第71話 チーム噛んじゃうぞ
「ま~だっかな~♪ま~だっかな~♪」
どうも、キメラのフレンズのコウと申します。今日はフードと尻尾のヘビモードでございます。今私は厨房でとあるものを焼いております。結構大きなものになったけど、大勢への差し入れにはちょうどいいかな?
あ~良い匂いがしてきた♪我ながら上出来だよこれ。材料を持ってきてくれたラッキーさんに感謝だね
「流れてく~時の~な~かででも~♪」
「ご機嫌だね、コウ」
「アッポォ!?」
「いい顔、いただきました♪」
ビックリした…いきなり話しかけないでよオオカミさん。てかいつの間に入ってきたの?全然気づかなかった。しかもゲットされたし
「何を作っているんだい?」
「アップルパイ。美味しそうなリンゴがあったからね。…おっ、ちょうどできたみたい」
オーブンから取り出すと良い感じに焼けている。試しに小さいサイズのも作ったから味見…っと
「美味い!久々だけどよくやった俺!」
どうだメイド長!俺はここまで出来るようになっていたんですよ!もう食べさせてあげられないのが残念ですね!
「…コウ」
「ん?…あー…」
犬の嗅覚は人よりもめちゃくちゃ強い。この状態での俺でこのはしゃぎよう。隣にいるオオカミさんの様子は…名誉のために言わないでおこう
「ほら、こっちにあるから皆で分けてね。俺は出掛けてくるから」
「ありがとう!これを食べればいいアイデアが浮かぶ!と思う!」
自信満々に気の抜けること言わないで。あーあー尻尾ブンブンだよ…。誇り高き姿が欠片もない…
「先生…?」
「ハッ!?キ、キリン!いつから…!?」
「それを取り出した辺りから…」
あ~見られたかぁ…。大丈夫、キリンさんはそれくらいじゃファンやめないよ。だから必死に弁解しなくてもいいんじゃないかな?
あたふたするオオカミさんと、真剣に聞いているキリンさんに心の中で挨拶をして、俺はろっじを出発した
*
向かった先はじゃんぐるちほー。結構遠かったけど何とかバイクでつけた。朝一で出発して正解だったよ
ろっじに住んでから数日。みずべちほーで一度別れた後は、バタバタしていて会ってなかったからなぁ。向こうも予定があったみたいだし仕方ないんだけどね
昨日は約束があったから、ここに来ても会うことはしなかったし、夜もみずべから直接帰ったからすれ違うことすらなかった。どんな反応してくれるかな?なんてね
で、少し歩いているんだけど…
「…いない」
見つからない。おかしい、他の子に聞いても知らないと言われる。一体何処に行ってしまったんだ?
どうしよう。せっかくのアップルパイが冷めてしまう。まぁサンドスターで保温できる都合のいい入れ物に入れてるからまだ大丈夫なんだけど、やっぱり出来立てと同じものを食べてほしいし…。他にも…なんだろ、この気持ち
…寂しい、のかな?俺…
「あら?あなたはもしかして…」
後ろから知らない声…ではないか。会場でチラッと聞いた声がする。振り返ると、全体的に青い、フードを被った子がいた。手に持っているのはキノコかな?なんで?
「君は…確か…」
「わたくしはコモドドラゴン。『コモモ』とお呼びくださいまし。『コモド』でもよろしいですけどね」
そうだそうだ。ドラゴン。確かにめっちゃ強そうな雰囲気だし、お嬢様な感じもある。この子なら知っているかもしれない
「俺h」
「コウ、で合ってましたわね?」
「…はい」
最近自己紹介しなくてもよくなってきたな。ライブステージ効果は思いの外大きかったみたいだ。遮られることも多くなって少し寂しい…と思うのは贅沢だな
「キングコブラに会いに来たんですの?」
「そうだけど、なんで分かったの?」
「彼女からお話を聞いていましたから。わたくしもお話をしてみたかったんですの。案内しますので、それまでお話しませんか?」
「いいよ、よろしくね」
生い茂る草木を掻き分けながら歩いていく。ジャングル特有の気温がきつい…と思ったらそうでもない。ヘビモードだからなのか?後でオイナリサマにでも聞かないと
俺について色々聞かれたけど、答えづらい質問は今の所特に飛んできてはいない。キメラとは何か、キノコに詳しいのか、ヘビの仲間なのか…って具合
彼女はたまに舌をチロチロ出し入れしながらキョロキョロ回りを見る。そして、地面に生えている草や花を観察している
「それは何をしているの?」
「毒を持つものを探しているんですの」
「毒?なんでそんなことを?」
「研究に決まってますわ!毒はわたくしのらいふわーくですのよ!」
ずいっ!と顔を近づけて力説してくる。どうやったら毒が消えるのか、どのように役立つのかを研究しているらしい。皆にも間違って触れないよう注意喚起をしているようだ
「あなたもヘビのフレンズでもあるなら、毒を持っているのでは?」
「俺は…どうなんだろ?」
ヨルムンガンドは神話で毒を使ってはいた。でもヨル姉さんが使っていたかどうかの記憶はない。もしかしたら俺も使えるのかもね
「あっ、着きましたわ。ここです」
ジャングルの奥深くまで来たな。ここには沼があるんだけど…
「…これ、もしかして…」
「ええ、毒沼ですわ」
「なんでこんな所に?」
「それは…」
「あいつらも反省してるから!だから機嫌直せって!」
コモモさんが何かを言いかけた時、沼の向こうから大きな声が聞こえた。あの声はツチノコさんか?一体何があったんだ?
「しつこく同じ質問ばかり。もううんざりだ!」
「俺から全員にきつく言っとくから!な?」
「ふん!信用できないな!」
…どうしたというんだ?あのキングコブラさんがご立腹でお願い(?)を拒否している。一体何をやらかしたんだ?
「実は…」
━━回想━━
メキシコサラマンダー
『ねえ、キングコブラとあのコウって子はどんな関係なの?』
『ふむ…民…いや、友達、だな』
『そうなんだ。あっ、ジャパリまんちょうだい』
『いいぞ、ほら』
クジャク
『キングコブラ、少しいいですか?』
『どうした?質問か?』
『はい、あのコウという子は貴女のなんなのでしょうか?』
『…友達、だが?』
『そうですか。…ふ~ん』
『…何か言いたいことでもあるのか?』
『いえ、ありがとうございました』
『…なんなんだ、一体』
エリマキトカゲ
『なあキングコブラ。聞きたいことがあるんだけどさ』
『なんだ?遠慮なく言ってみろ』
『コウってやつ、お前の家来なのか?』
『…はぁ、またそのような質問か。友達だ』
『そっか。…そうなのか~』
『…なんだその言い方は?』
『い、いや何でもないんだ!じゃあな~!』
フォッサ
『ねぇ、キングコブラ』
『勝負はしないぞ』
『違うわよ、コウの事なんだけど』
『…お前もか…。今度はなんだ?』
『あなた、本当に友達でいいの?ついていかなくてよかったの?』
『…どういう意味だ?』
『うかうかしてると他の子に取られちゃうわよ?』
『…っ!?訳のわからないことを言うな!』
『うわっ!た、退散~!』
アフリカニシキヘビ
『ねぇキングコブラ、あなたとコウって子の関係ってどういうものなのぉ?』
『…とm』
『恋人、じゃなくってぇ~?』
『こ…っ!?そっそんなものではない!』
『あらぁ~?その反応、もしかしてぇ~?王様も可愛い所あるわねぇ~?』
ブチッ💢
『…おい』
『ちょっ、冗談よぉ~…そんな本気に…』
『出ていけ!もう来るな!』
コモドドラゴン
『キングコブラ、少々お聞きしたいことg』
『断る』
『えっ?…質問に答えt』
『 こ と わ る 』
━━回想 終わり━━
(…言わない方がいい事が多いですわね。これだけ伝えましょう)
「コモモさん?どうしたの?」
「実は、あなたとの関係について聞いていた子が多数いたらしく、同じ質問にうんざりしていた所に、アフリカニシキヘビが挑発紛いの事をしてしまいまして…」
「なにやってんの!?!?!?」
いやマジでなにやってんの!?そりゃあ怒るわ!誰か全員に伝えてやってよ!てかどんだけ俺との関係気になってんの!?別に何もないんですけど!コイバナでもしたい年頃なの!?
「それで、今事情を知ったツチノコが説得しているのです」
「他の子はどうしたの?」
「全員で謝ったのですが…ご覧の通り駄目でしたわ。そこで、あなたに説得を頼みたいのですわ」
「説得って言ってもなぁ…」
何を言えばいいのかさっぱりだよ。苦労かけた原因が近づいて大丈夫なのか?もっと怒らせたりしない?
「一度会ってみてください。状況が変わるかもしれませんわ」
「…分かったよ」
毒沼を上手く避けながら、彼女のいる洞穴へ進んでいく。見るからに嫌な色をしている沼だ。落ちたら溶けてしまうんじゃないか?俺に毒耐性はあるのだろうか?
頭をかいて困っているツチノコさんが俺に気づき、こちらへ向かってくる。大声を出そうとしたのを我慢したのか口を手で押さえている
「数日ぶりだな。あいつに会いに来たのか?」ヒソヒソ
「そうなんだけど何やってるのさ。ツチノコさんリーダーなんでしょ?しっかりしてよ」ヒソヒソ
「好きでやってるわけじゃ…!いや、この際何でもいい。あいつをあそこから引っ張り出してくれ」ヒソヒソ
洞穴の中で胡座をかき、背中を向けている彼女に近づいてみる。相当ご立腹なのか俺に気づいていない様子
──少し、いたずらしてみたくなった
ツチノコさんに耳打ちすると、彼女もニヤリ、と悪い顔をした。意外とノリノリですね
俺はアップルパイが入った箱を取り出し、蓋を開ける。良い匂いがふわっと広がり、俺達の食欲をそそる
「ほら、美味しいもの持ってきたぞ?」
「…そんなものいらん!帰れ!」
といいつつウズウズしている様子。本当は食べたいんだろうなぁ。意地張らなくてもいいんだよ~?
「そうか、いらないんだな?折角コウが作って持ってきたというのに」
「っ…!?なん…!?」
しかしここはあえて引く。俺が作ったと言えば珍しい食べ物だと彼女なら気づくだろう。だがこっちからは渡さない。彼女が自ら動くように誘導するのだ
「これは俺達で食べるとしよう。じゃあな」
「ま…まて!」
キングコブラさんが振り返り、俺と目が合う。やぁ、と声をかけると数秒固まり、彼女は顔を赤くして少し涙目になり、フードを深く被りしゃがみこんだ。正直めっちゃ可愛くてドキッとしたのは内緒
*
アップルパイを切り皆に配っていく。洞穴から出たキングコブラさんに、各々改めて謝罪をして別れていく。さっきの事で毒気が抜けたのか渋々許していた
「はい、キングコブラさんの分」
「…ありがとう」フイッ
こっち見てくんない…。食べ物に釣られた所を見られたのが相当恥ずかしかったのだろうか。いいじゃないか、そういう可愛い所もあるのは素敵ですよ?…とは本人には言えないな…
「すみません、ご迷惑をかけたみたいで」
「…なぜお前が謝るんだ?」
「コモモさんから少し聞きました。俺との関係を聞かれまくったって」
顔を向けてくれた。やっとこっちを見てくれた。相変わらず顔赤いけど
「俺もここに住めば良かったですかね。俺が答えれば済む話でしたし」
「それは駄目だ!」
いきなり大きな声を出されたので、その場にいた全員が驚いた
「っ…すまない。だが、私の都合でお前が縛られる必要はないんだ…。お前は、やっと…」
『私がいたら、お前はしたいことが出来ないんじゃないか?』と彼女は考えてしまったのかもしれない。療養中も今も、俺のことを心配してくれるとても優しい子なんだ。今回は強引についてくる、なんてこともしようとしないしね
「ならいっそのこと、キングコブラもろっじに住めばいいんじゃないか?」
「「…は?」」
「それはいいアイデアですわ!それなら負担は半分になるでしょうし!」
二人の言葉にキングコブラさんは固まったけど、意外にも俺はナイスだと思った。毎回は無理かもしれないけど、ろっじなら彼女に質問がいく前に俺が答えられる
「だ、だがコウに迷惑が…」
「誰が何処に住むのかは自由です。俺は迷惑だと思いませんしこの先思うことなんてないです。良かったら一緒に来ませんか?」
合わない地方での暮らしは寿命を縮めるのです、とは言うけど、たまに帰れば問題ないんじゃないか?あの子達だって1ヶ月サバンナに戻らなかったらしいし、なんなら図書館にも長くいたんだ。もちろん来るかどうかは彼女次第だけどね
「縛られるなんて言わないで下さい。俺は、貴女といてそう思ったことは一度もないですよ?」
「…後悔、しないか?」
「自分で決めたことです。後悔なんてしません」
あの日言われたことをそっくり返す。覚えていたのか、彼女は少し笑った
「…また、一緒に旅をしてもいいのか?」
「もちろん」
「…なら、またよろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「まぁ、たまには帰ってこい」
「今度は二人でゆっくりお話しましょう?」
「うん。じゃあ、今日はこのへんで」
後ろに彼女を乗せ、皆に別れを告げて家に向かう。たった数日ぶりなのに、誰かが後ろにいるというのは懐かしくて、何故か凄く安心した
*
「ただいま戻りました~」
「お帰りなさい…あら?」
「あっ、お帰り…って、キングコブラ?」
「私もろっじに住むことにした。よろしく頼む」
「へぇ~…そう~…」ニヤニヤ
何ニヤついてんのよキリンさん。何処に住もうが彼女の勝手でしょ?だからその頭の中にある邪念は消しなさい。後で人参あげるから
「お部屋はどうしますか?」
「前にいた所にする。案内してくれ」
二人が部屋に行くようだし、俺も部屋に戻ろうかn
「ちょっといいかしら?」
なんですかキリンさん、特に話すことはもうないですよ?耳元で何を言うつもりなんですか?
「これ、同棲してるようなものね」
「…何を言うかと思えば。くだらない事言ってないで寝なさい」
「むぅ…まぁいいわ。お休み」
ブツブツ言いながらキリンさんは戻っていった。俺も改めて部屋に戻る。荷物を置いて、今日の事を思い出して…
「…うわー…何やってんだろ…///」
テンションおかしかったよなぁ今日の俺…。イタかった気がしてきた…。一緒に来ないかって…これ一緒に住もうよって言ってるようなもんじゃないか…。告白みたいじゃないか…?思い出したら凄く恥ずかしいことしてるよ…
キリンさんの追撃がキツかった…。あれさえなければ寝て終わりだったはずなのに…。ちくしょうあの迷探偵め、今後絶対トランプ負けてやらないからな
「…月が綺麗ですね…か」
月明かりに照らされた空をふと眺め、誰に言うわけでもないその言葉を呟き、俺は布団に潜るのだった
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