第55話 遠い遠い過去 -出会い-
「辿る前に…ジャパリパークに来る前のことは覚えてる?」
「…覚えてますよ。なんとなく、ですが」
「少し話せる?」
…なんでこんな確認を?必要なのかは分からないけど…取り敢えず話しておこう
*
「…おかしいわね。あの記憶は封印した覚えは…」
なんかブツブツ言ってるけどどうしたのだろうか。大丈夫なのか?
「まぁいいわ。貴方がパークに来た所…先ずは出会いから解いていきましょう」
「えぇ…」
彼女の手が俺の頭に触れると光が溢れ出す。それは段々強くなって──
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目を開けると、目の前にいたのは二人の女性と小さな男の子。資料かなにかをパラパラとめくりながら話をしている
「それでは『
「分かりました。ではまた後で」
翠さんと呼ばれた人…名は体を表す、という言葉通り、瞳と腰まである長い髪は翠色だ。そして、男の子の方は…
「では『
「…」
やっぱり、過去の俺だ。俯いていた顔を上げ、手を握り歩いていく
「…ぼくは、どこにいくの?」
そういえば『
「私も後々住む予定の家ですね。大丈夫、近いですよ」
丁寧な口調で話を続ける翠さんと、暗い顔を続ける僕。話を聞いているのか分からないくらい適当な返事だ
自転車に乗って少し走ると、研究所のような家に着く。中に入るとなかなか広く、ソファーにテレビ、ゲームもあった
「あら?もうこんな時間ですか。御免なさい、仕事があるので行きますね。後で男の人が来ますので、それまでゆっくりしていて下さい」
そう言うと彼女は出ていった。しばらくして男の人が入ってきた。瞳と首元まである髪は碧く、白衣を着て紙の束を抱えていた
「私は『
あの場面に繋がった。話をし、僕は寝た
◆
テーブルには朝食と思われる美味しそうなトースト、目玉焼きに簡単なサラダが並んでいる
「今日は皆で海に行くんだったな。そろそろ連れてこようか…」
ピンポーン
「む…来てくれたか」
バタバタ。ガチャ
「おはようございます、碧さん」
「おはよう、翠。紅、彼女h」
「きのうのおねえさん…?」
「…あれ?知り合いだったのか?」
「私が昨日連れてきたんですよ?『ミライ』さんから聞いてないんですか?」
「聞いてないが…まぁいいか。そうだ、私達は家族になったぞ。私が父、君が母、紅が息子だ」
「えっ?そうなんですか?」
「別に構わないだろ?」
「そ、そうですね…!えへへ…///」
翠さんが顔を赤くして嬉しそうにしているが、碧さんは特に気にしていない表情だ
「それと昨日言ってたフレンズなんだが…」
「あー!パパ!この男の子が紅なんだね!」
「母上も来ていたのか。おはよう」
二人の女の子が二階から降りてきたと思ったら、オオカミの方が僕に嬉しそうに抱きつく。当の僕は固まっているが
「『リル』さん、『ヨル』さん。おはようございます」
「おはようママ!」
「リル、離してやれ。怯えているぞ」
「あっ…ごめんね!」
凄い汗かいてる。こんなんだったっけ?俺
「さて、出発する前に改めて自己紹介をしようか」
身支度をしながら、全員が僕を見る
「ボクはリル!フェンリルのフレンズだよ!」
「私はヨル。ヨルムンガンドのフレンズだ」
「翠です。お母さんでもいいですよ?」
「私は八雲碧。そうだな、お父さんと呼ぶといい」
*
その日は海でPIPのライブを見たり、ジャパリカフェでご飯を食べたり、色々なフレンズに会ってお話ししたり…凄く忙しい一日だった。家に帰って来た時にはもう真っ暗で、お風呂に入って直ぐに皆寝てしまった。だけど、僕は寝れずにいた
皆優しくしてくれた。見えないと肩車をしてくれたり、アイスを買ってくれたり、はぐれないよう手を繋いでくれていたり、おもちゃを買ってくれたり…
この人達は本当にいい人だった。それは嘘じゃない。それなのに…
「…のど、かわいた」
部屋から出ると、碧さんの部屋から光が漏れている。中から話し声が聞こえ、つい立ち止まってしまった
「…これが、コウの過去だ」
その言葉を聞き、息が上手く出来なくなる。知られていた。言われてしまった。嫌な記憶が甦ってくる。それを考えていたから寝れなかったのに。頭の中にそれは居座って出ていかない
この人達も、あの大人達と同じなんじゃ──
「酷い!コウは何も悪くないじゃない!」
「ああ…!こんなこと許せる訳がない…!」
「そこで二人にお願いしたいんだ。コウの側にいてほしい」
「お安いご用だよ!寂しい想いなんて絶対にさせないんだから!」
「ずっと一緒にいてやるぞ!私達は姉だからな!」
──同じ、じゃない…?
