第7話 嵐の夜に
豪雨と暴風にさらされながら、俺は避難所に急いでいる。
途中、ビルの壁にぶち当たって頭がつぶれていたり、家に突っ込んで死んでいるバケモノ共が居た。
ひどい雨音と風鳴りの中、上空で凧のように漂っている、空を飛ぶっていうんじゃないんだろうな、まるっきり凧だし。
前の方に一匹のバケモノが居る、何をしているかすぐに分かった。
人だったモノを、貪っている。
激しい雨にさらされ、流れ出ている血は赤い筋を付けて流れている。
たぶん、おれと同じように避難所に行く途中だったであろう、不幸にもバケモノに見つかって襲われたんだと思う。
何ともやりきれない気持ちになる、ギリッと歯を食いしばると、死体を貪るのに夢中なバケモノの頭に向かって、ミョルニル改(大ハンマー)を打ち下ろした。
肉と骨を砕く、鈍く湿った音を立てて不意に頭を潰されたバケモノは、バタバタと体をくねらせ暴れまわっている、追撃で二度、三度、ミョルニル改(大ハンマー)を動かなくなるまで振り下ろす。
俺と同じように避難しようとした人なのだろう、無残な姿になっている。
何かしてあげたいが何もできるはずもない。
ここで時間を食っていたら、豪雨と暴風、おまけにバケモノどもが居るので、俺も危ない。
「ごめんなさい、敵だけは討ちましたから」
そうつぶやくと、俺は先を急いだ。
避難所はこの先にある小学校、そこに向かうまでに三回ほどバケモノが襲ってきた。
サメだかエイだかの変異したものだろうだけあって、皮は丈夫みたいだ、鮫肌なんて言うしね、ただ中身は脆いみたいで、空を飛んで来れたのは、骨とか中身とかスカスカにして軽くなってるせいかもしれない、鳥の骨もスカスカらしいし。
魚なのに飛んで来れたのも、雷魚みたいに空気呼吸できるように変わったのかもしれない。
暴風雨で四苦八苦しながら、避難所の小学校に着いて、校門の外から校庭を眺めている。
さっさと中に入りたいのだが、なかなかに危ない状況になっていた。
ここに来るまでに見た飛んできたバケモノ共は、でかくても体は八畳くらいで尻尾まで入れても10mぐらい、まぁ十分でかいんだけど。
俺がぽかんと見ている校庭には、その体長は学校の校舎の長さを上回り、体の上でテニスかバスケでも出来るんじゃないかってほどだ、同族であろう空から降りてきたバケモノ共を喰らい、赤黒い血の池の様にしている大きなバケモノが居た。
避難所になっている、体育館は、扉や上方に付いている窓が破られている。
バケモノ共が破ったんだろうか? 激しい雨と風が吹き込んでいる。
幸い今大物はこちらを向いていない、校庭の壁沿いに遠回りして向かうことにした。
木や遊具などもあるので、襲ってきても障害物にはなるだろう。
何とかたどり着き、壊れた扉から体育館の中を覗き込んで見る。
照明は、まだ生きているので中の様子がよくわかってしまった。
酷いものだ。
雨が吹き込み、びしょびしょになっている。
ここに居た人たちが休んでいただろう場所は、血まみれになり、人であったであろうバラバラに食い散らかされた肉の塊が血のシミを広げている。
五匹ほどのバケモノどもが、その人であったであろう肉塊にかぶり付いて、床の上を暴れている。
ステージに向かって三匹ほどバケモノが居る、蛇のように頭を持ち上げることが出でいないようで、ズルズルと床を這いずっている。
陰で暗くなっていてよくわからないが、ステージの上に数人いるようだ、バケモノから逃げ延びた人たちだろうか。
一度、大きく息をして気持ちを落ち着かせる。
どうする? 数が多すぎる、不意打ちで二・三匹倒したところで、囲まれたら終わりそうだ。
幸いステージには上がれそうにないし、放っておくか? 俺は英雄でも勇者でもない。
でも。
「寝覚めが悪そうだよな……」
もう一度、大きく息をする、無理はしない、無理はしない。
ミョルニル改(大ハンマー)を両手で構え、体育館の中に入っていく。
音をたてないように、一番手近にいるバケモノに近づき、頭に振り下ろしの一撃を入れる。
バケモノの頭がつぶれ、雨風が吹き込んでいるとはいえ、体育館大きな音が響く。
しまった! やらかした! バタバタと頭をつぶされ暴れまわるバケモノを放っておいて周りを確認すと、音を聞きつけたのかバケモノどもが、蛇のようにのたくりながらこちらに向って来る。
くっそ、横殴りにしておけばよかった。
バケモノどもにフルスイングで向かい打つ。
鈍い音を立てて、吹っ飛ぶ一匹目、続いてくるヤツの頭にミョルニル改(大ハンマー)を打ち下ろす、二匹目、大口を開けて襲ってくる口の中に突っ込み、そのまま押し込んで体重をかけて頭を押しつぶす、三匹目。
血の匂いを嗅いで、残りのバケモノも集まってきたが、相手にする必要もないのでステージまで全力で走ることにする。
俺を狙って、来ることは来たんだが、走ってる俺より新鮮な死体の方が食べやすいのだろう、すぐ諦めたかのように、血の匂いがする倒したバケモノの方に向っていった。
「どりゃ!」
気合を入れて、ステージまでよじ登る、子供の頃はもう少し高いと思ったんだが、思ってたより結構低いので、なんとか登れた。
ステージなんて上がる機会なんてなかったから、ちょっと感慨深いな、見る景色がこんなひどくなきゃ良かったんだが。
「はぁ」
一息ついて、ステージ上を見渡すと、十人ほどの人たちが怯え、疲れた顔をして隅の方にいた。
正直、他の人と話すのは苦手なんだけど……しかたない。
俺は、大きく深呼吸をしてから、頭を下げ話しかける。
「えぇっと、ドウモ、山田トモウシマス」
うぁ、めっちゃ固い、自己紹介してどうすんだ、いやいや、挨拶大事、アイサツダイジ。
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