第4話 『ゴブリン』

 家事をしていた母、フェンリが神戦が終わった事に気付き、リビングにいる二人に駆け寄る。


 神戦をしている間、マナフィールドに居る間の者はどうなっているのかというと、二人が向い合せに手を翳し合いっている状態で、淡い光に包まれて、まるで時が止まっているかのように二人は動かないでいるのだ。その、淡い光が粒子の様に消えだした為に、フェンリは神戦が終わったという事に気付いたのだ。


「アマロ、ヴァーダお疲れ様。どうだったの?」


 俺と父さんに尋ねる。


 ダン!


 俺と母さんは、父さんが机を両手に拳を作って叩いた事で一瞬、ビクっとする。


(・・・ちょっとやり過ぎたか?この世界の魔法の基準が分からないけど、この年で中級魔法が使えるなら十分に異常な強さだとは思う。赤ん坊の頃から物心が付いてるのはアドバンテージが大きい。同い年の中では俺TUEEEしているのは間違いないとは思う。只、その分、言葉が無駄に覚えるのが大変だったが)


 今更だが、この世界の言葉は日本語ではない。


だけど、父さんの大人気ないユニット達に『初心者です』ばかりのデッキで勝つにはしょうがなかった。結果的にだが、正直、脳筋なあの戦い方なら『アイスランス』だけでも倒せそうな気がする。


 ワナワナと机に顔を伏せ、体を震わせるヴァーダ。


「フェンリ!俺達の息子は天才だ!」

「ふえ!?」


 急に立ち上がり、ガシッと両肩を掴む、体を揺らす。


「ちょ、ちょっと落ち着いて。説明を・・・」

「俺達の息子は天才なんだ!」


 まだ、ゆっさゆっさとフェンリの体を揺らす。


「落ち着きなさい」

「あいた!」


 ベシッっとフェンリがヴァーダの頭に強めのチョップを打つ。


「す、すまない」


 少し、バツが悪そうに謝る。


「それで?どうしたの?」


 呆れた様に聞き直す。


「俺が・・・負けたんだ!」

「・・・え?そりゃ、アマロは初めて何だから、教えながら負けて上げたんでしょ?」


 フェンリは何をそんなに興奮する必要があるのか分からない様子だ。


「・・・いや、父さんの強さを教えてやろうと思ってな・・・」

「・・・は?」


 ジトッと睨む。


「え?でも手加減したんでしょ?」

「・・・最初はそのつもりだった。でもな、アマロが自信ありげに俺に勝ったら言う事を聞いてくれと調子に乗る者だから、お灸をすえてやろうかと思ったんだ」


 悔しそうにするヴァーダの顔を見て、フェンリが気付く。


「え・・・?って事は!手加減をしていないのに貴方が負けたの!?村一番に強いのに!?」


 フェンリは驚愕して、俺を見る。


「アハハハ・・・・」


 苦笑い。


「信じられない!?」

「だから言ったろ!?天才なんだ!まだたったの6歳なのにコスト6の中級魔法まで使ったんだぞ!?」


 魔法もユニットと同じで、マナカード、TCG化された時のコストで初級~上級が決まる。


初級魔法 コスト1~3

中級魔法 コスト4~6

上級魔法 コスト7~9


 といった具合だ。


「コスト6の中級魔法まで!?それって大人より凄いじゃない!」


(・・・あ、思ったよりTUEEEしてた)


「・・・そんなにコスト6の中級魔法使えるのは凄いの?」

「ええ、低級魔法までなら村でも私が教えている様に皆が使える様になるわ。中級魔法もずっと修行を続けていればコスト4の魔法なら使う事が出来るのは普通なの。コスト5が少し強い人。コスト6となれば強い人。上級魔法なんて達人クラス。確認されている最高の上級魔法のコスト9を扱える人なんて雲の上の存在ね」


「そ、そうなんだ・・・ははは」


 苦笑いするしかない。


「その内、上級魔法の使えそうね」


(・・・ごめんなさい。コスト7の『短距離転移』なら使えます)


『短距離転移』・・・コスト7、このターン、対象になった攻撃を防御する事が出来ず、対象にならない。


 TCG化の効果なら詰めカードと言った所だ。『シールド』などの防御系が無ければ防げない効果を持つ。


(だって、移動系は日常でも色々と便利だから優先的に頑張って覚えたらいつの間にか上級魔法迄覚えちゃってたんだもん)


 内心でテヘとする。『疾風』などもその一環として覚えたのだ。


「それで、父さん。約束なんだけど・・・」

「ああ、何だ?言ってみろ」

「・・・1人で狩りに行かせて欲しい」

「な!?」

「え!?」


 俺の言葉に二人とも驚愕する。


「ま、待って!流石にそれは駄目だよ!貴方は、まだ6歳よ!?それに狩りにはまだ1回しか行った事がないのに許可できるはずがないじゃない!」

「そ、そうだ!いくら神戦が強くても実戦はまた違う!命の保証もされていないんだぞ!?」


 二人が慌てふためく。


 何故、俺が狩りを1人でさせて貰うように頼んだのか。もっと強い魔物を倒して俺TUEEEをしたかったからに他ならない。この世界でもカードの入手方法は魔物を倒す事だ。その為にはスキルカードを使わないと恐らく高レベルの魔物を倒す事は出来ない。出来たとしてもかなりの苦労が発生する。なのに、スキルカードを使うのを禁止されるなんてありえない。

 だから、スキルカードを使う狩りをする為には、1人でやるしかないのだ。幸い、俺にはエイフィというパートナーがいてくれるし、ユニット召喚でパーティというものを気にしなくても良い。

 この世界にはもう6年居るし大体は慣れた。実戦も昨日経験した。思ったより恐怖が全然なかったのは正直不思議だったが、それだけこの世界に馴染んだという事だろう。

それは、転生だったからこそだと俺は思う。転移だった場合は、そんな直ぐになれるわけがない。転生して6年という年月を過ごし、狩りをして動物を捌く姿やや魔法を教える際に試しとして物えお日本にいた頃ではあり得ない破壊規模の様子を見て来たからこそ馴染めたんだと思う。



「俺、強くなりたいんだ!」


(そして、ハーレム作りたいんだ!)


 力強く拳を作る。


「「・・・」」


 二人はアマロの真剣な瞳を見て、お互いに頷き合う。


「・・・分かった。だが、1ヵ月。1ヵ月だけ我慢しろ。普通の子供達は最低でも1年は一緒に狩りをして、1人立ちしたとしても、その行動範囲は当分の間はラビットやゴブリンが

いるエリアだけだ。それよりも強い魔物に行く場合は親と一緒に問題なく狩れるようになるまでするのが普通なんだ。それをお前の事だ。1人で強い魔物のいる奥のエリアにいるのだろ?」


「・・・それは・・・」


 バレてる。・・・つい、目を逸らしてしまった。


「だから、それを1ヵ月だけ俺と一緒に行動するだけで、普通の子供がちゃんと1人立ちをするのは早くても12歳だ。それを認めてやるんだ。これを飲めないと言うのならこの話はなしだ!」


 真剣な父さんの瞳に、少し怖気づいてしまうが、それと同時に心配もしてくれているのが分かる。


「分かったよ。それでお願いします!」


 ペコリと勢いよく頭を下げる。


「それとな。もう一つ条件がある?」


 頭をガシガシとしながら言う。


「え゛っ!?」


「何、父さんともっと神戦をしてくれ。お前の戦術も聞かせて欲しい」


 ニカッとヴァーダが笑うと。


「分かった」


 と笑い返す。それを母さんがニコニコと笑顔で見ているのだった。




★★★★★★★★★★★★★★


「信じられない!?」


 翌日、母さんと神戦をして、勝利を収めた。


「な?信じられない程強いだろ?『初心者です』ばかりのデッキに負けるんだぞ。いくら『エイフィ』いるから普通の子供より有利と言っても低レベルで1体だけだ。普通なら難なく倒して勝てると思うのが普通だよな?」


 神戦を見ていた父さんが自慢気に言う。


 神戦を他の者が見る為にマナフィールドに入るには、戦う二人が手を翳す時に一緒に手を翳し、見学者は「マナデュエル」と言わなければ、謎の観客席で見れるのだ。


「そうよね!でも、それを実現しているのは、やっぱりアマロの並外れた魔法の才能だと思うわ!」


(うん、これは非常に大きいと自分自身でも思う。でも、母さんの戦い方も父さんとほとんど同じだった。特技スキル『石礫』だけでも良い勝負が出来るような気がする。流石にユニットのスペック差でじり貧で負けるとは思うが)


 『石礫』・・・コスト1、ユニットに1ダメージ。



「取り合えず、二人とも先攻だからと言って、手札を全て表側でしかもその分のコストをマナスキルで払うのは止めようよ」


 苦笑いしながら言う。


「どうしてだ?確かに、この村では〔疾走〕を持つユニットを持っている奴は少ないが、街や都市に行けば、皆何枚かは持っているユニットだぞ。それを無防備で受けるのはどうかと思うぞ」


「確かに召喚酔いをしない〔疾走〕持ちのユニットを警戒するのは良いんですけど、次のターンに無駄に維持コスト支払わないといけないよね」


「裏で出しておけば何のユニットか分からないから、警戒するし、相手に『ゴブリン』がいるのに、表側表示で『ゴブリン』の様な体力が1のユニットを出したら、相手の『ゴブリン』の起動効果『石礫』の良い的にしてくれと言っているようなもんだよ?」


「しかし、それで相手の『ゴブリン』の行動を封じれるのだ。別に問題ないだろ?」

「まだ、次のターンに決めれるのなら囮としては良いけどね。そうでないなら、無駄にコストと手札を減らすだけだよ」

「次のターンに違うユニットで一方的に倒せば良いじゃないか」

「それをすると攻撃回数が1回減るよね。裏側で召喚して、ワザと攻撃を受けた方が良いと思うよ」


「・・・しかし、『ゴブリン』に自分のライフでもあるマナを削ってまでする守る必要があるの?」


 母さんが、『ゴブリン』なんて低レベルなユニットに価値を見出そうとしているがわからないようだ。


「う~ん。それは流石に状況にもよるけど、『ゴブリン』同士の戦いなら間違いなく守る価値はあると思うよ。だって、それこそ一方的に相手を戴せるんだから。『ゴブリン』を相手に『ラビット』を出したところで相打ちで終わりでしょ?」


「まぁ、確かに・・・」


 何処か二人とも納得しない様子だ。


「そうだ、父さんなら『ゴブリン』いっぱい持ってるよね?それで、デッキを組んでやってみる?」


「そうだな、実際にやってみた方が分かりやすい」



「「マナデュエル!」」


 父さんと手を翳し合い、宣言する。母さんも観戦する為に手を翳す。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「今回は俺からだね。手札を全部入れ替えて引き直すね」


 当然の如く『初心者です』ばかりだったから引き直したのだが、全て『初心者です』しか今回は引かなかった。


「デッキからマナゾーンに5枚置いて、その内4枚を手札に加える。・・・良かった、取り合えず、『ゴブリン』は手札に来たから『ゴブリン』の強さを試せそうだよ」


 安心だ。強さの違いを試すのに肝心なカードが来なかったら話にならない。


「『初心者です』を表側表示でマナスキルで支払い、裏側表示で4体セットしてターンエンド」


 残り手札4枚。マナカード1枚。


「父さんのターン。マナゾーンにデッキから7枚置く。そして、マナスキルを使い、手札から『リザードマン』と『アースコング』、更に『ゴブリン』を3体召喚してターンエンド」


 手札0枚。マナカード7枚。スキルデッキ33枚。


(相変わらずフル展開してくるなぁ)


「俺のターン。マナゾーンにデッキから5枚置き、『初心者です』の維持コストは0。

裏側表示で出していた『ゴブリン』を召喚。そして、起動効果『石礫』で父さんの『ゴブリン』に1ダメージを与える」


「まぁ、予想通りだな」


 ヴァーダの『ゴブリン』が消える。


「裏が表示でユニットを4枚セット、更に、『エイフィ』スキルデッキからマナカードで支払い召喚してターンエンド」


 手札0枚。マナカード4枚。スキルデッキ48枚。


「裏側のユニットは表側にしないのか?」

「うん。だって、知っての通り『初心者です』ばっかりだからね、『ゴブリン』の良い的だし、攻め様にも『リザードマン』とかっていう強力のユニットを入れっぱなしだから攻めれないもん」


「む・・・お、俺のターン行くぞ!」


 大人気ないよ父さんという眼差しに、ターンを進行して誤魔化す。フェンリがクスクスと笑っている。


「マナゾーンにデッキからカードを5枚置く。『リザードマン』と『アースコング』の維持コスト、合計5枚をマナスキルで支払う。

 メインフェイズ!マナカードを手札に2枚加える。そして『ゴブリン』2体をマナスキルから支払って召喚。そして、既に召喚していた『ゴブリン』の起動効果『石礫』でアマロの『ゴブリン』に1ダメージ!」


「魔法スキル、コスト2をマナカードで支払い『シールド』を発動!『石礫』のダメージを防ぐよ!」


 父さんの『ゴブリン』が投げた石が、『シールド』で防がれて跳ね返り、虚しく地面に転がる。


「どうする?父さん。『シールド』で守られた俺の『ゴブリン』は『石礫』だけじゃ倒せないよ!」


「なら!『アースコング』で倒すまでだ!『アースコング』で『ゴブリン』に攻撃!」


『アースコング』・・・攻撃力4、体力6。

『ゴブリン』・・・攻撃力2、体力1、『シールド』残り減少可能値2。


「させないよ!マナスキルでコスト3支払い『ハイ・シールド』」


 『ハイ・シールド』によって、『アースコング』の拳が弾かれる。 


「『ゴブリン』をそこまで守る必要があるのか!?」


 意外そうに父さんが叫ぶが・・・。


「・・・父さん。この神戦って『ゴブリン』の強さを知る為の戦いでしょ?4枚しか俺持ってないんだから守るしかないじゃん・・・」


「そ、それもそうか・・・なら、守って見せろよ!『リザードマン』で『ゴブリン』に攻撃!」


「「大人気ない!?」」


 『ゴブリン』の強さを知る為の戦い何だから、普通『ゴブリン』残すだろ!?フェンリもそう思ったのか同時に声を上げた。


「はっはー!守る程の価値が『ゴブリン』にあるなら守れば良いだろ!父さんは負けたくない!」


((本当に、大人気ない・・・))


「もう!『エイフィ』で『ゴブリン』を防御!マナスキルでコスト4を支払い『ハイ・シールド』、マナスキルでコスト2を支払い『飛翔』、更に発動!昨日と同じだね!」


「アマロ!父さんを舐めるなよ!だてにあの世・・・じゃない。村で一番強いわけじゃないんだぞ!マナスキルでコスト4を支払い武器カード『剛弓ごうきゅう』を装備!更にマナスキルをでコスト3を支払い特技スキル『精密射撃』を発動!」


剛弓ごうきゅう

 コスト 4

 攻撃力 3

 タイプ 弓


『精密射撃』

 コスト3

 武器カード 弓系を装備時のみ発動可能。

 プレイヤーをレストする事で、弓の攻撃力分のダメージをユニットに与える。ダメージを軽減する事は出来ない。


(流石に村一番と言うだけあって、良いスキルと弓を持ってる。っていうか、いつもの狩り行く時の弓じゃないか!)


「魔法スキル、マナスキルでコスト2を支払い『フィジカル』を発動!『エイフィ』の体力に+2する!」


 まるで生きているかのように『ハイ・シールド』がない横に、矢が飛んできて、『エイフィ』の腹部に直撃する。


「あぅ!?」


更に『リザードマン』が『ハイ・シールド』を割りながら迫り、その剣が『エイフィ』の眼前に迫るが、それを回避しながら『リザードマン』に反撃する。しかし、『エイフィ』 は躱しきれずに、頬を掠めてしまう。


「くっ!」


 苦痛の表情を浮かべるエイフィ。


「エイフィ大丈夫か!?」

「大・・・丈夫」


 『エイフィ』の残り体力は1だ。


「マナスキルでコスト2を支払い、『プチファイア』で『リザードマン』に2ダメージ!」


 これで昨日と同じように『リザードマン』を処理出来る。


「魔法スキル、マナスキルでコスト2を支払い『シールド』を発動!」

「な!?父さんが防御魔法を使う頭があったなんて!?」


 心底驚く。


「おい、アマロ。それはどういう意味だ?ああ!?」


 父さんが顔をヒクヒクさせていらっしゃる。


「それなら!マナスキルでコスト3を支払い『ファイア』を発動!『リザードマン』に3ダメージ!これで『シールド』を打ち破って『リザードマン』を撃破だ!」


 話を逸らす為に問答無用で進行する。


「甘いぞ!昨日の様に無様な負け方はしなぞ!魔法スキル、マナスキルでコスト2を支払い『シールド』を再び発動!」


「ならば俺ももう一度『ファイア』を発動!」


「しまった!?もう『シールド』がスキルデッキにない!?マナスキルで支払ってしまったか!?」


 悲鳴を上げて『リザードマン』が消えていく。


「父さん。そういうのは黙っていた方が良いよ・・・」


(話を逸らせるのに成功したかな?)


「・・・ターンエンドだ。『エイフィ』も『ゴブリン』すら倒せないとは・・・」


 肩を落としエンド宣言をする。


 ターン終了時にエイフィの傷が治るのを確認して安堵する。


 ヴァーダ・・・手札0枚。マナカード10枚。スキルデッキ12枚

 アマロ ・・・手札0枚。マナカード1枚。スキルデッキ19枚



「俺のターン。マナゾーンにデッキから5枚置く。『エイフィ』の維持コスト1をマナカードで支払う。メインフェイズに『ゴブリン』の起動効果『石礫』で父さんの『ゴブリン』に1ダメージ!」


(父さんの『ゴブリン』が消える。これで父さんの場には『ゴブリン』3体、『アースコング』1体か)


「『エイフィ』で『ゴブリン』に攻撃!」

「くっ!」


 エイフィが『ゴブリン』の反撃を受けて苦痛の表情が浮かぶ。


(エイフィに防具を与えたい)


 ユニットにも装備カードを使えるユニットならば装備させることが可能なのだ。

 しかし、盾を買う資金何て6歳の俺にあるわけもなく。


 「『初心者です』で『ゴブリン』に攻撃!」


 『初心者です』の串が『ゴブリン』の胸に突き刺さり、『ゴブリン』の木の棒が『初心者です』の頭を叩き、お互いに消える。

これで父さんの場には『アースコング』1体となった。


「これで、ターンエンド」


「流石は天才児アマロだ!」


「変な2つ名っぽく言わないで!」


「行くぞ!マナゾーンにデッキから5枚置き、『アースコング』の維持コスト2をマナスキルで支払う。メインフェイズ。マナカードから3枚を手札に加える。はっはっはー。再び現れろ!マナスキルでコスト6を支払い召喚する俺の最強のモンスター『リザードマン』! 更に『ゴブリン』2体をマナスキルからコスト合計4支払って召喚!」


「ないわー」


「何だ?流石のアマロももう一度『リザードマン』を倒すのは無理か?ん?」


「・・・いや、勝ち誇っている所悪いけど。むしろさっきより簡単に倒せるよ」


「「え!?」」


 何故に母さんまで驚く。母さんも分かってないのか・・・。


「だって、父さん。今のでスキルデッキ0枚になったでしょ?」


「ああ、だがこの戦力差をどうやって覆すって言うんだ?その今も裏側でいるユニット8体は『初心者です』だけだろ?それで、どうやって勝つんだ?毎ターン俺の強力なユニットが出てくるんだぞ?」


「父さんは、スキルデッキの重要性をこれっぽちも分かっていない!」


「お前こそ、分かっていないぞ!スキルデッキからのマナスキルでコストを支払って、強力なユニットを出すのが一番強い戦法何だぞ!現に、この前あった全国大会優勝者もこの戦い方で優勝しているんだぞ!」


「うそーん」


 強靭!無敵!最強!と笑っている何処かの社長を思い出す。



「じゃぁ、いいよ。掛かって来なよ!」


 クィクィと手招きする。


「調子に乗ると痛い目に見るぞ!」


 ぁぁ・・・また怒らせちゃった。普通に調子に乗った。

 母さんの方を見ると、母さんは苦笑いをしていた。


「『アースコング』でお前の大好きな『エイフィ』を攻撃!」


「ちょ!?」

「まぁ!?」


 『アースコング』が『エイフィ』に迫りくる中、エイフィもポッっと顔を赤く染めている。


「もう!好きだけどさ!魔法スキル、マナカードでコスト4支払い『ハイ・シールド』を発動!」


 『アースコング』の攻撃が阻まれ『エイフィ』まで届かない。当の本人は、何故かクネクネしている。何故か、その仕草で『アースコング』がズキューン!とダメージを受けた。


(えー・・・)


 好きと言うのは当然、恋愛感情の好きではない。だが、正直自分でも不思議だ。エイフィはユニットのはずなのに、人間と同じように感情も自分の意思もしっかりあるあるから普通の人間として生きていると勘違いしてしまいそうになる。それに、あんな可愛い子の表情を苦痛で歪めたくない。そう強く思った。だから、防御系の魔法を多くカード化してデッキに入れたんだ。


(父さんの場には、『リザードマン』、『アースコング』、『ゴブリン』が2体、マナカードが12枚。そして、手札とスキルデッキが0枚。つまり、防御しか出来る事がなく、その他は俺のやりたい放題。

 俺の手札は0、マナカードは1枚。スキルデッキ18枚。そして場には『エイフィ』に『ゴブリン』そして、裏向きで8体の『初心者です』。スキルを使えば何の問題もなく勝てる。だが・・・)


「父さん・・・好きと分かっているのに悪党の様に倒しに来るなんて酷いと思わない?、俺の一番強いユニットだから戦略的にも倒しに来るのも分かるけど、言い方ってものがあると思うんだよね・・・」


「え・・・」


 ヴァーダは予想外の俺の静かな怒り方に、たじろぐ。


「後悔してね・・・。俺のターン。マナゾーンにデッキから5枚置き、魔法スキル、マナカードでコスト6『サンダーボルト』を発動!」


「「コスト6の攻撃魔法!?」」


 二人揃って毎度の如く驚いているが、ちょっと俺は怒っているので何か言われても知らん!開き直った。そもそも俺TUEEEが目的だ問題ない!フンス!


「対象のユニット3ダメージを当たる!対象は『リザードマン』だ!」


 激しい稲妻が『リザードマン』に落ち、悲鳴を上げる。


「コスト6の魔法の割には見た目だけだな」


「更に!!その他の相手のユニット全てに1ダメージ


「・・・え?」


 稲妻が地面を伝い、『ゴブリン』2体と『アースコング』を襲う。それぞれがビリビリと痺れ、体力1の『ゴブリン』2体が黒焦げになって消え、『アースコング』の体から煙がプスプスと出ている。


「何―!?ちょ、ちょっと『ゴブリン』の強さを教えてくれるんだろ?アマロ」


「・・・知らん!」


「おま!?」


「裏側で召喚していた『初心者です』5体をマナスキルで合計コスト5を支払い召喚!5体で『アースコング』を攻撃!」


 父さんの言葉を遮る様に言う。指示と共に『初心者です』が分かれて『アースコング』に向かって走り出す。

 『アースコング』に『初心者です』の串が5本グサグサと刺さり、『初心者です』5体が『アースコング』の腕に薙ぎ払われてお互いに消える。


「『エイフィ』で父さんを攻撃!マナスキルでコスト3支払い『ストリング』を発動!『エイフィ』の攻撃力に+2!更に、エイフィ!これを使え!武器カード『木の棒』を『エイフィ』に装備!」


 エイフィに向かって木の棒を投げる。


「これで攻撃力+1!合計で『エイフィ』の攻撃力は6!」


「アマロ!まだ『リザードマン』が体力1で残っているぞ!防御だ!」


 バッっと『エイフィ』の前に『リザードマン』が現れ道を塞ぐ。が、スコーンと『リザードマン』の頭に何かが当たり、『リザードマン』が消える。


「は!?」


 飛んできた方に視線を向けると、見事な投げ終わったままのフォームで良い顔をしていた。


「『ゴブリン』・・・の『石礫』・・・だとー!?」

「ね?『ゴブリン』も中々やるでしょ?」


 邪魔する者がいなくなった『エイフィ』はそのままパリーンと父さんのマナを5枚割る。そして、その後に俺が投げた木の棒がコンッと辺りもう1枚パリンと割った。

 そして、コロンと落ちた『木の棒』を『エイフィ』が広い左手に持つ。

「そして、マナスキルでコスト4を支払い『躍動』発動!エイフィ!父さんのマナを全部割ってしまえー!『エイフィ』で父さんに攻撃!」


 『エイフィ』をスタンド、行動可能状態にしてもう一度父さんを攻撃する。『エイフィ』が漆黒の剣で5枚のマナを割り、左手に持った『木の棒』で最後の父さんのマナを割る。


「・・・は、はは。ざ、残念だったな、アマロ。後1っ手届かなかったな」


「え?何言ってんの?父さん・・・」


「え?」


 テクテクと近づいて来る俺を見て、段々と物凄く嫌な顔をになっていく父さん。


「ま、まさか!?」


「そう、そのまさか」


 満面の笑顔だ俺!


「マナスキルでコスト1を支払い『木の棒』を俺は装備する。・・・覚悟は良い?」


 右手で持った『木の棒』を左手にポンポンとさせながら父さんに迫る。


「あ、アマロ。そのままターンエンドって言わないか?」


「お前は、俺を怒らせた!」


「イッテー!?」


 思いっきり、父さんの顔面にフルスイング。


 そして、マナフィールドが解放されていく。


 因みに、マナフィールドにいる間、プレイヤーは痛みは感じないが、気分的な痛みは感じる。精神的ダメージ的な?

 確かに、プレイヤーはダメージで痛みを感じないがユニットはダメージで痛みを感じる様だ。エイフィの苦痛の顔を思い出すと気持ちが辛くなる。


「大丈夫だよ。アロマ」


 元の場所に意識が戻った俺にエイフィが肩に手を置いて優しく微笑んでくれる。


「・・・ありがとな」


 そんなエイフィに微笑んで返す。


「・・・イチャイチャしている所悪いがな・・・アマロ」


 むすっとした声が直ぐ近くから聞こえる。


「「あ」」


 今のやり取りを見られていたかと思うと顔が真っ赤になる。エイフィも少し赤くなっている。


「最後の、父親に向かってお前って何だ!?お前って!?」


「・・・言葉のあや?」


「アマロ、ちょっと最近調子に乗り過ぎだと父さん思うんだわ・・・。裏で父さんと運動しないか?」


 クイっと親指で家の裏側を指す。


「アマロを虐めないで」


 エイフィがムギュっと顔に胸を押し付けて庇うように抱きいて来る。


(胸の感触がー!)


 耳まで真っ赤になっている事だろう。


「あ!?ちょっとアマロ!そこ変われ!」


 ガタと椅子を揺らして立ち上がるヴァータ。


「・・・ヴァータ?」


 低い声に恐る恐る、声の方を振り向く。


「・・・ヒィッ!?」


 そこには、鬼の様な顔をしたフェンリの姿があった。


「いや!こ、これはその!」

「言い訳無用!!」

「すまねー!」


 その夜、父さんの叫び声が村中に響き渡った。


 そんな叫び声を聞きながら俺は。


(・・・やっぱり、エイフィを普通のユニットとして扱うような真似は出来そうにないなぁ)


 と、ふくよかな胸の中に顔をうずめながら思うのであった。


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