「髪と瞳の色が紅いからって自分の子供捨てますか!?信じられないですよ!しかも直接そんなこと言うなんて!」
「それに暴行まで。私達もそうだが、色が違うだけでなんだというのだ…!」
「ホントだよ!あんな綺麗な色してるのにさ!」
「情熱的でいいではないか!」
──そんなこと、初めて言われた
僕の…俺の母は俺を捨てた。俺の髪と瞳の色が憎かったらしい。最後に言われたあの言葉は、忘れることはないだろう
父については何も知らない。俺が産まれた時にはいなかったそうだ。何故かは知らないが、母からの言葉で大体予想はついていた。おそらく、俺が原因だ
当たり前だ。自分達は違うのに、産まれてきた子供が紅い髪と瞳なんてしていたら浮気でもしてたのかと疑われる。そこから家庭崩壊を起こして離婚…そんな所だろう
行く先々の人も同じ感じだった。厄介者にされ、呪われているだの、悪魔の子だの、好き放題言われ、俺と好きで一緒にいようとする人なんていなかった
だから嬉しかった。自分を肯定してくれる人がいることが。自分を見てくれる人がいることが
頬を伝う涙は、悲しさからくるものじゃなかった。嬉し泣きというのを、この時初めて知った。信じる心を、初めて知ったんだ
◆◆◆
それからはどこに行くにも何をするにも二人は着いてきた。というかリル姉さんは過保護な感じだった。少し躓いただけで涙目で心配してきた。それをヨル姉さんが呆れて見ていたのが何故か面白かった
色々なことを体験した。スカイレースを見て、映画の撮影現場に入って、図書館で本を読んで、全部のエリアを回って…
色々なフレンズにも会った。皆優しくて、可愛くて、綺麗で、格好よくて…
伝説のけものさんにも会った。少し怖かったけど、僕の過去を知ったら凄く優しくしてくれた。キュウビキツネさんの尻尾はモフモフで、ずっと触っていたら姉さん達が対抗していた
季節のイベントもやった。お花見、海水浴、お祭り、紅葉狩り、クリスマスにお正月…
出来ることが増えたら喜んでくれた。危ないことをしたら心配しながら怒ってくれた。怖い夢を見て泣いていると哀しんでくれた。新しいことを見つけるのが凄く楽しかった
ずっと一緒にいたいと、ここにいていいんだと、心から思えた。心から言ってくれた
そして、月日は流れ──
「…ねれない」
お昼寝をしたからか寝れなかった。月明かりに導かれるように窓を開け、外を見ていた
すると、ベランダに、誰かが立っていた
金色の長い髪、紫色の洋服、リボンのついた帽子を被り、ピンクの傘をさした、不思議な雰囲気を纏う女性。その表情は今にも消えそうだった
「…おねえさん、だれ…?」
僕が声をかけると、驚いた顔でこっちを見て
『…坊や、私が見えるの…?』
─
「…ああ、そうか…あの時出会ったのは、あの世界に迷いこんだのは…」
「…そう、私よ」
門番の姿が変わっていく。それは、俺の世界で見慣れた、信頼していた人
「…先生は、知っていたんですね。俺の過去を。俺の力を」
「勿論全てではないわ。聞きたいことは沢山あると思うけど、後でもいいかしら?」
「…いいですよ。続き、お願いします」
─
「ぼくにしかみえないの?」
『いいえ、一部の子には見えているわ』
他にも見える子がいるかもしれないけど、とは言っていた。フレンズにはそこまで会っていない…というより、会わないようにしたらしい。サンドスターに当たってもフレンズ化しない異世界からの迷い人。不思議とそのことを疑うことはなかった
『坊や、名前は?』
「ぼくは、やくも こう だよ。おねえさんは?」
『(八雲…か)…私は「メリー」。明日もここに来ていいかしら?』
「いいよ。またおはなししようね」
そう言うとその人は手を降って飛んで行った。僕も眠くなったので床に就いた
─
「…なんで偽名使ったんですか?」
「本名は言えなかったし、情報を残すわけにはいかなかったし」
(ガッツリ残ってそうなんですがそれは)
「とりあえず、続きいくわよ」
─
その人とお話をすることが夜の日課になっていた。それを不思議がった姉さん達に見つかって、メリーさんの存在を知られた。オイナリサマ達には知られていたようで、少しトラブルになったけど大事にはならなかったみたい
たまに姉さん達やオイナリサマ達も一緒に話をするようになっていた。フレンズやパークのことに興味津々で聞いていたのは見てて面白かった
メリーさんは昼間は何処かへ行き、夕方にはここに来て、また夜に何処かへ飛んでいく。何をしているのかは教えてはくれなかったけど、夢のような話を沢山してくれた
メリーさん曰く、あの日僕に認識されなかったら、消えていたかもしれないとのことだった。世界から外れた存在だからだと言っていたけど、当時の僕に分かるわけもない。これは内緒よ?と言われたので誰にも言わなかった。嘘っぽかったけど
それから、数週間が経ち
あの事件が、僕達に襲いかかった
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