第5話 黒騎士ーBlack Knight ー

 退避所は、人であふれでいるだろうと思い、宿舎に向かう事にした。


 何とか宿舎までたどり着いた俺を、待っていたのは鈴木さんだった。

 でかい黒い車から鈴木さんが出てきて、笑顔で声をかけてきた。


「無事だったかい山田君、こちらに向かってるようなのはわかっていたが、心配したよ」


「鈴木さん、えらいもんが来ちゃいましたよ、川から上がって来て、アイツらどこから、逃げてる人が潰されて、喰われて」


 走ってきた俺は、息を切らしながら鈴木さんに話をした、鈴木さんはわかっている、と言った風に。

「世界中で、だよ、川沿い海沿いは緊急避難勧告が出されているよ」


「へ?」

 俺は、間抜けな声を出してしまった。


 苦虫を噛みつぶしたような顔をして、鈴木さんが話を続ける。

「海から上がって来たんだ、遅かれ早かれんだがね、まずはどの国も首都圏を守るので手一杯だろう、ここはアノ町の件があって、まだ残留していたからね、その辺だけは運が良かった」


 俺も、眉をしかめ苦い顔になってるだろう。

「予測、されていた? と、言いましたよね」


 鈴木さんは、宿舎を指さし苦笑いしながら。

「あぁ、立ち話もなんだ、上がっていいかな?」


 ******


「すみません、座布団も無くて」

 俺はそう言うと、折り畳みテーブルを出し、冷蔵庫の中のペットボトル麦茶を使い捨ての紙コップに入れ、テーブルの上に置く。


「いや、なに、越してきたばかりだし、気にしないでくれ」

 鈴木さんは、持って来たカバンからタブレットを取り出し、画像を見せてきた。

「さて、アレの話だったね、まずはこれを見てくれ」

 それは、地球の衛星写真。


 至る所で、白い丸が点々と出来ていて、一番ひどいのは、赤道付近だろうか、数珠つなぎの白い丸で覆われ、まるで白い帯のようになっている。

「これ、全部あの霧なんですか?」

「そうだよ、おかげで今はホワイトベルト何て名前になっている、この辺は海なんだが、ここにも発生しているだろう?」


「ええ、海面に出来てるんですか?」

「いや……海底だよ、太平洋の平均深度は約四千メートルくらいらしいんだが、わかるかい? 海底に出来た霧のドームの頭が出てるんだよ」

 俺は言葉を失った。

 どれほどの大きさに育ってしまっているのか。

「あの霧は、取り込んだ生き物を変質させる、どれほどの生き物が変わってしまっているのか、陸に上がれそうな奴らは上がって来そうだろ?」


「何でこんな事に……もう吹き飛ばす事もできないじゃないですか」

 唖然として、つぶやくように言う俺に、一度うなずいて鈴木さんは話を続けた。

「そうだね、もう吹き飛ばすような事は出来ないかもしれない、でもね、どうも一つ試したい手が有るようなんだよ」


 試したい手? 対策が有るって事かな。

「それはどんな事なんですか? と言うか、俺聞いちゃってもいいんですか?」

 聞いたら不味かったら聞かないよ。



「そうだね、これから話すことはトンデモ話だ、あり得ない事だしあってはならない、結論も例え話だと、そうゆう事だから聞いてくれ」

 笑いながら、そう断ってから、話を続ける。


「黒騎士って知ってるかい?」


「黒騎士? ですか?」 

 黒騎士って鎧の黒い騎士の事? 中世の? 何かイメージ的にすっごい強そうだけど……、何で騎士の話なんだろう。


「黒騎士の衛星(ブラックナイト・ サテライト)とか、呼ばれているんだがね」

「あ! ありましたねそんな話、それが何か?」

 調べもしてないのに衛星軌道上に五基存在してるとか、一万三千年前から回ってるとか、エプシロン・ボーティス星系に向けて電波発信してるだとか、NASAが認めてるだとか、誰が調べてんだって尾ひれがついた奴だ。


「まぁ、それが五・六年ほど前から地球上のある場所に向けて、電波を発信しだしたんだ、それもだんだん強くね」

「へー……」

「反応が薄いね、では、そのある場所から送受信され、また衛星軌道上から怪電波が放出されてたら? しかも、その場所にあの霧が発生していたら?」

「え?! それってもしかして!」

 あの霧と関係大ありじゃないですか!?


「そう、五・六年前は、あの霧が発生しだした頃だろうな、そしてその電波を受信している場所、装置っぽいのも確認されてね、それが南極の極点近くなんだ」

「なんで、急に? 何ですかね?」

「温暖化で、氷が解けて受信する頭が出た、そんな感じらしい」

 なるほど、じゃ、試したい手って、もしかしたら。


「壊すんですか? その黒騎士と南極の」

「あぁ、そうだね、疑わしきは罰す、だね、大国は力押し好きだしね」

 なるほど、あの国やあの国は恐ろしいからな。


 うーん、謎はあるよね。

「でも、そんなことする目的って何でしょうね? 生き物を変質させる霧を発生させて」

「それなんだがね、テラフォーミングではないか、と話があってね、あぁ、っという意味合い的にね」

「その、霧を発生させる何かを設置していった彼らってことですよね? バケモノに変えるのがですか?」


「既存の生き物を始末してから、好きに惑星を改造開発するのかもしれないしね」

 なるほど、邪魔者を掃除してからか。


「それに、あのバケモノ達は生殖能力が無くなっているようなんだ、始末したサンプルを調べた結果、すべて一代限りの生き物だった」

「生み出さず放っておけば、居なくなるんだよ」

 うぁ、侵略生物兵器じゃん、使い捨ての。



「そうそう、君が異世界に行ったのも黒騎士のせいかもしれないね」

 なんだって?! 鈴木さんが思わぬことを言い出したのでびっくしりた。


「え?! どうゆう事です?」

「まぁ、これも確証がないから、あくまで推測だそうだけどね」

 そう断わって、鈴木さんは話を続けた。


「並行世界とか異次元の世界ではなく、この次元の宇宙のどこかの星で、彼らが同じようにテラフォーミングを仕掛けていたら、地球でも同じ装置が動いて、その仕掛けが共振を起こして繋がったんじゃないか、と、学者センセイたちの仮定の話さ」


 うーん、なるほど、トンデモない話だわな、実際繋がっちゃったし、俺行っちゃったし。

「何時頃壊すんです? その南極のと黒騎士」


「あぁ、そのうち流星でも見れるんじゃないかな」

「まぁ、トンデモ話だよ」

 ウインクして、笑いながら鈴木さんが言った。

 いや、まぁ、うん、そういう事にしておこう、下手に踏み込めないや。


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