第2話 パートナー エイフィ
「・・・お前は・・・人間か?」
年齢18歳ぐらいの漆黒の少女、エイフィにそう問う。
「私は、アマロのパートナーユニット」
「ユニット!?」
ユニットとは、この世界のカードゲームの主力となるカードの1種類だ。
ユニットを用いて相手のライフを削るのがこの世界のカードゲームの勝敗の付け方としての基本となる。
少女の言葉通りならば、ユニットカードが実体化したという事になる。
「確かに、ユニットも実体化出来けど、意思を持つなどユニット等初めて聞くわ」
母、フェンリが驚きを隠せない。
「もしかしたら、それがパートナーである効果なのかも」
俺、アロマはそう思った。
「確かに、その可能性はある」
父、ヴァーダが警戒を解かぬままエイフィを見つめている。
「あ、えっと、エイフィ戻れ」
カードの実体化なら所有者である主の俺の言う事を聞くのではないか?と考えたからだ。
「嫌」
「は・・・?」
まさかの拒絶。
「お前、本当にユニットか!?ユニットが主の言葉を聞けないと言うのか!?」
そう、本来ユニットは主の言葉には従順だ。
「カードの中狭い」
「そんな理由で!」
ヴァーダの警戒心がより高くなる。
「エイフィ。直ぐに出して上げるから、一旦戻ってくれ」
「仕方がない」
渋々といった感じでエイフィの体が光、カードとして俺の手の中に入る。そのカードの絵柄はムスっとした顔のエイフィが写っていた。
「『パートナー、エイフィを召喚』」
エイフィが現れたであろうキーワードを言うと予想通り、エイフィが再び現れた。
「ふぅ」
「まさか本当にユニットとは・・・」
「驚きね」
親二人が信じられないが、認めるしかない様子だ。
「アマロ。ユニットという事は分かったが、エイフィ・・・だったか?何が出来るんだ?」
実体化されたユニットはカードから抜け出すのではなく、カードその物が変質する為、カードの効果等を見る様に確認する事が出来ない。
しかし、対象のユニットの効果を見たいと見れば、映像を映し出すかのようにユニットの効果、ステータスなどのテキストを確認する事が出来る。
「攻撃力3に体力3・・・効果・・・なし」
ありのままの情報を口にする。
「低レベルのユニットじゃないか・・・」
ヴァーダが肩を落とす。
ちなみに
低レベル コスト1~3
中レベル コスト4~6
高レベル コスト7~9
がこの世界の認識だ。
「お腹空いた」
ポツリとエイフィが呟く。
「ユニットなのにお腹が空くのね」
これも例外な事である。本来、ユニットに衣食住は特に必要ないのだ。
「まぁ、良いわ。取り合えず、帰ってご飯にしましょうか」
「はぁ、そうだな」
「うん」
「ご飯・・・♪」
★★★★★★★★★★★★★★★
「「「「ご馳走様でした」」」」
食事が終わりフェンリが食器の片づけをする。ユニットなのに本当に食事をしたことに若干驚きつつもヴァーダが話を始める。
「アマロ・・・とエイフィ。恩恵を授かったお前達は約1年後、神戦でび試合が行われる」
神戦とは、1対1で行われるTCG勝負の事で、ターン制の試合だ。
「恩恵が授かった今、お前には今まで取り組んで取得してきた技能がスキルカードとしてお前の中に何種類かあるはずだ」
俺は、その情報を知った瞬間、出来る事を色々とやってきた。剣・槍・弓の扱い、魔法の扱い。今日この日の為に。
サラッと出て来た魔法だが、この世界にも普通に存在する。体内のマナを用いる事でイメージを事象か出来るのだ。マナとは全ての事象を引き起こすのに必要なエネルギーでこの世界のTCGもそのマナを用いているのだ。
魔法は、一度発動させるとその魔法の威力に応じた効果となりスキルカードとなる。
1人で密かに魔法の練習をがっつりとしていたんだ。前世ではない魔法を覚えるのは楽しくてしょうがなかったな。
「そして、訓練ユニット、『初心者です』も50体手に入れているはずだ。最初はその『初心者です』とアマロのスキルやアイテムでデッキを組み、村の外の魔物を倒し、デッキを強化していくこととなる。来年までにどれだけの魔物を倒すかが来年の試合の勝利の鍵となる。小さいお前にここまで言っても中々ピンと来ないかもしれないが・・・つまりだな・・・」
説明しながら6歳相手に難しい事を言ってもしょうがないかと話を簡単に言おうと言葉を考える。
「大丈夫だよ父さん。魔物を倒して自分を鍛えれば良いんでしょ?」
「まぁ、簡単に言うとその通りだ。明日からはお父さんと一緒に狩りに行くからな、今日は早く寝ろよ」
「うん!」
この世界の魔物は、死ぬとカード化される。そして、その魔物は倒した者が所有者となり、以後ユニットとして使役する事が出来る様になるのだ。
その為、強い魔物、ユニットを入れているデッキが基本的に強いと言うのが世界の常識とされている。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
翌日。
村外れの森にヴァーダと共に朝から狩りに出かける。勿論、実体化されたユニット、エイフィも一緒だ。
恩恵を受けた為、剣や弓もアイテムカードとして俗に言うアイテムボックスに入れる事が出来る為、身軽で非常に助かる。
ただし、剣だけは実体化して持っている。急に襲われた場合、実体化する前に魔物に殺されてしまうからだ。ヴァーダも弓と腰に短剣を実体化させて装備している。
「お。アマロ。あそこにラビットがいるのが分かるか?」
森に入り、10分程度歩くと、20メートル程先の茂みの中に兎その物と言って良い魔物、ラビットが顔だけ出しているのを見つけた。
「うん」
「よし、なら、ユニット『初心者です』を出せるだけ召喚して、気付かれないようにあのラビットを取り囲め、出来るか?」
「やってみる」
ユニットを召喚する時は、体内のマナを使用する。召喚し過ぎると、マナ欠乏症となり、最悪の場合、死に至る。マナを使用し過ぎると、段々と気分が悪く成ったり、頭痛がしたり、体がだるくなる為、無理をしない限りマナ欠乏症で死ぬことは滅多にない。
意識を心の中に移すと、アイテムボックスの中にあるカードを見る事が出来、それを意識する事で取り出し、召喚といった事が出来る。エイフィを初めて召喚した時みたいにいちいち言わなくても良いのだ。
「1体1体出すんだよ。一気に出すとマナ欠乏症の恐れがあるからな」
ヴァーダに注意された様に、1体1体は面倒で出すわけがない。それは昨日既に済ませている。自分のマナの量はある程把握した。『初心者です』を50体は平気で出せた。
しかし、同い年では多い物でも20体が普通らしい。
だから、20体を後ろに一気に出す。
『初心者です』は簡単な木の人形で、串の様な槍を持ち、大きさも30cmと小さい。小人の様だ。ただ、胴体部分に初心者ですと刻まれている。
ステータスも
コスト1
攻撃力1
体力1
といった特殊能力も何もないユニットだ。
今から相手にするラビットもカード能力で言うと
コスト2
攻撃力2
体力 2
と言った初心者の為の魔物と言って良い。
「大丈夫か!?頭痛くないか?体はだるくないか?」
一気に20体を出したことにより驚いたヴァーダが俺を心配してくれる。
「大丈夫だよ。実は昨日の内に試していたんだ」
ドヤ。
「いて」
軽く頭を小突かれた。
「馬鹿。何勝手にやってるんだ。もしもの事があったらどうするつもりだったんだ」
ラビットに気付かれないようにする為か、声は小さいが真剣な眼差しで怒っている。
「ごめんなさい」
「今後はちゃんとお父さんかお母さんがいる時にするんだぞ」
「はい・・・」
心配してくれている事が分かる為、素直に謝るとヴァーダがそう言ったので返事しつつも心の中でもう一度謝っておいた。
隠れて色々とやる気満々である。
「よし、ならあのラビットを囲んで逃げ道を無くして一気に襲い掛かれ」
「分かった」
ユニットの指示は脳内で行える。
すると指示通りにラビットを囲み、一斉に襲い掛かる。ラビットが気付き、逃げようとするが既に囲まれ逃げ道がない。
ラビットに迫る『初心者です』。それに逃げ道がないと悟ったのかラビットが『初心者です』を1体を後ろ脚だけで立ち上がり、サッカー選手の如く、後ろ脚で蹴り飛ばしてその隙間から逃げようとする。蹴り飛ばされた『初心者です』は、霧散して消えてしまった。
しかし、逃がすまいとその蹴った隙に迫り、串の槍でブスブスとラビットの体を貫くとピクピクとしてから動かなくなった。
動物、魔物、生き物を殺すという罪悪感が滲み出るが、この世界はそれが当たり前だ、恐らく、他の異世界物と同様地球に比べて絶対に命が軽いはず。その為には早くの命のやり取りに慣れる必要がある。そう思い、死んだラビットを見つめる。
