第65話 みずべのステージ


早朝、図書館内にある一室。そこでジャパリまんを食べているのは、今島にいる唯一のヒト、コウ


「…はぁ」


今日はついにぺぱぷのライブ。なのだが、彼の心は沈んでいる。昨日の自分の姿を思い出しては頭を抱える


「…剣はこのままでも出せる。身体能力もおそらく上がっている。けど…」


セルリアンの動きが落ち着いているとはいえ油断は出来ない。何事もないのが一番なのだが、懸念している所はそこだけではない


戦闘を行うとすると、素早く片付ける為には野生解放は必須。それをすればけものプラズムが出る。まだ心の整理が出来ていない為これだけは避けたかった


「とりあえず、行くか…」




*




「おはようございます、コウ。皆さんはもう先に行きましたよ?」


「おはようございます…って、オイナリサマ?なんでここに?」


「朝起きて誰もいないのは寂しいと思いまして。貴方、寂しがりやですから」


フフッと微笑む彼女に、頭をかいて恥ずかしそうにする彼。幼いころの自分を知っている彼女だからこそのからかい方である。直ぐ様いつもの表情に戻し話題を変える


「俺達も行きましょうか。バイク乗りたかったんですよね?」


「そうですね。ではお願いします」


後ろに乗せて発車する。目指すはみずべちほーのライブステージ。そこまで時間はかかることなく、何事もなく着くのだった





「では、私は彼女達とお話がありますので」


ここからは別行動。オイナリサマは守護けもの同士の集まり。残った俺は自由行動…でいいのかな?


流石に広いな…。ステージの周りにはすでに多くのファンが…


「…殆どいないんだけど」


そう、殆どいない。場所取りでもしているのかちらほらいるのだけど、それでも少なすぎる。一体何故だ?


「おや?コウじゃないか。久しぶり」


こ、この冗談を言うのが得意そうな声は…!


「オオカミさん。キリンさんにアリツカゲラさんも。久しぶり、元気にしてた?」


「それはこっちのセリフよ!何日も眠ったままだったのに能天気ね」


「うっ…」


「まあまあキリンさん、いいじゃないですか、今はこうして元気にしているんですから」


この三人は、通称ろっじトリオ。前に俺が大怪我をした時に凄くお世話になった三人だ。感謝してもしきれない大恩人。彼女達も警備の仕事がある


「アリツカゲラさん、ろっじは大丈夫なんですか?」


「ライブでお客さんもいないですし、ボスがいてくれるので大丈夫です」


ラッキーさん有能ポイント+1。1億ポイント貯まったら特製オイルをあげよう。それを続けたら利息がつくから頑張ってね


「ん?そういえばコウは今来たのかい?」


「そうだけど、どうしたの?」


「いや、あれはコウがやっているのかと思っていたからね」


あれ?と首を傾げると、オオカミさんが案内してくれた。そこにあったのは、屋台の様なものと、フレンズの行列、美味しそうな匂い


そこに立っていたのは、セルリアンハンターであるはずのヒグマさん


「こらー!ちゃんと一列に並べー!まだまだあるから押すんじゃないぞー!」


『はーい!』


…あれ、俺が昨日作ったカレーじゃね?あの感じヒグママじゃね?ご飯炊けてんじゃね?


「あっ!ヒグマさん!いましたよ!」

「早く来て下さい!オーダーキツいんですから!」

「えっえっえっ?うわっ!?」


キンシコウさんとリカオンさんに見つかり、両腕を捕まれ引きずられる。なんと何も説明がない。これは立派な誘拐だ!助けてろっじトリオ!


「私達はここで失礼するわ!」

「博士達と打ち合わせがあるからね」

「また後で会いましょう?」


この裏切り者ォォォォ!!!



*



「はぁ…疲れた…」


「お疲れさまでした」

「すみません、来て早々…」

「ありがとう、助かった」


一通りはけたかな…?鍋もすっからかんだ、もうほぼ残っていないよ…。だけどヒグマさんが言うには来る前からこんな調子だったらしい。笑顔でおいしいおいしい言ってくれたので悪い気はしないけどね


「もう大丈夫なんだな?」


「お陰様で。でもなんでこんなことを?」


「火を怖がらず、料理を知っているのがヒグマさんくらいですからね。博士達に頼まれまして」


「あー…」


温め直しを神獣には頼めないしね。そうなると候補も限られる。納得できてしまうのはいいのか悪いのか…


「私達は見回りをしてくる。お前はゆっくりしていけ」


「そうする。またね」


「はい、また」

「バイk」

「終わったらね」


リカオンさん、もしかして機械好きなのかな?ラッキーさんも好きだったし



*



なけなしのカレーをよそい食べていると、これまた久しぶりな子が来てくれた


「あれ以来だな、コウ」

「こ、こんにちは!」

「お久しぶりね」


バリーさん、アードウルフさん、ブチハイエナさん。何でもカフェに行く時に出会い、そのまま同行しているようだ。たまに稽古もつけてもらっているのか、アードウルフさんのおどおどした態度は少なくなっている


「どうだった?カフェの新メニュー」


「あのクッキーとケーキはお前が教えたんだろ?凄いな!あれはとても美味だった!」


「バリーさん、幸せそうに食べてましたからね」


「武人らしさなんて見当たらなかったわ」


「そ、それは言わない約束だっだろう!?」


甘いものは、百戦錬磨の獣でさえトロけさせる。未知の甘味であれば尚更である。カァンミィ!


「カレーは食べた?」


「食べました!辛かったけど凄く美味しかったです!」


「また食べたいわ。あれもカフェで出ないかしら?」


「アルパカさんがやる気ならいけるかもね」


好評好評。カフェに行く予定もあるから、その時にでも話をしておこう


「警備まで時間があるな。どうだ?手合わせを」


「しません。申し訳ありませんがそれはまだ先でお願いします」


「むぅ…仕方ない。ならアードウルフ、稽古をするぞ」


「わ、分かりました!」


「あら、行くみたいね。またね」


「うん、また」


挨拶をし、三人は警備場所へ向かった。他にいるフレンズと合流してる…、他のライオンさんかな?特に真っ白で綺麗な鬣の子が目立つ。あんな子もいるんだなぁ



*



片付けをしていると、またまた久しぶりな子達。ブラックジャガーさんとチーターさん姉妹。何やら手には棒状のものが握られている。それってサイリウムだよね?


「それ持って警備するの?」


「これは武器にもなるからいいだろ?私達はPPPのボディーガードだ。最前列で応援…じゃない、守らなければな」


そうですか、少し苦しい言い訳に聞こえるけど。後ろの姉妹が呆れた顔で見ているけど。本人が気にしていないならいいか


「PPPに挨拶はしたのか?」


「いや、まだだけど」


「ならついてこい。お前なら入っても大丈夫だろ」


「えっ?ちょっ」


腕を引っ張られ連れてかれる。皆今日は積極的ですね、お兄さんの腕が取れてしまいますよ?



*



「皆、お客さんを連れてきたぞ」


「お客さん?って!コウじゃないの!」


ここは所謂楽屋。呼び掛けられたプリンセスさんが声をあげ、次々と皆に呼びかけられては軽い挨拶をする


「料理おいしかった~。また作って~」


「こいつ、何杯もおかわりしててさぁ~、俺達の分まで食いそうな勢いだったんだぜ?」


「ハハハ!フルルさんらしいね。また今度作るよ」


「ホント?やった~!」


今度は差し入れとして何か作ってあげよう。なるべくカロリー控えめの物がいいか?


「おはようございます!今日は楽しんでいってくださいね!」


「楽しみにしてるよ。まぁ、警備の配置にもよるけどね」


配置によってはステージが見れず歌だけ聴こえてくる、なんてこともありえるんだけど…


「コウはここみたいだぞ?ほら、これ」


コウテイさんが出したのは、ステージ回りの見取図みたいな物。所々絵が描いてあるけど、これが警備の配置を表しているようだ。なにこれ俺言われてない…


「何も言われていなかったんですか?」


「うん。ライブの日にちも警備も準備もね」


「サ、サプライズですよ!…多分(ボソッ)」


自信なさげなのが突き刺さる。てか皆も言ってくれなかったよね?それは何故ですか?小一時間問い詰めたいしだいでございます





それからはカフェでの出来事、遊園地で別れた後の話、図書館での事など色々話した。楽しい時間は経つのが早いもので…


「あっ、もうこんな時間!皆、もう一度確認するわよ!」


おっと、もうそんなに経っていたか。なら俺は退散するとしますかね


「頑張ってね。じゃあ俺はこれd」



「待ってください!」



マーゲイさんがジャパリまんが入った籠を抱えながら戻ってきた。走って来たのか息が上がっている。それ一つください。ダメ?


