第54話 vsセルリアン -二人の姉-
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「…あら?おはようございます、アオイさん。今日はどうしましたか?」
「えっとですね…見せたい者がいまして…」
「見せたい者?なんでしょうか?」
ヒョコッ
「オオカミと、ヘビのフレンズ…ですか。何のフレンズなのですか?」
「…リルとヨル…です」
「はい?もう一度言って貰えますか?」
「…フェンリルと、ヨルムンガンド…です」
「なるほど、フェンリルとヨrええええええぇえぇぇぇぇ!?!?!?」
──ボクはフェンリルのリル!よろしくね!
━━ヨルムンガンドのヨルだ。よろしく頼む
「え、ええ、よろしくお願いします。…ではなくて!何故そうなったんですか!?」
「えっと…どこから話したらいいのか…」
──君がオイナリサマ?じゃあオイナリちゃんだね!
「オイナリちゃん…!?」
━━…すまないな。こういう奴なんだ
「こらリル、失礼だぞ。そういうのはもうちょっと仲良くなってからにしなさい」
──は~い、分かったよパパ
「パパ!?ミドリさんが産んだのですか!?いつの間に!?」
「落ち着いて下さいオイナリサマ、私達まだしてないです。いや違う付き合ってないです。確かにそうとも言えるし、そうではないとも言えるんです」
「…どういうことですか?」
「伝説種が生まれる条件の一つに、願う心があるかもしれないのは聞きましたか?」
「えぇ、聞きました…………まさか」
「…はい、ミドリと強く願いました。あのサンドスターの側に、神話の本を置きながら…」
「何やってるんですか!?あのサンドスターはまだ未知の物だったでしょう!?貴重だから変なことはしないようにと言いましたよね!?」
「スミマセンスミマセン!本当にスミマセン!」
──あっ!オイナリちゃ…サマ!パパのこといじめないで!
━━これはいじめではない、説教というものだ。しかし何が原因だ?
(貴女達の存在です!…とは言えません…)
「キチンと面倒は見ますので、どうかお慈悲を…」
「…はぁ、全く…。上の者だけには報告してください。…それで、これからどうするんですか?」
「他の伝説種にも会わせてみたいんです。この子達の力を知っておいてほしくて」
「…分かりました。では早速行きましょう。先ずは──」
◆
「ヤタガラスちゃんだね!よろしくね!」
「…まぁ、よかろう」
「…すまないな」
◆
「キュウビキツネだから…キュウビちゃん!よろしくね!」
「…元気ね、あなた」
「…いつもこんな感じだ」
◆
「君は…ヤマタノちゃん!よろしくね!」
「喧嘩売ってるのか?分かった、買うぞ」
「待ってくれ、話を聞いてくれ」
◆
──ありがとうオイナリちゃん!すごく楽しかった!
━━よかったら、また案内を頼む
──じゃーねー!
「ああっちゃん付けは…!…もういいです。しかし…」
神話で暴れまわった獣が、あんな素直な子達になるとは…サンドスターとは本当に不思議ですね
「…彼女達の存在が、パークに平和をもたらしてくれることを、願うばかりです」
◆◆◆
「…で?何故我等は集まったのだ?」
「オイナリよ、理由を聞かせてもらおうか」
「なんでも、リルが見せたい子がいるとのことです」
「見せたい子?一体どんな…」
──みんなー!お待たせー!
「遅かったじゃないの。…って、その子がそうなの?」
━━ああ、紹介しよう。この子は──
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「リル…ヨル…」
その名を改めて聞いた四人が思い出したのは、かつて彼女達と過ごした日々。そして、『幻想異変』と呼ばれた異変の結末
「そうか、そうだったな…。あの日、隙間に奴を押しやったのは、あの異世界人だけじゃなかった」
「私達はまた、あの子に…あの子達に助けられたのですね」
脳内に鮮明に浮かび上がるのは、あのセルリアンとそれに立ち向かう幼い彼。隙間に突撃し、消えていく影
オイナリサマは、あの光景と、今目の前で戦っている彼を見て、ぎゅっ…と掌を強く握りしめる。また見ているだけなのか、また何も出来ないのか。そんな想いがぐるぐると頭を駆け巡り、俯いてしまう
「我等にも出来ることはあるぞ、オイナリ」
その考えを晴らしたのはヤマタノオロチの一言。その言葉に顔を上げ、皆を見る
「あやつの輝きに反応したのか、雑魚が何匹か集まってきておるわ」
「今の余等はあれと戦う力は残っていない。しかし、周りのものに遅れを取るほど残っていないわけではない」
彼が持ってきたサンドスターのお陰で少しは回復したが、ヘルと戦うには力不足。この状態で助太刀をしようにも邪魔をするだけ。それは全員理解していた
二つの影は互角に戦っている。だからこそ、彼女達にしか出来ないことがあった
「…雑魚専門の神とか、贅沢な使い方をしてくれるわ」
「そう言うな。オイナリ、キュウビ。フィルターの護りは任せた」
「分かったわ。油断するんじゃないわよ」
「そちらもな。行くぞ、ヤマタノオロチ」
「ふん、遅れるでないぞ!」
山頂に続く道へ二人は向かう。セルリアンを倒すために。二人の戦いの邪魔をさせないために
「今は悔やんでても仕方ない。私達も出来ることをしましょう。オイナリ、動ける?」
「…なんとか…いけます。そうですね、これは私にしか出来ないこと。『守護けもの』の底力、見せてあげましょう」
─
「おりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!!」
『ガアアァァァアアアアアァァ!!!』
再び激突する二つの影。迫り来る刃を弾き、襲いかかる爪を避け、蹴りを互いに放ち、拳と拳を交える。一歩も譲らない攻防が続いている
野生解放の影響か、彼の瞳は碧く輝き、髪色は紅と碧の二色に染まっている。その輝きは、かつて目にした、鬱陶しいことこの上ないもの
『過去の亡霊ガ…!さッさと消えてしまえばいいンダ!』
「悪いけどまだ消えないよ!もし消えるとしたら、それはお前も一緒にだ!」
『言ッてろ犬ッころガ!!!』
顔にくる拳をスレスレで避け、その腕を取り背負い投げで地面へ叩きつけようとするヘル。だが、宙に浮いた身体を翻し、その勢いで脱出する。地面を滑りながら体勢を低くし、敵に向かって飛びかかる
ガシッッッッ!!!
手を握る形となり、お互いの爪が手の甲に食い込んでいく。だがどちらも離す気はなく、リルがグイッ!と腕を引っ張り…
ガブリッッッ!!!
首筋に鋭い牙を立て、頭をおもいっきり振る。硬い筈の体でさえも噛み千切ると言わんばかりの顎の力に、ヘルはリルを突飛ばし距離を取った
首筋を撫で、半分ほど千切られていることを確認すると直ぐ様修復する。化身を壊し取り込んだサンドスター・ロウは、機体が破壊されてもなお内側に秘められていた
『相変わらず…馬鹿みたいなかみつき力だヨ!』
「ボクの自慢の顎さ!今のお前だったら何処でも喰い千切れるよ!」
リル…フェンリルは、北欧神話における狼の怪物。軍神の腕を喰い千切り、神そのものを飲み込む程の力を持ったとされる獣である。その力はフレンズになっても健在だった
『だッたら…これはどうかナ!?』
ボコボコッッッ!ギリギリギリィ…!!
「なっ…!?いっだっ…!」
リルの足元から紐のような触手が四本現れ、両手足にガッチリと巻き付き拘束する。よく見ると背中から生まれた触手で、翼の影から地面へ伸びているものが見えた
「くっ…!ボクに紐なんて…相変わらず悪趣味な奴!」
『精々吠えてナ!ほ~らよット!!』
ヘルが翼を羽ばたかせると、先程と同じ物が飛んで来る。この状態では回避もはたき落とすことも不可能。大きなダメージを伴うのは分かりきっている
『その自慢の顎で防いでみなヨ!出来るものならナ!』
「この…これは流石に無理…だ・か・ら!」
キュイイーン…!
突如、彼の体が輝きを放ち、姿を変える。先程まであったオオカミのフレンズの特徴である耳、牙、尻尾、爪は無くなっていた
「──選手、交代だ」
代わりに出てきたのは、ヘビのフレンズの特徴であるフードと、身体全体に巻き付いても余るほどの、長い尻尾
ヨル…ヨルムンガンドもまた、北欧神話に登場する蛇の怪物である。内なる毒は神をも葬り、その尻尾は人の世界を取り巻いてなお自分でくわえられるほどの長さである
表にヨルが出てきた影響からか、彼の碧く輝いていた場所は翠へと変わっていた
「フンッ…!」
身体を回転させ拘束を解く。更に尻尾を巻き付け、全ての羽を受けきる。多少傷つきはしたがそこまでダメージはなく、余裕そうな表情でヘルを見つめる
『全く面倒なことヲ…!鬱陶しイ…!その瞳ガ!その輝きガ!気に入らないンだヨ!』
右腕に剣を、左手に盾を造り突撃してくる。ヨルはサンドスターで魔鎚を造り迎え撃つ。振り下ろした鎚を盾で受け止められ、剣が横払いでくるが、尻尾を巧みに操り腕を締め上げて止める
「この力…やはりか!」
『気づいタ?キミが…いや、コウが戦ッてきたセルリアンはボクが作ッたンダ。面白い出来映えだッたでしョ?』
ベヒーモス、仮面、ペガサス…コウが行先で倒した特殊なセルリアン。石の極端な縮小、他の黒セルリアンを操る力、剣と盾と翼の再現はこいつの能力だった
『にしても魔鎚ねェ…。宿敵の武器を使うノ?物好きな奴~』
「使える物は使う。当たり前のことだ。何よりイメージしやすくてな!」
神が使う
『バカスカ殴りやがッテ…!いい加減にしロ!』
殴られている状態で空を飛ぶヘル。体勢を崩されたヨルは尻尾を振り回し落とそうとするが、空中での激しい旋回に上手く力が入らず、尻尾をほどかれ逆に地面に降り落とされる
飛行を続けるヘルを追いかけながら尻尾を伸ばし突き刺すが、距離があり威力が乗らないのかあまり効果がない。それでもヨルは冷静に状況を分析していく
(奴は空に逃げた。しかしそれで終わるはずはない。だとすれば…!)
『ヒャアッ!!!』
ヨルの予測通り、鋭利な羽が絶え間なく飛んで来る。魔鎚を投げ反撃をするが盾で防がれる。途中で羽を割ってはいるが、まるで爆撃のような広範囲の攻撃に攻めあぐね、逃げ回るしかなかった
『反撃しないノ?あ~そうか出来ないよねェ!だッてコウじャなきャ飛べないもンネ!不便だねェホント!』
「ちぃ…!」
元の身体はコウであっても、力を発揮しているのは二人。今の二人に、力を飛行へ回している余裕はない。尻尾での攻撃も防御も続けても意味はなく、ただ消耗するだけだろう
(ヨル、代わって!ボクの方がいいでしょ!)
「すまない…頼む!」
キュイイーン…!
(代わったのはいいけど、どうしようかな…)
攻撃力、防御力はヨルの方が上。しかし、地上での機動力はリルの方が上だ
「あんまり使いたくはないんだけど…!」
キュインッ!カカカンッ!
「ハハッ♪無駄な足掻きだネ♪」ヒョイヒョイッ
走りながらサンドスターで
『悔しかッたら飛ンでみなヨ!お前達じャ無理だろうけどさァ!』
羽の雨は止みそうにない。逃げ続けていても状況は変わらない。むしろ、彼の体と野生解放の限界がある為、不利になっていくのは彼等だった
(ここからの攻撃じゃ威力が乗らない…。やっぱり、近づかないと…!)
飛ぶことは出来ないが跳ぶことは出来る。それをしないのは、無理をして傷を負わないようにしている他にも理由があった
(君の力が必要なんだ…!大丈夫、君ならきっと…!信じてるよ…!)
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姉さん達が危ない…!ここは俺が…!
「ウオオオォォ!!」バサッ
…あれ?飛べないぞ?なんでだ?
「それは私が引き留めたからよ」
「どういうことですか?てか誰ですか?なんでいるんですか?ここは言うなれば俺の精神世界ですよね?」
「質問は一つずつにしなさい。よく言われていたでしょう?」
「うっ…すみません」
「キチンと謝れる子は好きよ、私。ではまず1つ目。私は封印の前に立つ門番みたいな者。解かれた時には消えるわ」
「門番?なら開けてくださいよ!封印なんて今いってる場合じゃ…!」
「このまま出ていってもあれには勝てない。さっきと同じように負けるだけ」
「っ…」
「そんな顔しないで。これからすることはとても大切なことなのよ。その為に、彼女達は時間を稼いでいる」パチンッ!
その人が指を鳴らすと、周りの景色が変わる
「ここは10年以上前のジャパリパーク。そして…」
指を差した方を見てみる
「ボクはリル!フェンリルのフレンズだよ!」
「私はヨル。ヨルムンガンドのフレンズだ」
「翠です。お母さんでもいいですよ?」
「私は八雲碧。そうだな、お父さんと呼ぶといい」
…あれは、もしかして
「そう、貴方の両親と姉。そして、4歳の貴方」
…そうか。やることが、何となく分かったよ
「貴方は今から過去を辿る。記憶の封印を解くために。ルーツを知るためにね」
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