第79話 ゴッド☆メンテナンス


ジェーンさんとキングコブラさんと別れ、ヤタガラスさんとヤマタノオロチさんを俺が寝泊まりしている部屋へ案内する。暖房をつけて各々座布団に座る


「急に申し訳ないな」

「構いませんよ」

「いやぁデートを邪魔して申し訳ない(笑)」

「二人で話すので今すぐ出てって下さい(怒)」

「相変わらず貴様は我に当たりきついのぉ…」


貴女いつも一言余計なんですよ。それと俺が4歳の時にしたことを思い出しましたし、砂漠でしたことも覚えていますからね?隙あらば反撃することをお忘れなく


…なんて、気にしてないですし本気で嫌ってはいません。ちゃんと感謝もしてますのでご安心を


「オイナリサマとキュウビキツネさんは?」


「フィルターの点検に行った。直ぐにも帰ってくるだろう」


あれから定期的に確認しに行っているようだ。帰ってきたら二人から説明を入れてくれるみたいだし、俺が心配することではないか


「それで、話したいこととは?」


「雪山のセルリアンについてだ」


「あっ、パトロールしてくれていたんですよね。お疲れ様でした、ありがとうございます」


キングコブラさんと雪山に来た日、積もった雪から現れたドラゴン型セルリアン。そいつ以外にもいると睨んだ俺は調査をお願いしていた


「貴様の言う通り、他にも似たようなセルリアンがいた。そやつは先日倒したのだが…」


「…何かあったんですか?」


「…先程、分離機の様子を見に行った帰りに、倒したはずのセルリアンが現れたのだ。それも三体…オイナリやそのほうが倒したと言っていたセルリアンがな」


「なっ…!?」


復活したってことか!?確かに、あのドラゴン達は本だとパワーアップヴェルズ化して復活したという情報は載っていたし、なんならそのその後の展開も書いてある。だけど、セルリアン…サンドスター・ロウがそこまでやるというのか…!?


「その三体も我らで倒したから安心するといい。…本題はここからじゃ。砕けたセルリアンの一体から、一枚の紙が出てきてのぉ」


これじゃ、とヤマタノオロチさんは胸に手を突っ込んで紙を取り出した。どこにしまってんすか貴女


「これはあれと関連していると思ってな」


「そのほうのあの本、見せてはくれぬか?」


オイナリサマが火山で見つけてくれた俺の落とし物。その後は俺の手元に戻ってきてバッグの中に入っている。それを取り出して渡すと、ヤタガラスさんはパラパラとページをめくる


「この本から特殊なセルリアンが生まれたのは周知の事実。そして、そのセルリアンを倒せば、空白になった場所に元の絵かがやきが戻ることも」


そう、戻ってきた本には空白がいくつかあった。あれから特殊なセルリアンを討伐し、本の空白を埋めていった。図鑑埋めをしている気分だったね


そして今日の朝、確認したら全て埋まっていたから、二人が無事に倒してくれたんだと思っていた。だけど違った。まだ終わっていなかった


「…やはり、これは破れたページの一部のようじゃな」


「たったページ一枚からあそこまで再現するとは。サンドスターにサンドスター・ロウ…まだまだ謎の多い物質だ」


「破れたページを取り戻さない限り、あのようなセルリアンが生まれ続ける、ということですよね…」


抜けているページは…7枚か。ただ、写っている魔物モンスターの数はページによってバラバラだ。一体が大きく書いてあったり、小さいのが複数いたり。今回は1ページに三体。三体同時に見つけられたのは不幸中の幸いってとこだけど…


「…この本、いっそのこと燃やしますか?」


今後、このような事態が起こらないとは限らない。時間が経ったとしても、この本に込められた想いかがやきがそう簡単になくなるとは思えない。それに、この想いは──



「厳重に管理しておけば、そこまでする必要はないじゃろ。図書館の地下室にでも入れておけ」

「そうされて辛いのはコウであろう?あちらでの思い出の品なのだ。その想いは決して危険なものではない。大切にしろ」



──見透かされていたか。この本に込められた人の想い。それは、きっとのだ。皆で見て、語り合った思い出がこれにはある。だからこそ、消した方がいいかと思った


けど心配なさそうだ。この人達が言うのだから間違い


「…なら、保管をお願いしてもいいですか?俺が落としたら大変ですし」


「ああ、預からせてもらおう。…だが、落とすことを前提に話すのは感心しないな?」


「うっ…すみません…」


怒られた。だって二度あることは三度あるって言うじゃん?二度目はまだだけどさ


「さて、後は破れたページをどう探すかじゃが…」


「それなら、一つ考えがあります」


「ほう…?申してみよ」


「『暫定職員』の権限を使って、ラッキーさんに手伝ってもらおうかと思います」


パークの各地にいるラッキーさんに、フレンズへのジャパリまんを供給するとともに、セルリアンの調査をお願いする。見つけ次第アラートを鳴らし、俺や守護けものへ連絡してもらい、現場へ向かう、といった感じだ


「人の緊急事態、ということにして、フレンズへの干渉を一時的に許可します。これくらいなら俺の権限でも出来るようなので」


「中々良い案だ。お願いしてもよいか?」


「分かりました」


これで大分マシにはなる。なるべく早めに片付けたい問題だ、ラッキーさんの動きに期待しよう


その後は修行のことや勉強のこと、守護けものとしての心構えなどを中心に話をした。またビシバシしていく、とのこと。いやだぁ…



*



「…むっ、もうこんな時間か。長い時間済まなかったな」


「いえいえ、久しぶりにゆっくり話せて楽しかったですよ」


「そうか。ところで、貴様は酒は作らんのか?」


「作りません。ご自分でどうぞ」


「やはり我にだけ手厳しいのぉ…」


これに関しては関係ないです。残念ながら酒は俺にとってデメリットしかないのです。素直にツチノコさんにでも貰ってください


二人と部屋を出て皆の元へ行き夕食をとる。今日の夜は特製ジャパリまん。久しぶりに食べたけど美味しかった。料理もいいけど、特別な物もやっぱりいいものだ


皆の後で温泉に入り、キングコブラさんとジェーンさんと再び旅館巡り…をしようと思ったけど、俺が途中で眠くなってしまったので、続きはまた今度になった。誠に申し訳ないので次はしっかりやらせてもらうとしよう




そして、次の日──




「おはようございます」


「あら、おはよう。今日は一人?」


「はい、二人とも用事があるようでして」


今日も俺はゲームコーナーにいる。今日のガチャはキュウビタイプ。だけど尻尾は6本も足りない。本当にキュウビ入っているのかと疑問になる時もある


キングコブラさんはヤマタノオロチさんと稽古。足場の悪い場所で動けるようにする、と言っていた。また寒さでダウンしなきゃいいけど…


ジェーンさんは他の子と練習。ここ数日ゆっくりし過ぎていたので、プリンセスさんがいつもより張り切っているらしい。無理はしないようにしてほしい


「寂しそうな顔してるわね?」


「…どうとでも取ってください」


隣にはキュウビキツネさん。早速からかってくるので無難な回答を心がける。どんな回答をしても次に繋げてきそうだからね


今のこの状況は、彼女がキタキツネさんとギンギツネさんの対戦を見ていた所に俺が来た、という所だ


で、さっきからその対戦を見てるわけなんだけど…


「隙あり!」

「あっ!」


K.O!


「ぐぬぬ…後少しだったのに…!」

「フフフ♪そう簡単には負けないわよ♪」


ギンギツネさん凄い得意気だ。やりこんでそうなキタキツネさん相手でも一歩も譲らない


「「あっコウ。おはよう」」


キタキツネさんが俺に気付き、ギンギツネさんもそれで気付き挨拶をされる


「おはよう、二人とも」


「コウもやる?面白いよ?」


「ん~…今はいいかな」


最近ゲーム続きだったからね。たまには他の子のプレイを見ているのもいいものだ。上手い人のは特に面白いからね


「なら続きしよ。これに勝てばまたイーブンになるね!」

「このゲームで決着をつける!勝たせてもらうわよ!」


どうやらもう何ゲームかしているみたい。一勝一敗を繰り返しているらしく、まだ決着がつかないようだ


しているのは格闘ゲームだ。キャラクターがフレンズで、ゲージを使って必殺技を繰り出している。タイトルは…『ジャパリのこぶし』。またギリギリを攻めてるなぁ…


よく見るとジャパリまんゲージが7個あり、これがなくなると一撃必殺技が撃てるようだ。動きもコンボ重視みたい。これキャラがボールのように跳ねないよね?


そしてキャラ選択画面。いるのはサーバル、カラカル、トキ、トムソンガゼル、etc…etc…



…待って、そのトキの位置って



「ちょっと本気だすよ」カチャカチャ



ジョイン…ジョイン…トキィ



あっ…(察し)




*




>∩(・ω・)∩< ミワクノダイゲキシンボイス ボエー!


FATAL K.O. ワタシノウタ, キイテクレテアリガトウ ウィーントキィ パーフェクト


「ふぅ…完走できた…!」

「相変わらず強いわね…」


やっぱりな…。ひどい結果になると思ったけど、ギンギツネさんが何も出来ずに終わるとはね。そんなトキが強い所まで再現しなくていいから。バランスは大丈夫なのか?まぁ全キャラやべー部分があるんだろうけどさ


「そうだ、コウ、『実況』っていうのをやってよ」


「実況?なんで?」


「あると盛り上がるって聞いた。ボクとギンギツネの対戦でやってみてほしいんだ」


「やったことないんだけど…」


「上手くなくてもいいよ。それっぽい感じになれば」


いや線引きが分からないんだけど。でも期待した眼をしてるしなぁ…。仕方ない、あれを参考にしてみようか


「分かった、やってみるよ」



*



ギンギツネがぁ!捕まえてぇぇ!

ギンギツネがぁ!画面端ぃぃっ!

ガーキャン読んでえぇっ!まだ入るぅぅ!

ギンギツネがぁっ!……つっ近づいてぇっ!

ギンギツネがぁ決めたぁぁーっ!!!!



「「うるっさい!」」


「えっ?」


「えっ?じゃないわよ!集中できないわ!何よその実況は!?」


「実際にあったのを真似してみたんですけど…」


「実際にあったの!?」


向こうでは有名な実況なんだよなぁ。もはや伝説と化してるんだよ?


「二人ともごめんなさいね。コウったらあの二人がいなくて寂しいのよ。だからわざとこういうことをして気を紛らわしているの」

「そうなの?それならしょうがないね」

「へぇ~…お可愛いこと…」


何を言うんだこの妖怪は。二人も分かって言ってるだろ。毎回毎回からかってきおって。そっちがその気なら俺にも考えがあるぞ!


「なら、次は落ち着いた実況するね」


「期待してるよ?」


ああ期待してていいよ。真面目(笑)にやるからね


「そういえば、キュウビキツネさんがメンテナンスしてるんでしたっけ?」


「そうよ。一昨日やったわ。それがどうかした?」


「いいえ、凄いなって思って」


「そう?まぁ大変なんだけどね」


褒められて嬉しそうにしてるな。それを利用されるとも知らずに…ククク



*



──では2ラウンド目。キタキツネとギンギツネの最終試合。先程までの勝負は互角


「ほっ!」ペシッ


──おっと先に攻撃を入れたのはキタキツネ。小パン小パンからコンボ繋いで昇竜拳。起き攻めの小アシ…はガードされるが裏回って更にコンボを繋いでいくぅ!そして空中に敵を浮かせて…!


「あれ?」カチカチ


──おっと落としてしまった!


「…メンテナンスは私がしたわよ。だからおかしいところはないわ」


──なるほど、これはプレイヤーのミスだと。そういうことですね?


「それ以外に何があるのよ?」


──いいえ。さて試合は…そのまま2ラウンド目を取ったキタキツネ。そのまま最終ラウンドに入ります


──開幕仕掛けたのはギンギツネ。やられっぱなしだったのでゲージが貯まっている!これを生かしてコンボを繋げて…


「ここで…必殺技!」ピキーンッ!


──ヒット数は十分!キャラがボールのように跳ねています!このままなら完走できるでしょう!


「ここで、こうして……あっ!?」


──どうしたことだ!いきなりバックステップで離れてしまう!


「…メンテは私がしたわ。これプレイヤーのミスよ」


──そうですか、メンテは完璧…と


「そう言ってるじゃないの…」


──分かりました。では続きを…おっと!?キタキツネのジャパリまんゲージがなくなった!そしてコンボが続いている!これはまさか!?


「これで終わり…あれ!?」



──あーっと一撃技が出なーい!        !?



「なんなのよさっきから!?」


あっ、怒った。強いて言うならお返しです


「テストプレイもしたけど何も問題なかったわよ!なんなら今証明してやr」


「ねぇ!Aボタンが効かないよ!」

「レバーと逆方向に動くわよ!なんで!?」


「「…えっ?」」


マジで?冗談で言ってたんだけどまさか本当になるとは思わなかった。もちろんゲームは一時中断。なんてタイミングでバグってくれるんだこのゲーム…


「…ごめんなさい、一旦部屋に戻るわ。これはラッキービーストにでも直してもらって…」


「あっはい」


落ち込んだ様子で出ていったキュウビキツネさん。とぼとぼと歩き、『そんなはずないのに…』と呟くその背中は哀愁漂っている…ように見える


「自信満々だったから不備が出てショックだったのかしら?あんなに落ち込まなくてもいいのに…」


ギンギツネさんが心配した様子で見つめている。なんて優しいのだろう。でも俺は見た、去り際のあの人の顔を


「…取り敢えず、ラッキーさんを探さないと」


「コウ、ココニイタンダネ。探シテタンダ」


探しに行こうとゲームコーナーを出ようとしたら、タイミングよくラッキーさんが来た


「あっ、ラッキーさんおはよう。探してたって?」


「昨日ゲームノメンテナンスヲシタンダケド、ソノ後ノ調子ヲ具合ヲ聞キニ来タンダ」



……ん?



「ラッキーさん、もう一度言ってもらえる?」


「昨日ゲームノメンテナンスヲ」


「OK、ちょっとこれ見て」


ラッキーさんを抱えて、キタキツネさんが操作するゲームの画面を見せる。操作通りに動かないキャラを見て『アワワワワ…』と言い出した。どうやら察してくれたようだ


「ラッキーさん、『職員権限』です。直ぐに、完璧に、直せ」


ラッキーさんを下ろすと、直ぐ様眼が光りピロピロと音がなる。台の下を開けなくてもいいのは便利ですね


「俺はキュウビキツネさんの所に行ってくるので、見張りをお願いしてもいいですか?」


「いいわよ。…その、頑張ってね?」


「…はい。…怖いなぁ、正直」


彼女にこの場は任せて、一人ゲームコーナーを出てあの人の元へ。初めて見る姿、ということは、その後の展開が読めない、ということ。どんな風になってもいいように、覚悟だけはしておこうかな…

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