第106話 出逢った日
その後も色々おしゃべりをしていたら夕方になっていた。ちょっと長い時間居すぎたかも。カレーをもらって、ちょっと早いけど晩ご飯にした
「御馳走様でした。美味しかったです」
「ありがとう~また来てねぇ~!」
「…はい、また」
こういう不意打ちはこれっきりにしてもらおうか。毎回あんな風に誘導されたら彼女の精神が持たないからね
お土産のクッキーとカフェ限定特製ジャパリまんを持って下山する。帰りのロープウェイは交代制にしたから、お互いそこまで疲れることなく下に戻れた
「あっ、お帰りでち」
「ただいま、遅くなってごめんね?」
「気にしなくていいわよ~。私達も楽しんでたしね~」
楽しんでた?それってどういう…
「わーい!たーのしー!」ブォンブォンッ!
…は?
「おもしろーい!ヒャッハー!」ギャギャギャギャ!
えええぇぇ!?!?!?カワウソさんがバイクを乗りこなしていらっしゃるぅー!?掛け声が某モヒカンの如き世紀末感あるんですけどぉー!?
「…私がまだ出来ていないことをいとも簡単に。流石は遊びの達人といったところか…」
「感心してる場合じゃないよ!?」
ドリフトするのはいいけど膝擦ってて今にも倒れそうで危ない!あとバッテリーを確認したいから一旦止まってくれぇー!
*
「ごめんね!つい夢中になっちゃった!」
「だ…大丈夫…。楽しそうで…なにより…」
つ、疲れた…止めるのにも一苦労した…。だけどカワウソさんに疲れた様子は全然見られない…。やはりこの子の体力は無尽蔵なのか…?
「ごめんねコウ、私がいながら」
「問題ないよジャガーさん。それに、彼女達も暇にならなくて良かった」
ジャガーさんが謝ってきた。けど特に気にしなくていいよ?お留守番をしてた彼女達も新しい刺激に感動しているしね
俺達がカフェに行って数分後にカワウソさんは合流して、その更に数分後にはイカダ引きを終えたジャガーさんが合流したらしい。俺達が帰ってくるまでの時間の殆どをバイクに費やしていたとのこと。信じられないでござる…
…そういえば、ここでキングコブラさんと再会して、カワウソさんとジャガーさんに出会ったんだよね。これもまた懐かしい…カワウソさんがバイクに乗るのは必然だったのかもしれない
「二人はカフェに行ってきたんだって?」
「そっ。で、これおみやg」
「あっ、それはいいでち」
「え?」
クッキーとジャパリまんを渡そうとしたんだけど断られてしまった。なにゆえ?
「ジョフ達も今からカフェに行くから大丈夫でち。だからそれは二人で食べるでち」
「結局行きたくなったんだって?ジョフはまだまだ子供かも?」
「それは関係ないでち!それに大人だからこそ紅茶を“たしなみ”に行くんでち!」
あーそういうことか。今ならお客さんも疎らだからこの人数で行ってもそこまで待たないだろうし、カフェに泊まることもできるからいいかもね。あと無理に難しい言葉使わなくてもいいと思うよ?
「でも、バイク見ててくれたしなぁ」
「それで遊ばせてもらったから気にしなくていいよぉ」
「しかしだな…」
「なら、今度ろっじにお泊まりに行くから、その時に美味しい料理作ってくれないかしら~?」
「あっ!それおもしろそー!私も泊まりに行くー!いいよねジャガー!?」
「ああいいよ。そうだ、姉さんも連れていきたいんだけど、いいかな?」
空前絶後のろっじブームがまた来ている。これはオーナーアリツカゲラ大喜び。タイリクオオカミ大興奮。アミメキリンの迷推理が加速する
とまぁ、忙しいことが増えそうではある。けど、それは絶対に楽しいし、何よりも俺にはキングコブラさんがいる。隣にいる彼女と眼を合わせると小さく頷いてくれた。だから、決まっている返事を更に強く宣言する
「勿論!待ってるよ!」
「遠慮なく来るといい!」
俺一人で全部やる必要はないからね。それに共同作業…いい響きだ…なんてね
*
皆と別れ、次の目的地へ向かう俺達。結局、お土産は渡さず貰うことになった。明日のおやつにしようと思います
「次は何処に行くんだ?
「違うよ~」
ヘビグループのキングコブラさんと関係を持ったので、一応他の子にも挨拶を…と思い後日会いに行ったことがある。ツチノコさんとコモモさんは既に知ってたけどね
皆特に驚いてなかったけど、前に問題を起こした原因になったアフリカニシキヘビさんだけは何か凄い興奮していたから、リーダーと共に言いふらさない約束を厳重にしておいた。今日会った子達の反応から察するに、どうやら守ってくれているらしい
そんな訳で、じゃんぐるにいるけど、キングコブラさんと三度再会したあの場所には今日は行かないのだ
「ならさばくちほー…ではないな。道が真逆だ」
「いいねいいね。もっと推理するといいよ~」
「…オオカミみたいな言い方だな」
「もうやんない」
*
「すっかり暗くなってしまったな」
「そうだね。今日はもう進むのやめようか」
木々が多くなってきて、視界も悪くなってきて移動するにはキツくなってきたから今日はここまで。目的地まではそうかからないから、朝一にでも動けば直ぐに着く
さて、この付近には手頃な建物はない。よって野宿である。それは別にいい…んだけど…
「…眠れないのか?」
「…まぁ、ね」
当然(?)彼女とは並んで寝ることになる。それは別に嫌じゃないしむしろ好きだ。彼女との距離が凄く近いけどね。寝返りを打てばすぐそこに顔が来るくらい近いけどね
なんというか…周りが静かすぎるんだよね、いつもはろっじにいるから余計そう感じる。フレンズの気配も動物の気配も感じられない。だから多少騒いでも問題は…
…変なこと考えるんじゃないよ本当に…
まぁ、今日のこともあって、そんなことが思い浮かんできてしまって眠れないのだ。そして顔を合わせるともっと寝られなくなりそうなので彼女には背を向けている。離れるのは嫌だからこんなことしてるけど…やっぱり向かい合った方がいいのかな…?
「…」モフッ
「ほわぁい!?」
「そ、そんなに驚かなくてもいいだろう?」モフリモフリ
「ご、ごめん…」
意識外からの突然の
「…今日は楽しかった。ありがとう」
「お礼なんていいよ。俺も楽しかったし」
「…それは良かった」
それだけ言って、彼女はまた静かに尻尾をモフリだした。くすぐったいけど我慢我慢…
…なんか、いつもより長い
「そ、それいつまでやるつもりなの…?」
「…ねるまで」
なんてことだ。なんかいつもよりちょっぴり積極的じゃない?これじゃあいつ終わるか…
「…って、あれ?」
と思った矢先にピタッと止まったモフリ攻撃。起こさないよう静かに動いて見てみると、規則正しい寝息をたてていた
その寝顔はとても無防備で、可愛らしくて、つい顔を近づけて──
「──いやダメだろ…」
こんな事したら寝込みを襲うことになるだろうが。それが、例えその先にいかなくてもだ。何よりも起こしてしまうだろうし
段々と頭が冷えてきたので、『お休み』と言って眼を瞑ったら、俺は直ぐに意識を手放すことができた
◆
「…ぃ。ぉぃ…。おい…」
「ぅぅ…?きょうおれひばんですよししょう…」
「なんだそれは…寝ぼけすぎだぞ…」
…ぅん?彼女はもう起きたのか。俺も起きないと…
…あれ?
「…気づいたか?そろそろ離してくれるとありがたいのだが…」
「…ぇ?えっ?えぇ!?」
「驚きすぎだ、バカ…」
*
「あの…ごめんなさいでした…」
「別に怒ってない。だから顔を上げろ」
只今正座で謝っております。懐かしの正座芸人。もうないと信じていたのに…
どうやら俺は、寝ている間に彼女を抱き枕にしていたようだ。昨日のドキドキは何処へやら、結構ガッツリ抱き締めていたみたい。おかげで抜け出すことができなかったとか。本当にごめんなさい…
彼女曰く、『何回も起こしたが起きなかった』とのこと。そんなに俺はぐっすり寝てたのか?と思ったけど、この理由ならグッスリなのも納得だ。だって凄く抱き心地g…ゲフンゲフン
お土産でもらった特製ジャパリまんを朝ご飯に食べて旅を再開する。バイクには乗らず押しながらゆっくり歩いていく。今日は
「そういえば、何故こっちの道に来たんだ?ろっじに戻る様な形になったぞ?」
「この辺りね、大切な場所なんだよ」
「大切な場所?」
「そう、大切な場所。耳を澄ませてみると分かるよ」
一度会話をやめて、意識を周りに集中させる。分かったのか、ハッとした顔で俺を見てきた
「…そういうことか」
「そういうこと」
また少し進んで、その音が聴こえる方へ。段々と近づいてきて、その場所が見えてきた
晴れた視界の先には、上から落ちてきたらただじゃすまないであろう高い高い崖。そこから勢いよく流れ落ちる水が、深そうな滝壺に叩きつけられている
「…ここから、落ちてきたんだったな」
ここは、俺がパークに来て、初めて死にかけた原因を作った滝だ
「ここに来た理由は、ある意味記念の場所だから」
「記念の場所?なんの記念だ?」
「俺と君が、初めて会った記念」
「…記念とは言えない状況だったのだがな…」
頭を抱えてため息をつくキングコブラさん。まぁその反応の方が正しいよね普通。だって、お互いにとって良い思い出とはとても言えないようなことだったから
「だけどさ、ここで出会ったからこそ、俺達はこうやって一緒にいるんだと思う。だから…本当にありがとう、あの日、俺を助けてくれて」
何度も言っていることを、何度でも伝えたい。君がいたから、俺がここにいるということを
「…私も、出会えて良かったよ」
微笑んで、返事をしてくれる。手を握ると、強く握り返してくれる。彼女は周りを確認した後、ゆっくりと瞳を閉じて、俺の次の行動を待っている
二人きりになると、時々…ごく稀に、彼女はこういう行動をしてくる。それが示す意味は、初めてそれを見た時から不思議と分かっていた
左手で彼女の顎を少し上げる。彼女の肩が少し跳ね、頬が染まるが、お構いなしに顔を近づける
そして、そのまま──
ガサガサッ!
「「──っ!?!?!?」」
ババッ!と急いで彼女と距離を取って、音のする方へ視線を向ける。そこにいたのは1人のフレンズ…と思いきや、後ろの茂みから追加で4人出てきた
「…朝から凄いわね、二人とも」
「ん?何かあったのか?…って」
「貴方達も来てたんですね?」
「珍しい…って程でもないですかね?」
「私はお久しぶりですね」
「ド、ドーモ。ミナ=サン。ヤクモ コウ デス」
「話し方おかしくなってるわよ」
そりゃあなりますわよ!だって凄く良い雰囲気であとちょっとで重なるってところで割り込まれたんですよ!?しかも貴女はバッチリ見てたでしょ絶対!
*
偶然(?)にも再会したのはヒグマさん、キンシコウさん、リカオンさん、サーベルタイガーさん、タヌキさん。パトロール中ということでここに来ていたみたい
「ここで私とコウは出会って、セルリアンと戦ったの」
あの日のことは前に話していたけど、キングコブラさんは細かい所は知らないのでもう一度話しながら歩いていく。これもここに来た目的の一つだ。彼女達と再会したのも丁度よかった
まずはサーベルタイガーさんとの思い出を彼女に語っていく。場所は森の中、ベヒーモス型との戦闘の記憶だ
「まさか殴り倒すとは思わなかったわ」
「実は結構ギリギリだったんだよね。倒せて良かったよ」
「ホント、無茶するわね貴方…」
それはお互い様だと思います。あとキングコブラさんの視線が痛いのですぐに次に行きましょう
また歩き始めて話を続けていく。聞いてビックリ、なんとタヌキさん、ハンター志望らしい。今は見習いということで、サーベルタイガーさんと共に行動している。随分思いきったなぁ
「…とまぁ、
「この距離を…よく走れたものだな」
「それは自分でもそう思う。あの時は本当に参ったよ…」
「ヒグマさん説得しようとしてなかったですからね…」
「あ、あの時は仕方ないだろ!?それを言ったらお前の行動も意味不明だったからな!?」
「なっ、俺の
「いやぁあれ理解しろっていうオーダーはキツいですよぉ…」
皆して冷たい眼をするもんだから、キングコブラさんがやってみてくれと言ってきた。お望み通りやったら『あー…うん…』だって。ちくしょう…
初遭遇した時のこと、勘違いでした狩ごっこのこと、そして…暴走して起こした戦闘のことを皆でまた話し合う。そこに暗い雰囲気はなく、大変な思い出として語り合うことが出来ているのは良いこと…だよね?
「…コウ、頼みがあるんだけどいいか?」
一通り話したところで、ヒグマさんが切り出した
「頼み?珍しいね、ヒグマさんがそんなこと言うなんて」
「一言余計だが…別にいいだろ?」
まぁいいんだけどね。さぁお願いとやらを聞かせてみなさいな?ハチミツでも欲しいのかい?
「あの日の再現をしてくれないか?」
予想外のが飛んできた。てか再現…って、まさか…
「お前の方がまだ強いだろうが、私達もあれから強くなった。そう簡単には負けないぞ?」
…やっぱり、そういうことか。あの日の再現…それはつまり…
あの時した、命の取り合いをもう一度するってこと
勿論本気で取りにいく訳じゃない。ちょっと激しい稽古みたいなものだ。…それで済めばいいんだけどね(俺が)
「すみませんコウさん。私からもお願いします」
「お願いします!」
キンシコウさんとリカオンさんもしてくる。キングコブラさんを見ると静かに頷いていた。彼女も俺達の戦闘が気になるらしい。なら、少しの時間ならいいかな
『分かったよ』と一言呟いて俺は崖の方へ歩く。そして
「──
流石にもう暴走はしなくなったから、完全再現とはいかないけど雰囲気は再現できる。演技は得意だからね
だけどこれで、この出来事とは完全におさらばできる。多分彼女達もそのつもりなんだろう。これはあの時生まれた、負の感情を消す為の戦闘
「準備はいい?」
「いいぞ、いつでもこい」
ヒグマさんが武器を構え、キンシコウさんとリカオンさんが左右に別れる。あの時と同じように
お互いに殺気を放つ
空気が震える
深呼吸を一度して
「──ガアアアアアアァァァァッッ!!!」
最強のハンターに、俺は再び牙をむく
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