第115話 クイズの森
「今日はあそこに行くよ」
「あそことは?」
「ほら、ここに来る道の横にあるでしょ?」
「ふむ……クイズの森か?」
「正解!」
夜が過ぎて次の日のお昼過ぎ。資料確認も終わり、昼食のジャパリまんを頬張りながら俺はキングコブラさんに言った
【クイズの森】
図書館に行くまでの道の横にあるアトラクションの一つ。中に入るとクイズがあって、正解の道に進むと次の場所に、不正解だと元の場所に戻ってきてしまうというやつだ。これは、かばんさん達が長に嵌められてやらされていたのは知っている
俺とキングコブラさんはそれを体験したことがない。大体素通りか上空を突っ切るからだ
「どのようなものなのか楽しみだ」
「よし、なら早速準備だ」
まぁ特別な準備はいらないんだけどね。荷物を持って下に降りると、父さんと母さんは見たことのない機械や分厚い本(?)をバッグに入れていて、キュウビ姉さんとオイナリサマは本を片付けている。さっきまで確認してたみたいだね
「ん?今から何処か行くのか?」
「クイズの森に行ってくるよ」
「クイズの森?私達も行こうとしていたんですよ」
おっと、行き先が同じか。なら一緒に行く方が安全だね。キングコブラさんをチラッと見ると、彼女も俺と同じことを考えたのか頷いた
「二人で行く必要もないだろう。私はへいげんの方に向かうとする。オイナリサマ、一緒に来てくれませんか?」
「構いませんよ」
「ありがとうございます。じゃあミドリ、そっちは頼んだぞ」
「分かりました~」
ということで別行動になった。父さんとオイナリサマは、俺達が乗っていたバイクを使ってへいげんに向かった。そこまで距離はないので、俺達は歩いて森へ向かう
器用に作られた木のトンネルを潜ると、早速一つ目のクイズの看板があった。俺の記憶が間違ってなければ、最初の問題は…
「『ラクダは一度に、コップ500杯ぶんの水を飲むことが出来る。“はい” なら右へ、“いいえ” なら左へ進もう』…だそうだ」
「ふぅん…?」
やっぱりそれだったか。俺はもうその答えを知っているし、姉さんと母さんも余裕だろう。だけどキングコブラは知らないみたいだ。彼女に楽しんでもらいたいので、答えはなるべく言わないことにする
「あいつらなら飲めるだろうな。答えは “はい” だ」
「なら右に進もうか」
キングコブラさんの手を取って右へ向かう。あいつらと言っていたから、ラクダのフレンズがいて知り合いなんだろうね。俺は会ったことないんだよねぇ
トンネルを抜けた先には、『正解』と簡単な解説が書かれた看板があった。まずは一問目を無事に突破だ。彼女を褒めると照れていた。可愛い
それとは少し離れた場所に、次の問題の看板が立てられている。次の問題もラクダに関するやつだから俺は答えを知っている。なのでまた彼女に考えてもらおう
「『ラクダのコブには水が入っている』かどうか…か。これは “いいえ” だな」
と思ったらすぐに答えを出してしまった。ラクダさんと知り合いならおかしくはないか
歩きながら聞いてみると、案の定それについては教えてもらってたみたい。看板には、彼女の説明通りのことが書いてあった。お見事お見事!
彼女を褒めつつ次へ。さてさて、次はどんな問題かな?
「第三問、『キングコブラは、ヘビの中で一番大きいヘビである。“はい” なら右へ、“いいえ” なら左へ進もう』…か」
──ん?
「私に関する問題だと?」
「うん、確かにそう書いてあるね」
看板には、まるっこい可愛い文字で問題が書いてある。新しく作ったのか看板は他に比べて綺麗だ。作ったのは長達か、それともラッキーさんか…どっちでもいいか
「さぁコウくん、お嫁さんについての問題ですよ?」
「これは答えられないといけないわね?」
…まぁ、そうくるよね。まるで俺達が来ると分かっていたかのような問題を作りおって。だがなめるなよ!これを答えられない俺ではない!
「これは、ズバリ “いいえ” だね」
「ほう…即答だな」
「自信あるからね」
「そうか、なら左に行くぞ」
今度はキングコブラさんが俺の手を取って歩き出す。足取りが軽そうに見えたのは、きっと気のせいじゃないね
「ここは…次の場所ね。やるじゃないの」
「よく引っかかりませんでしたね!」
「まぁね~」
「当ててくれて嬉しいぞ」
「君のことだからね。これくらいは朝飯前だよ」
「そ、そうか…///」
照れて頬を掻きながらも微笑むキングコブラさん。それが見れただけで、正解して良かったと心から思う
あれは引っかけ問題…っていいのかは分からないけど、間違える子は多そうだ。キングと名がついてるから、ついつい “はい” を選びたくなる子もいるだろうし
だけどキングコブラは、“ヘビ” の中ではなく “毒ヘビ” の中で一番大きいんだ。ヘビという大きなくくりだと、オオアナコンダとアミメニシキヘビが最大だったかな?
因みに彼女の毒は神経毒で、他の毒ヘビの方が威力は高い。けど一回に注入される量が比べ物にならない為、噛みつかれたら短時間で死に至るという…やっぱり彼女は凄いな…
それにしても毒か。彼女はその小さな口にある牙から出すとして、元と同じように大量の毒を一瞬で注入できるのだろうか?その威力はどれ程なのか?俺はそれにどれくらいの耐性があるのだろうか?
考えれば考えるほど気になってしまう。俺は勿論、セルリアンやフレンズに使ってる所を見たことないから余計にだ。いっそ後でお願いして毒貰ってこっそり試そう──
「…どうした?そんなに見つめて」
「──えっ?あぁごめん、気にしないで」
「…そうか」
ちょっと集中しすぎたか。気づいたら彼女の口元をジーッと見てた。てかいつの間にかめっちゃ近づいてた。彼女は気にしてなさそうだからセーフ…か?
「変なやつだな。 …まぁ、今に始まったことじゃないか」
「待ってそれはひどいと思うんだ」
「冗談だ。そう拗ねないでくれ?」
謝りながら頭撫でないでください。これじゃあ怒るに怒れないじゃないか。君も随分ズルい子になったもんだよ…
「あれどう思う?」
「ラブラブでいいですね。そのまま続けててほしいです」
「見ていて飽きないわよね」
何言ってるんだこの二人は。小さな声で言ったつもりかもしれないけど俺にはバッチリ聞こえてるからな?続けるわけないからな?
*
そこからも問題を解いては進んでいく。特に難しい問題はなく、キングコブラさんも間違えることはなかった。何があったかは母さんがメモをしていたので確認してみよう
第四問
『キングチーターはチーターの変異個体である』
第五問
『キングペンギンはコウテイペンギンよりも後に発見された』
第六問
『ライオンの作る群れのことを “プラズム” と言う』
第七問
『ヘラジカの立派な角は雄にしか生えない』
第八問
『フォッサはマダガスカル島の固有種である』
第九問
『キクイタダキは大型の鳥類である』
…なんか、王関連の問題ばっかりだな。別にそれに絞らなくても良かったんじゃないの?そのせいで問題がシンプルになったとしか思えないぞ
※答えは上から、はい→いいえ→いいえ→はい→はい→いいえ
とか考えつつも進んでいく。もしかしたら全部そんな問題なのかもしれない。次が最後だけど、一体どんな王が…
「最終問題、『キマイラとは、ライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持つ動物である。“はい” なら右へ、“いいえ” なら左へ進もう』…だそうよ?」
「…キマイラ?」
ここに来て違うタイプの問題?まさか最後に架空の生物の問題を置いてるとは思わなかった。 …いやこれ、俺に関する問題として出してるのか?またマニアックな問題にしたな…
さてさて、これもある意味引っ掛け問題。さぁ君は気づくことができるかな?てかお願い、気づいて?
「右に行くぞ」
「右ね…ファイナルアンサー?」
「ファイナルアンサー」
確信を持って右へ進むキングコブラさん。早足で歩くその背中を追いかけていく。そのスピードがとても嬉しい
トンネルを抜けると同時に森も抜け、視線の先には見慣れた図書館。最終問題も正解、まさかの一発でクイズの森攻略完了だ
「最後、よく引っ掛からなかったね」
「前に教えてくれたからな。しっかり覚えているさ」
前にキメラとキマイラの違いを説明したことを、彼女はしっかり覚えていてくれたみたいだ。『お前のことだから当たり前だ』と返され、照れてしまうけど嬉しくなった
*
そこからは、母さんが森やその周辺の調査をしているのを眺めていた。空気中のサンドスターがどうのこうのとか、周辺のフレンズがどうのこうのとか。セルリアンの目撃証言があったので油断は禁物だけど、今のところ大きな問題はないみたい
図書館に戻って一休み。父さん達はまだ帰ってきてなかった。ラッキーさん曰くそろそろ夕食の時間なので、もう少ししたら戻ってくるでしょう。先にご飯を作って待ってようかな
ピリリリリリ…ピリリリリリ…ピッ
「はい、こちらミドリです。…はい、はい。分かりました、ではまた明日。はい?…フフフ、頑張って下さいね?」
ピッ!
「どうしたの母さん?」
「アオイさんから連絡がありました。こはんの調査にも行ってくるそうです。帰りは明日になると言ってました」
「そっか。…なんか面白いことでもあった?」
「ええ、とても」
話を聞くと、父さんはヘラジカさんに勝負を挑まれそれを受け、その後の合戦にも参加したみたい。凄く頼みやすくて頼まれやすい性格なのは変わっていないのね。なんか安心するよ
ではでは夕飯を作りましょう。材料からして…チャーハン作るよ!(AA略)
「コウ、キングコブラを少し借りたいのだけどいいかしら?」
「キングコブラさんがよければ」
「私は構わないぞ」
「なら遠慮なく。中で話しましょ?」
二人が図書館へ消えたので、残された俺は料理を進めていく
「私もお手伝いしますね?」
「そう?じゃあお願いするね」
「は~い♪」
母さんが隣で具材を用意し始める。改めて並んでみると、俺の方が背が高いのが顕著に分かる。いつも見上げていたその姿は、今では見下ろすことになっている
「もうすっかり抜かされちゃいましたね?」
「そうだね。父さんにはまだ勝ててないけど」
「これからですよこれから!」
これから…か。不変ってわけじゃないから、少しは期待してもいいのかな?できればもう少し背は欲しいのです
「それにしても…本当に不思議ですね、それ」
両親が反応したのは、俺に出ているキツネの耳と大きな尻尾。今日のガチャはオイナリタイプ。キングコブラさんも抱き枕にするくらいモフモフです
2日連続で何も出てなかったから、両親は野生解放の際にけものプラズムが出ると考えていた。まぁそれが普通なんだけどね
なのに俺の姿はご覧の通り。今朝これを見た両親は、眠気が一気にぶっ飛んだと同時に頭を抱えていた。ここに来てからずっと二人はそんな感じで、その理由の8割くらいが俺のことなのはなんかごめんなさい
「他のもあるんですよね?全部見てみたいです」
「それはいいけど…向こうで報告はしないでよ?」
「分かってますよ。コウくんがいることも言いません。その方が色々安心ですもんね?」
「…そうだね」
オスのフレンズ…それもキメラ。知られたら面倒なことになるのは容易に想像できる。少しでも復興を早めるなら、俺の存在は隠した方がいいだろうしね
…というのが半分の理由。もう半分は、そこから生まれる不安と不信感
「もう…もっと甘えてもいいんですよ?」
背伸びをして、そっと頭を撫でてくれる母さん。俺がそんな想いを抱くと、直ぐに察知してこうしてくれるのだ。懐かしくて、凄く安心するそれは、不安なんて何処かへ飛ばしてくれた
「…ありがとう。でも甘える歳でもないよ?」
「フフッ、確かにそうですね。 …あの、報告しない代わりと言ってはなんですが、キングコブラさんとの馴れ初めを聞かs」
「あっ戻ってきたおーいご飯できたよー!」←喰い気味+早口
「少しくらい聞かせてくれてもいいじゃないですかー!」
いいえ駄目です。少なくとも、俺達から言うまではね。いつになるかは不明だけど
*
ご飯も食べ終わり、只今お片付け中。母さんは今日の調査結果をまとめに図書館へ先に戻った。後でコーヒーでも入れて持っていこう
キュウビ姉さんとキングコブラさんが話していた内容は教えてくれなかった。だけど何か企んでいるのは分かった、何故なら姉さんがニヤニヤしていたから…
「コウ、通信ガ来テルヨ」
「あっラッキーさん。通信?誰から?」
「今繋グネ」
いつの間にか足元に来ていたラッキーさんが、ピロピロピロ…と目を光らせている。数秒経って、向こうの声が聞こえてきた
『あーあー、コウ、聞こえていますか?』
「博士?聞こえてるよ。どうしたのさ?」
『頼みたいことがあるのです』
「頼みたいこと?」
またいきなりだな…とか思いつつ、博士の淡々とした話を聞く。その内容は悪くない、むしろ良いもので、キングコブラさんも賛成してくれた
『我々も仕事に移るので、くれぐれもバレないようにするのですよ?』
「それはこっちの台詞なんだよなぁ…」
『…今のは聞かなかったことにしてやるのです。我々は優しいので。では…』
変なアピールで通信が切れた。仕方ない長だこと…
「というわけだから、明日一旦ろっじに戻ろう。姉さんもそれでいいよね?」
「むぅ…まぁいいわ。あれは後回しでも出来るしね」
またニヤッと笑った姉さんと、視線を反らしたキングコブラさん。また何かいらん入れ知恵したな…。本格的にオイナリサマへの報告を考えるべきかもしれない…
いや、それこそ後回しにしよう。久しぶりのイベントだ、気合い入れてやってやりますか!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます