第116話 ハッピーハロウィン
「テーブル、椅子、お菓子等々…全て準備OK!皆、協力ありがとう!一足先にこれ食べて!」
『やったー!!!』
夕方、コウ達がいる場所はロッジの中庭。ここは広場になっていて、以前ぺぱぷがライブの練習に使っていた場所だ。故に中々の広さであり、やろうと思えばミニライブやキャンプ体験ができる
そんな場所に集まった他のちほーのフレンズ達。何やら準備をしていたようだが、無事に終わり、労いの意味も込めてコウが出来立てのマフィンを配っていた
「後は、あの二人が上手くやってくれれば…」
「「…コウ」」
「あっ、待ってたよ博士、助手。ちゃんと呼んできてくれたんだよね?」
「「…呼んではきたのですが…」」
「コウさん!」「コウ…!」
何故か明後日の方向を見る博士と助手。その後ろで凄く嬉しそうに声をあげたかばんとアオイ。その二人の後ろにいる計五人の表情も嬉しそうだ。それを見て何が起きたか察したコウ
「『お帰りの会』を開いてくれてありがとうございます!」
「『歓迎会』を開いてくれるとは…本当にありがとう」
お礼を言った後、他の子達にも挨拶に廻るかばん達。博士と助手に少し冷ややかな視線を送るコウ。それを受け更に気まずくなり縮こまる二人
「こんにちは博士さん」
「な、何か用ですかな?」
「皆に何か言いましたか?」
「…言ってない…のです」
「そうですかありがとう汗すごいですね」
「…それほどでも…ないのd」
ガシッ!ギリギリギリィ…!
「思いっきりサプライズバレてるじゃねーかァ!」
「「アアアァァァアアごめんなさいなのですー!?!?」」
コウのアイアンクローが炸裂し、二人の絶叫が木霊した
*
「気を取り直して…」
ピシッ!と姿勢を直し、壇上に立つ博士。皆手にお菓子を持ちながらも、お話を一旦止めて注目する
「これより、【『かばん一行お帰りの会』及び『アオイ一行歓迎会』in『ハロウィンパーティ』】を始めるのです!」
『イエェーイ!ハッピーハロウィーン!』
俺達の宴が、今始まるのだ(長いなタイトル…)
事の発端は、『あいつらが帰って来たのだから何かしてあげるのです』という長の思いつきからだ。あの日の夜、通信で話をしていた内容はこれだ
それなら、『ハロウィン』の日付が近いから、それと一緒にやろう、とアイデアを出した。そっちに注目してくれれば、サプライズもやりやすいだろうと思ってね。勿論長は承諾したよ
一度ろっじに戻り、そこから3日間色々準備をしていた。他のちほーの子に内緒で告知したり、手伝ってもらったりして、全てを順調に進めて終わらせた
だというのに、結果はご覧の通りだ。博士が彼女達の前でポロッと呟いてしまったらしい。それを耳の良いサーバルさんが逃すことはなく、質問責めの末に全部話してしまったとのこと
全く、サプライズが台無しだよ…ってわけでもないか。喜んでくれてるし、結果オーライだね
因みにこの3日間、父さん達はかばんさん達と一緒にさばんな、じゃんぐる、さばくを廻っていた。帰って来た報告と、その周辺の調査の為だね
「お疲れ様。たくさん用意したから、遠慮せずに食べてってね」
「ありがたくもらうのです」
「ですが、その前に…」
ニヤリ、と笑う二人。これは、あのお決まりの台詞が…来るぞ遊馬!
「「トリック・オア・トリートなのです!」」
ちゃんと来たぜアストラル!
…じゃない、ちゃんと渡してあげないとね。どこに置いたっけな~…って…
「…ごめん、厨房に置いたままだった。取ってくるから少し待ってて」
そういえば作って包んでそのままだった。これじゃあ意味ないじゃんね
「ほう?今すぐには渡せないと?」
「これはイタズラをされても文句は言えませんねぇ?」
ふぅん、そう来るのは読めていた。だが残念、それに対する
「イタズラしてもいいけど、その代わりお菓子はなくなるよ?」
「「何故ですか!?」」
「だってトリック “オア” トリートだからね。そこからは言わなくても分かるでしょ?」
「「あっ…!」」
お菓子の代わりとしてイタズラなんだから、片方したらもう片方がなくなるのは当たり前だよなぁ?
理解してくれた様で、イタズラはせず俺に黙って着いてきてお菓子を貰った長二人。してやられたって顔は、クッキーを食べたら直ぐに消えた。チョロい
*
お菓子も用意できたので、俺はお客さんのお出迎えをする。
「トリック?トリート?」
「トリック・オア・トリートでち!」
「トリック・オア・トリートのポーズゥ!」
「トリック・オア・トリート~♪」
「OK、はいこれお菓子ね」
『ありがとー!』
まず来たのはじゃんぐる仲良し四人組、オセロットさん、ジョフさん、アリクイさん、インドゾウさん。一人怪しいけどセーフかな。言えなかったらあげないってことはないけどね
それとそのポーズはいつものと何が違うんだ?
「料理もあるからゆっくり楽しんでってね?」
「もちろんでち!それと今日はろっじに泊まっていくでち」
「約束してたし、楽しみにしてたんだよぉ~」
それはありがたい。
じゃんぐるちほーの子達はある程度もう来ているので、彼女達はそこに合流した。楽しそうな会話を聞きながら、次のお客を待とうかね
*
「えーっと…何でしたっけ?」
「パフィンちゃん、トリート・オア・トリートですよー」
「おー!流石エトピリカちゃん!トリート・オア・トリートでーす!」
「…まぁいいか。はい、お菓子だよ」
「「ありがとうございまーす!」」
来たのはパフィンさんとエトピリカさん。どう転んでもお菓子なのはある意味らしさがある。おねだり上手な小鳥さんだ
「ハッピーハロウィン。ルターさん、私達も」
「そうだねルビー。トリック・オア・トリート。素敵な夜に乾杯」
「ハッピーハロウィン。乾杯」
続けてルターさんとルビーさん。相変わらず上品でよく目立つ。グラスに注いだジャパリソーダで乾杯だ。お酒?NGに決まってるでしょ
「早く行きましょー!」「料理が待ってますー!」
「今行きますわ」「じゃあコウ、また後で」
小鳥を追いかける虎の図。まるで子供とそれを見守る夫婦のように見えてしまい、俺は少し笑った。中々お似合いだなってね
どうやら彼女達も泊まるらしい。明日もまた賑やかになりそうだ
*
「はわわ~いい匂いがします~。食べたいです~」
「待て、合言葉を言わないと駄目だろ?」
「そうでした~。ええっと~…トリート・オア・トリート?」
「何か違わないか?」
「問題ないですよ。はい、トリートです」
「ありがとうございます~」
こちらホワイトライオンさんとバリーさん。そのネタはさっき聞きました。もしかして食いしん坊キャラは全員それを言うのか?でも長は言わなかったからその法則はないか
久しぶりに会ったのでお互いに近況報告をする。最近の【百獣の王の一族】はへいげんのお城にいるらしい。今度訪れてみよう
「ところで、あれがヒトのフレンズのかばんというやつだな?」
「そうですよ、俺とは違って純度100%のね」
「ライオンが気に入った子か、中々面白そうだ。真っ直ぐないい眼をしている。少し話をしてくるとしよう」
「あっ、私もいきます。料理頂きますね~」
「是非いっぱい食べてくださいね。いってらっしゃい」
二人のライオンはかばんさんの元へ。初めて会うのに、少し話をしただけでもう仲良くなったようだ。でも稽古に誘うのは今やらなくてもいいと思います
…それにしても、かばんさんとホワイトライオンさん、並ぶと何かしっくりくる感じがする。この感じ、何処かで…
──仮面フレンズ!ホワイッ!
──仮面フレンズ!ホワイフ!
…あぁそういうことか。納得!
*
そこからもお客さんは来た。ハンター組にチーム噛んじゃうぞにオオカミ連盟…。皆にお菓子をあげて、少し話をして、散り散りになって料理を食べている。かばんさん達の旅の話を聞いて盛り上がっている声も聞こえた
フレンズだらけの空間にいるヒトはやっぱり目立つので、父さん達も質問責めにあっている。てんやわんやしている父さん、あらあらうふふと母さん、ギリギリ暴走していないミライさん…
「あーはー!ここは天国ですぅー!いやっふー!」
…してたわ。少しは抑えてほしいものですね
「コウ、ソロソロ料理ガ無クナリソウダヨ」
「了解。追加で作ってくるから離れるね」
「分カッタヨ」
人数も食べる量も多い。無くなるのは予想通りだから驚いてはいない。それよりも気がかりな事がある
さっきから姿が見えない子がちらほらいるのだ。キングコブラさんもいない。なにより一番不安なのは、キュウビ姉さんとオオカミさんがいないことだ
もしかしたら巻き込まれているのかもしれない。あの二人、変なこと企んでなきゃいいんだけど…
*
「やぁ、楽しんでいるかい?」
「ん?オオカミさんか。勿論楽しんで…って、その恰好は…?」
「中々似合ってるだろう?これのおかげで沢山のいい顔が頂けているんだ」
料理を運び終えた俺の所にきたのはオオカミさん。しかしいつもの服に加えて、背中に蝙蝠の翼を着けた姿をしている。牙と爪が少し鋭く見える
ハロウィンの目玉の一つ、それは『
「他にも仮装している子はいるよ」
他にも?一体誰が…
「真実の名は、いつもじっちゃんの中に一つ!」
颯爽と登場したのはキリンさん。伊達メガネに蝶ネクタイと、見た目は子供、頭脳は大人な探偵の仮装だ。ドヤッ!ってしてるけど台詞がメチャクチャである。これは…ギリギリセーフか?
「可愛いから着てみましたが…少し、恥ずかしいですね…」
アリツカゲラさんはメイド服で、少し顔を赤くしている。主に白と黒で、大きな赤いリボンをつけている。カフェのマークがついてるから実際に使われていたのだろうか?
三人とも妙に似合ってる。それを見た子達も興味津々だ。貸し出しすればろっじの集客に役立つかもしれない
「しっしっしっ!盛り上がってるみたいだな!」
「うわっ!ジャイアント先輩!?」
「よ!久しぶりだな、少年!」
本当に久しぶりだよ貴女。ぺぱぷのお見送り以来見てなかったから、こっそり着いていった可能性も考えていたよ
例にもれず、先輩も仮装している。大体小学生の男の子がするような、とても動きやすそうな恰好だ
──あれ?それ見たことある気が…
「先輩、その仮装はまさか…」
「やっぱりお前さんは知ってたか。しっしっしっ!アニマルガール、ゲットだぜ!」
「アウトだこれぇ!?」
某マサラ人のトレーナーの帽子と服、手には赤白のボール!あの有名なキャラクターの仮装だこれ!このままだと先輩が消されてしまう!
「先輩、早く着替えてきて下さい!それは色々まずいと思いますので!」
「何がまずい? 言ってみろ」
何でいきなり
「その声…ジャイアントか?」
「おっ、久しぶりだなアオイ!元気にしてたか~?」
「久しぶりって…お前、世代交代していないのか!?」
「こうやって覚えてるんだ、してないぞ。ミドリも久しぶりだな。ミライは…相変わらずだな…」
先輩でも引くミライさんは格が違った。にしてもかなりフレンドリーだな父さんと先輩。こんなに仲良かったのは知らなかった
「丁度良い、色々話そうじゃないか。ケーキでも食べながらな」
「…そうだな、色々教えてもらおうか」
先輩は父さん達を連れて離れていった。あれは長くなりそうだな。それを予期したのかメモ帳を用意した母さん。パンクしないよう気をつけてね…
「ほらかばんちゃん、早く早くー!」
「うわぁ!?まってぇー!?」
おっと、お次はあの二人か。一体どんな仮装かな?
「私は普通の魔法使い、まりサーバルだよ!」
「僕は…半人半霊の…魂魄かばんです…///」
──また見たことあるような服だな…
サーバルさんは、大きな黒い帽子を被り、白黒の服を着て箒を持っている。確かに魔法使いに見えるね
かばんさんは、白と青緑色の服を着て、刀のオモチャを2本腰に差している。半霊は…流石にないね
なんでそれがあるのか、それをチョイスしたのかは疑問だけど、どっちも可愛くて似合っている。だけどこれもなんか凄いグレーゾーンな気がしてならない。これも早々に手を打って…
「みんなー!アララライ体操始めるのだー!」
…はぇ?
「アララライ♪アララライ♪アララライカラライカラ♪」
「イケイケGOGOだよ~♪」
「「ウゥゥゥゥゥ…ガシーン!」」
「ブッ!アハハハハハ!」
待って不意打ちすぎるわこれ!なんでそのネタ知ってるんだ!?その白いヘアバンドにタンクトップに黒のスパッツはどっから持ってきたんだよ!フェネックさんがノリノリなのがまたズルい!
「おお!フェネック、凄いウケてるのだ!」
「流石アライさんだよ~」
「よーし!皆にも見せてくるのだー!」
マジで皆の所に行ったぞ。そして笑い声が聞こえるぞ。フレンズ芸人が生まれた瞬間である。記録しといてラッキーさん
「賑やかになってきたわね」
「あっ、元凶」
「元凶って…間違ってはないけどあんまりな言い方ね…」
ため息をついたキュウビ姉さん。その恰好は…向こうの世界の九尾の狐じゃん。仮装になってそうでなってないじゃんか
後ろにいるのは…オイナリサマ?なんで隠れてるんだ?
