第61話 お見舞い品は大好物で


「おはよう、コウ」


「おはようございます、キングコブラさん」


朝起きたら部屋に女の子がいるとかギャルゲーかな?本来であれば羨ましく思われるだろうけど、大怪我をしているからいてくれるわけで。代償は大きすぎるわけでして。それでもいいって?そうですか…


「あれ?ジェーンさんは?」


「彼女はライブの練習中だ。そろそろ本番の告知をするそうだぞ」


そうだった、色々ゴタゴタしていたから忘れていたけど、ライブまだやってないんだよね。なんか言われてから五ヶ月くらい経ってる気がするけど、実際には一ヶ月くらいしか経ってないんだっけ?それだけ毎日が濃かった、ということかな


「にしても…前よりも食べてないか?ジャパリまん」


「へっ?ほおれふは?」


「飲み込んでから話せ」


「んぐっ…。確かにそうかもしれないです。まぁ回復に必要というのもありますので、無駄ではないですよ」


「そうだな…。そういえば、回復力落ちていないか?ろっじにいた時はもう足は治っていただろう?」


「…えっと」


確かに前は骨折は二日で治っていたから、回復力が落ちたのは事実。正確には、落ちた訳ではなく、元に戻ったのだろうけど


死にそうな怪我をしても平気だったのは、回復が速かったのは、俺の内にいた二人の姉さんのおかげだった。あいつから貰った魔力と摂取したサンドスターに加えて二人の物を使っていた


だけどその二人はもういない。俺を守ってくれる人はもういないんだ


「…すまない。何か辛いことを思い出させてしまったようだな…」


「えっ?あ、いや、そうでもない…」


そうでも…


「…そうでもない、訳ではないです…けど、大丈夫ですよ。貴女が気にすることではないです」


「…そうか」


これに関しては俺だけの問題だ。彼女が暗い顔をする必要はない。それに二人の力は俺に引き継がれているらしいから、単純にサンドスターが足りないだけかもしれないしね


「そうですよ。だからもっとください。できれば特製をご所望します!」


「…食い過ぎだ、バカ」


そう言って彼女は部屋から出ていった


ちらっと見えた横顔は、少し寂しそうだった





さて、オイナリサマが作った面会制度。ジャイアント先輩というとんでもないトップバッターから始まったこれ。他にも来てくれた人はいる


というわけで、誰が来たか記録していこうか




~ 二日目 ~


「よう、元気にやってるか?」

「お久しぶりです」

「こんにちはー!」


やって来たのはヒグマさん、キンシコウさん、リカオンさん。俗にいうハンター組


「久しぶり。体調はまあまあかな」


「それは良かった。ほら、お見舞い品の特製ジャパリまん」

「ありがとうございます頂きます」モグモグ


(ここは変わらないんだな…)

(手に取るのがはやいですね…)

(さっき食べてませんでしたか…?)


「ゴクンッ…。先ず、こっちから質問いいかな?」


「別にいいが、なんだ?」


「セルリアンの動きについて教えてほしい」


別れた後、山にいた時、そしてその後。関係ない話ではないので気になっていた


「あれから私達はゆきやまに向かいました。そしたら変なセルリアンがいまして…」


「変なセルリアン?」


「まるで絵本に出てくるようなセルリアンでした。首が3つあって、翼に尻尾、体が氷でできていたんです」


三つ首…キングギドラ…いや、ドラゴン?体が氷なのは雪山だからか?それもヘルが作ったのか?そうだとしたら面倒なものを作ったな、ホント


…ん?そんな奴、何処かで見たような…


「ただ、私達が戦おうとした瞬間に散ったんですよね。その時に見えた影を追いかけたんですが、一瞬で何処かへ行ってしまいまして」


ああよかった。特に何もなくて


…影?


「その影って何色だった?」


「ええと…確か、『白』だったと思います。しかし、何故そんなことを?」


「…それ、オイナリサマ」


「「「……ええええええ!?!?!?」」」


なんで説明してないんだあの人は…。今さら言う必要はないって判断なんだろうけど、貴女達見られているんだぞ?言っといてよ


「これには深い事情があってね。本人達から直接聞いてほしいかな」


「お前は教えてくれないのか?」


「俺が言うより、そうなっていた本人の方が詳しく話せると思うし、何より面会時間が迫ってくる」


「なら、お前が戦ったセルリアンについて教えてくれないか?」


「いいよ。先ずは──」



*



「なるほど…そいつが原因だったのか。途中で砕けたのはお前のおかげだったんだな」


「砕けた…ってことは」


「そのヘル?っていうセルリアンに連鎖したんだと思います。結構キツかったので助かりました。ありがとうございます」


「…いや、まぁ、うん」


複雑な気分だ。確かにパークの危機はヘルを倒したことで去った。だけどヘルが生まれ、異変を起こした原因は俺達が関わっているから、お礼を言われるのは果たして合っているのだろうか…


「…お前、また難しいこと考えてないか?」


なんか久しぶりだぞこの感じ。流石ヒグマさん、心まで読みきるなんて


「あの時にも言ったろ?思い詰めるなと。何があったは聞かない。お前がパークを救ったのは事実なんだ。胸を張れ」


「…うん、そう…だね。ありがとう」


「よし。で、その後の動きだが、今の所大型も黒も見かけない。平和だが、油断は出来ないな」


「そうだね。残党がいるかもしれないし」


「そう!そこで!コウさんにお願いがあるんですよ!」


リカオンさんが前のめりになってベッドに昇る。その姿はまるで飼い犬のようだ。そして相変わらずフレンズは顔が近い。犬科は余計に近いのか?


「コウさん、私達と一緒にハンターやりませんか!?」


「ハンター?俺が?」


「バリーさんから聞きましたよ?パークの為に出来ることをするって。コウさんは強いのでぜひお願いしたいんです!」


ハンターか…。考えたこともなかった。だけど俺にはやることがある


「ごめん、俺は皆と一緒にパーク中を廻ることは出来ないかな。やらなきゃいけないことがあるから」


「そう…ですか。スミマセン、無理を言ってしまいまして…」


リカオンさんの耳と尻尾がしょんぼりしてる。なにこの子可愛くない?圧倒的後輩感あるよ


いやそうではない、そうではない


「ただ、手が届く場所は必ず守る。それは約束するよ」


「…!あ、ありがとうございます!」


そう、俺の目標は『守護けもの』。パークを、皆を守ること。それが出来なきゃなることなんて出来ないからね


「それを聞いて安心したよ。私達はいつも通りパークを廻るから頼んだぞ」

「次こそ、ライブの警備ですね」

「あっ!バイクと料理…!」


「うん、気をつけてね。それはその時にでも、ね」


「約束ですよ~~~~……」


その日はヒグマさん達を見送って面会は終了した。リカオンさんは引きずられて行った。あの子ペットみたいになってないか?




~ 三日目 ~


「よう、数日ぶりだな?」

「お邪魔しますね」

「久しぶり。元気そうだね」


やってきたのはツチノコさんとスナネコさん。俗にいうさばくコンビ。スナァ!


「ほら、さばくちほーの特製ジャパリまん。見舞い品だ」

「ありがとうございますどうぞお座りください」


(こいつこんなんで大丈夫なのか…?)

(もっとあげたらどうなるか気になりますね)


「さばくは大丈夫だった?」


「あの夜は活発に動いていたな。俺達は地下への避難誘導をしていた。スナネコもこの時ばかりは飽きずに手伝ってくれたよ。その後は平和だ。地下迷宮でもあまり見かけない」


「ボクだってやる時はやるんですよ?」


「そっか。無事でよかったよ。協力してくれてありがとう」


「人のことより自分のことを心配しろ。ろくに動けないんだろ?」


仰る通りでございます。口調が強いが彼女は本当は凄く優しいのだ。でなければこうやってお見舞いに来てくれるなんてないだろうから


「今日は何も出ていないんですね。残念です」


スナネコさんが指を差した部分は、獣要素が出る所


ここ数日、俺には『けものプラズム』は出ていない


サンドスターが足りないだけなのか、それとも他の理由があるのかは分からない。そこまで重要な事ではないと思ったからほったらかしにしている


「多分怪我が治ったら出ると思うよ。俺としてはどっちでもいいんだけどね」


「ん?前はあまり気が乗っていなかったように感じたが?」


「まぁ、思うことがあってね。あってもいいかなって」


「…?」


リル姉さんとヨル姉さんの力が俺に宿っているなら、特徴が出ても不思議ではない。もしそれが出たなら、二人がここにいる証拠になる。それは、とっても嬉しいなって、思ってしまうのでした


「という訳で、楽しみにしてるといいよ」


「はい…」


…久しぶりだな、この飽きネコ。もう触らせてやらないぞ?でも触られたいわけじゃないから別にいいか


「ところで…だ、お前、あいつらと元々知り合いだったんだって?」


「あいつら…ああ、あの四人ね」


俺はあの四人にお世話になった過去がある。そしてそれは、人がまだいた時の時代。彼女がそこに食い付くのは不思議なことではない


「聞いたぞ、お前昔のパークにいたんだってな」


「そうだけど、そこまで詳しいことは知らないよ。大体一年くらいしかいなかったし」


「思い出せる範囲で教えてくれないか?」


「…いいけど」



*



「イベントにサンドスターの研究にカフェにアトラクション…!流石、人がいただけのことはあるな!」


「俺が来る前にも色々あったらしいけど、それに関しては詳しくはないから、これくらいしか言えないね」


「それでも貴重な情報だ!地下迷宮は調べ尽くしたかと思ったがまだまだ何かありそうだな!それに遊園地も!もしかしたら本当の遺跡があるかもしれない!早速帰って準備をしないとな!」


彼女のワクワクが最高潮になりつつあるけど、これは相当押さえているな。所構わず奇声をあげなくなった所を見るに彼女も成長したんだなぁ


「フアッ!?な、なんだヤんのかこのヤロー!キックシャー!」キシャー!


前言撤回、変わっていなかった。これはこれで安心感があるからいいんだけどね


「…で、これから砂漠に帰るの?」


「ハッ!?そ、そうだな。備えはあった方がいいしな。まだ聞きたいことはあるが…無理は出来ないからな」


「ごめんね、今こんなんだから…」


「謝ることじゃないだろ。それに、謝る相手が違うんじゃないのか?」


「えっ?それってどういうこと?」


「あっ…」


しまった…って顔してる。言わない筈だった、ということ?それについて聞きたいけど、聞くのも間違っているような気が…


なんかお互いに気まずい空気…これもデジャヴだな…


「もう帰るのですか?じゃあボクも帰ります」


よし、ナイスだスナネコさん


「そ、そうだ!もう帰るぞ!」


「はい…」


「そ、そういえば、あの時もスナネコさんと一緒に来てたよね?仲いいの?」


「あっ、ああ…それはだな…」


「ツチノコは寂しがりやですからね。ずっと隣にいてほしいと告白されまして…」


「なっ!?」


「…ほほう…それで?」


「そのまま押し倒されて熱い夜を…」


「おおう…なるほどなるほど…」


「なに誤解を招く言い方してんだ!違うからな!そんなんじゃないからな!待て待て納得したような顔してんじゃねぇー!」キシャー!


押し倒す→躓いて転んでベッドへダイブ

熱い夜→夜は寒いからくっついて寝ただけ


こんな所か。でも面白いからこのままでいこう


「大丈夫大丈夫。俺はいいと思う。ジャパリパークは全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ」


「だから違うッつってんだろうがァー!絶対分かって言ってんだろお前ー!!」


尻尾がピッシャンピッシャンと激しく床を叩く。これもまた懐かs



ドタドタドタ…



…なんか、忘れているような



バタンッ!



「何をやっているんですか貴方達は!?」


「「「あっ…」」」



*



その後オイナリサマにガミガミ説教された。声が大きいだの叩く音がうるさいだの言われてしまい、その日の面会は終了になった…と思ったら


「コウ、一つだけ言うことがある」


「なんですか?」


「時間があったら、キングコブラと話をしてやってくれ。勿論一対一でな」


そう言うとツチノコさんとスナネコさんはオイナリサマに連れられ部屋から出ていった。外を覗くと、二人がさばくちほーへ歩いていくのが見える


見送った後、天井を見上げながら考える。話すといっても、何を話せばいいのだろうか?

火山のこと?あの四人との関係?それとも…


「とりあえず、寝るか」


難しいことは、明日の自分が答えを出してくれる、という駄目な発想をしながら、俺は眼を瞑った

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