第107話 縁のある場所
「後は…崖まで…走ればいい…?」ハァ…ハァ…
四つん這いになりながらも、顔を上げているのはコウ。髪はボサボサで体は所々汚れ、カラスの翼の羽根が少し抜け落ちている
「そこは…再現…しなくていい…」ゼィ…ゼィ…
片膝をついて、何とか倒れるのを回避しているのはヒグマ。足元にある武器の熊手はポッキリと折れている
「やはり…ハード…ですね…」フーッ…フーッ…
「少し…休ませて…ください…」ヒィ…ヒィ…
うつ伏せで倒れているのはキンシコウ、仰向けで倒れているのはリカオン。動きがモゾモゾとしていて起き上がれそうにない
「…そこまでやる必要はあったの?」
「…まぁ、本気でやらないと意味がなかったのだろう」
「これが…ハンターの本気…!」
若干引いているサーベルタイガー、自分を納得させる理由を作ったキングコブラ、変な憧れを抱きそうになっているタヌキ。それぞれジャパリまんを4人の口元に持っていき食べさせていた
「それにしても凄い激しかったな。実際こんな感じだったのか?」
「そうだったような…そうじゃないような…」
「どっちだ…」
木々が数本薙ぎ倒されており、地面はあちこち抉れていて、全員満身創痍。話には聞いていたが、ここまでの惨状とは思っていなかったキングコブラは疑問をぶつけたが、返ってきた解答はとても曖昧だった
「やっぱり強いなお前は…。いけると思ったんだけどな…」
「三人でもこれが限界ですもんね…」
「守護けもの見習いとして、そう簡単には負けられないからね。でもコンビネーションバッチリで正直危なかったよ」
戦い方で差は埋められる。森の中での戦闘はハンターに分があり、コウはその動きに翻弄されていた為中々拮抗した勝負になっていた
とは言っても、通常のフレンズと、守護けものとして君臨しているフレンズの力の差は大きい。コウの
「ホントズルいですよその力!私にオオカミの力分けてください!少しでいいですから!」
「ちょっ、ぐえっ!?」
回復したリカオンがコウに飛び付き、無茶な要求をしている。その姿はまるで飼い主におねだりする犬である
シュルルルル…ガッシィ!
「元気そうだな。次は私とやるか?」ゴゴゴゴ…!
「あっ…イエ…エンリョシテオキマス…」
その行動に、当然反応しない訳もなく。キングコブラの尻尾に捕まったリカオンは、直ぐにコウから距離を取ったのだった
─
そこから休憩しながらおしゃべり。今回は素直に全部話したので特に何も言われなかった。セーフセーフ
「じゃあ、俺達は行くよ」
「気を付けろよ?また最近セルリアンの目撃情報が増えてきてるからな」
「分かった。君達も無理はしないでね?」
「お前も…いや、それはもう大丈夫そうだな?」
ヒグマさんがキングコブラさんを見てニヤリと笑う。そうだね、ストッパーがいるから多少しても…ごめんなさい冗談ですだから睨まないで…?
「また今度ろっじに行くから、その時は私達の相手もよろしくね?」
「…考えておくよ」
「そこはいいと言ってほしかったのだけど…まぁいいわ、またね?」
「今日はありがとう、またな?」
「またね」
*
彼女達と別れて次の場所へ。朝からこんなに運動…運動?とにかく、こんなことをするとは思わなかった
まぁ俺も、彼女達も、これであの件に関しては完全にスッキリできたし良かった。彼女達はまた一歩強くなった…なんて、ちょっと偉そうになってるな。俺も彼女達を見習って負けないよう頑張らないとね
「さて、次はここだよ」
「ここは…遊園地じゃないか」
そう、ここは遊園地。何回も色々なことが起こっている場所だ。ここ抜きに俺達の過去現在未来は語れないだろう
ゲートを通り、日当たりの良い所にバイクを置くと、奥からラッキーさんが頭にかごを乗せてやって来た。中にはジャパリまんと水の入ったペットボトル、使い捨てカメラがあり、俺はそれをもらってバックに入れる
「お疲れ様ラッキーさん、他の子は?」
「言ワレタ通リ誰モ通シテナイヨ。今日ハ貸切ダネ」
「貸切?」
【貸切】
乗り物、レストラン、部屋といった施設などを、一定期間、特定のグループや団体などだけが独占的に利用できるようにすること
つまり、今日ここにいるのは俺達だけってことだ
「君とは二人きりで来たことなかったからね。ゆっくり廻れるよう職員権限で人払いをしたんだ」
「そんなことに使っていいのか?よくボスも許したな」
「ダメ元だったけどいけた。ほら行こうよ、時間が勿体ないからさ?」
「お、おい!」
手を取って軽い足取りで進む。今回はただ手を繋ぐだけじゃなく、指を絡める、所謂『恋人繋ぎ』だ。でも引っ張る形になっちゃったからムスッとしてる
「…なぁ、コウ」
「どうしたの?」
「その…えっとだな…」
と思ったけど違ったみたい、ちょっと悩んでる顔をしている。どうしたんだろ?遊園地で彼女がそんな顔をする理由なんて…
…あれかな?
