第105話 限定メニュー


さばんなのゲートをくぐり、じゃんぐるへ突入する俺達。そこから向かったのはアンイン橋…ではなく


「確かここら辺だったと思うんだけど…」


「ここに何かあるのか?」


「ここら辺ね、初めて特殊なセルリアンを見た場所なんだ」


「特殊なセルリアン?」


ここは、川の水を吸い上げる洗濯機型のセルリアンに出会った場所。あの日はパークに帰って来て二日目のことだった。そのセルリアンとの戦闘を彼女に話していく


「…それは本当か?」


「本当だよ、無茶はしてない。不意打ちで倒したし、その後も何事もなく終わったし」


「…怪しいな」


なんでそんなに疑うの?これに関しては苦労してないよ?なんなら苦労してたのはあの4人だったし


「あれ?コウがいる?」

「本当だ、コウでち」

「キングコブラもいるよぉ」

「あら~奇遇ね~?」


そうそう、この4人が苦労して…



…ん!?



「オセロットさんにジョフさんにアリクイさんにインドゾウさん!久しぶりどうしてここに?」


「どうしてって…ここはよく通るからでち」


「今から遊びに行くんだぁ」


どうやらカワウソさんと遊ぶ約束をしてるらしく、アンイン橋へ向かう最中とのこと。ジャガーさんのイカダに乗ろうかと思ったけどいなかったらしい。多分二人は一緒にいるだろうね


…待てよ?この場所、このメンバー…


「ねぇ、この場所懐かしくない?」


「懐かしい?なんで……あー!そういうことでちか!」


「確かに~懐かしいわね~」


気づいてくれたぞナイスジョフさん!それにインドゾウさんも乗っかってくれた、これはいける!


この流れなら、キングコブラさんの俺に向けた疑念を祓うことが出来る!頼むぞ皆、俺が華麗に戦ったことを事細かに説明してくれ!


「あの時はビックリしたよぉ、だって空から降ってきたんだからさぁ…」

「助かったけど~今思うと派手な登場だったわよね~…」

「変なセルリアンかと思って焦ったでち…」

「まぁ言っちゃえば不審だったし?」


あれ?なんか微妙な反応だし余計なこと言われた気がするぞ?でも無理してなかったのは伝わったから、キングコブラさんは渋々納得してくれた。危ない危ない、また尻尾で締め付けられる所だった


「それで、二人はどうしたんでち?」


「パークを廻ってるんだ。これからカフェに行く予定でね」


「あら、なら途中まで一緒に行きましょう~?私達もそっちが待ち合わせだからね~」


「そうなのか、なら行こう」




*




「じゃあここで見とくでち。ジョフは大人だから、これくらい朝飯前でち」


「ありがとう、それじゃあ行ってくる。お土産持ってくるからね」


「期待してるね?」


カワウソさんを待ちながらバイクを見てくれるとジョフさんが言ってくれたので、遠慮なく任せて俺達はロープウェイに乗り込む。報酬はクッキー、存分に持って帰ってこよう


『登山道ノ整備ハ終ワッテナイカラ歩クノハ危険ダヨ』とラッキーさんに言われてしまった。直るまでまだまだ時間がかかりそうだ。だけど折角来たのに登れないのは悔しいので、途中まで歩いてそこから抱っこしてカフェに行くというプランを提案した



「抱っこ…ま、まさかまたあれをやるのか!?誰かに見られたら恥ずかしいだろ!駄目だそんなことは!」



即行で却下された


という訳でひたすら脚を動かしていく。フレンズの性質が殆どをしめるようになった俺にとって、ロープウェイはお茶の子さいさい…と思いきやそうでもなかった。頂上につくころには脚ガックガクですよ…。前回のように体力ギリッギリで倒れそうになるなんてことはないけど


「ふわああぁ!いらっしゃぁい!よぉこそぉ↑ジャパリカフェへ~!」


いつも通りアルパカさんがお出迎えしてくれて、いつも通り店内へ案内…されず、テラス席の端の方へ案内された。見晴らしはとても良く風通しも良好だから気にしないけど、何故態々ここに?


「“カップル”?用の席を作ってあげといてって頼まれてねぇ~。二人は “でーと”?で来たんでしょぉ~?だから丁度いいかなって思ったんだぁ~」


「…成る程」


「はい、紅茶とクッキー。ごゆっくりねぇ~」


「ありがとうございます」


スタスタと店内に戻るアルパカさん。中からは元気な声が聞こえてくる。ロープウェイが使えたってことは、お客さんはトリのフレンズだろうか?


てかあんな提案をする人なんて一人しかキュウビ姉さん以外考えられない…。余計なこと…でもないかな、今回に限っては。目立つ場所ではないから、二人きりの時間をゆっくり過ごせるし


「カップル…何故バレてる…」


「バレる時はバレるもんだよ。もういっそ皆に言って廻る?」


「いや…それは…」


頬を染めながら周りを見るキングコブラさん。そこまで警戒しなくても誰も来やしませんよ。多分


俺達の関係はまだ一部しか知らない。知っているのはろっじ組、ぺぱぷ、チーム噛んじゃうぞ、長二人、オイナリサマとキュウビ姉さん。どこかしらから情報が漏れるのは想定内だ。この調子だとカフェ組にも知られてるだろうね


「冗談だよ。もし言うなら、君のタイミングで話そうか」


「…すまない、私の都合で…」


「気にしないでいいのに。…それに二人きりなら、こういうことしてくれるしね?」


クッキーを一枚手に取って、それを彼女の口の高さまで持ってくる。キョトン…とした後、意図が分かったのか彼女は身を乗り出し、口を開いて顔を手に近づけてクッキーを頬張った


「…甘い」


「それは良かった。俺も食べよっと」


「…ならお返しだ、ほら」


キングコブラさんが同じようにしてくれたので、遠慮なく頬張った。相変わらず美味しいし、香りと食感がより食欲を引き立てる


まだ少し照れるけど、それ以上に幸せな気持ちが溢れてくる。それを感じたくて、何度も何度も繰り返す。美味しそうに食べている顔も、俺の口に運んでくれる時に見せる微笑みも、彼女の何もかもが愛おしい


「お熱いわね、二人とも」


「「っ!?///」」


ビックリした…いつの間にかトキさんがいた。バッチリ見られていたっぽい。俺がねだって仕方なくしてもらったということにしてくれ。彼女のメンタルのためにも


「そろそろお代わりが欲しいと思って来たの。どう?」


「ああ、ありがとう。もう飲み終わる所だったから」


タイミングがバッチリすぎる。まるでスタンバイしていたかのようだ。そんなトキさんの紅茶を注ぐ姿は様になっていて、もうすっかりカフェの店員だ。その内アルパカさんと共に料理をするかもしれない


「今日は登山道から来たの?」


「違うよ、ロープウェイ。急にどうしたの?」


「ふと思い出したの、ジェーンと来た時はそっちから歩いてきたって聞いたから。もう大丈夫なら他の子に宣伝すれば、もっとお客さんが増えると思ってね」


「へぇ~よく覚えてたね。でも残念、まだ整備には時間がかかるらし…い…」



…あっ



「…ジェーンと、来てたのか?」


「かなり前に二人きりで来てたわ。知らなかったの?」


「…知らないな」ジロッ


ヒェ…待ってそんなに睨まないで…。これには深い(?)理由があってね…?だから冷静になって…?


「そ、それじゃあまた何かあったら呼んで?」


空気が変わったのを察したトキさんは、まさに飛ぶように一瞬でその場を去った。その技は…まさか北斗無想流舞ナギッ!?いつの間に習得しt


「また変なこと考えてるな…」


「…はい、ごめんなさい」


「いや、謝らなくてもいいのだが…。登山を提案した理由はそういうことだったんだな?」


「お察しの通り、君と歩きたかったんだ。今は無理だから、ある程度整備が終わったらお弁当作って行こうか。勿論二人きりで」


「…ああ、二人きりで」


こういう関係になる前の話だからか、ちょっとヤキモチを焼いたくらいでそこまで追求はしてこなかった。でも言っておいた方が良かったかもしれないのでそこは反省しよう


「それも随分前になるんだな…。…初めてここに来た時のことを覚えているか?」


「覚えてるよ、5人で来たよね」


ジャガーさんとカワウソさんとハシブトガラスさんを含めた5人で。君に怒られた記憶もちゃんと残ってるよ?


「あの時、お前は歌を歌ったな。独特な歌だった」


「うっ…あれは忘れて…?」


「フフッ…それは無理な話だな」


むぅ…無邪気な笑顔で答えよって…。でもこれは若干黒歴史感あるから出来れば記憶から消していただきたい…


「また何か歌ってはくれないのか?」


「お断りしま…いや、君も何か歌うなら歌ってあげるよ」


「わ、私も?私は上手く…」


「ないけど歌うことはできるよね?それに俺にだけ歌わせるの?」


俺も上手くないと言ったのに歌わさせられたからね、その言い訳は通じませんよ?


「…分かった、考えておく」


「おっ、楽しみにしておくよ」


今直ぐに歌ってくれないのは少し残念だけど、その分期待しておくことにしよう。彼女はどんな歌を歌ってくれるんだろうね?



「あれまぁ~…お邪魔だったかなぁ~?」



「「うわっ!?」」


今度はアルパカさんが来てた…。さっきから気配が感じられない。音消して動くのクセになってるとかないよね?


「紅茶はまだ大丈夫ですよ?」


「でもクッキーは残り少ないと思ってねぇ~?追加で焼いてきたんだぁ~」


お皿に新しく焼かれたクッキーを乗せて持ってきてくれた。まぁ俺達は充分堪能したので、それはお土産として包んでもらうよう頼んだ。これでミッションはOK


「それとぉ~…二人にはこれをあげるねぇ~!」


アルパカさんがテーブルに置いたのはとあるデザート。背の高いグラスの中央にはチョコレートシロップのかかったソフトクリーム。その回りには一口サイズのバナナ、オレンジ、イチゴといったフルーツ。中にはチョコレートアイスにコーンフレークに生クリームと、甘い要素がたっぷりつまっている


「…アルパカさん、これは?」


「あれ知らない? “ パフェ ” っていうんだけど~」


「それは知ってます。とても美味しそうです。何故これを俺達に?」


「カップル専用の限定メニューで、そんな二人が来た時に出すパフェなんだぁ~」


カップル専用…ね。乗っているフルーツの数はいずれも偶数。二人で仲良く分けることができる。アイスの量も中々多く、シェアするには丁度いい



そして、食べる用のスプーンが、一本しかない



「それじゃあごゆっk」

「待て」

「どしたのぉ?」

「スプーンをもう一本くr」

「あっお客さん来たから行くねぇ~!いらっしゃぁい!よぉこそぉ↑ジャパリカフェへ~!」←早口

「おい最後まで聞けー!」


キングコブラさんが叫ぶが、虚しいかな届くことはなくアルパカさんは消えていった。なんてわざとらしいんだ。彼女なりに頑張ったんだろうけど全然誤魔化しきれてない。彼女らしいと言えばらしいけど


「キングコブラさん、諦めよう?」


「何故だ!言えば持ってきてくれるはz」


「店員はもう敵(?)なんだ。何かと理由をつけてくれないと思うよ?」


「くぅ…!」


そう…店員は、店主は、もしかしたら他のお客さん全員も敵の可能性がある。その状態で要求でもしたらどんな反応が返ってくるか想像出来たらしく、彼女は静かに座り直した


「いいじゃない、二人で分けあって食べようよ」


「いやお前、これ一本しかない…」


「そうだね。何か問題ある?」


「問題…その…///」


待ってそんなに照れないで?俺も恥ずかしくなっちゃうから。頑張って作った俺の平常心をいとも容易くぶっ壊そうとしないで?


彼女が気にしているのは、所謂『間接キス』と呼ばれる行為。通常のものとはまた違ったドキドキがあるのだ。実際俺もドキドキしています、だってこっちは経験ほぼないので


「先に食べるね。いただきま~す」パクッ


「あっ!」


イチゴに生クリームを絡ませて食べる。甘い香りと果汁が広がって最高…。良い仕事しますなアルパカさんよ


「はい、次は君の番。ほら、あ~ん…」


「うぅ…っ」


スプーンでソフトクリームとバナナをすくい、彼女の口元に持っていく。さっきまで似たような事をしていたのに、さっきまでとは全く違う反応を見せてくれて面白い。にしても凄い葛藤してるので…


「…食べないの?」


「~~~っ!あぁもういただきます!」パクッ!


俺の一言で、半ばヤケクソ気味にスプーンを頬張ったキングコブラさん。でも堪能してるのか口がモニュモニュ動いている。スプーンを抜いた時に彼女から出た『んっ…』という小さな吐息が妙に艶かしくてドキッとしました


「…旨い…が、なぜか悔しい…」


「…なんとなく分かる」


掌の上で踊らされたような気分だ。こういうことは自分達のペースでさせてほしい。この調子だと温泉旅館と図書館はどうなることやら…


なんて、今考えても仕方ない。気を取り直して、俺も他の部分食べよっと。チョコレートアイスでもすくって~…



「スプーンを渡せ…」



…まぁ、そう来るよね。吹っ切れた…訳じゃなさそうだ、声が震えてるし、あとなんかオーラ出てるし。でもおもいっきりアイスにスプーンをぶっさしてグワッ!と多めにすくい、俺の口元へもってきた。頑張れ



「ほ、ほら、あ~ん…///」←手がプルプルしてる



あっ、なんかいつもと全然違う感覚。なんだろう、少し眺めていたくなるこのイタズラ心、誰か分かってほしい。けどそれをするとこれ以降やってくれなくなる可能性があるのでやれないや


「んむっ…。はぁ~…やっぱり甘いものは最高…」


「…顔緩みすぎだ」


呆れてるけどそんな緩んでた?大丈夫だよ他に見てる人なんていないし。それに甘いこれが余計に甘く感じてしまうのだからしょうがないと思うんだ


「さっ、次は俺の番だね」


「ま、まだやるのか?」


「えっ?やらないの?」


「…」


「…」


睨み合い…とまではいかないけど、少しの時間ジーッと見つめ合った後、ため息をつきながらスプーンを渡してきた


「…今日だけだぞ、こういう場でするのは」


「…フフッ」


「…やっぱりやらない」


顔を赤くしてそんなことを言っているからつい笑ってしまった。“ こういう場 ” ってことは、場所を選べば今後もしてくれるってことだからね。それが伝わったのか彼女は少し拗ねてしまった


「ごめんごめん。はい、あ~ん」


「全く…んっ…」


でも嫌がっている訳じゃない。むしろ喜んでくれているのはよく分かる。その証拠に、彼女の表情も緩んでいるから。この表情は、俺にだけ見せてくれるものだ


それをまた繰り返す。パフェがなくなるのに、結構な時間がかかった。だけどその時間は、とても幸せな時間だったよ

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