第114話 地下室の資料
「おはよう、コウ」
「おはようキングコブラさん、もうできてるよ」
今日の朝も厨房…食堂から始まる。ご飯は俺が作りました。見回りを終えて来た彼女の分も盛って、一緒に食べ始める
『それでアライさんは、セルリアンをカッコよくパッカーンとしたのだ!』
『もうちょっとで食べられそうになってたけどね~』
『フェネックゥ!?それは言わないでいいのだ!』
『フフフ、君らしいね。その顔頂き!』
「…ん?他の皆はどこに?声は聞こえるが…」
「父さん達はまだ来てない。かばんさん達は一足先に食べ終わって、いつもの場所で旅の話をしているよ。声の正体はこれ」
椅子に置いたのはろっじのラッキーさん。かばんさんの腕についたラッキーさんからの通信で聴こえるようにしてもらった。こっちの声は聴こえないからラジオみたいなものだね
話を聞くに、どうやらゴゴクエリアを出た後、パークセントラルに向かったようだ。更にそこから次に向かおうと海を渡っている時に、父さん達のボートに出会い、キョウシュウに戻ってこようと思い付いたらしい。そしたら俺がいて、思わぬ出会いになった…と
「おはよう、良い匂いがするな」
「「おはようございます!」」
「あっ、おはよう。今盛るね」
噂をすればなんとやら。朝から資料作成お疲れ様です
*
「二人は今日図書館に行くんだったな?」
「そうだよ。昔の資料を見にね」
キングコブラさんとの旅デートはまだ終わっていない。午前中は彼女とゆっくり過ごして、午後からその続きとして図書館に行く。そこからはまた他のちほーに行く予定だ
「父さん達の予定は?」
「私達はここにある資料を確認して、周辺の調査ですね。キュウビさんとオイナリサマが手伝ってくれるので、セルリアンは問題ありません」
なら大丈夫かな。ボディーガードとしては俺なんかよりも断然安心だし、能力でサポートも出来るし。…考えてたら悲しくなってきた。やめよう
…あっ、そういえば
「聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ?」
「パソコンの中のファイルの端にさ、ロックのかかったものがあったんだ。四桁の数字を入力するやつなんだけど」
「…!」
「それには何のデータが入ってるの?」
「…すまない、思い出せないな」
「そっかぁ…」
もう随分昔のことだもんね。忘れていても不思議じゃないか。でもあれだけ見れないのはモヤモヤするなぁ…
「実際に見れば思い出したりはしないか?」
「…その可能性はあるが、二人きりの方がいいだろ?邪魔にならないか?」
「邪魔になんてなるはずがない。その方がいいのならそっちを優先してくれて構わない。それに、コウも二人も共にいる時間が増えていいだろ?」
「キングコブラさん…」
こうやっていつも、自分のことよりも俺のことを一番に考えてくれるんだ。俺達親子の失った時間を、少しでも取り戻そうと考えて言ってくれたんだ。そういう優しいところも、俺は好きになったんだよ?
「それに、私も気になるからな。一石二鳥だ」
…そういうちゃっかりしたところも、好きになったよ
*
「では行ってきます。ミライさん、すみませんがここの資料はお願いしますね?」
「任せてください!かばんさん達も手伝ってくれますしね!」
ろっじにある資料探しの続きはミライさん達に任せて、父さんと母さんは俺達と共に図書館へ。バイクではなく、オイナリサマとキュウビ姉さんが両親を抱えて空を飛ぶことになった
本気で飛べばそこまで時間はかからない。風を切るスピードでいけば、あっという間に目的地に到着だ
図書館が残っていることに感動している両親を引っ張り、俺達は地下室へ向かう。明かりをつけて、パソコンをつけて、パスワードを入力する
そして、鍵マークのついたファイルを父さんに見せる
「どう?この画面を見て何か思い出した?」
「そうだな…ちょっと貸してみろ」
父さんは雑に椅子に座り、次々に四桁の番号を入れていく。『8901』とか『3983』とか『0514』とか。 …それ適当に入れてないよね?さっきから全然開かない…
「…『0214』…あっ」
「「「「「あっ」」」」」
とか思ってたら開いた。何があるのかと覗くと…
「…何もないね」
「…ないな」
ファイル の なか は からっぽ !
中のデータだけ取り出したか消したのかな?俺も昔やったことあるから不思議じゃないね
というわけで、新しい収穫はなし。少し残念だけど資料を見ますか
「コウ、このUSBメモリは持っていく。それと、ここの本を確認したいのだがいいか?」
「別にいいよ」
元々父さんのだし、この場所も調査の範囲だろうからお構い無く。俺達は邪魔しないようにここから出ますか
置きっぱなしにしてた資料と日記を持って、俺達は地下を出た
*
二階に上がって、前に寝泊まりしていた管理室へ場所を移す。日記と資料を広げて、キングコブラさんと向かい合う…
「さぁ説明してもらうぞ」
「待って待って落ち着いて」
…はずだった。隣に座ってグイグイ体を寄せてくる。逆さで見るよりは説明しやすいから理にかなっているけどとにかく近い(嫌じゃないしむしろ好き)
結構日常のことも書いてあるから、重要そうな部分だけ抜きとって読んでいきましょうかね
◯月△△日
パークセントラルの病院がセルリアンに襲撃された。何を狙ったのかは原因不明だ。どうにかセルリアンは退けたが、カコさんが昏睡状態となってしまった。私に出来ることは何かないのか…
◯□月×日
セルリアンの女王…どうやら、そいつがパークセントラルにいるらしい。今はオイナリサマが抑え込んでいるが、いつまで持つか分からない。早く次の手を打たなければ…
●月◯日
トワさん達によって、セルリアンの女王を倒すことができ、カコさんも長い眠りから目覚めた。一件落着のように見えるが、いつどんな驚異が訪れるか分からない。あの研究を早々に進めなければ…
「…セルリアンの女王…」
かつて、園長やミライさん、サーバルさん達が力を合わせて倒したセルリアン。その後長い年月をかけ復活し、今度はオイナリサマとトワさんが倒したんだ
そこからの日記は、ひたすら研究のことばかり。中々上手くいかなかったことが日記の文字で読み取れる。それほどまでに、父さんにとっても女王異変は苦しい出来事で、何もできなかったのが悔しかったのだろう
そして、ある日変化が訪れる
□月×△日
研究を進めていく内に、特殊な
□月××日
あのサンドスターについて少しまとめておこう
・既存の動物及び動物の化石、標本、骨格等に触れてもアニマルガールにはならない(共通効果)
・碧、翠、紅の3つは全てが傍にあると白く光る
・黒には微量のサンドスター・ロウが混ざっている
・紅はけものプラズムから作られたもの(体の一部や武器の破片等)をサンドスターに変換して吸収する
もしかしたら他の性質もあるかもしれない。まだまだ調べる必要がある
□月△×日
特殊なサンドスターから二人のアニマルガールが誕生した。オオカミの姿をした『フェンリル』と、ヘビの姿をした『ヨルムンガンド』だ。まさか本当に生まれるとは思ってもいなかった。上にどう説明したらいいのだろうか?今度オイナリサマにでも聞きに行ってみるか…
△月◯日
今日も『リル』と『ヨル』は守護けものの所へ行き稽古をしたようだ。毎回傷をつけて帰ってくる二人を見て、心が締め付けられると同時に嬉しく思ってしまう。私は、二人を娘のように思っているからだ
□月△◯日
まさか、私の研究施設がセルリアンに襲われるとは…。怪我人はなく、来客も無事だったのは不幸中の幸いだっただろう
しかし不味いことが起きた。残りの特殊なサンドスターが2つとも何処かへ消えたのだ。誰も持ってはいなかったし、セルリアンは全て倒したから奪われたわけではないと思うが、それなら何処へ消えたのだろうか…
「これがお前達姉弟の誕生秘話か。この時に1つがセルリアンに、もう1つがお前に宿ったのだな?」
「秘話って程でもなさそうだけど…そういうことだろうね」
父さんと母さんは、サンドスターの傍に北欧神話の本を置いて願ったみたいだ。その結果姉さん二人は生まれ、黒いのには『ヘル』の情報が入った
そして、実際は黒を喰らったセルリアンがいて、混乱に乗じて逃げおおせた。それは後に『ヘル』になった…って感じか
最後の1つは、この日の来客…正確には『俺の本当の母親』のお腹にいた俺に宿った、ということだろう。そしてその影響で、生まれた俺は紅い髪と瞳になった。俺のサンドスターにそれらの情報が入らなかったのは、既に
…
だけど今更知りたくもないし興味もない。そんなことはどうでもいい。大切なのは、その後に書いてあることだから
【忘れてはいけないこと】
私がサンドスターの研究を進めていた理由と、それに願ったことは、『パークを守ってくれる存在がほしい』ということだった。だからずっと実験を繰り返してきた。守護けものに匹敵する、強いアニマルガールの誕生を願いながら
だが、これは大きな間違いだった
研究を進める内に、その考えは変わっていった。私は、元気に、自由に生きてほしい。皆と心を通わせることができる、優しい子になってほしい。戦いなんてしてほしくない…そう願うようになった
結果は、どちらの願いも持って生まれた二人のフレンズ。あの二人には全てを話した。身勝手で傲慢な私の行いを。何を言われても受け入れる覚悟だった
だが二人には、『自分の意志でしたいことをしている』と、『生んでくれてありがとう』と言われた。その言葉に、私はどれだけ救われたか…。感謝してもしきれない
純粋で素直で無垢な彼女達を、危険の中に放り込んでしまった。私のこの行いは到底許されることではない。だからこそ、私は出来ることを全力でしていきたい。それが、私にできる唯一の償いなのだから
「…聞きたいことがある」
「…なに?」
「…アオイとミドリのことを、どう思っている?」
「…そうだね」
この日記を初めて読んだ後、記憶と照らし合わせ野生解放をした。その結果があの姿だ。あの時は本当に悩んだし、なんなら今も悩ましい所は多々ある
だけど、そんなことは関係ないんだ
「大好きだし、自慢の両親だよ」
これが、俺の本心からの答えなんだ
「…そうか。そうだな」
それを聞いたキングコブラさんは、満足した顔で頷いた
*
そこからは俺が来た後の日常の話。特に難しいことは書いてないので直ぐに読み終わってしまった
「…さて、他に聞きたいことってある?」
「そうだな…ならこれだ」
キングコブラさんが手に取ったのは、過去に開かれたイベントの資料集。意外と好奇心旺盛な彼女らしいチョイスと言える
てっきり親について聞かれると思っていたけれど、彼女は聞いてこなかった。何かを察して気を使ってくれたのか、既に何かしら聞いているからなのか、大して興味がなかったのか…
まぁどれでもいいか。彼女が楽しそうにしているのなら、それ以上に望むものなんてないのだから
資料を広げて、話しながらページをめくっていく。前にも似たようなことがあったと思いながら、彼女の笑顔を眺めながら
◆
「…さて」
二人が上に行ったことを確認して、私は再度USBメモリを入れる。読み込みにかかる僅かな時間さえも勿体無いので、パソコン内部にあるデータも一緒に開く
ざっと目を通すと、私が危惧していたデータや、それに繋がるようなものは残っていなさそうだ。これならこのままでもいいだろう
「やっぱり、コウに知られると不味いものでもあるのね?」
「教えてもらいましょうか?そこまで慌てる理由を」
…流石に、二人には敵わないな。これは本来誰かに言うことではない。だが守護けものとして、コウの姉として、二人には知る権利がある。それならここで全て話しておいた方がいい
「話す前に…コウは、本当の両親について何か言ってましたか?」
「いきなりね…。母親のことは覚えてるけど、父親のことは全く覚えてないと言っていたわ」
父親だけ…それは昔と変わっていないのか。良いのか悪いのかは分からないが、データが残っていなかったことは幸いだった
「そんなことを聞く、ということは…」
「…ええ。さっきの空っぽのファイルには、コウの本当の両親…
「「…!」」
「何故
「その情報はどうやって手に入れたの?」
「本州にいる警察の友人の
「警察がそんなことしていいのかしら…」
「そこは上手くやったみたいですね。あいつ、かなりのお偉いさんみたいなので」
このことはパークの職員でもほんの一部しか知らない。そして、それと一緒に入っていた実験記録は、もうこの世には存在しない
記憶を便りに、その二つを話していく。段々と表情が曇っていく二人とミドリ。私も、きっと苦虫を噛み潰したような顔をしているだろう
話終えると、三人は頭を抱えていた
「…コウが覚えてなくて良かったわ」
「私もそう思います。 …これは、そのまま忘れていた方がいい」
「改めて聞きましたが…やはり、許せないです…」
人はあまりにも辛いことがあった時、その記憶を自ら封印することがある。『抑圧された記憶』とも言うらしいが…ここでは名称なんてどうでもいい。コウが自ら封印してくれて本当に良かった
こんなこと、言えるわけがない。思い出させるわけにはいかない…
──実の父親から、人体実験を受けていたなんて
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