第66話 ぺぱぷライブ


お決まりの出だしが決まった所で、歌が流れる…わけではなく


「いやぁ~ついにきたな!告知から何日経ったんだ?」

「えっと…、一月くらいだそうですよ?」

「のんびりできたよね~」

「練習もしてたじゃないの!確かにのんびりしたりもしたけど!」


軽いトークである。フルルさんの持ち前のマイペースで観客を笑わせる。掴みはOK!といったところか


「みんなー!今日は思う存分盛り上がっていってくれー!」


\ワー!/\キャー!/\イエーイ!/\ジャースティス!/



…今変な歓声なかったか?



「先ずは挨拶代わりに一曲目!いつもの行くぞ!」

「ええ!では聴いてください!」



「「「「「大空ドリーマー!!!」」」」」



ぱぱ ぴぷ ぺぺ ぽぱっぽー♪ ぱぱ ぺぱぷ♪



歌に合わせて踊り出す。手を大きく振り、ピョコピョコ跳びはね、クルっとターンし決めポーズ!息ピッタリでぶつかったり躓いたりは今のところなさそうだ



「皆!自己紹介いくわよ!プリンセス!」

「コウテイ!」

「ジェーン!」

「イワビー!」

「フルル~!」


「5人揃って!」


「ぺぱぷ!」

「ぺぱぷだ!」

「ぺぱぷです!」

「ぺぱぷだぜ!」

「ぺ~ぱ~ぷ~!」


「って!合ってないじゃない!」



\サッキアッテタジャン!/\カワイイー!/\オモシローイ!/



やっぱり一番はわざと合わせていないのか?もしかしたらバリエーションがあるのかもしれない。ライブ毎に違っていたら記録するのもいいかも。…マーゲイさんがやってそうではあるが


ここから見ると、サイリウムがキラキラ光っててなかなか綺麗だ。振るタイミングがほぼピッタリ。相当訓練されている…のかもしれない


ふと隣を見ると、観客のサイリウムに合わせてゆらゆら体を揺らすキングコブラさん。結構左右に揺れているけど大丈夫なのか?


「楽しそうですね?」


「ハッ!?い、いやこれは体が勝手に…!」


「俺はいいと思いますよ。楽しそうにしているのを見るとこっちまで楽しくなりますし」


何気なく言ったのだが、彼女は顔を赤くしてピタッと止まってしまった。なんか申し訳ないので『歌聴きましょうか』と意識を戻す言葉をかける



「皆!もう一回いくわよ!プリンセス!」

「コウテイ!」

「ジェーン!」

「イワビー!」

「フルル~!」


「5人揃って!」


「「「「「ぺぱぷ!!!!!」」」」」


\ヤッター!/\キマッター!/\イヤッフー!/\ヒューヒュー!/



今度はピッタリ。多分これテンプレなんだろうな。ハイタッチに観客へのウィンク、パフォーマンスは欠かさない…と



海は泳げるけど

恋に溺れちゃうの 君と

PETA PETA 心触れ合って

PUN PUN よそ見はしないで

いつも私だけ愛して

泣いたり笑ったり Pop People Party, PPP♪



…思うんだけど、『私だけ愛して』の部分、ハートマークが付きそうだよね。てか付いてるよねこれ。ジェーンさんパートなんだよねこれ。なんか似合う


歌詞に恋に溺れるとか愛してとかあるから、彼女達はそれを知っている…のかな?フレンズの恋愛事情ってどうなってるんだろうか。俺が気にすることじゃないけどさ



──その様な関係になりたいと想ったことはないのですか?



「出ていけ呪いの言葉ァー!」

「急にどうした!?」

「はっ!?す、すみません、何でもないです…」

「そ、そうか」


つい叫んでしまった…。盛り上がっている所にこれは凄く失礼だ。気を付けなくては…


曲が終わり、拍手喝采で盛り上がりは加速する。ぺぱぷといったらやっぱりこれだ。これを聴かなきゃ始まらないね



「みんなありがとー!続けていくよ!聴いてください!」



「「「「「ペンペン・サンサン!」」」」」



ペンペン・サンサン?聞いたことがない──



『ペンペン・サンサン!みんな、楽しんでいってね!ミュージックスタート!』



──いま、のは…?



*



「みなさーん、どうでしたかー!?」



\ステキー!/\キレイナウタダナー!/\ジェーンサンカワイイ!/



「(可愛い…///)ありがとうございます!この歌は、実は初代の代表曲なんです!」

「最近図書館で見つけたんだ。上手く歌えて良かったよ」

「初代超え、いや、どの世代よりもすげぇぺぱぷになってやるぜ!」

「その為に、皆にも知ってほしくて歌ったの」

「こういうの、カバー曲って言うんだよね。みんな覚えてって~」



はーい!と、息のあったいい返事が返ってくる。これなら皆覚えて帰りそうだね


にしても初代か…。なら、さっき聴こえた言葉は、きっと…



「次の曲も、初代の曲をカバーしたものになります!聴いてください!『アイシクルラヴァーズ!』」



*



「ここで、少しの休憩を挟みます。皆さんもお水を飲んだりしてくださーい!」


ぺぱぷが手を振りながら、一旦ステージを離れ楽屋へ戻る。三曲続けたから凄い熱気だ、皆脱水には気を付けろよ


ガヤガヤと話し声がする。ここまでの道のりや歌の感想、押しのメンバーについてなど話題は様々だ。今日会ったと思われる子達も、もうすでに打ち解けている様子も見える


すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を。

風・・・なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、俺たちのほうに。

中途半端はやめよう、とにかく最後までやってやろうじゃん。


「お前はたまによく分からないことを言うな」


「あっ…すみません。心の中で呟いたと思ったんですが」


「…まぁ、楽しそうで何よりだ。ところで、話が変わるんだが…」


「なんですか?」


「えっと…だな」


真剣ながらも戸惑った声色と表情。なに?まさか深刻な悩み?このタイミングで!?いや待ってそうだとしたら心の準備g



「そのマント、貸してくれないか…?」



「…………」←無言の取り外し+差し出し



「ありがとう…どうした?」


「いえ…。着け方分かりますか?」


「…すまない、教えてくれ」


後ろに回り着けてあげる。彼女のフードごとスッポリ覆うことが…出来てない。フード部分が後ろに垂れるのは仕方ないか


「どうだ?似合ってるか?」


「似合ってますよ、格好いいです」


「そうか。良かった」


クルクル回るのでマントがなびく。それを他のフレンズが不思議そうに見ては声をかける。自慢をするように解説をする彼女と、それを聞いて眼を輝かせる子達。ドヤッてるキングコブラさんは新鮮だ


一通り解説が終わり、今度は広げたりぎゅっと縮こまったりしている。そして、ぐっ…とマントを体に密着させている


「どうかしましたか?」


「いや、その…お前の匂いが…」


「あー…もしかして、臭いました?すみません」



「いや、お前が側にいる気がして…安心する…と思ってな…///」←無意識



「…………」



待ってなにそれ

耐えろ顔に出すなやばい今めっちゃ顔熱い顔だけじゃない体全体が熱くなっていく

なんでそんなこと言うの

なんでそんな照れた顔で言うの

なんでその体勢をキープしてるの

恥ずかしくないの眼を瞑って黙っちゃったよ

どうして何も言ってくれないの

俺は一体どうしたらいいの

抱き締めて『本人とどっちがいいですか?(イケボ)』とか言えばいいのか?


※この間一秒足らず



「…うんっ!そうだなっ!」←無意識



「…ァ…///」←気づいた



…ってそうだなじゃねーよ何頷いてんだ俺!



他になんかあっただろうがァー!本人も顔真っ赤にして困惑してるよ!どうすんだよこの空気!?



「みんなただいまー!」



\オカエリー!/\マッテタヨー/\ヒャッハー!/\デデーン!/



「っ…!キ、キングコブラさん!トークショーがまた始まるみたいですよ!///」


「あっ、ああ!そうだな!聞こうか!///」


またもや黄色い歓声があがる。どうやら戻ってきたようだ。ナイスぺぱぷ!おかげで何とか戻ってこれた…。あのままだとどうにかなりそうだったし助かった…



「そういえば、皆料理は食ったかー!?食ってないやつは手を挙げろー!」



イワビーさんの言葉に誰も手を挙げない…ということは皆一杯は食べられた、ということだ。良かった良かった


反応も良く、『おいしかったー!』『また食べたーい!』『ほう…カレーですか。大したものですね』『辛いからカロリーはゼロ!』などの感想もちらほらあがっている。お粗末様でした、ってね


でもカロリーはゼロじゃないよ?


「実は、それを作った人が今会場にいるんです!」


会場がざわざわとする。当事者を探しているのかキョロキョロしている。幸いまだ俺だとは気づかれていない。セーフセーフ


「この前セルリアンが大量発生したでしょ?それもその子が解決したの。私達もセルリアンに襲われたんだけど助けてくれたのよね」

「あの時のことは感謝してもしきれないよ。この場を借りてもう一度言うよ。本当にありがとう!」


拍手が巻き起こる。正体も知らない相手を称賛する声もする。そんな大したことはしていない。むしろ俺がお礼を言いたいくらいだ


正直、アイドルなんて興味なかった。向こうでも無駄に人数が多いだけとか思っていた。歌を聴いても特に何とも思わなかったし


だけど彼女達の歌は、彼女達は凄かった。一生懸命で、ひたむきな態度で、とても輝いている。歌が心に響いて、とても気持ちが良かった



「その人は私達の大切な友達!だから、皆にも紹介したいの!いいかしら!?」



──えっ?



「見たーい!」

「さんせーい!」

「いいよー!」

「どんな子なのかなぁ?」

「カッコいい?」

「かわいいかもよ?」

「で、味は?」



──なんか…嫌な予感がする…!



「みんなありがとう!では登場してもらいましょう!どうぞ!」


「キングコブラさん!俺用事を思いだs」


「逃がさないのです」

「我々と来るのです」



ガシッ!と、後ろからいきなり両腕を捕まれ、俺はそのまま宙に浮く。音もなく飛び、気づかれることなく近づけるトリのフレンズ。俺を知っていて、そんな芸当が出来るのは二人だけ


「博士!助手!なにをするだァーッ!」


「嫌なら野生解放なり何なりすればいいのです。お前の方が強いのですから」


「ぐっ…!」


「しないなら大人しくしているのです。暴れると落ちてしまいますよ?」


訳あって、今は野生解放を使いたくない。何故俺の心境を知っているのか問いただしたかったが、その前に降ろされてしまった


降ろされた場所は、ここで一番目立つ場所


そう、ここはライブステージの中央。皆の視線が集中する場所


この場所で彼女達は、一体俺に、何をさせるつもりなのだろうか?

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