見つめていると、ラビットの体が光、カードと変化して俺の手の中に納まった。原理は分からないが魔物とはそういう物らしい。カード化されないのは動物といった類になるそうだ。
「良くやった!凄いなアマロ。お前の年で1人でラビットを倒せる子は中々いないぞ」
他の者は大体、誰かに弱らせて貰ってから止めを刺すと言う。止めを刺した者に魔物の所有権が与えられるからだ。
「アマロは、小さい頃から色々な本を読んでたし、木剣とか色々触っていたからな。お父さんは出来ると思っていたぞ」
誇らしく面と向かって言われると、少し照れ臭い。
「次からは、そのラビットも召喚できるようになるが、気を付けろ。決闘以外で死んだユニットは二度と戻って来ない。完全に死ぬんだ。『初心者です』だけは恩恵のお蔭か何回死のうとマナさえあれば再び召喚する事が出来るが、基本は死んだユニットは戻って来ないと思った方が良い」
「・・・わかった」
チラリとエイフィを見る。エイフィもユニットだが、このエイフィも死んだら二度と会う事が出来ないのだろうか。
「よし、次に行くか」
『初心者です』をカード化して移動を始める。
「近くにいるのはゴブリンだな・・・少し知恵がある魔物だからなまだ早いか・・・」
「父さん。やってみるよ」
「・・・そうか。わかった」
少し考えた後、許可をくれた。
数分も歩かない内にゴブリンの姿が見えた。人型で120cmぐらいの子供ぐらいの大きさ、下半身に腰蓑を付けている。手には木の棒を持っていた。
「エイフィ。頼める?」
「任せて」
今回はエイフィの実力が見たい。
ゴブリンのカード時のステータスは
コスト2
攻撃力 2
体力 1
効果 石礫
という事らしい。
ステータス的にはエイフィの方が攻撃力体力共に上だ。問題はないはず。
茂みに隠れながらゆっくりとゴブリンに近づくエイフィ。
ガサ。
ゴブリンの後ろを取った茂みから飛び出した際に音が出てしまい、それにゴブリンが反応するが遅い。ゴブリンが振り向いた時には目の前にエイフィの漆黒の剣が眼前に迫っており、そのまま一刀両断された。
そして、両断されたゴブリンが光、俺の手の中にカードとし収まる。
「本当にユニット何だなぁ」
ヴァータがしみじみと呟く。
本来、ユニットが魔物を倒した際にカードとなり手に入れる事は召喚主の所となる為、その現象を目の当たりにして改めてユニットとして再認識したのだった。
「エイフィ、大丈夫だった?」
「余裕」
俺の心配を他所に自慢気に答えてくる。
(見た目や反応は人間と何も変わらないのにな。しかも美少女)
少しデレっとしてしまう。
「アマロ。まだ行けるか?」
「あ、うん!」
ヴァーダの声でハッと我に返り、気を引き締める。
「〔索敵〕」
ヴァーダがスキルを発動して周囲の気配を探る。
「近くにラビットがいないな・・・代わりにゴブリンが3体いるが、どうする?」
「エイフィ・・・行けそう?」
「問題ない」
「よし、なら行こう!」
「分かった。十分に注意しろよ」
「うん!」
数分歩くと、目的のゴブリン3体が目に入るが向こうはまだ気が付いていない様だ。ゴブリンは3角形になるように陣形を組んで周囲を警戒しながら歩いている様だ。
「エイフィ、気を付けて」
「ん」
先程と同様ゴブリン達の背後を取る為に移動を開始する。
今度は3体だ、もしもの時の為に『初心者です』を2体エイフィに付ける。更にアイテムボックスからスキルカード3枚コッソリと出しておく。
一番後ろにいるゴブリンの背後を取ると、一気にゴブリン目掛けて切り掛かる。先程同様に一刀両断に成功するが、他の2体まで倒すには至らない。
一体が木の棒を振りかざし、もう1体は距離を取り屈む。
エイフィは木の棒を躱し、そのままゴブリンの首を横に跳ね飛ばす。そして、残りの1体に向かおうとするが眼前に石が迫り、額に被弾してしまう。
「エイフィ!?」
思わず声を上げてしまう。
ゴブリンの石礫だ。屈んでいたのは石を拾っていたからだろう。エイフィの額から血が垂れ、よろりと体のバランスを崩してしまう。
ゴブリンは再び石を投げようと屈む。『初心者です』がエイフィの前に庇うように飛び出る。
(これ以上やらせない!)
スキルカードを3枚投げると、カード1枚1枚が、1本の氷の槍、アイスランスへと即座に変化し、その内の1本がゴブリンに直撃し、残り2本が後ろの木に突き刺さった。
「アマロ!?お前!?」
ヴァーダが俺のアイスランスを見て驚きの表情をしていたが、そんな事よりもエイフィだ。ヴァーダの声を無視してエイフィに駆け寄る。その間にゴブリン3体がカードとして手に入れるがそのままアイテムボックスに流れる様に収納する。
「大丈夫!?エイフィ?」
エイフィに駆け寄り、額の傷を見る。
「大丈夫。少し切れただけ」
手で血を拭うエイフィ。しかし、そこからまた血が滲み出てくる。
「ヒール」
エイフィの額に手を翳し、呟くと共にエイフィの傷口が薄っすらと光、傷口が塞がる。
「ありがとう」
微笑むエイフィを見て安堵する。
ヒール・・・よくある低級回復魔法だ。
「おい、アマロ。お前いつの間に魔法を・・・」
信じられないという顔で尋ねてくる。
「えっと・・・父さんと母さんが仕事中に?」
「はあぁ、全くお前って奴は」
頭を押さえ大きなため息を付く。
「後、スキルカード無暗に決闘以外で使うな。決闘以外ではそのスキルカードは消えてしまうんだぞ」
そう、スキルカードは決闘以外では使用すると消えてしまうのだ。正確には、魔法や消耗品といったアイテムカード物が消えるのだが。武器等の一度使っても消えない物は再びアイテムカードとしてカードに戻す事が出来る。
利点としては、事前に魔法をカード化してしまえば、次に使用する際のマナを消費せずに発動する事が出来ると言う利点がある。
魔法をカード化するのは、発動と同時にカード化をイメージすれば良いだけだが、注意点としては、魔法をカード化する際に現象が起こらずそのままカード化されてしまう為、慣れない魔法をカード化すると次のそのカードを使用した際、望んだ結果と違う結果が出てしまう可能性がある。カード化された魔法の説明は何気に大雑把な説明が多い。
例えば、今回の様なアイスランス。投げたカードの先に真っ直ぐと飛んで行った魔法だが、カードの効果説明としては、“氷の槍が真っ直ぐに放たれる”といった超シンプルな物だ。
真っ直ぐ飛ぶように“明確”に放った魔法をカード化した為に真っ直ぐと飛ぶイメージ通りの魔法となったが、明確にカード化出来なかった場合、“氷の槍がに放たれる”と言う説明だけになり、カードから実体化、事象化した際に、真下に放たれたり、明後日の方向に飛んで行ったり、最悪自身に向かって飛んでくる。それ故に、スキルカードを実践、リアルタイムバトル(実戦)で使うのは危険とされている。
正直、考え無しにカード化しているせいじゃないかと思う。それに気付いているのはごく少数何だろうな。まぁ、誰にも言うつもりはないが。
「それより、エイフィってやっぱり痛みとか感じるんだよね?」
「?勿論」
ユニットだから実はそういう神経が無いとかだったら良いのにと淡い希望を抱いて聞いてみたが、首を傾げて当然の様にエイフィは答えた。後ろで「話を聞いているのか!?」とちょっと切れ気味なお父さん。
「ごめん、エイフィ」
「どうして謝るの?」
「だって、エイフィに怪我をさせてしまったから」
「それは戦いだからしょうがないよ。怪我したのは私のミスだし」
当然と言えば当然の解答だ。
「それでも、俺は今後、出来る限りエイフィに怪我させないように努力するよ!」
「!?・・・ありがとう:
例え、ユニットであろうがエイフィは人間と変わらない、喜怒哀楽も痛みもある。ならば、ユニットであろうと怪我をさせて痛い思いをさせたくないと思うのは間違っているだろうか?いや、間違っていない。
微笑むエイフィを見て、俺はもうエイフィに出来る限り怪我をさせないと心に決めるのだった。
そんな二人の世界に入った俺とエイフィをヴァーダが何とも言えない気持ちで見守っているのであった。
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