題はマナに敏感なものだと逆に気付かれて逃げられるか警戒されてしまう所が欠点だ。少し、コツはいるが、コスト1という誰でも出来る魔法ではある。ただし効果範囲を広げるにはマナの使用量や練習が必要になるが。


「いた。・・・これは空か。確か、ウイングバードだったはず」


 1か月の間に父さんと母さんとの神戦で出してきたユニットの内の1体だ。『サーチ』は相手のマナを感じ取る事が出来る。マナ感知の為に正確な情報までは分からない為に、どんなマナがどんな敵かというのは目撃したり経験しないと分からないのだ。


『ウイングバード』

 鷹。動物の翼より2倍ほど大きな翼をもつ。


 コスト   2

 維持コスト 1

 攻撃力   2

 体力    1

 効果:〔飛行〕



「〔飛行〕持ちはまだ1体も持っていないから、何とか手に入れたいな」

「『飛翔』を使ってくれたら行けるよ?」


 どうする?とエイフィがこちらを見てくる。


「頼めるか?」

「任せて」


 エイフィが微笑む。



「よし、もうじきこの近くを通るはずだ。待ち構えよう。『初心者です』たちは周囲を警戒しといてくれ」

「分かった」


 『初心者です』達が、ビシッと敬礼する。



 数分もするとウイングバードの姿が上空に見えた。


「来た!」


 エイフィも確認した瞬間、ウイングバードに向かって飛び上がる。流石はユニットとでも言うのか、ジャンプだけで、木の上ぐらいまで行く。


「スキルカード『飛翔』!」


 その後方にスキルカードを投げて『飛翔』を発動する。


 風が後押しする様に吹き抜け、エイフィを空高く飛び上がらせるとウイングバードが突如、目の前に現れたエイフィに驚き、慌てふためきながら来た方向を戻ろうとするが、当然そんな暇を与えずにエイフィがウイングバードを切り捨てる。


 ウイングバードが光、カード化されて俺の手の中に入る。エイフィはクルリと一回転して、太目の木の枝に一度着地してから、軽くジャンプをしてそこから降りて俺の傍に降り立つ。


「お疲れ様」

「・・・」


 自然に頭をなでると、エイフィが嬉しそうに顔を少し赤く染める。それを見るとこっちまで急に恥ずかしくなってきた。


「こ、これで〔飛行〕ユニットを手に入れる事が出来たから行動範囲が広くできそうだね」


 ピンクな空気を慌てて切り替える。頭から手を離すと、少しエイフィが名残惜しそうだのは気のせいだろうか。



「ま、まぁ。この調子で奥に行ってみようか」


 アースコングやウルフコングなども出て来たが、正直相手にならなかった。『初心者です』で囮や、エイフィを守る様にしながらエイフィに『ストリング』を掛けると簡単に倒せた。

 複数体出た時もあったが、魔法スキルカード、コスト5『サンダーショット』ユニットに6ダメージで一撃で倒したりと結構サクサクと辿り着いた。俺TUEEEを少し体感している気分だ。


 思いの外サクサクだった為、更に奥まで向かった。今までと違い、森なのに灯りがほとんど入っていない。木と木の間隔に間がある所だけ所々に光が差し込んでいると言った状況だ。どうやら森の最深部のようだ。この情報は事前に父さんに聞いていた。

 この森の主がいつ現れてもおかしくない場所だそうだ。


 父さんもこの森の主には何度か挑戦しているらしいが、いまだに倒したことはないらしい。森の主は厄介な事にリザードマン数体に守られている事が殆どで単独でいた所は見たことがないらしい。

 父さんは、森の主、単独なら倒せる自信がるそうなのだが、リザードマンも同時に相手となると無理らしい。父さんのリザードマンはその主の取り巻きを倒して手に入れたものだそうだ。


という事は、リザードマンを手に入れようと思ったら森の主と戦う可能性になるのが非常に高そうだ。


 倒して、俺TUEEEをするぞ。


「『サーチ』、あー。主っぽいのいる。この5体いるのはリザードマンのはずだから、その奥に知らない強そうマナを感じる。他にもリザードマンぐらいのマナ反応がちらほらあるな」

「倒せそう?」


 エイフィが首を傾げて訪ねてくる。


「『サンダーボルト』とか使いまくれば行けそうな気がする。たぶん、主はコスト7。高くても8の魔物だと思う」


「アマロが行けると思うなら私は行くよ」


 迷いなくそう言うエイフィ。


「・・・分かった。無理だと思ったら逃げよう。死ぬのだけは絶対にダメだからな」

「うん!」


 嬉しそうにエイフィが返事をして移動を開始する。



「あれか・・・中々厳ついな」


 茂みからコッソリと様子を見る。

 3メートル程の大木に染みで浮き上がる様な不気味な顔がある。いくつもの木の枝を触手の様にしなやかに伸縮自在に動かしながら根っこが足の様になって移動しているようだ。


しかし、何故リザードマンを木の魔物を守る様にしているのだろうか。よく見ると果物が付いていて他の魔物にそれを提供していた。なるほど、食べ物を提供する代わりに守らせているといったところか。結構な知能があるって事だよな。思った以上に厄介かもしれない。



「あの奥にいる。大きな木の魔物が多分、この森の主だと思う」


 リザードマンを守らせている木の魔物よりも2メートルは大きいだろうか。


「その手前にいるあの木の魔物達が厄介だな。主の他にあんなにいる何て聞いてないぞ」


 父さんの情報だと、森の主は木の魔物でリザードマンが周囲にいると聞いた。でも実際主らしき魔物にはリザードマンを取り巻くどころか、木の魔物とリザードマン数体の組み合わせが周囲をうろついているといった聞いた情報より酷い状況となっている。


 目に見える範囲には、木の魔物が1体、リザードマンが5体の3グループ。そして主。合計19体の中レベル以上の魔物がいる。



(出し惜しみしたら危ないか)


「『ウイングバード』を召喚。作戦を伝える」


 ・

 ・

 ・



 スキルカード『ハイ・シールド』を『ウイングバード』とエイフィに使う。


「よし、頼んだぞ『ウイングバード』死ぬなよ!」


 ガサッと大きな物音を立てて空高く飛び上がる。


 それに気付いた木の魔物が木の枝を伸ばし、『ウイングバード』を捕まえようとする。


「させるか!」


 魔物達の意識が『ウイングバード』に向いたと同時に俺とエイフィ、『初心者です』20体が飛び出る。


「くらえ!」


 スキルカード『サンダーボルト』をリザードマンと木の魔物に向けて投げつける。

 リザードマンの近くにカードが行くと『サンダーボルト』が発動し、稲妻が電撃がリザードマンを直撃する。その稲妻が目に入る魔物全てに伝染して痺れさせる。更にもう一枚の『サンダーボルト』のカードが発動し、木の魔物に直撃して稲妻が同様に飛び散る。

 『サンダーボルト』の直撃を受けたリザードマンが木の魔物から飛び散った稲妻でその僅かな体力に止めを刺してカード化される。


(あの木の魔物、思ったより体力があるな)


 主が雄叫びを上げると、他の魔物達も雄叫びを上げ、一斉にこちらを睨み付けてくる。


 そんな事をしている隙に、エイフィが懐に入り、木の魔物を切りつけると光となってカード化され俺の手元に来る。


「飛び上がれ!飛翔!」


 自身のマナを使い、エイフィがジャンプすると直後に足元から風が押し上げて空高く木々を突っ切って空に飛びあがる。

 何故、スキルカードを使わないのか。それは、スキルカードの効果は基本的に、カードを中心として発動するからだ。例えば、離れたエイフィに飛翔を使ったとしても、カードを手に持っている俺が飛び上がってしまうのだ。

 自身のマナを使った魔法だと、発生源を変える事がある程度出来るのである。


「これでどうだ!」


スキルカード『ライトニングレイ』を発動する。


『ライトニングレイ』

 コスト5

 敵ユニット全体に2ダメージ



 上空にいるエイフィ腕を『ウイングバード』が掴み、頑張って落ちないように羽ばたいている。その下では、暗がりな森の中を無数の光の線が飛び交っている。



「やっぱり、倒せないか」


 TCG計算でも、リザードマンは体力5、サンダーボルトで1ダメージを2回、ライトニングレイで2の合計4。単純計算でも残り1体力が残っている。

 殆どの魔物はTCGと同じステータスを持っている。それなら。


「これで、行けるはず!」


 森の主に向かってスキルカード『サンダーボルト』を投げつける。


 森の主は飛んでくるスキルカードを枝を伸ばして払い落そうとするが、枝が触れた瞬間『サンダーボルト』が発動する。


 森の主は悲鳴を上げ、飛び交う稲妻がリザードマン達に止めを刺していく。


「まじか。あの木の魔物まだ、倒せないのか。『初心者です』4体ずつでそれぞれに掛かれ!更に4体は森の主に突撃!」


 『サンダーボルト』とエイフィの攻撃で倒せたのなら森の主でない木の魔物は殆ど瀕死のはず『初心者です』で十分行けるはずだ。


 木の魔物達が枝で『初心者です』を攻撃する。それを巧みに躱しながら距離を詰めていく。途中、枝を回避出来ずに消えていく『初心者です』達。


 1体には『初心者です』2体が串でグサグサと攻撃する事で力尽き、もう1体の木の魔物は3体の『初心者です』に飛び掛かれグサグサとされるが、消えると同時に枝で『初心者です』2体を薙ぎ払って共に消えてカードになって手元に来る。


 後は、森の主だけだ。


 森の主は迫りくる『初心者です』4体に枝を伸ばし、1体、また1体を倒していく。しかし、2体に飛び疲れ『初心者です』が串を刺そうとした瞬間、薙ぎ払われて2体とも倒されてしまう。