「
やっぱり、そのことだよね。温泉宿で聞いた時に反応してたもんね。そりゃあ気になるよね、俺だって逆の立場になったとしたら気になるし
…よし、やるか
「そうだね…口で説明するよりは、行動を見た方がいいかもしれないね」
「行動?」
「…がーいど♪がーいど♪ゆうえんちがーいど♪」
「!?」
さぁ始まりました遊園地ガイド!今日はラッキーさんはいないので私が全て担当します!いやぁ懐かしいねこれ!お兄さん気合い入れちゃうぞー!
「ちょっと待てなんだそれは!?ガイド!?デートではなかったのか!?」
「ガイド兼デートであります!さぁ右手側をご覧下さい、あれはメリーゴーランd」
「待てやらなくていい!普通に行くぞ普通に!」
どうやらお気に召さなかったみたいだ。ならやめて普通に行こう。俺はどんな形でも楽しいからね
「じゃあ、どこから行く?」
「そうだな…なら、最初は──」
*
という訳で大体廻った。当然遊具は動いていなかった。だけど、馬に跨がったり、コーヒーカップを回す仕草をしたり、コースターに座ってみたりした。解説をしながら、写真を撮りながら
動いていたなら、もっと楽しかったのかもしれないけど、彼女はとても楽しそうにしていた。それだけで、俺の心は温かくなる
「ここが、言っていた売店か」
そして、やってきたのは売店。相変わらずグッズは綺麗に並べられていて、種類も豊富だ。定期的に掃除がされているのか、埃を被っている商品は一つもない。取り敢えず外のワゴンを適当に漁る
「温泉宿と似たようなものも多いな」
「ぬいぐるみとかキーホルダーとかね。あとほら件のカチューシャ。はいどうぞ?」
俺が渡したのはウサギ耳のついたカチューシャ。耳が途中で前に垂れている、ちょっとシワのある白とピンク色が混じったやつだ。何故それを選んだかというと、向こうの世界にいたウサギのに似ていたから。あの人しょっちゅうシワ耳になってたなぁ…
「どうぞって…やはり付けなきゃ駄目か?」
「記念だよ記念。こんな風にやってみてよ」ゴニョゴニョ
「なっ…やらないぞそんなこと!」
そのウサギの決めポーズとセリフを伝えると、大きな声で拒否してきた。似合うと思うんだよねカチューシャ、だからここは引き下がらない!
「お願い!一回でいいから!今日だけでいいから!お願い!」
「そ、そんなに見たいのか!?」
「見たい!」←迫真
それを眺めて固まっているキングコブラさんに、怒濤のおねだりをしてみる。こういうことは殆どしないからか、怯みながらも珍しいものを見る目をしている。この様子はこちらとしても珍しい
数十秒後、覚悟が完了したのか、瞳を閉じ深呼吸をして、フードをパサッ…と取り、頭にそれを付けて…
「…私の目を見て、もっと狂うが良いわ!」←ヤケクソ
パシャッ!
「よし!」
「…は?」
貴重なウサギ耳キングコブラさんの写真、ゲットだぜ!しかも手を銃に見立てて構えているレアポーズだ!カッコいい!これで彼女も月のウサギ!ヘビだけど!
