第6話 嵐と共に
山田との雑談を済ませ、鈴木と名乗っている男は、黒塗りの車の中で、彼の上司に連絡を入れている。
「はい、ある程度の情報を開示して信頼は得ています」
「戦闘データーですか? 以前のは死にぞこないとはいえ、バケモノ相手にいい動きをしていたと思いますけれど? 追加でほしいと」
「他の国には無い、わが国固有のサンプルですが、そうゆう事ならば、ぎりぎりまでサポートはしませんよ」
「幸い……と言いますか、天候が変わるようですし……」
「被害は出るでしょうが、彼に関してのデータは取れるのではないでしょうか、ボロ屋ですしね、避難しなければならないでしょうし」
「わかりました、では後程」
電話を切り、一息つき、鈴木と名乗っている男は独り言をつぶやいた。
「やれやれ、生き延びてくれよ山田君」
******
多数の流星が降り、チョットした騒ぎになった。
黒騎士と極点の謎装置の破壊は成功したんだと思う、そのうち鈴木さんに聞いてみよう。
怪物たちの襲撃で、町の機能が損なわれるかとも思っていたんだが、被害が出た立ち入り禁止になった地区以外では、割と普通に店とか開いていたりする。
人ってたくましいな、と思った。
ホームセンターに入って、買い物をする事にした、緊急用に役立つ物を買いそろえるつもりだ。
広い店内に人はまばらにいた、防災用品やらが売れているみたいだ。
店内では展示してあるTVから、ニュースが流れている。
『……本国での最終確認された、霧の消滅を確認……』
『霧の発生は終息に……』
『……海辺や大きな川沿いの被害は……』
『今日も未確認の怪獣たちによる被害が……』
相変わらず、海辺では怪物たちが現れて、何処の国でも対応に追われている。
どの位今の状況が続くんだろう、一年か十年かもっと掛かるかもしれない。
宿舎に戻って、買ってきた小型ラジオをつけてみる。
大きめのリュックに、携帯食料やら何やら詰め込みながら聞いていると、天気予報で台風が来ると言っていた、かなり大きいやつらしい。
嫌な予感しかしない。
畳の上に、買ってきたものを並べる。
重さ2kほど長さ1mほどのバール。
バールですよ、のような物じゃないですよ、三本買ってきました、メイン・予備・予備の予備ですよ。
当然、武器にするためです、普段ならこんなの持っていたら、不審者で捕まっちゃうからね。
「エクスカリバールと名付けよう」
ふっふふと、にやにや笑いながらリュックの横に刺していく。
もう一つの包みを開ける。
重さ5kほど長さ1mくらいの大ハンマー、鈍器ですよ鈍器。
柄がグラスファイバーで出来ていて、通常の三倍丈夫らしい。
やはり三倍だよな、赤くないけど。
「お前はミョルニル改だ」
うん、わかってる、いいんだよ、気分なんだよ。
ハンマーを持ったり振ったりしてみて再認識したんだけど、あまり重さを感じなくなっている、異世界に行って強くなっちゃった? まさかねぇ、まぁ、色々あったから鍛えられたのかなぁ。
時間がたち、段々と風が強くなり、雨が雨戸に打つ付けられガタガタと音を立てる。
ラジオからは、台風がもうじき上陸すると放送している。
外では、防災放送が鳴り響いている。
俺は、リュックを背負いハンマーを抱えるようにして、座ってうつらうつらしている。
いつでもここから出て行けるように、それは嫌な予感が消えないから。
夜半になり、風で叩き付けられる雨音がすごくなる、何かが飛んでどこかに当たって大きな音を立てている。
頻繁に、ではないが、時々何かが何かに当たる大きな音がする。
この豪雨の中、部屋に居る俺にも聞こえる音が。
何かが。
上の部屋で、大きな音がした、雨戸を壊し窓ガラスを割り、部屋の中に何かが飛び込んだようだ。
床の上を何かが暴れまわっている、この部屋のすぐ上で何かが暴れている。
さすがにすぐ天井が破られるわけではないだろうが、吹き込んでいるであろう雨で雨漏りがしだした、何かが暴れている音は収まらない。
俺はため息をつくと、部屋から出る決心をした、ここに留まっていても安全かと言うとそうでもないのだろうし、上の部屋? 見に行かないよ危ないし。
部屋のドアを開け、防風と豪雨の中を避難所まで行く事にする、雨具を着ていても激しい雨が体に当たると不快だ、激しい雨で視界が悪いが、空を見上げてみる。
何が、落ちて来ているのかわかってしまった。
暴風雨の中、風に乗り漂っているソレは、凧のような外観をしている。
大きな菱形で、長い尾が付いている、自力で飛んでいるのではなく風に乗っているのだろう。
それが、10mほど離れた車の上に落ちてきた、雨の中、目を凝らしてその姿を見てみる。
サメ……顔つきはサメだと思う、ただ体がエイの様になっている、大きな菱形の体に、長いひれの生えた尾、凶悪なマンタ〈イトマキエイ〉の様になっている。
苦し気に暴れているソレは、かなり脆い身体をしている様だ、自分で羽ばたいて飛ぶわけではなく、風に乗り滑空するのだから、かなり体の作りが軽いのかもしれない、しかも水面に降りるわけではなく、勢いがついてもろに着地すれば大ダメージで自爆だ。
とは言え、中にはうまく着陸するのもいるようだけど。
上空から降りてきた自動車に自爆したのより大きい個体のソレは、地面をすべるように降り、蛇のように体をくねら出ながら、俺の方に向かった来た。
「はやっ!」
避け切れないし逃げ出せない、俺は手に持っているミョルニル改(大ハンマー)を構え、向かってくるソレの頭にむかって思いっきり振りぬく。
『キュッ』
凶悪な顔のわりに可愛らしい声を出して吹っ飛び、のたうってるソレを横目に、うまくいったことに安堵しながら避難所に速足で向って行った。
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