「ほら、隠れてないで前に出なさい。じゃんけんで負けたら着るって言ったのあなたでしょ?」
「うう…わかりましたよ…」
観念したのか、おずおずと出てきたオイナリサマ。その仮装は衝撃的であった
“Welcome Hell” と書かれ、ハートマークがついた黒地のTシャツ。緑・赤・青の三色カラーの、裾部分に黒いフリルと小さなレースがついているチェックのスカート。そして何故か生足で靴を履いていない
一言で言い表すと、『変』だ
「どう?名付けて “イナーリア・ライスラズリ” よ」
「ブハッ!イナーリアwwwライスラズリwwwこの変なTシャツヤローwww」
「ちょっとwww我慢してたのに言うんじゃないわよwww」
「…二人してひどい…わよん」
「「わよんってwwwアッハハハハハ!」」
あーお腹痛い…!これで頭にいなり寿司でも乗っけてたらもっとヤバかった…!助かってないけど助かった…!
「…あら、あなたもこっちに来なさいな」
「…キングコブラさん?」
隅っこに見えた彼女の顔は赤く、フードをつけていなかった。彼女も何かしらの仮装をしているのは明らかだ
「…分かってる。今行く」
静かに歩いてきた彼女の仮装は、どの子達よりも衝撃だった
「その…変じゃないか…?///」
巫女なのだ。紅と白の巫女服を着ていたのだ。頭にフードと同じ見た目の髪飾りを付けていたのだ
可愛いのだ!圧倒的に可愛いのだ!
「最初は赤い服を着て左手にサイコガンをつけてもらおうと思ったんだけどね。流石にやめたわ」
なんだよ…それ違うコブラじゃねぇか…
そんなもの選択肢に入れるな変えてくれてありがとうございます素晴らしすぎますありがとうございますぅ…
「な、なぁ…何か言ってくれると嬉しいのだが…」
「もう…だいすきぃ…」←語彙力崩壊
「なんで消えそうな声なんだ!?」
そら(それ見せられたら)そう(なる)よ…。普段とのギャップが激しすぎるから余計になのです…
キング巫コブラさんを見れただけで、今日はもうまんぞくぅ…
*
「あー…楽しかったぁ…」
宴が終わって、もう皆寝静まっている夜遅い時間に、俺はそんなことを呟きながら廊下を歩く
こんなに騒いだのは久しぶりだ。皆も楽しそうにしていたし良かった良かった。父さん達もいい報告が出来るに違いない
「いたいた。探したぞ」
「キングコブラさん?どうしたの?」
「今日のことを話したくてな。着いてきてくれないか?」
「いいよ。俺も話したいし」
まだ巫女姿の彼女に連れられて廊下を歩く。俺の部屋とは違う道。一体何処に…って…
「…ほら、お前も早く入れ」
「えっ?うん」
…ここは、例の部屋だ
この場所は、他の部屋とは大分離れているツガイ用の部屋で、色々他とは違うのだ。取りあえずベッドに座って話をしよう
…ナチュラルにベッドに座ったけど…まぁ、いいか
「ごめんね、そこまで一緒にいられなくて」
「気にするな。私も民と色々話ができて楽しかったしな」
そう言ってもらえて、嬉しいやら寂しいやら…なんて、贅沢な悩みだね
「…なんてな。少し、寂しかった」
肩に頭を乗せてきて、手を握ってきた彼女。その髪をそっと撫でる。良かった、彼女も同じ気持ちだったんだ
そこから今日のことを振り返り話す。今度は俺も仮装をしろと言われたので、その時はまた巫女服を着てもらうよう頼んだら承諾してくれた。やったぜ。
長いこと話して、月を眺める。一息ついて、彼女は呟いた
「コウ、トリック・オア・トリート」
「…今?何もないんだけど…」
「そうか、なら…」
ポスッ…と、彼女に押し倒される
「イタズラされても、文句は言えないな?」
あっ、これ最初からこっちが目的だ。捕食者の眼をしてニヤリと笑ってる。その瞳に吸い込まれそうになる
だけどさ、それはお互い様なんだよね
「…キングコブラさん、トリック・オア・トリート」
「あっ…。 …私も、持ってない…」
「そう?ならさ…」
彼女の頬に手を添えて
「イタズラされても、文句は言えないよね?」
お返しと言わんばかりに、同じ台詞を呟く
「…お手柔らかに、頼む」
「…それは、お互いにね」
ハロウィンはまだ終わってない。俺達の甘い夜は、もう少しだけ続くのだ
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