第94話 獣生ゲーム


大成功(?)で終わったスカイレース。あの後博士から、フレンズだけで開催できるようにしたいと提案があった。ラッキーさんにお願いをしてみると、一度俺に連絡、許可を取れば、ラッキーさんがフレンズを手伝ってくれるようになった


相変わらず積極的に話はしないけど、相談をしたり道具の使い方を教えてくれたりはしてくれるようになった。最近皆だけで開催したみたいだけど、特に問題はなかったらしい


にしても前回からまだ1ヶ月くらいしか経ってないのにやるとは…。ホント、皆の行動力にはいつも驚かされる。少しは俺も見習うべきなのかな?



「…そうね、見習った方がいいわよ」


「何勝手に人の日記読んでんの…」


「ヤギッ!?」


「その驚き方はおかしいと思うんだ」



私は名探偵のアミメキリン!そして、ここはろっじのコウの部屋。何故こんなことをしているのか、その理由はこれまでの彼の生活にあるの


あのスカイレースからもう1ヶ月が経ったわ。時間が経つのは本当に早いわね。その後も色々やってたみたいだけど最近落ち着いたみたい


それからは彼の日常を間近で見てきたわ。別に監視していたわけじゃなくて、同居人として関わりがあっただけ。本当よ?


だけど、私はその日常にある疑問を持った。それは──



「コウ、何かやることはあるか?」

「何かあればお手伝いしますよ?」


「ん~…今はないかな。二人ともゆっくりしてていいよ。アリツカゲラさんも特に何もやることないって言ってたし」


「そうか。ならいつもの所にいる」

「後で来てくださいね?」


「了解」



──コウとキングコブラとジェーンの関係についてよ


これまでの行動を見るに、あの二人はコウに対して好意を持っている。そして、コウもあの二人に対しては何か特別な意識を向けている。私の探偵の勘が告げている、これは絶対に間違っていないと!


だというのに、今までなんの進展もなかったの!一緒に住んで結構経つのに!防音バッチリの部屋だってあるのに!旅館で何かあったはずなのにいつも通りすぎるのよ!


これはおかしいと思って、コウの部屋に何かあると思い調査を始めたの。そしたらこの日記を見つけたから、ここにヒントがあるんじゃないかって調べていたら、つい夢中になってしまって見つかってしまったわ。不覚…!


「何考えてるのか知らないけどさ、勝手に入るのは感心しませんな。近頃の女性はやんちゃで困る」


「ごめんなさい…」


「次からは言ってね?見たいものあるなら渡すからさ」


「分かったわ…」


「ならよし。クッキー作ってくるから、キリンさんもあそこに来てね」


コウは厨房に向かったわ。もっと怒るかと思ったけど…相変わらず優しいんだから。他の子にもしてそうね。惚れられたらどうするの?後で大変なことになってもいいのかしら?


「…いや駄目ね。そんなこと、友達として、名探偵として阻止してみせる!」


その為にはあの三人の仲を進展させる必要があるわ!何かないかしら?できればゲームのように楽しくできて意識させることができるようなものがいいのだけど…



「…はっ!あれはどうかしら!?」



確かコウが前に見つけてきたゲーム。あれなら三人同時にプレイできる!早速見つけてやるわよ!







「遂に石が見えた!チャンスだギロギロ!あれを壊せば、皆が助かるんだ!」


『ゴクリ…』


「次回、『ギロギロ、負ける』。お楽しみに!」


『えええええええ!?!?!?』


「フフッ…いい顔、頂きました!」


やぁ、私はタイリクオオカミ。今は『ホラー探偵ギロギロ』の読み聞かせをしているよ。最近次回予告にも力を入れているんだ。結果はご覧の通り、いい反応だろう?


観客はいつものメンバーろっじに住む子達…いや、珍しくキリンの姿が見えないね。コウは…まぁ、何か作っているんだろうね


「クッキー作ってきたよー」


ほら、言った通りだろう?紅茶と合わせていい匂いだ。今日は気合いを入れたから少し疲れた。そんな体にはピッタリだね


「あっ!もう食べ始めてる!」


そこにキリンも来て、ろっじメンバー勢揃いだ。大きな箱のような物を抱えているけどなんだろうか?


「沢山作ったから大丈夫だよ。ほら」


キリンの分の紅茶をカップに注いで渡すと直ぐに食べ始めた。手は速いけど、彼女の食べ方は凄く品がある。いつもの彼女からは考えられないほどだ


クッキーを数枚食べた後、キリンは抱えていた物を私達に見せてきた


「コウ!今日はこれで勝負よ!」


キリンが持ってきたのはボートゲーム。これは…


「『獣生ゲーム』か。そういえばやったことなかったね」


【獣生ゲーム】

ルーレットを回し、1~10の出た目だけ進み、止まったマスの指示を行うゲーム。全員がゴールした後にそれぞれの持ち金を比べ、一番多く持っていた子の勝ちだ


「コウさんはやったことあるんですか?」


「似たようなのはやったことあるよ。ざっとルールを見たけど、若干ゃ違うみたいだね」


コウがルールブックス!を眺めながら説明してくれる。中々面白そうなゲームだ。しかもマスの指示を隠せるモードがあるから予想がつかない。これは皆のいい顔が頂けそうだ


参加する子と順番は、コウ→キングコブラ→キリン→私→アリツさん→ジェーンの六人だ。他の子は観客。お客さんもいないし、息抜きでアリツさんもやるみたいだ


因みに、座席は円を書くように順番通りに座っている。つまり、コウの右はジェーン、左はキングコブラだ。役得だね、コウ?


「…オオカミさん、何か変なこと考えなかった?」


「何も?早速始めようじゃないか」


「…まぁいいか。じゃあ俺からだね」


カラカラカラ…とルーレットが回り、出た目は6。バスを模したコマを進め、マスの指示を確認する


「えーっと…『スカイレーサーになる。5マス進む』…か」


更に進めると『給料日マス』に止まった。これに止まったり通りすぎたりするとお金が貰えるようだね


「ルーレットで偶数だと20万JGジャパリゴールド、奇数だと1万JGか…。振り幅大きくない?」


「でも偶数を出し続ければ一気に突き放せるんですね」


「そうだね。ならいくぜ!ダイスロール!」


サイコロじゃなくてルーレットなんだけど…気にしなくていいか。そして出た目は5…奇数だね


「…最初だし?気にしてないし?」


「序盤も序盤だしな。次は私だ」


順番にルーレットを回していく。どうやら最初の1~10マス目は、全部仕事につく指示があるようだ


キングコブラは研究員10万JG、キリンはパークガイド6万JG、私は警備員7万JG、アリツさんはカフェ店員4万JG、ジェーンは女優8万JGだ。実際の給料とは大分違うみたいだね


因みに最初の所持金は5万JG。現段階での一位はキングコブラ、ビリはコウだね


「一巡したから、また俺の番だね。いいの出てくれよっと!」


気合いを入れて回したけど出目は2。そして止まったマスは…


「『運転していたジャパリバスが黒塗りの高級車に追突してしまう。8万JG払う』…黒塗りの高級車ってなんだよ!?そんなもんパークに置くなや!」


「落ち着けコウ!これはゲームだぞ!?」


ツッコミしたくなる気持ちは分からないでもないけど、キングコブラの言う通りこれはゲーム。あまり深く考えても仕方ないよ?でもいい顔頂きました!


…って、あれ?


「コウ、それ払えないんじゃないか?」


「えっ?…あっ」


コウの所持金は6万JG。払わなきゃいけないのは8万JG。つまり…


「いきなり借金…マジか…」


「だ、大丈夫ですよ!まだ序盤ですし!」


「そう…だね。まだまだこれからだ!」



*



それから四巡して、現在の一位はなんとキリン。途中で止まったマスに『財宝を堀り当てた。100万JG貰う』があって今ぶっちぎりさ。『これが探偵の力よ!』と言ってたけど関係ないね


ビリは相変わらずコウ。給料日マスは全部奇数、臨時金で借金を返したと思えばまた借金。額は少ないとはいえ皆との差はかなり離れている。流石にかわいそうになってきた


後は上から私、キングコブラ、ジェーン、アリツさん。大きな差はなく皆平凡に進んでいる。これはこれでつまらないね


「次は俺か…」


あからさまに元気がない。ここまで運が悪いとは思ってなかった。これを持ってきたキリンも申し訳なさそうな表情をしている。君は悪くないよ?


示された数字は7。この数字はラッキーセブンと呼ばれているそうだね。さて、彼に幸運は訪れたかな?



「『仮面フレンズを演じる。できたら20万JG貰える』…あーこれは…」



おっ…出たね、このゲームの特徴の一つが!



ある程度進むと、『お題マス』というゾーンがあり、止まった場所のを達成すると報酬が貰える。それを最初に踏むのがコウとは…運が良いのか悪いのか分からないね


だけどこれは彼にとって千載一遇のチャンスだ。一発で借金地獄から抜け出せるのだから。やるかどうかは彼しだいだけどね


「マジか…でもやらないとなぁ…」


「予行練習だと思えば大丈夫ですよ!」


「予行練習って?」


「次のライブにやってもらおうかと思っているんです。因みに脚本はオオカミさんにお願いしてて、ほとんど出来ているそうですよ?」


「いつの間に!?」


コウが私を見てきたので笑顔を返す。すると決心したのか諦めたのか、ため息を一つ吐き、椅子から立ち上がり…



「少女の為に血を流す男…仮面フレンズ!スカーレェッヅ(レット)!」シュババ!キメッ!



『おお~っ!』パチパチパチ!



見事、と言うべきだね。アドリブで格好いいポーズまで決めてみせた。これは文句なしに20万JGをプレゼントだ。それでもまだビリだけど


「本番もその調子で頼むよ?」


「…約束はしたからね。やらせていただきますよ」


『ありがとうございます!』


ペパプ全員からお礼を言われて、少し照れながらコウは席についた。さて、皆はどんなお題が出るのかな?







そこから皆一回ずつ『お題マス』を踏み、また巡っていよいよ終盤戦。皆のお題は以下の通りだった


・キングコブラさん:『前の人おれの腕に10秒抱きつく』

・キリンさん:『次の人オオカミさんの頭を撫でる』

・オオカミさん:『次の人アリツカゲラさんの手を握る』

・アリツカゲラさん:『二つ前の人キリンさんの肩を揉む』

・ジェーンさん:『次の人おれを後ろから10秒抱き締める』


…このマス考えた人許さんぞマジで。お陰でキリンさんがガン見してきたりオオカミさんがニヤニヤしてきたりぺぱぷがはしゃいだりと大騒ぎだ。今もドキドキが収まっていない。アリツカゲラさんまでニコニコしてたし


一位はキングコブラさんに変わった。キリンさんの残高が遊園地を立てて半分になったからだ。その時のキリンさんの絶望顔はオオカミさんにスケッチされた


そして俺はまだビリから抜け出せていない。もうこういう運命だと受け入れている。だからここから逆転することはないだろうな…



「えっと…『運命の人と出会い結婚する。皆から10万JG貰う』…か」



──え?



「けっ、結婚!?俺が!?」


『相手は!?』


何で皆してそこに食いつくの!?相手なんて架空の存在に決まってるじゃんか!


「ルールブックを見てねとありますね。何々…?『なお、結婚相手やしたい相手を叫ぶと更に5万JG貰える』…だそうですよ」


はああ!?なんだそのルール!?そこは適当なフレンズの名前でも…やっぱこれでいいや。いや駄目だけど今回はいいや。下手なことしたらヤバそうな感じするし


「さぁコウ!この中から一人選んで叫びなさい!」


何言ってんの!?この中からって、それはもう選択肢が二人しか…違う違うそうじゃない!いやまぁ将来的にはそうかもしんないけど…って何考えてんだ俺は!


「叫ぶわけないだろう!?追加は無しだ無し!はい次の方どうぞー!」


「…仕方ないな」


よし、何とか回避できた。キングコブラさんとジェーンさんが特にガッカリしているのは気のせいだと思いたい


てかキリンさんが危険な存在へと進化していると俺の勘が告げている…。早急に手を打つしかない


「8か。上がりだ。報酬は50万JGか」

「私の番ね。…あっ、私も上がりよ!30万JGゲット!」

「私は…上がりだね。15万JG…無いよりはマシだね」

「私もですね。10万JG頂きます」

「…あら、私もお先に上がりますね。5万JGですか…少し残念です」


えっ?何この怒濤の上がりよう。皆ゴールが近かったとはいえ俺を置いていかないで。俺はまだ9マス残ってるんだから


「9以上で上がりですよ!頑張って下さい!」


「ありがとう。…よし、いけ!」


これで最後にしてやる!と意気込んで回したルーレットは…


「数字は…6だな」


「 知 っ て た 」


これ逆にして9にしたい。だけど現実は非情であるのでそんなことは起きません


「と、取りあえず見てみましょうか。『結婚相手との子供が生まれる。お祝い金として皆から10万JG貰う』…ですって」


「「「子供!?」」」


またとんでもないマス作りやがって!流れとしては完璧だなぁおい!ぶん殴りたくなるね!


「早速作るとは…ヤったね、コウ」


「「子供…てことは…」」


「その時用の部屋はありますからね…?」


『ハワワワワ…!』


「ちょっと皆妄想ストップして落ち着けぇ!」


皆して顔赤くするのやめて!気まずいから!めっちゃ気まずいから!一人オオカミさんだけ冷静なのはなんかムカつくけど!


「俺に子供は作れn…ゴホンゴホン!ほら続きやるよ!戻ってこい!」パァン!


『はっ!?ど、どうぞ!』


手を叩くと皆が正気に戻ったのでルーレットを回す。出た目は4、俺も上がりゲームが終了した。結構長かったな…。ゴール報酬?ビリはないって。ちくしょう…


俺はあの2マスのお陰でキリンさんに勝つことができ、ギリギリでビリを回避できた。徴収は強いってはっきりわかったよ


一位になったのはキングコブラさん。一着ゴールがそのまま決め手になった。悔しいのかジェーンさんとキリンさんは直ぐにでもリベンジするみたいだ


他のメンバーも追加され大人数でプレイし始めた。この調子なら長くなりそうだからご飯でも作りに…


「コウ、少しいいかい?」


「どうかしたのオオカミさん」


ワイワイとやっている中、オオカミさんが俺にしか聞こえないくらいの小さな声で話しかけてきた。他の子は気づいてないけど、このオオカミミはちゃんと捉えている


「さっき、何を言いかけたんだい?」


「…なんでもないよ」


「…分かった、深くは聞かないよ。でも実際問題気になるんだけどね。試してみてはどう?」


「尻尾の毛むしりとられたいのか?」←鬼の形相


「じ、冗談だよ…」


冗談にしてはたちが悪すぎますねぇ?後で苦いものでも飲ませようかな?…なんて


まぁ、俺も気になるけどね。フレンズと人で子供ができるのか、どんな子が生まれるのか。フレンズの神秘でもあるのだから


ハーフになるのか、女の子しか生まれないのか、生まれた子はまた子を成すのか。疑問が尽きることはない。もしそんな子がいるとしたら、一度でもいいから会ってみたいね


…そんなこと、ありえないだろうけどさ

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