「おまっ、いつの間にカメラを…!?」
「一体いつから────カメラを構えていないと錯覚していた?」
「なっ…まさか…最初からこれが狙いで…!?」
こんな機会、逃すわけにはいかないんでね。あるからには有効活用しなきゃ損!おかげでとてもいいものが撮れた。満足…
「選べ…カメラを渡すか写真を消すか…」
声も体も震わせ、顔を真っ赤にしている彼女。カチューシャを持つ手に徐々に力が入っていくのが分かる。ミシミシと音がなって壊れそうだけど、写真の為にそれには犠牲になってもらう
「消すのなんて勿体ないから残そう?後でまた見たいんだよ。おねg」
「カメラを渡すか消せ」
「…おねg」
ビュンッ!←『蛇王の猛毒眼光』
ジッ!←顔面をカスった音
「どっちがいい?」
「ケ…ケシマス…」
「よろしい」
*
という事で写真は消しました。ちゃんと消すかどうか見張られながらやりました。ついでにカメラは没収されました。ナンテコッタイ
気を取り直して店内へ。何か持ち帰ろうと思ったので使えそうなものを探す。コップとかお箸とかお揃いのものがいいかもしれない
…心なしか、商品が増えてる気がする。歯ブラシとか櫛とかの日用品が増えたかな?どれも『の』のマークがアクセントになっていて可愛らしい。これらをもらっていこうっと
後は、彼女へのプレゼントに何か…って…
「…キングコブラさん?」
「ハッ!?な、なんだ?」
「揺れてるから何かいいのあったのかなって……ああ~成る程、これのせいか」
「これを見ていたら、体が勝手にな…。これはなんだ?」
「これは『メトロノーム』だね」
【メトロノーム】
一定の間隔で音を刻み、楽器を演奏あるいは練習する際にテンポを合わせるために使う音楽用具。振り子が左右にゆらゆら揺れてリズムよく音が鳴っている。彼女はこれにつられていたのか
にしても、あんなに左右に揺れてる姿は今までで見たことがない。ライブでサイリウムに合わせて揺れてた時よりも更に揺れていた。どれくらいかと言うと、揺れすぎて地面についてしまうんじゃないかってくらい
「複数色あるけど、欲しいならどれか一個ろっじに持って帰っろっか?」
「いや、別に欲しいわけでは…」
「でもずっと見てるよね?気に入ったんでしょ?その証拠に体はしょうじk」
「変な言い方をするな!」
変な言い方?何処が変なんでしょうか?本当のことを言っただけなのに。現にまだ尻尾はゆらゆら揺れているんですけどそこんとこどうなんです?
とか問い詰めたいけど、今度は眉間にビームが飛んできそうなのでやめときます
やんわり誘導尋問した結果、結局彼女は一つ手にとってバッグへ入れた。色は自分のフードと同じ茶色のだ
一通り物色したので店を出る。あと廻っていないのは…管理室とステージくらいかな?
「今更だが、本当に持ってきて良かったのか?一応売り物なのだろう?」
「へーきへーき、俺もいくつかもらったし。それに、俺以外にも持っていった子が何人かいるから」
「あっ…そういえばそうだったな」
俺は前に、あの子へ髪飾りをプレゼントした。他の子達もアクセサリー類を身に付けていた。それはここの商品だけど、ラッキーさんには何も言われていないから問題ないのだろう
「…楽しかったか?ジェーンとのデートは?」
「えーと…それは…うん」
「…そうか」
ちょっと拗ねてる…というかヤキモチ焼いてるって感じかな。それは嬉しいと言えば嬉しいんだけど、これは面と向かって『他の女の子とのデート楽しかった』って言ったようなものだ。申し訳ないことをした。だからという訳でもないけど…
「キングコブラさん、これプレゼント」
「…これは…」
俺が差し出したのは、星のアクセサリーが付いたヘアゴム。一応スペアも渡しておこう
「七夕の日、ポニーテールにしてたでしょ?凄く似合ってたからまた見たいなって思って」
「自分の欲の為にプレゼント渡す奴があるかァ!」
「冗談だよ(別に冗談でもないけど)、本命のプレゼントはこっち」
「…お前なぁ…」
差し出したもう一つは、ハートのアクセントがついたブレスレット。それを呆れている彼女の左腕にそっと通す。サイズはキツくもなく緩くもなくで大丈夫そうだ
「良かった、凄く似合ってるね」
「…ありがとう、嬉しい」
気に入ってくれたのか、手を太陽に伸ばして見つめている彼女。照らされたそれは、光を反射して輝いている
「さ、次に行こうか。まだ行くべき所は残ってるからね」
「そうだな、行こう」
また手を取って歩いていく。まだ思い出のある場所は全部廻っていないから。だから次の場所へ、少し早足で進んでいく
ポケットに入れた、もう一つのプレゼントを握りながら
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