第63話 漆黒の獣翼


こんにちは、私はぺぱぷのジェーンです。コウさんが目覚めて七日、私とキングコブラさんがお世話をするようになって早二週間が経とうとしています


「スキャン終了。右腕ハモウ大丈夫ダヨ」


「ありがとう。どれどれ…」


彼はストレッチをするように腕を曲げたり伸ばしたり回したり、掌を閉じたり開いたり、ぐぐぐ~とまた伸びをしたりして確認をしています


「…うん、問題なさそうだ」


「脚ノ方モ、モウスグ治リソウダヨ」


「良かったですね、コウさん。では、脚の包帯を取り替えますね」


「ありがとう。それにしても…静かになったね、ここも」


図書館にいたフレンズさん達も、殆どが自分の縄張りに戻っていきました。といっても、半数以上の方が彼の目覚めを確認できた時点で帰っていったのですけどね


その方達は伝言を残していきました。それを彼に伝えると、凄く嬉しそうな顔をしていました。面会に来たのは、どうしても直ぐに話したい事がある子でした


彼等がどんな話をしていたのかは分かりません。私はライブの練習がありますし、彼は療養中というのもあってずっと一緒にいるわけではありませんから


キングコブラさんは周辺の見回りをした後、ヤマタノオロチさんの稽古を受けています。つまり、この部屋には私と彼だけ。二人っきりです


…二人っきり、なんですよね


「ジェーンさん?」

「ひゃい!?」

「どうしたの?大丈夫?」

「す、少し考え事を…あはは…」

「そう?ならいいけど」


ついつい深く考えてしまいました。きちんとやらないと…


「はい、終わりました」


「ごめんね、苦労かけちゃって」


「そんな…私がしたいからしているんです」


「それでも、だよ。本当にありがとう」


微笑みかけてくれるだけで嬉しいのにお礼なんて…。この状況、本来喜ぶべきではないのですが、それを幸せだと思ってしまう私は凄く悪い子です。だって、彼と居られる時間がたくさんあるのですから


私は遊園地での関わりくらいしか繋がりがないので、もっと仲良くなりたい。彼を知りたい。そのためにはどうしたらいいのでしょうか?


「そうだ、お願いがあるんだけどさ」


「お願い…ですか?」


「そろそろ外に出たいんだ。前までは立つのもキツかったけど、最近はそうでもない。リハビリもかねておきたくてね」


「うーん…私はまだ早いと思います。それに怒られてしまいますよ?」


私もそうですけど、図書館にはあの方達がいます。彼女達は彼の保護者のようになっており、凄く心配をされていました


「だからジェーンさんにお願いしているんだ。付き添いがいるならそこまで言われないだろうから」


そういうことですか。ただその言い方だと私を利用しているように聞こえます。彼はそんな風には思ってないでしょうけど、少し意地悪したくなりますね


「そうですね~…。コウさんもお願いを聞いてくれるならいいですよ~?」


な~んて、言ってみたりして。あまり困らせたくはないので冗談でs


「う~ん…そうだね、何でもは無理だけど、出来る範囲だったら」


「…えっ!?」


「えっ?どうしたの?」


「い、いえ…」


まさか本当に聞いてくれるなんて…。折角ですししちゃいましょう。しかし出来る範囲ですか…。これは意外と難しい…。私と彼で範囲が違うでしょうから…


でも、これはいけるはず…!勇気を出して…!


「…てください」


「えっ?」


「怪我が治ったら、カフェに一緒に行ってください…///」


いっ、言ってしまいました…!デートのお誘いをしてしまいました!顔が熱くて彼を見れません…!どんな表情でいるのでしょうか…


「…いいよ。ライブが終わったら行こうね」



…………ホッ



「ホントですかっ……て、コウさん、どうしたんですか?」


「いや…ジャパリまんの匂いが気になって」


ジャパリまんを顔に近づけています。近すぎて顔が見えません。ですがこれは私にとっても好都合でした。その姿を見なかったらきっと大声で叫んでいたでしょうし、今の顔は見せられないものになっているでしょうから


ですが、デートの約束が出来ました。勇気を出して良かった…!


「で、では!外に行く準備を!」


「そうだね。よっ…と」


壁に寄り掛かって立つ彼を支えます。彼の方が背が高いので上手く出来るか不安でしたが、何とかなりそうですね


「杖貸して?それ使うから」


「階段降りる時危ないですから、外まではこのままで行きましょう?」


「…分かったよ」


一段一段ゆっくりと降りていきます。手すりが有るとはいえ片足だけで降りるのは危険ですからね


階段を降りて外に出ると、暖かい日差しと二人の黒いフレンズが出迎えてくれました。その方達はトリのフレンズ。ハシブトガラスさんとヤタガラスさん。ヤタガラスさんはオイナリサマと同じ『守護けもの』で、太陽の力を使うとか。凄い話ですよね


「コウよ、動いて問題ないのか?」


「これくらいでしたらね。いい加減少しは動かないといけないと思いまして。それに、試したいこともありますし」


その言葉に私も二人も首を傾げますが、その答えは直ぐに分かりました



「──変身トランス・ダーク



彼が呟くと、背中から翼が出現します。それはあの日見た物とおな…じ…


「…あれ?」


同じ…ではない?確かに、あの時見た、コウモリのような大きな黒い翼が生えています


しかし、それは。左側はまるで…



「…余に近いな」



そう、まるでカラスのような真っ黒の翼。それはコウモリの翼に負けないくらいの大きさです。このような事がありえるのですか?


「あら?コウ、動いて大丈夫なの?」


向こうから来た方は、助手さんと、ヤタガラスさんと同じ雰囲気を出す、九本の尻尾を持つフレンズさん


「これくらいだったら大丈夫ですよ、キュウビキツネさん」


キュウビキツネさん。妖怪?という獣で、凄く綺麗な方です。尻尾のお手入れが大変そうです


「博士は?」


「博士は今オイナリサマと話をしています。それにしても、その姿でここにいるということは…」


「…うん、やっぱりそういうこと」


彼は、自分を吸血鬼と言っていました。吸血鬼は太陽に弱く、日の下を歩けないと聞いていました。ですが、今は日陰にいるわけでもなく、空を見上げ太陽に手を伸ばしています


「ごめん、誰か鏡持ってない?」


「コウ様、これを」


「ありがと。…可愛いね、これ」


ハシブトガラスさんがピンク色の鏡を彼に渡しました。可愛いと言われ照れています。女の子の嗜み…でしょうか。私も真似しようかな?


…裏にヤタガラスさんの写真が張ってあったような…気のせいでしょうか?


「ヘルとお嬢様の言った通り、俺は吸血鬼になっていなかった。だけど翼は出るのか…。格好いいからいいけど…。それにこの翼…あの時のあれが原因か…?」


彼が何か呟いていますが、その内容を私は理解出来ませんでした


「さて、と…!」


彼が翼を羽ばたかせ、空を飛び──



「ちょっと空中散歩してくる!大丈夫!直ぐに戻るから!」



──そう言って、凄い速さで飛んでいきました



…………………ほえっ?



「ちょっちょっちょっちょっと!?コウさん何処かへ行ってしまいましたよ!?」


「ハシブトガラス!」

「仰せのままに!」


「ワシミミズク!」

「これは貸しですよ!」


ハシブトガラスさんと助手さんが追いかけます。瞳は光り、飛び立つ際に強い風が起こりました


野生解放。二人は本気でした。まるで、獲物を狩る獣のようでした


「ジェーン」


「はっ、はいっ!」


「帰って来たら、あの子、少し借りるわね」


「はい…どうぞ…」


笑顔で言っていますが、内に秘めた怒りが滲み出ています…。正直怖いです。これが、伝説の獣さんの力…なのでしょうか


それにしても…



「コウさん…脚はまだ治っていないのに…」



どこかにぶつけでもしたら悪化しそうです。本当に、直ぐに帰ってくるのでしょうか…?







「…うん、大丈夫そうだ」


翼の違いから上手く飛べないかと思ったけど、それのバランス感覚は特に問題なし。脚と体の包帯の影響からほんの少し崩れるって感じかな


「っ…ととっ」


空中で止まるのも問題なし。ゆっくり高い所から景色を眺めることも可能。今までは太陽の下で飛ぶことは相応のリスクを伴うと言われてきたからね。マントがなくてもこれからは空を自由に飛べる、これは凄く嬉しい誤算だ。と、いうわけで…!



うひひひひ!いひひひ!わははは!うわっ!うふひひひ!うひひ!あ~っはぁ!うぁ~!おぉ~!すっごーい!たーのしー!



昼間からこんなに飛べるなんて…!その場で旋回もしちゃうもんね~!ほ~らぐ~るぐ~るしてるz


ズキッ!


いだだだだだだっ!調子に乗りすぎた…。まだここまでやるには早かったか…


そろそろ帰ろうかな。じゃないと怒られ──



キランッ!



──ん?何かが、向こうから飛んで来る…?







「何処に行ったのでしょうか?」


「そこまで遠くに行ってはいないと思うのですが…」


まだ万全ではないのにこの速さ…加減が出来ていない証拠ですね。あの人は調子に乗って色々なことをするでしょう。早く連れ戻さないと怪我が悪化するかもしれません


「ヘーイ!もしかして助手?」


「ハクトウワシ。今日は一人なのですか?」


「今日は別れてスカイレースに出る子をスカウトしてるのよ。それよりどうしたの?」


「それがですね…」



~ 少女 説明中 ~



「ハシブトガラスね、よろしく!それにしてもコウも飛べるのね!」


「よろしくお願いします。彼の力がどこまで回復しているのか分かりません。もしかしたら途中で力尽きる可能性もあります」


「そうなったらまた大怪我を負うのです。それだけは避けたいのです」


「そうね。…ねぇ、あそこでターンしてるのコウじゃない?」


「「ん…?」」


目を凝らし、遠くを見ると、確かに見覚えのあるシルエットが飛んでいます。しかもあの動き、凄く楽しそうですね…。こちらは心配しているというのに、あの人ときたら能天気に…


「ハシブトガラス…?助手…?なんか顔が怖いわよ…?」


「ハシブトガラス」


「どうされました?助手様」


「本気で捕まえるのです。少しお灸を据えるのですよ」ゴゴゴゴゴ


「畏まりました。ハクトウワシ様、協力、お願いします」ゴゴゴゴゴ


「オ…オーケー!」


「ありがとうございます。では…」



「「「野生解放!!!」」」



ミッション・スタートですハンティングゲームの始まりです

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