金持ちの隠し事バイト道楽

ちびまるフォイ

隠し事をするなんて許せない!

俺の家は昔から裕福だった。

両親の仕事はなんだかよくわからなかったけれど、

家にはバカでかいプールと、バカでかい犬と、バカでかい家政婦もいた。


金持ちにありがちな「仕事ばかりで構ってくれなくて…夏」という

孤独を感じることもなく、愛情に関しても何不自由ない生活をしていた。


そんな人生イージーモードエスカレーターで過ごしていた俺が

怪しげなアルバイトに興味を持つのは無理からぬ話だった。


「へぇ、これが隠し事アルバイト」


「そうです。あなたが隠し事を隠している限りお金が入ります。

 バレたらお支払いはできません」


「どんな隠し事ならいいんですか?」


「なにかあなたに関する重大な秘密であれば自給は高いです。

 でも、おすすめしているのは小さな秘密です。

 "今朝、何を食べたのか"を隠し続けるとか」


「そんなんでもいいんですね」


「重大な秘密を隠したりするとどうしても緊張して不自然になります。

 簡単な秘密を隠して慣れていくほうがおすすめですよ」


金持ちだから何不自由ない暮らしをしている。

などと、やっかみを受けたくないので始めた独り暮らしの生活。


上流階級の生活に慣れすぎてどうしても金がかかってしまう分は

好奇心と生活費を満たすための隠し事バイトで稼ぐことにした。


「っていうか、今朝の朝食聞かれることってないな」


1か月後、隠し事管理人が給料を支払いにやってきたタイミングで気づいた。


朝食なんて誰も知りたいと思わないし、聞いてこない。

隠す隠さない以前に興味を持たれていなかった。


「まぁ、バレなければいいじゃないですか。はい給料」


「毎回手渡しなんですね」


「なにか隠し事の追加あれば、このタイミングで伺いますよ」


「それじゃ、"最近追加したアプリ"を隠し事にします」


「かしこまりました。その秘密だとランクはBくらいですね」


隠し事を追加して、次の1か月が始まった。

友達と会うときはちょっとした緊張感が出て少し楽しい。


「お前さ、最近なんかスマホのゲームやった?」


「あ、ああ……いや、やってない。忙しくってさ」


本当は『ドキドキ★ラブマチックエンジェルズ』を熱中していた。

でも隠し事なので話すことはできない。


「ふーん。そっか」


隠し事バイトがあるだけで、ただの日常会話もハリが出てくる。

次の管理人が来た時にまた隠し事を増やしまくった。


「ずいぶん増やしましたね。大丈夫ですか?」


「大丈夫ですよ、それに隠し事ってなんだかヒヤヒヤして楽しいんです。

 たくさん隠し事を抱え込んでいるほうが毎日スリリングでしょ?」


「あまり増やしすぎても……」


支払人は心配していたがゴリ押しで認可させた。

いかに隠し事を気づかれず、スマートに過ごすかを考えるのが楽しい。

まるでスパイにでもなった気分。


隠し事はバレたくないのに、むしろ気づかれるような状況に行きたがってしまう。


「さて、ちょっと遊びに行こうかな!」


家を出ようとした直後、電話が鳴った。


『こちら、カネモチ大学病院です。息子のナリキンさんですか?』


「はぁ……」


『実はあなたのお母さまが――』


俺はすぐにカネモチ大学病院へ向かった。

息を弾ませながら病室を聞くと借金取りより荒々しく到着した。


「母さん!!」


「あら、ナリキン。早かったわね」


元気そうな母親の顔に拍子抜けしてしまった。


「あれ……不治の病を重ね掛けして、全身不随のうえ、

 首と胴体が皮一枚でつながっている危機的状況だって聞いたけど……」


「嘘に決まってるじゃない。むしろ良く信じたわね」


「なんの嘘だよ!? いたずらにしても迷惑すぎるわ!」


「だって、ナリキンときたらお正月にも実家に戻らなかったじゃない。

 いつまでたっても顔を見せないからこんな手に頼ったのよ。

 それにケガをしたのは本当なのよ、足の小指をくじいたのよ」


「まぁ……元気ならよかったよ……」


すっかり安心して肩の力が抜けた。

母親はここからが本番だとばかりに目を輝かせた。


「で、あなたは今元気なの?」


「え……それは……」



隠し事:自分の体調



「そ、それより! すごい病室だね!」


「なんで答えないの? ちゃんと朝ごはん食べてるの?

 偏ったものばかり食べてない? 今朝は?」


「うぐっ……え、えーっと……パ、パンケーキ……?」


「なにその西洋感。なにか隠してる?」


「隠してない! 隠してない!」


「それじゃ、今はどんな仕事してるの? どこから収入得てるの?」



隠し事:自分の仕事



「まあ普通だよ……普通の仕事……」


「普通の仕事ってなによ。何か悪いことでもしてるの?」


「してるわけないだろ!」


「じゃあ、どうして言えないのよ」


「それじゃ俺はそろそろ、おいとま――」


逃げようとした俺を全長2mの母親が襟首をむんずとつかむ。


「待ちなさい。なに隠しているの? 家族に隠し事なんて許さないわ」


「め……めっそうもない……」


「言えない仕事ってことは……。

 まさか、抵抗する間もなくドラッグ中毒にされて

 ドラッグを求めるうちバイヤーになって世界をまたにかけているの!?」


「ないないない!! そんんわけないだろ!」


「でも言えない仕事っておかしいじゃない! もう駄目だわ!

 お母さん、警察に連絡する! そこで洗いざらい調べてもらいましょう!」


「待って待って!!」


このままじゃ警察ざたになってしまう。

実際は何もしていないフリーターだとしても、信号無視とかポイ捨てとか

小さな罪を集め集められて死刑になるかもしれない。


デッド or バラす


「ああ、もうわかったよ! 全部話すよ!!」


このままじゃ、心配性の母親のたくましい想像力で

猟奇殺人鬼に仕立て上げられそうな勢いだったのですべて話すことにした。


「なーんだ、そんなことなの」


「なんだって……そっちが聞いたんでしょ」


「不自然に隠すから余計に心配になっちゃったのよ。

 そのバイトしているんなら先に言ってくれればいいのに」


「言ったらダメになるだろ……」


全部話してしまった。これで隠し事バイトは失敗。

収入源を失ってしまったと落ち込んでいると、支払人が病室にやってきた。


「ああ、こちらにいたんですね。探しましたよ」


「どうしてここに?」


「どうしてって、今日は支払日でしょう」


支払人は当たり前のように答えていた。


「いや、でも俺さっき全部隠し事を話しちゃいましたよ!?

 隠し事バイトを話したら給料受け取れないはずですよね」


「あの、なにか勘違いされていませんか、ナリキンさん」


「勘違い……?」




「私が給料をお支払いにきたのは、お母さまのほうです。

 もう何十年もごひいきくださって本当にありがとうございます。

 これからも末永くよろしくお願いします」


母は支払人から大金を受け取った。

うちのメイン収入源がわかった気がする。

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