 その隙を付いて、上空から『サンダーボルト』で一層し終わったと共に、『ウイングバード』」に少し高度を下げて貰いながら飛び降りながらのエイフィの攻撃を森の主に直撃させる。木の体に大きな切込みが入り、後少しで木が倒れそうな程だ。倒しきることは出来なかったが、これで後少しで倒せるというのは間違いないだろう。


 森の主の悲鳴が当たりを響き渡らせる。


 叫びながらの森の主を、ハイ・シールドで防ぎながら巧みに躱す。


「エイフィ!」

「大丈夫。止めは任せた」

「!?」


 一瞬驚いたが、可愛い女の子に言われたら気合を入れるしかないよね。


 森の主は、攻撃が当たらないエイフィに躍起になっているようだ。かと言って、走って近づけは俺の速度では直ぐに気付かれて簡単に対応されてしまうだろう。


(いや、こういう時に鍛えた魔法だろ!)


 パーンとハイ・シールドが壊れる。


「うおー!」


 それと同時に大きな声出しながら鉄の剣を抜いて森の主に走り出す。


 森の主の注意がこちらを向いて、枝の一本を俺に向かって伸ばした瞬間の好きをエイフィは見逃さずに、伸ばされていた森の主の枝2本を切り裂く。

 俺に向かって来ていた枝が明後日の方向に行く。再び、森の主の注意がエイフィに向く。その瞬間、スキルカード『疾風』を発動。疾風の如くの猛スピードで森の主の顔面に向かって一直線に突き進む。


(正直・・・早過ぎて止まれない)


 内心、冷や汗を出しながらも、森の主が反応した時には既に手遅れだ。剣を『疾風』スピードをそのまま利用して森の主の額?っぽい所に突き刺した。『疾風』スピードを押し殺せずに、森の主に体を打ち付けてしまうと同時に、森の主が光、カードとなって手の中に入が、森の主の顔面部分は高さ3メートル付近の所にある。


(やばい、体が動かない)


 体を打ち付けられた痛みだろう、思うように体が動かなかった。むしろ意識が飛びかけた。


 地面がすぐそばに迫る。


(落ちる!)


 衝撃に備え、思わず目を瞑ってしまう。が、いつになっても衝撃が来ない。恐る恐る目を開けると、目の前におっぱいが!?


「危なかった」


 直ぐ頭の上から、心配そうな声で呟くエイフィの安堵した顔があった。目が合ってしまい。思わず目を逸らす。エイフィはキョトンとしているようだ。お姫様抱っこされているようだ。人生初のお姫様抱っこがされる側とは・・・。

 スタッと衝撃がないように着地するエイフィ。どうやら空中でキャッチしてくれたようだ。


「・・・立てる?」


 下ろしても大丈夫かとエイフィが心配そうに聞いてくる。


「・・・ごめん。ちょっと無理そう。それに・・・」


 もうちょっとこのままでいたい。


「・・・それに?」

「あ、いや何でもない。森の主も倒したし家に戻ろうか」


 危うく言いかけた恥ずかしい言葉を飲み込み、違う話を振る。


「でも、休まないと。帰りも魔物でるし。もう、暗くなってきたよ」


 最深部、なだけあって朝から出かけていたのだが、今では日が傾き赤く染まっている。


「大丈夫。『短距離転移』があるから」


 そう言って、アイテムボックスからスキルカードを取り出し、エイフィ以外のユニットを全て、カードに戻すと、『短距離転移』を発動する。


 この転移先は俺の部屋に転移できるようにカード化した物だ。どうやら短距離系はカード化する時は、行先を決めておかないと、何も起こらないらしい。その点、神戦で使うときはその時に行き先というか効果が補正されるのは不思議だ。





 視界が一瞬で切り替わり、俺の部屋に移る。


「悪いベッドに降ろしてくれるか」

「分かった」


 そっとベッドに降ろしてくれる。正直、名残惜しい。



 バン!


「誰だ!」


 勢いよく開いたドアに驚いて目を見やると父さんが飛び込んできた。


「アマロ!?お前いつ帰って来た!?それに怪我をしているじゃないか!?」

「はは、ちょっと失敗しちゃった」


 怪我とは体をぶつけた時に何箇所かすりむいてしまっていたのだ。


「フェンリ!フェンリー!」

「どうしたの?ヴァーダ?」


 慌てて母さんを呼ぶとパタパタと不思議そうな顔をしながらやって来た。


「まぁ!?アマロどうしたの!?いつ帰って来たの!?」


 ベッドで横になっている俺に心配して駆け寄ってくれる。


「フェンリ!取り合えず怪我を治してやってくれ」

「あ、そ、そうね・・・ヒール」


 母さんが、目を閉じて、回復魔法を唱える。見る見る擦り傷がなくなり、体も楽になった。体を起こすと母さんが抱き着いてきて、父さんも傍に寄って来てくれた。


「もう!こんなになって。帰りも遅いし、心配させないでよ!」

「・・・ごめん」


 涙声の母さんに謝る。


 そっと、エイフィが部屋の外に出て行くのであった。

 

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