第9話 生きるための村より
数回台風が襲い、嵐と共に来た忌まわしいバケモノ共は町を破壊し、瓦礫の山を作った。
人は追われ逃げまどい、赤黒い血が流され、人だったモノで埋もれ、悲鳴があふれた。
数十mの大きさのバケモノ相手に、人は何ができようか。
空には山のような大クラゲが漂い暗い影を地上に落とし、鳥モドキが空を舞い気味の悪いかな切り声を出し獲物を探っている。
大きな体をくねらせ地を這い、無数の足で地響きを立て、そこに在る物を破壊する、無数の巨大なおぞましい何かが、我が物顔で君臨している。
この町も、死んでいく。
******
とうとう化石燃料の輸入が止まったらしい、産油国がそれどころではないし、海はバケモノ共でいっぱいなので、運ぶこともできないのだろう。
どこの国でも非常事態で大変なことになっているので、当然といえば当然、自分の国の事で手一杯だろうし。
バケモノ共が、インフラの設備に興味がないのは助かったところだ。
とはいえ、人が運営しているのだから、人が襲われる可能性はあるわけで、その辺は人を守るために動いているんだろう。
化石燃料で作るガソリンやら灯油やら色々手に入りにくくなると思う。
これからは規制が掛かり、電力は重要施設優先になるらしい。
車も走っていない、電車の本数も減っている、生き延びた人たちは山間部に避難し始めている。
TV もラジオも国営放送しか流れていない。
当然、俺も山沿いの避難所に移動させられた。
以前から過疎問題とかもあったし、生き延びた人たちが移動した分は、十分間に合ってしまったようだ。
人口もずいぶん減ってしまったらしい、世界的に、だ。
この国は、霧の発生も少なかったし、幸い……と言っては何だけど、四方を海で囲まれているからまだいい、陸に上がれるバケモノは少ないらしく、元が水棲の生き物なので水辺の近くでしか活動しないようだ。
大陸なんて地続きなので、海から陸から空からバケモノが暴れまわっているらしい。
まぁ、そんなこんなで、過疎村と言われていた所に避難してきた。
空き家を補強改築する手伝いして回ったり、廃校の整備をしたり、予備でプレハブ住宅を建てる手伝いをしたり、畑仕事の手伝いをしたり、自衛用の簡単な作りの武器、槍やらクロスボウやらを作ったり。
その過程でじーちゃんばーちゃんたちに色々な事を教わった。
畑の手入れの仕方やら、縄のない方なんてここに来なければ教わらなかったろう。
今日も、廃校の整備に汗を流す、広い教室を二部屋に区切るための壁を作ったり、破損している個所の修理とか。
「みなさん、お茶にしましょう~!」
おばちゃんたちが麦茶をヤカンに入れ持ってくる、おばちゃんたちと言っても、奥さん方とか若い子とかちびっ子もいる。
漬物をポリポリとかじりながら、麦茶をすする。
平和だ。
わかってる、ホントは、みんな辛いんだけどね。
愛する人を守るために犠牲になった人たち、その人たちのおかげで、生き延びた人たちがいる。
麦茶や、漬物だっていつまで食べられるか。
******
TV放映は時間が決まっているので、その時間に村の集会所に集まってみんなで見ている、ニュースだけだけど。
海外では、近代兵器を物ともしない巨大な怪物の群れが、都市を破壊する映像、避難する人でごった返す道路、疲れやつれた避難所の人々。
どこの国も似たようなものだ。
そして映し出された衛星写真を見て、俺はハっとした。
赤道にあった霧の帯、それが地球の気流に乗って流れ拡散してた。
消えていくのではないんだ、あの霧が大気に溶け込んでいく。
少量とは言え、取り込んでいくとなると体にどんな影響が出るのか……。
世界中の国が、どの程度把握して対策を打っているのかわからないけど、ワクチンとか作り始めているかもしれない……、まぁ、使うのは偉そうにしている人たちが先だろうけども。
あまり進展しないニュース情報に、みんな少し落胆はしていたようだが、予想もしていたようだ。
集会所の外に出ると、日が落ちて星空が見えていた。
山の上に、月明かりに照らされた化け物クラゲが浮かんでいる、風で流されてきたんだろう。
集会所を出てきた人たちは、戸締りだけしっかりして注意するようにと、話しながら帰って行った。
******
夜、今日は天気がいい、星の明かり月の明かり、村を照らし出し家々が影を落とす。
俺にあてがわれているのは、予備として支給され建てた、プレハブの小屋。
十棟ほど有るが、住んでるのは俺だけだ。
廃屋や廃校を改修したほうで、他の人たちは住んでいる。
正直狭いしな、ここ。
寝床に入り込み、ラジオのスイッチを入れる、ザラザラと耳障りな雑音交じりの音を出し、どこの周波数でも何もやっていない。
ラジオを消すと、風の音くらいしか聞こえなくなる。
そう、風の音、木々がざわめいている、それに犬の遠吠え……、遠吠え? 何だって? 近いよな? 嫌な予感がする。
犬って確か群れるよな? 普通の犬じゃないよな、これは。
俺は、手早く着替えをすませ、首に厚手のタオルを巻き、工事用のヘルメットをかぶり、革手袋を着ける。
オーバーオールの上に、太めのベルトを巻き、もらった鉈を付け、エクスカリバール(バール)を三本差す。
深呼吸をする。
落ち着け。
ミョルニル改(大ハンマー)を握り、プレハブの窓から外を覗き見てみる。
まだ姿は見えない、だが、遠吠えは近づいて来ている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます