第62話 これから


どうも、アフリカオオコノハズクの博士です。今日はコウが目覚めてから六日目、面会が始まって四日目なのです


そして今日の面会人は我々島の長なのです。長なのに初日ではないのは、どうしてもと言うので仕方なく譲ってやったのです。我々は優しいので


そして今、コウと話すために、ドアの前に立っているのですが…


「あの…キングコブラさん?ちょっと待って…」

「心配ない、練習はした」

「いや自分でしますから大丈夫です。だからベッドから降りて…」

「他者にしてもらった方が気持ちいいと聞いた。それにその体じゃ辛いだろ。大丈夫だ、私に身を委ねろ」

「えっ…まっ…」


妖しい会話と布が擦れる音がするのです。もしかして…もしかするとそうなのですか?だとしたら昼間からナニをしようとしているんですかあいつらは


この場にぺぱぷ…特にジェーンがいなくて助かったのです。いたらどうなるかは容易に想像できるのです。私は賢いので


それよりもキングコブラもそういう想いだったのですか?確かにここまで一緒に来てはいましたがそんな素振りはなかったのです。あくまで友人という考えから世話をしているのかと


「どうだ?なかなか上手いだろ?」

「確かに、上手いですけど…っ」

「む…すまない、痛かったか?」

「…いえ、そうではないです…」

「そうか、よかった」


ちょっ、本当に始めやがったのです。この部屋はカーテンはあるので外から見えなくすることは出来ますが防音はそうでもないのです。やるなら地下で…地下でもやらないでほしいのですが


「博士、入らないのですか?」


後ろにいた助手が首を傾げます。当たり前の反応なのです。しかし助手はデートという言葉にさえ顔を赤くするくらいのうぶなのです。この会話が知られたらショートしてしまうのです


「今は取り込み中の様ですから、時間を置いてまた来ましょう」

「取り込み中?一体どういう…」


「うっ…そんなとこ…」

「気持ちいいんだろ?」

「そう…ですけど…」

「なら続けるぞ」

「ん…っ」

「…しかし…こんなに出るとは…」

「タイミングが…っ、なかった、もので…」


「「…」」


まずいのです、助手に聞かれたのです。艶かしい雰囲気を感じたのか顔が段々赤くなっていくのです。頭から湯気が出ているのです。助手のオーバーヒートが炸裂して草燃える。無言でドアノブに手をかけたのです


…待つのです!


「ミミちゃん!ちょっと落ち着いて…!」


ガチャン!


「ナニをしているのですかお前達はー!?」


「うおっ!?」ビクッ!


ズボッ!


「ぎゃああああああぁぁぁぁ!?!?!?」

「ああっ!?すまない!大丈夫か!?」

「鼓膜が!鼓膜が…っ、いだだだだだ!!」

「うわぁ!?他の所にまでダメージが!?」


…どういうことだってばよ?なのです







「いきなり入ってしまい、申し訳なかったのです…」


「いや、まあ、うん。次はノックして?」


長二人が正座してる。土下座しそうな感じがする。まさか自分が正座をしてもらう側になるとは思わなかった。正座芸人じゃないことが証明されて良かった瞬間である。キングコブラさんも正座しようとしていたけどあれは事故なので却下した


「まさか、耳掻きをしているとは思わなかったのです…」

「読めなかったのです…!このワシミミズクの目をもってしても…!一生の不覚…!」


助手がどこぞの軍師みたいなこと言ってるけど、そいつそこまで役に立った印象ないからね?ポンコツにはならないでね?


「じゃあ何してたと思ったの?」


「それは…その…」


顔真っ赤…。嘘だろ?まさか、そういうことを想像してたの?知識があるというのは諸刃の剣ですね。もう十分理解したので言わなくていいです、キングコブラさんにも悪影響を及ぼす可能性があるので


「まぁいいや。それで、何が聞きたいの?」


「色々聞きたいことはあるのですが…、キングコブラ、席を外してもらってもいいですか?」


「…分かった。頼みとあらば断る理由はない」


彼女が出ていく。聞かれたくない話でもするのだろうかとついつい警戒してしまう。悪い癖だ


「そんなに緊張しなくてもいいのですよ」

「先ずはセルリアンの討伐、お礼を言うのです。色々あったと思いますが、お疲れ様、なのです」


「そっちも避難誘導、小型セルリアンの討伐ありがとう。お疲れ様でした」


島全体に出るとは思わなかった、わけじゃないけど、それでも予想以上。皆の協力がなかったらこの結末にはならなかった


「我々は長なので。…と、言いたい所ですが、流石は守護けもの。予測通りなのです」

「しかしあの量の黒セルリアン…一体何時から準備をしていたのでしょうか…?」


…考えてみれば、ヘルは確か約一ヶ月前に再び現れ、結界に隔離された。そして、その間にベヒーモス、仮面、門番、化身セルリアンを作り俺を待っていた


通信から入った情報からして、黒セルリアンの量はかなりのもの。そして、ヘルはそれらに力を込めたと言っていた


それをたった一人のセルリアンが出来るものなのか?出来たから例の異変とやらは起こった?それらは本当にヘルの力を持っていた?


まさか、この異変は終わっていないのか?


「その話は止めましょうか。折角落ち着いたのです。今は過ごす日々を楽しみましょう。お前も、失った時間を取り戻したいでしょうから」


「…!」


「オイナリサマから聞きました。お前は過去のパークにいたと。なら、今後はパークを廻るといいのです。怪我を治してからですが」


「パークを廻る…か」


そうだ、俺は故郷に帰って来たんだ。今までの旅は、向こうで見ていたお話と照らし合わせての旅だったけど、これからは自分の思い出と照らし合わせる旅。きっと、見える景色は全然違う。そう思うと、今悩んでいるのが勿体なく感じるね


「そうだね。自由に廻らせてもらうよ」


なんだかんだ言って島の長。ちゃんと考えてくれているようだ


「本音を言うと図書館にいてほしいのです。まだお礼として料理を作ってもらっていないので」

「治ったら真っ先に作るのですよ?我々はグルメなので」


「おい良い話が台無しじゃねーか」



*



「さて、本題なのですが…」


本題か…。料理関係か?


「ラッキービーストの、お前に対する扱いはどうなっているのですか?」


「…どうって?」


「お前の力の由来は、結局はサンドスターだったのでしょう?元はヒトですが、今のお前はほぼフレンズではないのですか?」


…確かに。力の核はサンドスターで、けものプラズムもある。ヒトとフレンズのハーフというには比重がフレンズに傾いている


俺が今まで使っていた魔力…異世界の力は、どうやら俺の内にあるサンドスターと複雑に絡み合って残っているらしい。吸血鬼の特殊能力が使えるわけではないのは少し残念だ


さて俺は、どれに当て嵌めるのが正しいのだろうね?


「面倒なのは、今のお前はどう見てもヒト、ということなのです」

「という訳で連れてきたのです。どうぞ」

「アワワワワ…」


助手がいつの間にかラッキーさんを頭の上に高く掲げていた。降ろしてやれ


「これは大切な確認なのです。パークでラッキービーストと話せるのはヒトのみ。守護けものでさえ例外ではないらしいのです」


マジで?何処までもそれは貫くのか。実はこっそり話してるとかない?


「だからパークに住んでいたお前は、『フレンズ』なのか『お客様』なのか、そして『権限』を使えるのかを知りたいのです。使えるかどうかでこれからの事が変わってくるのです」


権限か…。パークガイド…職員ではないからそれは無理なんじゃないか?


あれ?でも要所要所でお願いを聞いてくれたし、けものプラズムが出ていても普通に会話してたような…どうなってんだ?バグ?


「コウ」


ラッキーさんが落ち着きを取り戻したのか話し出した


「君ノ体ハ、モウフレンズト同ジト言ッテイイクライダヨ。ダケド、ヒトデモアルカラ、接シ方ハ変ワラナイヨ」


…前にも、同じようなことを言ってくれたね。会話については大丈夫そうだ


「ソレト、モシ君ガ望ムナラ、権限ヲ持ツコトハ出来ルヨ」


「そうなの?」


「君ノ個人情報ガ見ツカッタンダ。君ハ碧ノ息子ダカラ、アル程度ハ使エルヨ。例エバ、材料ノ調達ヤ僕達ノ使役ダネ」


要は簡単な事だったら聞いてくれるようだ。材料の調達と聞いて二人が眼を輝かせたけど、その選択は俺にあるのを忘れないでよ?


「なら、その権限、借りていいかな?」


「分カッタヨ。コウヲ『暫定職員』ニ認定。権限ヲ付与」


これで、ラッキーさんに対するお願いの範囲が広がった…のかな?今までとあまり変わらなそうだけど、持っていて損はない


「よしよし、計画通りなのですよ、助手」

「そうですね、博士。次はあの四人に…」


何かヒソヒソ話してるな…。けも耳がないから聞こえん。ろくなことじゃなければいいんだけどなぁ…





それからは過去のパークについてや、旅での出来事などを中心に質問が来た。カフェのことに関してこれでもかと言うくらい褒められた彼は苦笑いを浮かべていた


「では、最後に一つ」


「まだあるの?」


「言いましたよね?質問攻めは覚悟してもらうと」

「我々は好奇心旺盛だと」


確かに言っていたことを思い出し、しかしこれで最後ならいいかと彼は思った。先程よりも真剣な表情をする二人に、どんな質問をされるのかと身構えていたが──



「お前とジェーン、キングコブラの関係はなんですか?」



──彼にとって、予想外の質問が飛んできた



「???」


「何首を傾げているのですか?」

「言ったままの意味なのです。それ以外にないのですよ」


「ハハハッ!ちょっと何言ってるか分かんない」


「なんで分からないのですか!?」

「関係ですよ!か・ん・け・い!」


関係というワードに、ふむ…と彼は相づちを打つ


「関係…彼女達との出会いはね…」

「そういう事じゃないのです!それは先程聞いたのです!」

「助けたとか助けられたとかではないのです!」


とんちんかんなことを言われた為、ついつい大きな声を出してしまう博士と助手。その反応に彼はうーん…と唸り…


「なら、男女の関係ってこと?そんなんじゃないよ。二人とも友達」


当たり前でしょ?と言いたげに答える。それを聞いた助手がつい口にしてしまった



「その様な関係になりたいと想ったことはないのですか?」



「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ぇ?」



その言葉に、彼は何か悩んでいるような、思い出しているような表情をしている。それはほんの数秒だったが


「…申し訳ありませんでした。気軽に聞いていい内容ではなかったようですね」


「…へ?」


博士が何かを感じ取り、謝罪をする。その瞳はとても優しかった


「何も言わなくていいのです。お前に暗い顔をされたら、あいつらから何を言われるか分かったものじゃないのです」


「いやっちがっ」


「これに関しては、あの人達に任せるとしましょう」


「あの人達?」


「こちらの話です。行きますよ、助手」

「わ、分かりました」


博士と助手は立ち上がってドアへ歩いていく


「今日はありがとうございました。また今度色々聞かせてほしいのです。あの二人にあまり心配かけてはいけないのですよ?」

「感謝するのです。では、おやすみなさい」


「…おや…すみ…」


そう言って、部屋から出ていった。閉められた扉を、彼はしばらく見つめていた







「博士、何故会話を切ったのですか?」


「…助手、コウはきっと恋愛絡みで過去に何かあったのです。耐え難い何かが。あの時、思い詰めた様な顔をしていましたから」


「ふむ…それなら、それを意識していない事にも納得です。…なら、私は余計な事を言ってしまったのでは…?」


「…関係がまだ浅い我々が聞いていいものではなかったのです。ですので、コウはあの四人に任せ、我々はあの二人を応援をするのです」


「二人…ジェーンとキングコブラですか?」


「そうです。ジェーンは確定ですが、キングコブラも何か想う所があったのでしょう。でなければ、あの時あんなに取り乱すことはなかったはずでしたから」


「それは…そうかもしれませんが…」


「必要以上に干渉はしないのです。相談があったり、思い悩んでいたらアドバイスをします。それでも駄目そうであれば我々からアイデアを出すのです」


「…なるほど。流石は博士なのです」


「当然です。我々は賢いので」







布団を被り、コウは博士の言葉を思い返していた。頭の中は、暗い考えで一杯──



(まてまてまてまてなんだこれはなんだこの気持ちは落ち着け落ち着け落ち着け)



──ではない。とてつもなく混乱していた



(そんな事想ったことはなかった決して女の子として見ていなかったという訳ではない好きかどうかと言われれば好きなんだけどそういう好きとは違くて違くて違くてぇ!)



悩んでいた様な顔をしていたのではなく、単に思考が追い付かずフリーズしていただけ。それを博士がいい感じに勘違いをしてくれただけだった



(あの二人とそんな…そんな関係に!?相手はそんな気ないだろうけど自分はどうなんだ…!?た、確かに助けられたしデートしたし隣で寝たし旅したし今もお世話になっているしくっついたりしてドキッとした時はあったけどそれは恋愛感情じゃないはず…!もしそうだったら二人とも好きになってることになる!そんなの最低じゃねーか俺!一人にしろ一人に!)



──キングコブラ殿がツガイということでありますか?

──お似合いだと思ったんスけどね



(なんで今それ思い出してんだやめろやめろマジでやめろ!)


こはんに寄った時に貰ったビーバー達からの一言。この状況で思い出すのは心の衛生的にとてもよろしくない


枕をボスボスと何回か叩いた後で、漸く頭が冷えてきた。腕で顔を覆いため息をつく



(…俺だって、誰かを好きになって、恋をして…そんな未来に進みたい。けど…分かんないよ…そんなこと…)



苦しい過去があった為に、そちらに対して意識を向ける余裕はなかった。無意識に避けていた。だが居場所を見つけ、心の負担が軽くなった今、それについて考える余裕が出てきた。だからこそのこの反応であった


(駄目だ、これは。考えれば考えるほど沈んでいくやつだ…。寝よ…。明日には元に戻ってるはず。いや戻っていてくれ、俺の心)


朝起きて真っ先に出会うのは十中八九あの二人。儚い願いを抱きながら、彼は布団を被るのだった

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