「コウさん!仮面フレンズについて考えt」


「やりません。出し物なら他に頼んで」


「やっぱりダメですか…」←ジャパリまんをしまう


(あっ…ジャパリまん…)


「そんなに嫌なのか?ヒーロー役」


「嫌…というより…俺は…」


「俺は?」


「…何でもない。頑張ってね。それじゃ」


「あっ…はい…」



*



楽屋から出て来て警備場所に向かう。少しぶっきらぼうな態度をとってしまったかもしれない。後で何かお詫びをしなきゃな…


だけど俺は、俺の力はヒーローというより…


…やめよう。今は目の前のことだけを考えろ


「さてと…ここかな」


警備の配置は、北側がバリーさん率いるネコ科達。南側がヒグマさん率いるクマ科達。東側がツチノコさん率いるヘビ科達。西側がオオカミさん率いるイヌ科達。どれも精鋭揃いだ。そこにプラスで人員が配置されている


ここはステージ正面から少し歩いた所。観客とステージが全て見渡せる位置。俺はここの警備だ。観客に何かあっても直ぐに対応できるよう他にはトリのフレンズがいる。今は他の子達と話をしているから俺だけ…と思ったら


「「おはようなのですよ、コウ」」


「おはよう、博士、助手」


博士と助手がいた。どうやら二人もここで警備だそうだ。長がいるにはピッタリの場所。何かあったらよろしく頼むよ?


「またマントをつけているのですか?」


「ああ、何となくつけてきちゃった」


というのは実は嘘。あれを隠したいからまたつけてきてしまった。といってもおそらく隠しきれるものではなくなってしまったけど


(博士、これはどうしましょうか?)

(心配はいらないのですよ、助手。次の手は考えてあるのです)

(あの方達からの依頼ですからね。成功すれば…)ジュルリ

(期待しているのです…)ジュルリ


おい、何か企んでないか?


「本番までもう少し時間がありますので、自由に見て回ってきてもいいのですよ?」


「いや、段々観客も多くなってきたし、それは後でゆっくりするよ」


「なら話し相手を連れてきてやるのです」

「ボッチには優しくしてやるのです。我々は長なので」


余計なお世話だこのヤロー



*



「皆さーん!まもなく始まりますので、今しばらくお待ちくださーい!」


マーゲイさんのアナウンスと同時くらいに、博士と助手が話し相手を連れてきた


「コウ、おはよう」


「おはようございます、キングコブラさん」


来たのはキングコブラさん。連れてきた博士と助手は『おジャマ虫は退散するのです』と言って何処かへ行った。もう始まるぞ?そしていらん気を使いおって…


因みに蛇の王なのに率いていないのは、ツチノコさんが彼女が自由に動けるようにした配慮らしい。何でそんな事を?


「お客さん多いですね。しかも始まる前からすでにボルテージが上がってますし」


「告知から随分経っているからな。それほど待ち望んでいたのだろう」


「貴女も嬉しそうですね」


「民が楽しそうにしているのは良いことだ。今日は私も楽しむとする」


見ると口角が少し上がっている。彼女がこういうものに興味を持ち、楽しそうな顔をするというのは、実は少し意外に思っていた。けどなんか安心した。王だ民だと言いつつも、彼女も一人の女の子なんだ


「お前は楽しみじゃなかったのか?」


「えっ?楽しみでしたけど?」


「そうか?浮かない顔をしていたような…気のせいだったか?」


「…気のせいですよ。さぁ、始まるみたいですよ」



ぱぱ ぴぷ ぺぺ ぽぱっぽー ぱぱ ぺぱぷ♪



\キャーペパプー!/\カワイイー!/\コッチムイテー!/



歌い出しのフレーズと共に、五人がステージへ姿を現す。それと同時に、溢れんばかりの黄色い歓声が上がる


「皆お待たせ!ロイヤルペンギンのプリンセス!」

「イワトビペンギンのイワビーだぜ!」

「ジェンツーペンギンのジェーンです!」

「フルル~!フンボルトペンギン~!」

「コウテイペンギン、コウテイだ!」



「5人揃って!」



「「「「「ぺぱぷ!!!!!」」」」」

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