第64話 復活の「K」
「うおああああ!?!?!?」
大声で叫び、森の上を通過しているのは、コウモリのような右翼、カラスのような左翼を持つ、なんだかよく分からない少年、コウ
「ヤタガラス様の為に!」
「キュウビキツネに貸しを作るために!」
「ええっと…そうだ!ゲットよ!」
追いかけるのは、主の為に飛ぶハシブトガラス、欲の為に飛ぶワシミミズク(助手)、巻き込まれたがスカイレースに参加してもらおうと考えたハクトウワシ。因みに全員野生解放している
「こうなったら…!」
ガサッ!
「あっ!森に入っていったわよ!?」
目の前を飛んでいる彼が森へ突っ込んでいく。翼が大きいため、森の中だと飛びづらそうという考えを三人はしていたが、予想とは違う動きを彼はした。だがそれで撒けるほど彼女達は甘くない
「逃がしません!連れ戻します!」
(説教だけじゃ済まなそうなのでお断りする!)
「逃がさないのです!戻るのです!」
(料理だけじゃ済まなそうなので断る!)
「逃げられないわよ!リターン!コウ!」
(なんで貴女までいるんだ!?なんか申し訳ないけどお断りします!)
心の中で全力で拒否するコウ。しかしその想いは三人に届くことはない
「なかなかスピーディーじゃないの!運営と選手どちらをしてもらおうかしら!?」
「感心してる場合じゃないのです!怪我をしているのにこのスピード…!」
「コウ様の力はあのお方達と同等と考えた方が良さそうです。使う人があれですが」
存外辛辣だったハシブトガラス。だがこの状況、間違っているとは言い難い。野生解放に加え全員が手練れのトリのフレンズ。対して彼は腕しか完治していない。差はどんどん縮まっているが、彼が無理をしている為追い付くにはもう少しかかる
(もうすぐ森を抜ける…。そこで旋回して撒いてみせる…!)
狭い木々の間を、翼を器用に折り畳んで抜けていく。顔に葉が当たるがお構いなしにスピードを上げる。草をかき分け、木の枝に足が引っ掛かりそうになりながらも飛んでいく。正直限界だったが無駄に頑張っている。本当に無駄である。その理由は僅か数秒後に明かされた
サァ…っと視界が晴れると、その目線の先には黒い影。そこにいたのは──
「──っ!?ヤタガラス、さん!?」
「うぇるかむようこそ、だな」
スピードの出しすぎで、コウは避けることが出来ずヤタガラスに突っ込んだが、彼女はコウのスピードに合わせ後ろへ飛ぶことで衝撃を和らげる。更に都合がいいので抱き締めて逃げられないようにした
抜け出そうとするが頭をがっちりホールドされ、三つの黒脚で捕らえられているので不可能。それに柔らかいものも当たっているので下手に動くと何かいけない気がしたので動けなくなってしまった
「なんでっ、ここに!?」
「たまには運動しようと思ってな」
「だからってピンポイントで…!」
「先の先を読むのが得意なのは余の従者だけではないぞ?」
こうなることを予想していたかの様な言い方である。実際そうなのだろう。効率の良い方法で捕まえることに成功した
「ヤタガラス様!」
「ハシブトガラス、ワシミミズク、そして…ハクトウワシ。ご苦労であった。みなのお陰で無事に保護出来た」
「いえ、私は…」
「謙遜するな。追ってくれたこその結果だ。良くやってくれたな」
褒められて凄く嬉しそうにするハシブトガラス。恩を売れなくて悔しそうな助手。よく分かっていないハクトウワシ。そして、嫌な予感がしたコウ
「さて…図書館へ戻ろうか。このままでな」
ホールドされた状態で帰るという辱しめを受けながら、五人はゆっくりと飛んでいった
*
図書館の中で待ち構えていたのは、仁王立ちしたキュウビキツネと、それを眺めているジェーンとキングコブラ。因みにコウは椅子に座っている。流石にこの状態での正座はなかったが、彼女の溢れ出る怒りを感じ、姿勢をこれ以上ないくらい正しくし頭を下げている
「なんで怒っているか分かる?」
「その…治っていないのに飛んだからと、心配かけたから…です。ごめんなさい…」
「…そうね。でも、一番心配してたのは私じゃないから、謝るなら彼女達にしなさい」
彼女の目線の先には、ジェーンとキングコブラ。直ぐ、とはいかなかったが、そこそこ短い時間で帰ってきた為かジェーンはホッとしていた
だが、隣にいたキングコブラはそうではなかった
「…無茶をするな、と言っても意味がないのは分かっている。だが、せめて、しなくていい時はしないでくれ。頼む…」
彼女は彼の手を握り呟く。その手は強く握られていた。フードを深く被っている為表情は見えないが声が震えていた。その様子を見て彼は察した。どれだけ自分を心配してくれていたのかを
「我儘だというのも分かっている。だが、それでも私は…」
「我儘なんかじゃないです。ありがとうございます。そして、ごめんなさい。ゆっくり休んで、直ぐにでも治しますね」
「…すまn」
「はい、それは言わない。貴女は悪くないんですから。ジェーンさんもごめんね、また心配かけちゃって」
「いえ…はい、大丈夫です…」
二人に謝罪をし、コウは改めてキングコブラに向き合う
「それで…その…、部屋に戻るんですけど、階段が辛いので支えてくれませんか?」
「…!御安い御用だ。ほら」
キングコブラに支えられ、コウは二階の部屋に戻っていく。頼られたからか、彼女は嬉しそうな顔で彼に寄り添い歩いていく
その様子を見て、複雑な感情を持った人がいることは、その本人しか知らない
◆
そこからは図書館でじっとして一日が終了。で、今は昼。兎に角怪我を治すことに集中したら、昨夜には脚が治って、今朝には他も治った。念の為ゆっくり動いてみたけど特に問題なさそうだ。サンドスターって凄い
皆は先にライブステージに向かい準備をしている。なんとついに明日開催だ。それを知ったのは昨日の寝る前。なんで誰も教えてくれなかったんだ…
というわけで、図書館に残っているのは俺と長二人だけ。騒がしいのは苦手だとは言っていたけど、当日は来るので手伝いたくないだけなのかもしれない
とてつもなく久しぶりにラジオ体操をする。因みに音楽は0.8倍速のゆったりモードだ。軽いストレッチみたいなものだね
「どうやら、もう大丈夫なのですね」
「これで一安心なのですよ、全く…」
博士と助手が話しかけてきた。手に持っているのはお米と籠いっぱいの野菜。人参、玉ねぎ、ジャガイモ…。それついさっきチョイチョイしてきたやつだろ。ラッキーさんをあまり困らせるんじゃないぞ?
「ああ!完全復活、パーフェクトコウ様だぜい!」←手を前に構えた
「「……」」
…なんかリアクションしてくれない?
「頭はまだだったようなのです」ヤレヤレ
「もう少し休んだ方がいいのです」ヤレヤレ
なんて酷い。いいだろう、その挑発買ってやる。この俺を怒らせたことを、後悔させてやる!
「そうか、それならそうしよう。この状態だと料理するのは危ないだろうからね」
「「!?」」
「いや~残念だなぁ。料理って鍋運んだり水汲んだり具材切ったり色々な動作をするから体調の確認には丁度良かったんだけどなぁ」
「「!?!?」」
「だけど昨日の今日だ。あの二人を悲しませるわけにはいかない。だから大人しく本を読むとするよ。ありがとう博士、助手。俺はまた間違いを起こす所だった」
「「!?!?!?」」
※全部棒読みです
実は午前中に二人の前でラッキーさんのスキャンをしたから、彼女達へ心配をかけることは(今の所)ない。流石に出掛けたりはしないけどね
「まっ、待つのです!作れないことはないのでしょう!?」
「そ、それに、ジャパリまんだけだと飽きるのではないですか!?」
「作れるけど、休めって言ったのは二人だよね?それに、各ちほーのジャパリまんがあるから飽きないよ。皆に感謝だね!」
これは本当。飽きの来ない特別な食べ物、それがジャパリまん!貴方もお一つどうですか?
二人は口をパクパクさせてる。どんだけ料理…というかカレー食べたかったんだ?正直俺も食べたいけど素直に作ってはやらんぞ
「い、言いすぎたのです!悪かったのです!」
おっ…?
「申し訳なかったのです!だから作ってほしいのです!」
許します
「…仕方ない、そこまで言われちゃあ、作らないわけにはいかないなぁ~」
ニヤリと笑うと、ハッとした博士と助手。ここで気づいたようだ。俺がわざとこの様な事を言っていたことに
「くっ…!出し抜かれるとは思わなかったのです…」
「このワシミミズク…一生の不覚…!」
気に入ったのかそれ?それに悔しがるとこではないでしょうが。謝るのは大切だ。意外と傷つきやすいガラスのハートなんだぞ?
まぁいいや、早速始めよう…と思ったけど…
「博士、大きい鍋はない?」
「ありますが…何故ですか?」
「明日はライブで島中のフレンズが来るでしょ?折角だから皆にも、と思ってね」
セルリアン騒ぎで協力してくれた子も来るだろうから、開始まで少しでも楽しんでもらいたいからね。俺に出来るのはこれくらいだから、出来ることはしていきたい
「それなら我々も手伝うのです」
「何か出来ることはありますか?」
「そしたら、作ったものを向こうに運んでもらってもいいかな?バイクじゃ流石に危ないからね」
「了解なのです」
「その代わり沢山作るのですよ?」
「任せといてよ。じゃあ、始めるよ!」
*
「こんなもんかな。それ食べたら頼むよ?」
「任せるのです!」モグモグ
「約束は守るのです!」モグモグ
作るのに時間がかかった為か、三杯おかわりをしてやっと満足してくれた。持ちながら飛んでも平気な重さに分け、何回かに分けて持っていってもらうことにした。つまみ食いはしないように、と言ったので大丈夫…かな?
洗い物をして…と
「次は、あれだ」
─
ここは図書館の地下室。暗い階段を降り、パチンッとスイッチを入れると、小さな明かりがポツポツとつく。この明かりだと少し物足りなく感じるが、何故か落ち着くような雰囲気も出している
今この地下室に、図書館にいるのはコウだけ。ここには入らないよう階段前の扉には貼り紙がしてある。その理由は、これから彼がすることにあった
「えっと…?これかな?」
テーブルにあるパソコンの電源を入れる。立ち上がるまでに少し時間がかかるみたいだ。その間に、隣に置いてあった日記をパラパラとめくる。ロッジにあったものと、もう一つ
「…先輩、ちゃんと見つけてくれてたのか」
日付を見て続きであることを確認する。ジャイアントペンギンに心の中でお礼を言い、パソコンの回りをうろうろ歩きながら読み進めていく
最初はじっくりと読み進めていたが、段々とページをめくるスピードが上がり、足を止める
そして、とあるページを読み終えて
「…そういう…ことかよ…」
確信する。立ちくらみがし、手が震え、日記を床に落としてしまうが、そんなことを気にしていられなかった。倒れそうになるが壁に寄りかかり体制を整える
顔を上げると、目線の先には、布を被った何か。それを取ると姿鏡が置いてあった。それの前に何とか立ち、呼吸を整え、そして口にする
「──野生、解放…」
内にあるサンドスターを全身に巡らせる。光が体を包み、獣の特徴が出る。彼は鏡に映った自分の姿を見て絶句した。開いた口が塞がらない。脚の力が抜けてしまい座り込む
──お前さんにはその権利がある。ただ、良いことばかりじゃない
「…その通りでしたね、先輩」
消えそうな声で、彼は呟く
「…頼むから…何も、起こらないでくれ…」
明日は皆が待ちに待ったぺぱぷのライブ。彼はその警備の仕事を任されている。この心境では満足に出来るとは思えなかったからこその願いだった
映像ファイルを確認することもなくパソコンの電源を切り、日記を自分にしか分からない場所に隠し、彼は地下室を出た
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます